70. 腹が減っては
オーク襲撃の知らせを受けたあと、僕らは一旦、解散した。コルドは村の重要人物に今の話を共有する必要があるし、防衛計画を練る必要もあるからね。エデルクにも休養が必要だ。僕の魔法で癒やした傷はごく一部。まだまだ傷だらけだ。
一応、さらなる治癒も申し出たけれど、本人から辞退された。これから戦いになる可能性が高いのでマナは温存しておいた方がいいだろうってことだ。ちなみに、僕が魔法で癒やしたって話したらエデルクはとても驚いていた。やっぱり、あんなものでも回復魔法は相当に珍しいみたいだね。
僕ら使節団は、部屋に集まって今後の方針について協議だ。さすがに、悠長に寝てる場合じゃない。この事件に関してどう動くか決めておく必要がある。
「で、どうすんだ? 明日にも襲撃があるかもしれねぇんだろ? 村に戻るか?」
ブーマが切り出した。難しい顔をしたゼギスが応じる。
「戻るのも簡単じゃないぞ。来た道を戻るにしても、集団からはぐれたオークに遭遇する可能性は高い。数によっては厳しい」
確かに、僕ら単独でゴブリン村まで戻るのは危険だ。こちらに来るときにもオークの夜襲があったんだから、戻るときにも遭遇する可能性は高いと思う。あの程度の数なら対処はできるけど、オークが本格的に攻勢をかけてきたとなると、もっと大勢の集団に出くわすかもしれない。
不意の遭遇を避けようと思えば、来たとき以上に大回りする必要がある。けれど、それでは帰還に時間がかかりすぎだ。一人でも兵力が必要な状況なのに、それはマズい。
「そうだね。襲撃まで時間がない以上、僕らはここでの迎撃戦に加わるべきだと思う」
僕の言葉に数人が頷く。ブーマも異論はないらしく、使節団はコボルト村に留まって戦うことになった。
「向こうにはどうやって知らせるんだぁ? せっかく得た情報なんだから、うまく活かしたいよなぁ?」
「そうだね。早く情報を得られれば、それだけ対応しやすいだろうし」
ロックスとキーナが言及したのは、襲撃の情報をどうやってゴブリン村に伝えるか。大規模な襲撃なら巡回の戦士が察知するだろうし、不意打ちを打たれることはないはずだけど、それでも早く知れた方が有利になる。体格で劣るゴブリンがオークと正面からぶつかるのは愚策だ。地形や罠で優位を築く必要があるから、襲撃を知ってから接敵までの時間が長いほどいいんだ。
「グレの魔法でなんとかできないの?」
フラルが期待するような目で僕を見る。でも、それには苦笑いで答えるしかない。
「さすがに無理だよ。朝を待って、狼煙を上げるしかないね」
「そうだな。戦士団の巡回範囲からは外れているが、見張り番がよほど間抜けじゃなきゃ見落とすことはないだろう」
ゼギスも同意する。
狼煙は日頃から戦士団での緊急連絡手段として活用しているから、見逃すってことはないはずだ。当番制で狼煙を確認する見張り役まで立てているからね。ゴブリン村は森の中だから、そうでもしないと木の葉に遮られて狼煙を見落としてしまう。とっても大事な仕事ってわけ。まあ、長時間木の上で待機する必要があるから、とにかく暇らしいけど。重要だけど、とても不人気な仕事みたい。
「コボルトと共闘か。ヤツら、戦えるんだろうな?」
渋い顔でブーマが懸念を口にする。以前の夜襲のときには、オークへの従属意識のせいで動きが鈍かったから、もっともな指摘だ。だけど、あのときとは違い、プラス材料もある。
「不安はあるけど、エデルクがいるなら大丈夫じゃないかな」
従属意識が残っているものの、コボルトが本当に従っているのは、理性派オークたちだ。その理性派オークの主要人物らしいエデルクが先頭に立って指揮するなら、コボルトたちも迷いなく戦えると思う。
それに夜襲のときと違って、今回は本拠地が襲われているんだ。逃げるって選択肢はない。本当の意味で危機的状況だからこそ、従属意識を振り切って戦えるんじゃないかな。
「まあ、それはそのときになってみないとわからないな。防壁がしっかりしているから、多少もたついたところで壊滅的な被害がでることはないだろう」
そう言ってゼギスがまとめる。確かにその通りだね。
「決めておくべきことは決めたかな。あとはしっかりと休もう。夜明けまでに襲撃はないと思うけど、交代で朝まで起きておくことにしようか」
「ちょっと待って」
これで話し合いを締めようとしたところで、イアンが割って入った。こういうときに意見を言うなんて珍しい……と思ったら、彼のお腹から、ぐぅと大きな音が鳴る。それでもイアンは真面目な顔だ。
「お腹が減ったら力が出ないよ。ご飯は確保しておくべきだと思う」
「あ、うん。それは確かに」
食いしん坊なイアンらしい意見だけど、重要なことかもしれない。襲撃前の慌ただしいときに、食事のことを気にしてられるとは限らない。僕らは部外者だし、ひょっとしたら忘れられてしまうかもしれないしね。
と、考えている間にまたイアンのお腹が鳴る。やっぱり、昨日の夕飯はちょっと足りなかったみたい。
はらぺこじゃ戦はできないもんね。特に、イアンの場合は。十分な実力を発揮するためにもご飯の用意は必要かな。
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