第10話 誰かのヒーローになるために

 昨日貸しスタジオで演奏した動画を見たあと、泰造は言った。


「シンプルにガチピュアの方が上手かばい」


 泰造は苦笑いをしていた。形成逆転ならずかと思い、絶句した。だが彼はもう一度画面に目をやり、こう言葉をつづけた。


「この曲、よかね。俺(おい)も観よるよこんアニメ」


 彼はニヤケていた。そうだ、実力よりももっと、音楽をやる上で重要な要素がある。それは同じものを愛するという『感性』だ。僕たちは同じアニヲタとして、同じ感性があるはずなのだ。


 僕たちが動画の中で演奏していたのは、最近人気のアニメ作品の劇中歌であり、アニヲタの僕や永はもちろん、みかささんも好きな1曲だった。

 この作品は、特殊能力を活かした職業ヒーローを目指す主人公たちが繰りひろげる、学園生活を描いた作品だ。僕たちが演奏したこの曲は、文化祭の中で主人公たちが演奏した曲だった。


「歌詞もメロディもよかよなぁ唯音くん」


「僕もそう思うよ。泰造くん、ガチピュアはどんな曲ば演奏する予定なん?」


「よく分からん80年代のアメリカの曲。でも曲なんてどうでん良かった。ただ、陰キャが集まってカッコいい演奏をしたら、誰かのヒーローになれるかも知らんって思ったっさね。後輩たちも皆イジメられとっとよ。やけん一泡吹かせるために一緒にバンドやろうって説得されて、イジメが激化するのも覚悟でOKした」


「実力ではガチピュアに負けとるかもしれんけど、バンドって演奏だけが魅力やないやん。見た目も、パフォーマンスも全部まとめてバンドやん」


 僕は泰造を説得しようと、我を忘れて大声になっていた。気がつけば日は傾き、夕日が空を赤く染めていた。


「一緒にバンドやらんか! 僕たちと一緒にライブを成功させて、後輩たちにバトンを繋げよう! いじめられっ子の陰キャだって輝けるんやぞって!」


 彼は下を俯いて少し考えていた。そして笑みを浮かべながら顔を上げ、こう言った。


「よかよ。俺(おい)が陰キャ代表として矢面に立って、ライブを成功させ、陰キャをイジメから解放するヒーローになってやる!」


 僕は嬉しくて笑顔になった。


「僕も、青春を輝かせたいみかささんやモテたい永、お母さんや先生のヒーローに成れるかな」


 僕がそう漏らすと、泰造は突然険しい顔をしてこう言った。


「その思いを遂げるためにも、俺(おい)たちはこの曲ば演奏せんば」


「それならみんな納得すると思う……! 課題曲は未だに決まってなかったけど、これでやっと決まったよ。僕たちがライブで演奏するのは、アイ・ガナ・ビー・ア・ヒーローだ!」


「発音悪くて、それじゃカタカナ英語ばい。タイトル通り読むならI'm gonna be a hero! 意味は『ヒーローになる』だ」

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