第4話 不登校の女の子
中間テストが始まろうとしていた。僕は集中し、教師が教室に入ってくるのを待っていた。
だが驚いたことに、入ってきたのは教師ではなかった。入ってきた制服姿の女の子は虚ろな顔をしていて、誰とも目を合わせず、トコトコと僕の方へと近づいてきた。
「誰だ……この子」
クラス中が彼女を目で追っていた。彼女は、僕の隣に座った。
僕の隣の席は不登校児のもので、ずっと誰も座っていなかった。
「君は……黒木みかささん……なの?」
「おん。はじめまして」
これが僕たちの初めての挨拶だった。この時はまだ、この根暗そうな彼女と一緒にバンドをするなんて思いもよらなかった。
「はーいお待たせみんなぁ。さぁテストをやるから着席してくださいねぇ」
教師の1声で生徒は全員着席した。テスト前の緊張感が教室中を包んだ。
国語のテストが始まり、僕はスラスラと回答を記入していく。机に鉛筆が当たる音が心地いいなと感じながら、僕はそれなりに時間を残して、記入を終えた。
周囲からは、未だ鉛筆が机の上で跳ねる音が響いている。
耳をすませば、隣席のみかささんからも音が聞こえていた。
不登校児の彼女でも、意外とテストが解けるものなのだろうか。僕はそう疑問を抱いて、こっそり彼女の方を見た。
彼女のテストは白紙だった。空欄というレベルではない。問題文すらなにもなかった。
彼女は裏面を向けていたのだ。そしてまっ白な裏面に、なにか言葉を綴(つづ)っていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
暗闇の中を彷徨(さまよ)う 明ける日の光が見えない
遠い向こう側に あなたの姿
誰も知らない
分かっちゃくれない
ふわふわぐるぐる 結局朝までだるいままここで
誰か早く見つけて
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それは歌詞のような書き方をしていた。貧乏ゆすりかと思ったが、足で刻んでいるのは、この曲のテンポなのだろうか。
にしてもこの子、病んでやがる。きっと胸の中になにか大きなストレスを抱えてやがるんだ。こういうミステリアスで触れがたい雰囲気の人に初めて会って、なんとも言えない気持ちになった。
テストが終わったら、声をかけてみよう。僕はそう思った。僕は彼女が放つ独特な雰囲気に惹かれて、酔っている気がした。
「はいそこまでぇ。テスト用紙裏返してください」
教師の1言で我に返った僕はテスト用紙を裏返した。
それから教師はテスト用紙を回収し終え、教室を出ていった。
「あの……みかささん。さっき歌詞書いてたよね」
僕がそう言うと、彼女はギラついた目で僕の方を見た。無言の圧をこれでもかとかけてくる。ハッキリ言って、怖い。
そのまま彼女はなにも言わずに教室をたち去った。僕はただそのうしろ姿を眺めるしかできなかった。
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