35. 意識の変化

 オークの集団を迎え撃ったあの日以来、僕らの村では何かが変わった。物理的な変化ではなく、言うなればそう、みんなの意識が変わったってところかな。怠惰なゴブリンはもういない……というのは言い過ぎだけど、みんな自分にできることをしようという意識が芽生えたような気がする。


 そんな中、我が家ではお祝いをしていた。


「父さん、おめでとう!」

「おめでと~」

「はは、ありがとうな」


 僕とソフィでお祝いの言葉を伝えると、父さんが照れくさそうに頭を掻いた。


 実は父さんが戦士団に復帰することになったんだ。戦士団長のガークは手伝って欲しそうだったから、もともと父さんの気持ちひとつだったんだけどね。父さんが心変わりしたのは、有り体に言うと戦士団の人手不足が原因だ。


 といっても、団員の数は増えている。少し前まで50人くらいだったのが、今や200人を越えて四倍以上。父さんは「小さな英雄のおかげだ」なんて言っていたけど、これもみんなの意識が変わったからだと思う。オークとの戦いが激しくなると予想される現在、とてもありがたいことだ。


 とはいえ、新米戦士はみんな、今まで鍛えてこなかった人たちだ。戦士になったからと言っていきなり戦えるようになるわけじゃない。きっと、しばらくはトレーニングの日々だね。


 今までは新米と言っても数人だったから、先輩戦士が自分の鍛錬の合間に新人の面倒もみていた。しかし、今は状況が許さない。オークと戦争状態に入ったので、数少ない人員を新人教育に当てている余裕がないんだ。


 その状況を見かねて、父さんが教育係に手を上げたってわけ。足の負傷で動き回れない父さんも、新人の指導ならできると考えたみたい。話を聞いたガークが大喜びして珍しくお酒を飲み過ぎていた。翌日は地獄だったと思う。


「こんな状況だ。やれることはやらんとな。母さんには負担をかけることになるが」

「大丈夫よ。ソフィはお利口だものね」

「ね~?」


 戦士団に復帰すると、ソフィの面倒は主に母さんが見ることになる。父さんはそのことを申し訳なく思っているみたい。とはいえ、ソフィは賢いし、聞き分けもいいから、きっと大丈夫だ。


「教育係は父さん一人でやるの?」

「とりあえずは、な。元戦士のヤツらに声を掛けるが……それでも手が足りんなぁ」


 戦ったことはおろか、運動すらろくにしてこなかった人たちを鍛えるのは大変だ。やると決めた物の、父さんは頭を抱えている。明らかに指導者が足りていない。


「それならキーナに協力してもらいなよ」


 実は、キーナが戦士団に所属することに決まったんだ。成人と見なされる八歳は目前だ。ちょうど良いタイミングだからと言って、本人が望み、それが認められた形だ。


「キーナか。たしかに、あの子なら問題ないな。即戦力としてガークに引っ張られないように話をつけとこう!」


 キーナの実力は父さんも認めているみたい。というか、ガークも、かな。たしかに、キーナの実力なら訓練生みたいな扱いにせずに、即実戦でも大丈夫な気もするね。その辺りは、父さんとガークで決めてもらえばいい。


「他には誰かいないか?」

「イワアタマたちも入るって話だよ。鍛えてたみたいだし、いいんじゃない?」

「うーん、アイツらか。一時期、荒れてたヤツらだよなぁ」

 

 父さんは、イワアタマたちを指導役にすることに難色を示している。まあ、彼らに教わるのは抵抗がある人もいるだろうしね。まあ、その辺りは父さんが決めることだ。一応は、伝えたって事で。


「俺もそうだが、お前も忙しいんじゃないか? 婆さんの手伝いがあるんだろ?」


 新人教育の人手不足については一旦棚上げして、父さんが僕に話を振ってきた。


 実はウル婆に協力しろって言われてるんだ。どうやら、呪い師の後継者を育てるみたい。いや、後継者っていうのかな? 希望者には全員教える気みたいだから、学校のようなものを作るのかも。一応、僕も弟子だから、その手伝いに駆り出されることになったんだ。形だけって話だったのにね。


「だけど、たまにでいいって言ってたよ。それよりも、村全体のことを考えてくれって言われてる」

「そっちの方がよっぽど大変そうだな」

「うーん? まあ、そっちは今までやってきたことと大差ないから」

「そういやそうか。お前、前から色々やってたもんなぁ」


 父さんがしみじみと言う。そういう父さんこそ恩恵を受けた一人だよね。主にお酒で。戦士団に入るならお酒作りからは退くんだろうけど、いまや、酒作り集団は戦士団に匹敵する規模だし。原料がなくて作れないから。遠征して果物なんかを確保したりする計画も立てているらしい。オークがいるから危ないのに……。


 まさか、戦士団が増えた理由って……いやいや、さすがにそれは考えすぎかな?


「まあまあ、仕事の話はいいじゃないの。食事にしましょう」


 母さんが床に皿を並べる。ゴブリンは床に座り込んで食べるんだけど、正直食べにくい。テーブルが欲しいね。


 料理をのせているのは魔法で作ったお皿。ようやくまともな食器を手に入れたよ。同じように魔法でフォークも作った。不思議なことに材料が少ないフォークの方がお皿よりもマナ消費が大きい。体積とは別に細かい構造だと消費が大きくなるみたい。フォークでこれだから、あまり複雑な物は作れないと考えた方が良さそうだ。


「フィ、にくぅ、たべる!」


 ソフィが肉の盛り付けられた皿を前に興奮している。あいかわらず肉が大好きだ。イアンといい勝負だね。


 ちなみに、ソフィは自分のことを"フィ"と呼ぶ。もしかしたらソフィって言ってるつもりなのかもしれないけど、最初のソが抜けちゃってるんだよね。


「お、うまそうだな! ウサギか」

「今日は私が焼いたのよ。グレゴリーに教わってね」


 焼き肉料理を作るときは、僕が担当していたけど、今日は母さんが作った。ソフィに手がかからなくなってきたこともあるけど、やっぱり少し料理なんかに前向きになったように感じるね。村全体がそんな雰囲気だ。


 料理に覚えたい人、魔法に興味を持った人、物作りを始めたい人。色々と代わり始めた気がする。言い方向に変わっているね。


 と言っても、まだまだ。できないことはたくさんあるし、オークたちとの戦いもある。もっともっと、暮らしを豊かにしないと!


 できれば、他の種族と交流を持って、交易を始めたいだけどなぁ。リリネやヨルヴァにお願いしてケットシーの村に案内してもらうのは……まあ無理かな。訳ありっぽいしね。


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本日から更新再開します!


ですが、すみません。本作は区切りまで書き上げてから更新するつもりだったんですが、全然書きあがってません!


突発的に別作品を書き始めちゃったんですよね……。さすがに、ここから書きあがるまでお待たせするのはどうかと思い更新を再開することにしました。毎日更新はできないと思いますがご容赦を。


次の区切りまではそれなりの頻度で更新を続けますので、よろしくお願いします!

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