第17層「裏切られた健吾」
「ツシゴリ!! どうしてここに!?」
健吾は剣を抜いた。
「おいおい、いきなり剣を向けられたら落ち着いて話すこともできない」
ツシゴリは手をあげて笑った。
「ニア。彼らをここまで連れてきてくれてありがとう」とツシゴリは言った。
「どういたしまして」とニアは応えた。
「ニア。お前の差金なのか!?」
イオナは眉を顰めた。
「そうさ」と代わりにツシゴリが答えた。
「俺としてはイオナに先に金印を見つけられると困るんだ。だからニアに頼んでここまで連れてきてもらったんだ。おまえを殺すためにね」
「ニア!! どうして!?」と乃亜が言った。
「私は私の事情があるのよ」とニアは素っ気なく答えた。
健吾は不意に殺気を感じ、イオナの頭を庇うと、彼女の頭上をニアが投げた手裏剣が通過した。
「ニア。自分の仲間を傷つけるようなことは辞めてくれ」
健吾はニアに言った。彼は自分の言葉が彼女に届いたか確信を持てなかった。
「もう少しだったのに」とツシゴリは笑った。
ニアは健吾に体当たりをした。彼は不意をつかれたので
健吾はすぐさま立ち上がるが、ニアが2本の短刀で斬りかかってきた。健吾はかろうじて剣で
そこにツシゴリが詰め寄って健吾の眉間へ刀を振り下ろした瞬間、イオナが剣で縄を切ったので、自分の刃でうけることができた。コンマ1秒遅れていたら、健吾は2つに叩き斬られていただろう。しかし、体躯の差でツシゴリの方がジリジリと健吾の剣を後ろへやっていた。これをチャンスと見た乃亜が、ツシゴリの足を掬い上げて、彼を倒した。すぐさまイオナがツシゴリを羽交締めにして動きを封じると、健吾は距離をとって矢筒から矢を番えた。
—矢を
健吾は立ち上がり矢を番えて、叫んだ。
「魔弓!!シルクカット!!」
弦を
「なっ、どうしてッ!?」
健吾は目の前に光景に驚いた。ツシゴリの体は黄金に変化していた。刺さった矢ですら彼に同化して美しい輝きを放っていた。彼は矢を引き抜いて地面に放り投げると、金属音が響いた。
「力を覚醒させたのだよ。俺は触れるもの全て黄金に変えることができる。お前の矢では俺を切り裂くことはできんよ」と言ってツシゴリは笑った。健吾はどう倒せばいいか分からず、絶望感で思考回路を塞がれた。
「逃げるぞっ!」
イオナは健吾に叫んだ。
「でもっ!」となんとか悪あがきしようとした健吾は首を振ったが、
「手の内もわからない敵と戦うなんて愚の骨頂だ!……
◆
健吾たちは逃げ出したが、ツシゴリは追うこともなく後ろ姿を見送るだけだった。
「いったい何が起こったんだ?」
健吾は自分の矢で倒せなかったことがなかったので信じられない気持ちだった。
「……きっとお姉ちゃんの研究だ」
乃亜が言った。
「強制的に覚醒を促す研究をヨシトミに奪われたでしょ? ツシゴリはそれを使って自分を強制的に覚醒させて隠しスキルを手に入れた」と乃亜は続けた。
「それが触れるもの全てを黄金に変えるスキルってことか」とイオナは結論づけた。健吾は自分の矢を完全に無効化されていたので、手も足も出せない無力感を感じていた。
「とりあえず、ダンジョンから出よう」とイオナが言った。
彼らはワープゾーンへ向かった。
彼らはニアの突然の裏切りにショックを受けていた。
「ニアはどうして裏切ったんだろう?」と健吾は失意のうちに言った。
「……気にしなくていい。それより3人でなんとかツシゴリを止めることを考えないと」とイオナが冷静に言った。健吾は彼女の無感動な反応に対して同情した。
(イオナは戦乱の中たくさんの裏切りを経験してきたのだ。気にしているとやってられないのだろう……)
「ダメだよっ! ニアにも事情があるって言ってたじゃん! まずはニアの話を聞かないとっ! じゃないと、私たちは意味もなく人を恨むことになるじゃん。私はそんなの嫌だっ!」と乃亜は怒りを露わにした。
