挿話4 童話 永遠のお姫様
昔々、ある小さな国の小さなお城に一人の王子がいました。王子は父である王様や性格のひねくれ曲がった継母である王妃からは愛されていませんでしたが、忠実な侍従の男とおとなしい世話役の女が一人いたので、寂しくはありませんでした。
良く晴れたある日のことです。王子のお城の庭に、見知らぬ少女がいました。熱心に花を眺める少女を見て王子は首を傾げました。
「あの愛らしい女の子は、どこの誰なんだろう」
興味を持った王子が声をかけます。少女は初めこそ驚いたものの、好奇心旺盛であったため、すぐに王子と仲良くなりました。
「君は一体、どこから来たの」
少女は答えます。王子に自分のことを打ち明け始めた少女は、自分のことを王子が住む国の隣国の城から来たお姫様だと言いました。だからこんなに見目麗しいんだなと、そこで王子は納得しました。
「しかし、悪い魔女のせいで、今までずっと狭い部屋の中に閉じ込められていました。しかし、今日彼女が部屋に鍵をかけ忘れてきたので、そっと抜け出したんです。温かい陽の光と甘い花の香りに誘われて気づけばここにいたのです」
「そうだったのか。ああ、なんて可哀そうなお姫様なんだろう」
お姫様の境遇を聞いた王子の胸は痛みました。
お願いをするように、お姫様は王子に向かって両手を合わせました。
「お願いです。私をこのお城に住まわせてください。悪い魔女がいる元の城に戻るなんてとてもとても耐えられません」
王子は迷いました。婚姻の約束をしたわけでもないのに、同じ城に隣国のお姫様を住まわせていたら、仕えている侍従や世話役にどんな反応をされるかわからなかったからです。
しかし、王子にすがるお姫様を哀れに思った王子はお姫様にこう告げました。
「君をこのお城に住まわせてあげる。だけど、ここにいるということがばれないように静かに過ごすと約束してほしい」
少々奇妙な約束でしたが、お姫様は頷きました。その日から王子の城には、王子以外存在を知らないお姫様が住むようになりました。
王子は毎日のように、お姫様に美味しい食べ物や、綺麗な服、面白い本を与えました。
ときには、お姫様のために夢のようなおとぎ話を作って教えたりもしました。だから、二人が段々と仲良くなっていくのは時間の問題でした。
ある夜、王子は気づきます。お姫様を見ると、胸が苦しくなったり、身体がかあっと熱くなったりするのです。今までに感じたことのなかった感覚でした。
そして、お姫様を見る度「美しい」という言葉が口から飛び出てしまいそうになるのでした。
「このお姫様は本当に、本当に美しい。美しいまま永遠に私のものにしたいくらいだ」
この頃にはもう、お姫様も王子のことを愛するようになっていました。月がとても美しい夜、王子に
「王子様、あなたを愛しています」
と、甘い口づけを一つ王子にしたからでした。王子は天にも昇ったような心地になりました。
「ああ、私はお姫様から愛されているし、私だって彼女を愛している。こんなに幸せなことはない」
王子は一つの決断をしました。お姫様に自分の思いを、心からの愛を伝えようと思ったのです。
月が美しい夜のことです。愛するお姫様に愛を伝えに、王子は愛らしい寝顔で眠るお姫様の元へと向かいました。眠っている時を王子が選んだのは、愛の魔法は愛する相手が眠っているときによく効くからです。
愛くるしいお姫様の顔を見つめながら、王子はお姫様に想いを告げました。
「この世でたった一人のかわいいかわいいお姫様。君を愛している。だから、永遠に私のものになっておくれ」
王子からの告白に、お姫様は最初驚いていましたが、やがて嬉しそうに微笑みました。
「あなたの気持ちは十分伝わってきました。私をあなただけの姫にしてください」
孤独だった王子はついに孤独ではなくなりました。彼のことを理解し、彼だけを愛するお姫様に出会うことができたのです。
「おめでとうございます、王子様、お姫様」
「心からお祝いを申し上げます」
彼の侍従の男と世話役の女が祝福の拍手をしながら、二人の元に近づいてきました。普段は無表情でおとなしい世話役の女も、めでたい日のためか優しい微笑みを浮かべています。
「麗しいお二人の愛がいつまでも続くように、私からも贈り物を授けましょう。どうか受け取ってください」
侍従は両手をさっと振りました。すると、不思議なことに彼の掌からは、きらきらと輝く魔法のような粉が飛び出て、二人の全身に降りかかりました。
「これは、王子様とお姫様の美しさを永遠のものとする魔法です。これは私からの贈り物です」
魔法の粉が二人の全身を包んでいくのを侍従が見届けた後、世話役の女は恭しく礼をした後、嬉しそうに告げました。
「私からは、お二人のこれからの生活から苦しみや悲しみがなくなるような祝福の魔法を授けます。お受け取りください」
彼女がさっと手を振ると、辺りの景色がまばゆい光に包まれ、二人とも幸福な気分になりました。その幸福な気分はそれからもずっと二人の心の中に残り続け、絶えることがありませんでした。
王子とお姫様は美しい姿のまま、侍従と世話役に見守られながら、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
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