人は平等か

猿山王

食字

高校の授業にて

なんの授業をしてるのかもわからない、今おそらくグループワークをしてるらしいが、相変わらず孤立している主人公は意図的に物思いにふける。


主人公A(この世界は不平等だ。平等を謳う連中は頭が悪い、視野が狭い、恵まれた人間だけなんだ。)

一度教室を見渡した。こいつらはきっと自分たちを特別だとでも思ってんだろうツラをしている。

残念ながら俺もこいつらも、選ばれなかった側の人間だ。この世は平等だなんて綺麗事でしかないんだ。


________

〇〇「そう思うからお前みたいなのは何にもなれないんだよ。馬鹿だな」


A(は?) 

背後から声が聞こえたような感覚がある。だが、その声の特徴を掴むことが出来ない。それは男なのか女なのかすら分からない。まるで自然的に存在する音のように、透明な物だ。


悪魔「俺は悪魔だ。人の心に住み着く悪魔。お前みたいな、自分は世間とは違う目線を持ってますみたいな考えを持った馬鹿の無駄な考え事を食って生きながらえてる存在だ。今から俺がお前の話し相手になってやるよ。安心しろ、単なる気まぐれだ」


A(そんなもんはいらない)


悪魔「さっきお前はこの世は不平等だからあーだこーだとか、欠伸が出そうになるほど退屈なごくごく普通な一般論を並べてやがったが、俺に言わせりゃ世界は平等で、差異なんてものははじめから存在してない」


A(悪魔を語るくせに平等がどうとか神様気取りか? じゃあ聞くが、この世には望まれずに産まれてきた人間がいる。生きたいのに生きられない人間がいる。これについてどう思う?)


悪魔「どう詰めてくるかと思ったら、ことごとく退屈な例えだな。良いか、じゃあ教えてやるよ。細かい不幸の話はどうだって良い。なんでかって、それは人間の感情の浮き沈みなんて大差なくて、重要なのは気持ちだからだよ。生きたいのに生きられないのと、楽したいけど楽できないなんてのは本質的には同じなんだよ。世間が勝手に重みをつけてるだけの話だ」


A(何を言うかと思ったら、気持ちの問題?馬鹿なのかお前は。不幸の度合いがあるなら、この世界は不平等じゃないか)


悪魔「人間が決めた不幸の度合いならな。この世界は平等だ。生物全て。植物は考えることも出来なければ楽しいことも何もないが、その環境に合った、それを普通だと思える価値観を持っている。だから植物は不幸を感じない。 人間も本来そんなもんだ。与えられる環境と、それに合った価値観を持つもんだ普通。不平等とか平等とか、そんな区別を作って、やれあいつは金持ちだからとか、やれあいつには才能があるからとか、または自分はあいつらに比べて〇〇が劣ってるから〜とか、与えられた環境とは別のものばかり見て、上辺だけで比べたがる。だからいつまで経ってもお前の世界は不平等なんだ。世界の共通認識なんて存在しない、どれだけの数の人間がこの世界は不平等だと謳おうと、お前が平等だと思えばこの世界は平等だ。……ほら、もう一度教室を見渡してみろ」










見渡すと、変わらない景色が広がっていた。何処にでもあるような、高校の教室の景色だ。

しゃっくりがおさまるかのように、悪魔の声は自然的に聞こえなくなった。

また、次の瞬間にはチャイムが鳴り響いた。

起立、気をつけ、礼、と日直が号令をかけて、この授業が終わった。

(次の時間の準備しないと…)

Aは荷物置き場にある、教科書などを取りに行った。






 まあ、後にAがどうなったのかが分かることはないし、満たされた腹を擦る悪魔にとっては、もはやそれはどうでもいい話だろう。

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人は平等か 猿山王 @saruyamao

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