第29話

「まぁまぁそう落ち込みなさんな。あ、そうそう、この後食材とか色々生活に必要なもの買いに行こうと思ってたんだけど、いいかな?」


「あ、はい……着いてって行ってもいいですか?」


「もちろん!君用の歯ブラシとかも買いたかったしね!」


「ありがとうございます……どこに買いに行くんですか?」


「ふふふ…それはね…」




 お姉さんは意味ありげに微笑み、腰に手を当てて高らかに宣言した。




「夢島タウン!」




 そう言い放ち、お姉さんは満足げに、それでいてソワソワとこちらの様子を伺っている。


 夢島タウンとは、この片田舎に最近できた複合商業施設のことだ。


 食事買い物娯楽何でもござれの楽園だと、クラスの女子達が話していた事を聞いたことがある。




「へへへ〜行ってみたいでしょ?」


「まぁ多少は気にはなりますけど……少し遠くないですか?生活用品とか食材なら近くのスーパーでも買えるのでは?」

 

「えぇ……普通子供なら飛び上がって喜ぶはずなのに……君、子供なのか大人なのか、ウチもう分からないよ……」


「今日はもうお子様ランチでお腹も心も一杯です」


「幸福の受け皿が小さ過ぎる……」


「さ、遅くなる前にスーパーに行きましょ?」


「ま、待ってよー!本当はウチが行ってみたかっただけなんだよー!お願い!ウチと一緒についてきてー!」


「ちょ、お姉さん!外で抱きつかないでください!」




 子供みたいに泣きつくお姉さんに気圧され、僕達は夢島タウンへと向かうバスへと乗り込んだ。

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