第7話 ヘッドハンティング

 翌日、僕は学校で永に会った。永はギターの先輩になるわけで、昨日の話をしたらバカにしてきた。


「Fコードは鬼門ばい」


「知っとーよ。だから困っとっと」


 傍から見れば、いつもの光景だ。だが僕たちはいつもより、確かなるワクワクを感じていた。ただ楽しいアニメの話ではなく、誰かに自分を表現したいという行動が伴った思いとそれを手にする為に行動しているという実感が、そのワクワクを作りだしていた。


「みかさちゃんも協力してくれるみたいだけど、まだバンメンが足りんよなぁ唯音」


「そうだな……バンメンはあと1人、ドラムか。永の知りあいにおらん?」


「おらんなぁ。それにバンメンだけじゃなくてなんの曲にするかも同時に決めんばやし、エントリー期限もあるやろう」


「そうやな……エントリー期限は確か2週間後か。文化祭はまだまだ先やけど今年は吹奏楽部との合同やから、練習が必要なんやろうな」


 曲決めは大事だ。吹奏楽部との合同だから、メタル調みたいな難易度の高い曲にはならないだろう。それは個人的にはかなりラッキーだ。


「唯音、そもそもドラムって吹奏楽部にいんじゃねぇの?」


「ついこの前辞めちまったらしいよ。女目当てで吹奏楽部に入ったけど、モテねぇから辞めたらしか」


「ハーレムなのは確かだろうけど、ものにできるかは別の話やけんねぇ」


 とにかくドラムを見つけなくてはならない。だがどうやって探せばいいのかも分からず、僕たちは各々の練習をするだけでいたずらに時間が過ぎていくのを、止められはしなかった。



 1週間が経過し、テスト期間も終わった。学業の憂(うれ)いはなくなり、僕は昨日バンメンの3人で近所のモールにある楽器屋の貸しスタジオで会って、仮の音合わせをした。

 ドラムはみかささんが持ち込んだPCの打ちこみでやって、それなりの完成度で演奏できた。

 ドラムがいなくても演奏はできる。そう思っていたあるとき、僕は二井先生に声をかけられた。


「唯音君、今2年生が中心になったバンドがエントリーしてきて、練習曲を吹奏楽部と話しあってるけどよかと?」


「……ふぁ!」


 ヤバい。今すぐエントリーしようかと思ったが、無理だった。


「PCの音でするくらいなら、その1パート分でも生徒が舞台に立てるバンドば優先するよ」


「そ、そうですか……」


「まぁ決定まであと1週間はあるし、頑張らんね」


 そう言われた僕は酷く焦った。このままでは、この1週間で近づいたヨッシーがまた遠のいてしまう。母さんも残念がるだろう。永もカッコよくギターを演奏しモテたいという野望が潰えるし、みかささんも、唯一の学校での思い出を作れず卒業してしまう。


 もう探すだけでは見つけられない。それに、ドラムを叩ける人はもう見つかっているだろう。


「ヘッドハンティングといこうか……すでにエントリーしてるバンドのドラムは2年生の、影が薄いいじめられっ子の志賀泰造。声をかけもしなかった……こちらのバンドの方が魅力的だと思わせてやる!」

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