第三十三話 傍観者
エタとミミエルが会話した少し後、灰の巨人ギルド長ハマームとニスキツル社長リムズは打ち合わせをしていた。二人の後ろにはハマームの部下と、シャルラが控えていた。
ハマームの部下の一人が明かりをともす掟が備わっている宝石を使い、夜でもまだ相手の顔を見て会話することができていた。
まずリムズが社交辞令を述べた。
「灰の巨人の皆様にはこのような仕事を紹介していただき、感謝してもしきれません」
「ああ。こっちこそあんたらの仕事には感謝してるよ。社畜にしておくには惜しい」
ハマームはギルド構成員を管理する粘土板を大事そうに撫でていた。おそらくこき使っている奴隷や冒険者よりもはるかに大事に扱っていた。
そして社畜という言葉にシャルラはぴくりと眉根を寄せたが、リムズは営業スマイルを崩さなかった。
「もったいないお言葉です。契約期限はあと五日ですが、予定通りで構いませんね?」
「ああ。わかっているとは思うが、妙な気は起こすなよ」
妙な気、とはまだらの森を攻略しようということだ。再三にわたって警告されていたことだが、ハマームは同じことを何度でも繰り返すつもりだった。
「もちろん。契約にもある通り、我々の仕事は大蟻の討伐だけです」
リムズの言葉にハマームは満足そうだった。相手があくまでも従属する立場であることを確信しているときに彼はこういう表情をよく浮かべていた。
「ところで些細な質問なのですが、その鳥籠には何かの掟が備わっているのですか?」
リムズの視線の先には鳥籠の中にいる鷹がいた。あまり人になつかない猛禽類にしては驚くほど大人しかった。
「おお、おお! これに目をつけるとはやるじゃねえか。こいつには鳥を大人しくさせる掟があってな。どんな鳥でもこいつに入れれば俺の従順な僕よ!」
高らかに下卑た笑いを浮かべるハマームに対してひそかにシャルラが冷ややかな視線を向けた。
「いやはや、そのような掟もお持ちとは。ハマーム様には驚かされるばかりです」
わかりやすすぎる世辞にも調子にのったハマームは笑顔が止まらなかった。
ハマームが居を構えていた家を出たシャルラは憤懣やるかたなしという様子でリムズに話しかけた。
「父さん。本当にあんな人と組んでいていいんですか?」
「気にするな。あんな愚物はどこにでもいる。いや、あれを放置しているこの国のギルドの現状を嘆くべきか……」
「父さん?」
「いや、何でもない。彼の様子はどうだ?」
「……あまり上手くいっていないみたいです」
彼とは、もちろんエタである。エタの様子を観察していたシャルラは日に日に元気がなくなっていくエタを心配していた。
「ふむ。まあそれならそれで構わない。我々に損はない。わかっているとは思うが……」
「わかってるわ。エタに肩入れはしません」
「それでいい。だが私も彼には期待している。彼の両親が売られるまであと二日だったか。さて、何かやってくれそうな気はするのだがね」
リムズはあくまでも傍観者の立場であり、それゆえに楽しむ余裕があった。シャルラの表情は……暗がりで見えなかった。
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