第二十二話 アンズー鳥問いかけ

「な、なんやこれ?」

 おもわず狼狽する父鳥だが、その声で雛鳥も目が覚めた。

 ピーピーと可愛らしい声で鳴く。

「きゃわいこちゅわああああん。どないしたん? この飾りは誰がしたん?」

 一声で子供を溺愛していると分かる猫なで声だった。

 それを咎めるように母鳥が父鳥の頭の毛をむしる。

「あほ! 子供はしゃべられへんがな! それと、そのしゃべり方やめえ! 教育に悪いわ!」

「いったいなあ! ええい、それやったら呼びかけたるわ!」

 すうううと、父鳥は胸を数倍に膨れ上がるほど大きく息を吸い込んだ。

「おいこらあ! どっかに隠れとんのわわかってんでえ! 姿現さんかったらいてこますでえ!」

「あほかあ! そんなもん脅しやないか! この子の恩人かもしれんねやで! 優しいこと言わんかい!」

「なんや細かいなあ! これやからおばはんは!」

「ああん!?」

「ごめんなさい何でもありません」

 力関係が非常によくわかる一幕だった。

 父鳥は先ほどと打って変わって優しい声音で語り掛ける。

「えー、どなたか隠れている方はいらっしゃいませんか。もしもかわいこちゃんに花冠をくれた方がいらっしゃるなら危害を加えませんし、お礼申し上げたいのでぜひとも出てきてくださいませんか」


 もちろんそれらの一部始終はエタもばっちり見聞きしていた。

 アンズー鳥の夫婦の掛け合いは賢者ではなく、まるで道化だったのには面食らったが、とにもかくにもエタの秘められた目的、アンズー鳥の信頼を得ることは叶いそうだった。

 隠れていた場所から叫びながら姿を現す。

「雛鳥に花冠を贈ったのは僕です」

 二羽の親鳥はぎょろりとその眼を向け、雛鳥はピーと可愛らしく鳴いた。

「ほおう。人間かいな。ようここまで登ってこれたなあ」

「はい。謎を解いてここまで来ました」

「ちゅうことはなんかほしいもんがあるんやな?」

「否定はしませんが、この迷宮を踏破したいわけではありません」

 アンズー鳥の立ち位置は不明だが、もしも魔人のように迷宮から掟を受け取った存在であれば迷宮を踏破することは彼らとの対立を意味するかもしれない。それはエタの本意ではないことをあらかじめ示す。

「ええやろう。それやったらあれをやらなあかんな」

「そうやな」

 夫婦のアンズー長はお互いに顔を見合わせ、にやりと笑う。少なくともエタにはそう見えた。

「ジャカジャカジャカ」

「ジャカジャカジャカ」

 奇妙な歌を口ずさみながら、奇天烈な踊りを披露するアンズー鳥。

「「じゃーん」」

 エタと視線を合わせながら二羽の夫婦は決めポーズをとった。

 もちろんエタには何がなんだかわからないが、雛鳥は何やら喜んでいた。

「第一回!」

「第一回とちゃうで! 五回目や!」

「ほんまか! じゃあ第七回!」

「五回やいうとるやろ!」

「この際何回でもええがな!」

「ああもうええわ! ほな! 謎々大会! 開催や!」

「どんどんぱふぱふ!」

 母鳥の擬音に合わせて森の中に奇妙な音楽が響く。

 これはいったい何が起こっているのだろうか。

 心の底からそう思うエタだった。

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