「健吾はどう思う?」
乃亜は健吾に訊いた。
「……正誤の二元論で判断すれば、ニアの裏切りは誤りだ。だけど、それを前提で話を進めれば、僕たちは場違いな行動をとってしまうかもしれない。乃亜が言いたいことはそう言うことだろう?」
健吾は言うと、乃亜は難しい顔をして、
「とりあえずそういうことだと思う」と言った。
「でもイオナの言うとおり、強くなったツシゴリにどう立ち向かうかを考えないと、ツシゴリの野望を止めることができない」
「でも、それはそうだけど……」と乃亜は推し黙った。
健吾も乃亜もイオナも理性ではツシゴリをなんとかすることが最優先だとわかっていたが、気持ちがまったく割り切れていなかった。
不意にニアがとったおかしな行動に健吾は気付いた。
(あの時どうして捨て身でタックルしてきたんだ? ニアは忍者だから中間距離の投擲で攻撃することが得意なはずだ。それにツシゴリもだ。彼も不可解な行動を取っていた…)
健吾は装備のポケットを探ると一枚の紙が出てきた。広げてみると—午後10時、校門前で—と書かれてあった。
「これは、ニアからの手紙だ」
健吾は紙切れを2人に見せた。
「高校に来いってこと?」と乃亜が首を傾げた。
「行かなくていい。もしかしたら罠かもしれないからな」
イオナが言った。
「いや、罠じゃない。罠をかけるとしたら、さっきのワープゾーンのところで仕掛けてきたはずだ」
健吾が言うと、イオナは納得のいかない顔をしたが、渋々頷いた。
「それにツシゴリたちは逃げ出した僕たちを追ってこなかった。もしかしたら、すでに金印の在処をつかんでいるのかもしれない」
「なら、私がツシゴリのところへ向かおう」とイオナが言った。
「でも、倒し方もわからないのに、犬死にするかもしれないよ」
健吾が言うと、
「大丈夫だ。66層に行きながら考えればいい」
「じゃあ、私もついてゆくよ」
乃亜が言った。
「いや、乃亜は……」
イオナが止めようとすると、
「イオナを1人で行かせはしないよ。それにニアは私たちの中から健吾を選んだ。そこは尊重してあげたいよ」と乃亜が言った。
「そうか」
「じゃあ、僕はニアに会ってくるよ」
◇◇◇
健吾は夜の通学路を歩いていた。いつものように近道を抜けて、学校へ向かっていた。道路をヘッドライトをつけた車が通り過ぎてゆく。健吾は時間帯が変わるだけでいつもの景色がこんなに変わるのかと不思議な気分になっていた。
正門前に行くと、ニアが待っていた。健吾はニアに対して複雑な気持ちを抱いていた。今までの人生で裏切られたことも嘘をつかれたこともない彼は、傷つけられるという心情をよくわかっていなかった。彼にとっては虐められることよりはマシという程度にしか思っていなかった。
「……………………」
「……………………」
「なんか飲まない?」
健吾は近くにあった自販機を指差すとニアは頷いた。彼はコーヒーを二つ買って、一つを彼女に渡した。
「ありがとう」
ニアは言った。彼女は缶に一口つけた。
「それで、ツシゴリとはどういう関係なんだ?」
「……今さら、信じてくれないかもしれないけど、私はアイツに脅されてるんだ」
「脅されてる? どういうこと?」
「私の弟が人質にされてる。私も私の父もアイツも言いなりになるしかない」
「ニアのお父さんって……」
「ダンジョン庁の大臣。知ってるでしょ?」
ニアの言葉に健吾は頷いた。
「……元々ね、『攻略旅団』は私の弟が作ったものなのよ」
「えっ?」
不細工すぎて現代に転生してきた美少女に魔物扱いされた僕、女神さまにイケメンにしてもらい、チート武器を手に入れてダンジョン攻略を始める。 乱狂 麩羅怒(ランクル プラド) @Saitoh_nagisa
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