第8層「ニア様とコラボ!撮影1本目」
乃亜が加入したパーティの当面の目標はA級ライセンスを取得することになった。そして、彼らは毎日のようにダンジョンに潜っては、イオナと乃亜の経験値を稼ぐという、地味な活動が続いていた。
そんなある日……
「ちょっといいかしら?」
ダンジョンに潜ろうとする彼らを引き止める声があった。その見ると、星田ニアが撮影機材を持って立っていた。彼女は綺麗に手入れされた黒髪を靡かせて、優雅に佇んでいた。
「おお、ニア様じゃん。どうしたの?」
乃亜がニアの元へ近寄った。
「そこの野崎を貸して欲しいのよ」
ニアが言った。健吾は驚いた。
「健吾? いったいどうするのさ?」
「撮影するのよ。コラボ動画を撮影するの……
◇◇◇
ニアの動画内容は多くは攻略に関するもので、有益なものが多いことがストロングポイントだ。ちなみに彼女の
健吾は動画のゲストに呼ばれたので浮かれ気分だった。さらに界隈で有名なニアの動画に出演となれば、気分は
「はい台本ね」
ニアは健吾に台本を渡した。
「えっ? こんなに覚えることあるの?」
健吾は渡された台本の厚さに驚いた。
「ざっとでいいわよ」とニアが言った。
軽く打ち合わせをして、やがて撮影が始まると、ニアはスイッチを切り替えて別人ようにテンションが上がった。
「どうも〜! ニア様のダンジョン攻略はじまるよ〜! 今回はすぺしゃるげすとに来てもらいました〜」
健吾はニアの徹底した演技に圧倒されていた。
(すげぇ)
「すごい。プロだね」と乃亜がカメラの後ろから見守りながらイオナと話していた。「イタコ芸ってやつですか?」イオナは乃亜に訊ねていた。
「ほらっ、こっち来て!」
健吾はニアに手招きされて、画角に入った。
「なんと、今、攻略掲示板で話題になってるバハムートを倒した『イケメンニキ』に来てもらいました〜拍手っ!」
「あっ、どうも……」
「今日の動画は彗星の如く攻略界隈に現れたイケメンニキの実態を解き明かしていくよっ! 突然だけど、スーパーライセンスって特別なやつを持ってるんだよね?」
「あっ、うん」
健吾はスーパーライセンスを取り出して、カメラに見せた。
「へぇ〜すごい、初めて見たぁ」
(さっき打ち合わせの時に見てたじゃん)
「このライセンスってすごいヤツなの?」
健吾は台本通り、スーパーライセンスとオリジナルのジョブについて説明した。
「それじゃあ、さっそくダンジョンで検証してみよう〜」
ニアに促されて、健吾はダンジョンへと入っていった。
◆
「でも、どうして僕とコラボなんてするのさ?」
移動中、健吾はニアに訊いた。
「イケメンだから、再生数稼げると思ったんじゃないの〜」
乃亜が後ろで茶化していた。
「もちろん、あんたとコラボすれば再生回数を稼げるからよ。自分の市場価値を知らないの?」とニアはぶっきらぼうに吐き捨てた。
健吾は今までの自分が不細工だったので、自分の価値なんて人並み以下だという考えがベースにあったが、ニアの言葉で自分にも価値があったと思えて、安堵した。
「そうなんだ。僕はてっきりニアから嫌われているのかと思ったよ」
「はあ? なんで?」とニアが言った。
「だって、教室でたまに睨め付けてくるから、僕のこと嫌いなんだと思っていたよ」
「そういうわけじゃないわ。私、目が悪いからね」とニアは言った。
「ちなみにギャラっていくらなの?」
乃亜がニアにいやらしく訊いた。
「どうして乃亜がそれを訊くのさ!?」
「ギャラなら言い値でいいわよ? たぶん、この動画バズるから」
ニアはにべもなく言った。
「気前いいねぇ〜。じゃあ20万円でどうかな?」
「だからどうして乃亜が決めるのさ!?」
◆
場所が変わって再び撮影が始まった。
「イケメンニキは弓が得意なの?」
ニアは動画用の作られた声で健吾に訊いた。
「うん。小さい頃から弓道をやっていたから、得意だよ」
(本当は弓道なんてしたことないけど、台本に書いてるし……)
「はえ〜健吾って弓道習ってたんだ、渋いね」
「ええ。出会った頃から見ていますが、筋は確かですから」
乃亜とイオナは完全に信じていた。健吾はふたりに対して心苦しかった。
「ショットガンショット見せてよ! 矢を3本以上同時に撃つやつ」
「あっ、うん」
(勝手に名前までつけられてる)
健吾は台本通り、ショットガンショットを見せた。ニアは画角から外れて、健吾のみが映っていた。
「素人のくせに、あんな弓矢の使い方ができるなんて……」
ニアは陰で眉を顰めていた。
他にも再びステータスを確定させる水晶を割ったり、身につけている装備を紹介して、休憩に入った。
「ニア様ってどうして動画配信しはじめたの?」
乃亜は動画チェックしているニアに尋ねた。
「お金が欲しいからよ。お金があればなんでもできる。誰でもわかるわ」
「へえ」と乃亜は相槌を打った。
「にしても、こんなことを一人でやるなんて大変じゃないのか?」
イオナが訊ねた。
「私は平気よ。いつもひとりでやってきたから。どうせわかってくれる人もいないし」
ニアは少し寂しげに言った。健吾は思い返すと彼女が学校で誰かと一緒にいるところを見たことがなかった。それはきっと彼女の動画と普段の態度の違いや、発言のトゲトゲしさのせいかもしれないと思った。
「私は動画のことはよくわかりませんが、そんなにお金が儲かるのですか?」
イオナは乃亜に訊ねた。
「そうだよ。動画で何本かバズったら。一生食っていけるレベルだよ」
乃亜はなぜか自分が動画を作っているかのようにドヤ顔で答えた。
「それじゃあ、2本目の撮影に行くわよ」
ニアは切り出した。
「2本目は何をするんだ?」
健吾は訊ねた。
「私直々に装備の鑑定の依頼があったのよ。野崎は適当に話してくれるだけでいいから」
「鑑定?」
「ええ。私は鑑定スキル持ちなの。同じスキルを持っている人はほとんどいないから、宵越しのお金を稼ぐなら、こっちの方が効率はいいわね」
ニアは言った。
「なら、鑑定しまくった方がいいんじゃない? 動画なら編集もしなくちゃいけないから大変でしょ?」
乃亜はニアに言った。
「……私は負けてないって証拠を残したいのよ」
ニアはポツリと吐き捨てた。
◇◇◇
「さて、次の場所に移動しましょうか」
ニアが言ったので、移動をするために、荷物を肩にかけると、
「おい! 出てこい!」
イオナは突然剣を手にかけて、岩場の方へ向かって叫んだ。
「どうしたんだよ?」
健吾はイオナに言った。
「あの岩の後ろに人の気配がする……」
健吾は近づいて確認しようとすると、岩場の後ろから、黒づくめの格好をした人間が飛び出した。彼は捕まえようとするが、そいつは目にも止まらぬ速さで逃げ出した。
「アイツ……いつもついてくるストーカー」
ニアが声を震わせていた。
「ええっ!? それって大丈夫なの!?」
乃亜が言った。
「うん……たまについてくるだけで、何もしてこないから大丈夫」とニアは言った。
「でも、たまに嫌な気分になる」
「なら、一緒に警察に行こうよ……」と乃亜が言いかけると、
「ほら、さっさと行きましょう」
ニアは空気を変えるように言った。
3人は顔を見合わせた。
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