第3話 1人目のギタリスト
歌謡祭を見てから、僕は毎日Almeloの音楽を聴いていた。Almeloは未だにアニソンを出していないのに、僕は熱中していた。思えば僕がアニソンに関連しない音楽を聴くのは、数年ぶりだ。
バンドメンバーを探したい。だが、バンドメンバーなんてそう簡単には見つからない。ましてや学校内でなんて、さらに難しい。
僕は学校でも休み時間はずっとスマホでAlmeloの曲を聴くようになっていた。四六時中Almeloのことを、もっと細かく言えば、憧れのヨッシーのことばかりを考えていた。それだけでバンドメンバーが見つからない焦りが、少しはマシに感じられるのである。
「おい唯音! 唯音起きろー!」
「んん……永(ひさし)?」
「お前、最近昼休み中ずっと寝てんじゃん。どーしちまったんだよー。いつもはアニメの最新話トークをしてる時間なのによ」
「ごめん……先週アニメ見とらんわ。あ、なぁ永お前……バンドとか興味ある?」
「まぁモテそうだし興味はなくはないが……まさか唯音お前、文化祭出たいと?」
「察しがいいな。実はそうなんだけど、楽器弾けるやつなんて、周りにおらんから」
「俺ギター弾けるし、参加してもよかよ」
「お前ギター弾けると? 知らんかった」
永は非モテ男子で、どうやったらモテるのか日々研究を重ねていた。だからギターはその一環なのだろうと思った。盛(さか)りのついた猿のようだと指摘する人もいるほど、モテようと必死な姿が不評であることには、まだ気づいていないようだ。見た目はいいのになぁと、いつも思う。
それはそうとメンバーが1人見つかっただけで、実力も不明だが文化祭のバンド演奏に一歩前進した気がした。小さな1歩だが、確かに前進している。音楽の素人であり人前で演奏などしたこともない僕にとって、その踏みこみは、とてつもなく大きな初めの一歩であった。
「にしても唯音、バンドとか興味なかったくね? お母さんの影響?」
「お母さんは関係なか。僕が影響を受けたんは……」
そう言って僕は、スマホの画面に写るヨッシーを指さそうとした。しかし僕は、なぜだか照れてしまって、口を尖らせたまま何も言わず黙ってしまった。
TVの特番に出るような一流のギタリストで、しかもこんなにもカッコいい人と子どものころから知りあいだなんて、照れても仕方がないじゃないか。
しかもただの知りあいというより、かなり可愛がられていた。頬擦りをしてもらった瞬間を思いだして、ついに僕の顔は赤くなりとろけた。
永は勝手に照れてる僕を、まるで変なものを見るかのような辛辣な目で見た。
「あ、そういえばさ」
「おい待て永、気まづくなって無理に話を変えんでよか」
「……そうか。まぁその……毎晩この人たちのことを考えてまぁ」
「考えて……?」
「その……毎晩この人たちのことばっか考えて、テスト勉強も忘れてんだろうなぁって」
「……あ」
そうだ。もうじき中間テストなのを忘れていた。もうじきっていつからだっただろうか。そうだ、今日からだ。今日のなん時限目からだっけ。あ、昼休み明けの5時限目からか。ヤバい。だけどここまで余裕がないともはや落ちついている。ヨッシーにうつつを抜かしてる暇なんかないのに、まったく焦りはない。
「まぁお前は頭も良いし、テスト勉強不足なんて大した問題じゃないんだろうけどさ。おまけに顔も良くて金持ちとは、羨ましいねぇ」
「……ありがとう」
「なにひとつとして否定はせんったいね」
「テスト範囲は覚えてるし、次は得意な国語だ。英語だったら終わってた。よし、昼休みはあと20分……1夜漬けならぬ20分漬けでなんとさ乗りきれる気がしてきた……!」
「さすがだなぁ……まぁ乗りきってみせやがれ、優等生の唯音くんよ」
そう言って永は去っていった。僕はそれから猛勉強をしてテストに臨んだ。
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