第10話 お前のグループだ

「ふ、ふふ、ようやく大部分が完成した!」


僕が家に帰るなり兄さんが狂気を宿した笑みでそう言った。

さっき雪下先輩も狂気を宿した表情でショタボを! 我にショタボを! とか言ってたんだよなぁ

どうして僕の周りには狂気を宿す人が多いのか...


「もう少しでようやくレーブユニオンとしての活動が出来るぞ! 真人!」


ようやく僕も事務所所属に...いや、どっちかというと社長か?

どのみち忙しくなりそうな気はする。

その身になってみないと分からない苦労というのはあるものだ。


「あとは申請書を提出するだけだ。申請書に定款やら出資に関する書類やら...まぁ色々な書類を添付するわけだな。それを提出したら会社が出来るというわけだ」


兄さんは書類を持ちながらそう言った。

あの書類...何に使うんだ?


「というわけで、真人に書き込んで貰う書類がこ~んなにあるんだ。どうやら虹空先生は"何故か"急用があるらしく出来ないらしいんだ。無料でやって貰おうと思ったのに...」


それ無料でやらされるから逃げただけだと思うよ。利益にならない仕事はモチベーション上がらないからね。


「それを書いたら俺が明日持っていく。委任状が必要かと思うかもしれないが大丈夫だ。委任状は従業員が代理で提出する場合は求められることが少ないらしい。まぁ今回は俺がいらないことは確認をとってある」


そう言って兄さんは書類を僕の隣に置いた。

何枚あるんだよ...これ...


「教えるから一緒にやろうな? 勿論拒否権はない」


「....はい」



__________________________________________


「やっと終わった~」


「お疲れ様、真人」


結局2時間くらいかけて終わらせた。

もう長い漢字の羅列は見たくもない。


「さて...これで記入事項は終わったわけだ。もう少ししたら頼んでいた2Dモデルも出来上がる。あと1週間以内には本格的な配信活動を始めることが出来る。準備しておけよ?」


「開始前にドタバタするのは良くないからね」


「初配信は公式チャンネルでの配信から始まってメンバー紹介からの個人チャンネルの初配信のスケジュールを告知するものにしようと思う。そして初配信の出演者は一人...そうお前だ、真人」


確実に山犬アキタが出てきた方が同接数が上がるのに、何故底辺だった僕を?


「何故自分を...とでも言いたそうな顔だな。説明するとこのままでは山犬アキタのグループとしか見られないわけだ。視聴者は分散せず、俺のチャンネルだけ伸びる事態に陥る。それはグループとして本末転倒だ。作る意味もない。レーブユニオンは俺のグループじゃない。お前のグループだ」


僕の...グループ...


「俺一人では限界がある。だから事務所を建てたようと思ったんだ。まぁトップにはなりたくなかったがな」


「なんでトップになりたくなかったの? 兄さんがトップになれば僕なんかよりももっと....」


どう考えても僕なんかよりも賢い兄さんの方が良いに決まってる。


「人の上に立つにはな...俺には足りないものが多すぎるんだ。俺は向いていない」


「兄さんに無いものが僕にあると思ってるの?」


「さぁな、あるかもしれないし、ないかもしれない。その時にならならないと分からないものだよ」


なんなんだよそれ...僕に押し付けただけかよ...


「まぁ、いずれ分かるだろう。理解してくれ。そういえばまだVの名前を決めていなかったな」


露骨に話を変えてきたな。つまりこの話はもうするつもりがないってことか。

名前...か...前の名前は適当に決めたんだよなぁ


「インパクトのある変わった名前にするか...そうじゃない名前にするか...どうしようか」


「いっそのこと子犬シバでもいいんじゃないか?」


兄さんが真剣な口調でそう言った。

これでも大真面目にいってるだよなぁ...そんなことしたらアキタのパクリとか言われるに決まってるじゃん...

さて、どうしたものか。底辺からの成り上がり...革命...レボリューション...レボン...


「レボン...月谷レボン! これにするよ。兄さん」


「...お前がそれにしたいと思うならそれでいいが...何か意味があるのか?」


「下克上のげこくとレボリューションのレボン」


「そ、そうか。子犬シバじゃなくていいのか?」


子犬シバだと問題あるだろ...

僕は呆れたような顔で兄さんを見た。


「分かったから。そんな顔をするな。それでいいからさ」


なんか不服そうだな。まぁ、本気で兄さんが嫌だと思ったら権限とかなんとか使って止めにかかるだろうから、一旦認められたのだと思う。


「そういや、2Dモデルは誰に頼んだの? まだ聞かされてないけど」


「あれ? 言ってなかったっけ? たぬポンさんだよ。あの有名な」


え、聞き間違いじゃないよね? あのSNSフォロワー数10万人のたぬポンさん?


「頼んだら丁度やりたかったところだ。と快諾してくれたよ」


そもそも兄さん知り合いなのかよ...あ、そういえば兄さん有名だった。知り合いも多いんだろうなぁ...


「兄さんは知り合い少ないから俺のモデルをいつも頼んでる絵師さんから話通して貰った」


やっぱり、兄さんは兄さんだったようだ。

コミュ障な性格は変わらない。


「霧山さんのモデルは誰に依頼したの? 同じくたぬポンさん?」


「いや、霧山さんのモデルは別の人に頼んだ。くるみるくさんにお願いした。」


フォロワー7万人...かなりの有名絵師さんにお願いしたんだな。


「霧山さんと話してみたらインスピレーション湧いたみたいで引き受けてくれたよ」


「あれ、それだったら僕も話した方が良いのかな?」


「あ、たぬポンさんには真人の音声送ったから大丈夫だよ」


人の音声勝手に送りやがって...まぁ良いけどさぁ


「も、もうこんな時間だ。早く寝なさい」


僕が非難するような目で見るとまた話題を変えてきた。

自分が悪いことをしたとは思っているようだ。


「アキタの情報、ネットに流してやろうか?」


「すいません、それだけは勘弁してください。もう二度とやりませんから」


許してやるか。元々僕のためを思っての行動だと思うし。


「それじゃあ、最後にちょっと早いけどあれやるか」


「あれ?」


「事務所設立を祝うんだよ」


あぁ...そういうことか...


「それじゃあ! 事務所設立! ばんざーい!」


「ばんざーい!」





















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