第9層「ニア様とコラボ!撮影2本目」
約束の場所に訪れると、依頼人が待っていた。ニアは彼に撮影の流れを説明して、カメラを回し始めた。
依頼人はこの階層の中ボスであるエンシェントドラゴンを倒し、見覚えのない武器がドロップしたので、鑑定を依頼してきたらしい。
「エンシェントドラゴンなんてよく倒せたね〜?」
ニアが作られたテンションで依頼主に話しかけた。
「今は情報の共有がすぐにできるようになったからね。第30層の敵でも情報を頭に叩き込んで装備さえ整えば、グリーンライセンスの奴でも勝てるようになった」
男はしみじみと頷いた。
ニアは虫眼鏡を取り出して、鑑定を始めた。
「……これは『妖刀マサムネ』ね。なかなかのレアアイテムじゃない!」
「おおっ。マサムネなら高値で売れるじゃないか。助かった」
男はオーバーリアクション気味に言った。
撮影は順調に進んでいた。
「どうだ? よかったら、誰か買わないか? せっかくだし試し斬りしてみなよ」
男は健吾に向き直って促した。彼は弓矢だけでなく、剣がもう一本あれば戦闘の幅か広がると思っていたので、これをいい機会に刀を握ろうとすると、
「触っちゃダメ!!」
ニアが健吾を制止した。彼はあまりに激しく手を払われたので、心臓が飛び跳ねた。
ニアは撮影を止めた。
「ちょっと台本に無いことしないでくれるかしら?」
ニアは健吾ではなく、男に向かって冷たい声で言った。男はニアのテンションにあまりに差があるために、彼女が恐ろしく見えた。
「マサムネに麻痺の呪いがかかってるね」
「何のことだ?」と男は言った。
「あんた、私が見てない隙にムラマサにあんたが呪いをかけたでしょ?」
ニアが問い詰めると、男は
「なんのことだかさっぱりわからないね」
「あんたA級でしょ? 私もA級なんだよ。同じ階級でしか呪いを見破ることはできないし、鑑定スキルで特定することができない。A級やC級の連中には、B級がかけた呪いは見破れない」
ニアに言われた男は図星を突かれたようだった。
「おまえ、A級の鑑定士だったのかよ」
男は舌打ちした。
「特定されない呪いなんて存在しないの。鑑定スキル持ちならわかるでしょ? どうせスキルを独占したいから、私を麻痺させて動けなくなったところを脅そうとしたんでしょ? そんなのバレバレよ」
ニアは言った。
「どういうことだよ?」と健吾が訊ねると、
「鑑定スキルは呪いを誰がかけたかを特定することもできるの。だから、単純にA級ライセンスを所有している人は、A級ライセンス所有者がかけた呪いを見破ることができるけど、誰が呪いをかけたかを特定するには同級でかつ、鑑定スキルを持っていないとできないということ」
「なるほど……」
「野崎もダンジョンじゃ他人の物に触らないのは常識よ。どんな呪いがかけられてるかわからないんだから」
「お前がいなくなれば、俺が儲かるんだ! 消えろ!!」
男は態度を一変させて、いきなりマサムネを手に取って、ニアを襲おうとした。彼女は丸腰だったために、成す術もなく悲鳴を上げた。その瞬間、イオナが剣を受け止めて、乃亜が持っていた本を男の頭に投げつけると、男は脳震盪を起こして倒れた。
「丸腰の女の子襲うなんてサイテーだよ!」
乃亜が言うと、男は慌てて立ち上がり、ヨタヨタと逃げ出した。
「おい! 待てよ!」
健吾が追いかけようとすると、矢筒に反応があったので、健吾は矢をつがえた。
矢を空に放つと、それはバハムートに変化し、逃げ出した男を捕まえて、健吾の前でおろした。
「もう一回逃げてみる?」
健吾が尋ねると、男は首を振った。彼はバハムートの大きさとそれを操った健吾に圧倒されていた。
◆
男はダンジョン内で結成された自警団に引き渡された。ダンジョン内での事件は基本的に彼らが対処にあたることになっている。ニアを襲おうとした男はライセンス剥奪処分を受けて、ダンジョンから出禁を言い渡された。
「みんな助けてくれてありがとう」
ニアは頭を下げた。
「ニア大丈夫?」
乃亜は心配そうに声をかけた。
「うん。こんなことしょっちゅうだから、慣れたわよ」
ニアは言った。彼女はいくらA級ライセンスを持っていて、実力はあるといえど、毎回危険な目に遭えば、精神をすり減らすに決まっていると健吾は思った。
「だけど、こんなことに巻き込まれるなら、動画なんて辞めた方がいいんじゃないか?」
健吾は勇気を出して踏み込んだ言葉を吐くと、ニアは少し驚いていた。
「……ほんとはさ、弟の治療費を稼ぐためにやってんだ」
ニアは語り始めた。
「動画のこと?」
乃亜が言うと、ニアは頷いた。
「サツキって言うんだけど、昔ダンジョンでモンスターに襲われた時にしくじっちゃって、病院で寝たきりになってる」
ニアは弱々しく言った。
「だから、弟の治療費のためにしっかりしなくちゃいけないんだけど、そう思えば思うほど、自分で自分の首を締めてるようで辛い……ストーカーにも付き纏われるし、もう最悪……」
ニアはそこまで言って黙り込んだ。
「はい、弱音は終わり! みんな帰ろうよ。助けてもらったし、なんか奢るわよ!」
ニアは気分を切り替えて、元気な声を出した。
3人はお互いに顔を見合わせた。誰が言うかで無言の会議が行われた。イオナとニアは健吾を見た。
「ニアはひとりじゃない」
健吾はニアに言った。
「えっ?」
「だから、一緒にパーティを組みましょう」
イオナは優しく言った。
イオナの言葉に、ニアは目を伏せた。
「あーっ。私の時は全然入れてくれなかったくせに! なんでニアには優しくするんだよ!」
乃亜はイオナに抱きついた。
「ちょっと、いきなり抱きつかないでくださいよ!?」
その様子を見ていたニアは涙目になった。彼女はしばらくして、イオナに抱きついた。
「おっ、ニア様もイオナの温かさに気づいたね」
乃亜はニアに言った。
「そんなんじゃないわよ!」
ニアは強く否定した。
「2人とも離してください!?」
健吾はその様子を微笑ましく眺めていた。
◇◇◇
【?報】イケメンニキ、ニア様とコラボする模様
1.ダンジョンに潜る名無し
Xで書いてたで。動画は来週投稿予定らしい
2.ダンジョンに潜る名無し
見たで。予告サムネのニア様かわよ
9.ダンジョンに潜る名無し
ワイもイケメンニキになりたいわ
43.ダンジョンに潜る名無し
イケメンニキ絶対俺より雑魚いやろ。
53.ダンジョンに潜る名無し
>>嫉妬してるやん
56.ダンジョンに潜る名無し
>>53
どこがやねん。毎日最前線で死にそうになりながらモンスターを倒してる俺の方が経験値としては圧倒的に上やって言いたいだけや。覚悟が違う。
142.ダンジョンに潜る名無し
サムネのニア様メスの顔しとったけど、イケメンニキに惚れてない?
134.ダンジョンに潜る名無し
>>142
ワイのニア様に限ってそんなことあるわけない。
158.ダンジョンに潜る名無し
イケメンニキ処す
323.ダンジョンに潜る名無し
ワイはニア様が元気ようやってたらそれでええ
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