第42話

 沈黙。


 そうしてしばらくすると、おもむろにお姉さんが立ち上がり、台所へと向かった。


 ど、どうしたんだろう……と、漠然とした不安を覚えるけど、何かできるわけもなく、ただお姉さんが帰ってくるのを待つ。


 しばらく待つと、お姉さんが焦げ臭い匂いを共に帰ってきた。


 お姉さんは何も言わず、皿の上に乗った真っ黒な物体を僕に差し出した。




「これ、食べてみて」


「え、これ、なんですか?」


「野菜炒め」


「…………」




 皿の上に乗っているのは、明らかに野菜炒めなんかじゃなくて、何かの焼死体に見えた。


 けれど、お世話になっている身で断る事もできず、僕はその黒い物体を口に静かに口に運んだ。




「うっ……」




 案の定、それはとてもじゃないが美味しいとは言えない代物だった。




「美味しくないでしょ?」


「い、いえ……そんな……」


「いいの、気を遣わなくて。ウチさ、カレー以外の料理壊滅的なんだ」


「はぁ……」


「でも、今まではそれで良かったの。私1人なら、食べるものなんてどうにでもなるし。頑張らなくても良かった。でも、これからは違う。君がいてくれるから、料理も頑張らなきゃって思えるし、他のことだってそう。それだけで、君がここに居ていい理由にならない?」

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