第6層「輩をわからせた僕」
ダンジョン攻略において、パーティを組んで最初にすることは、メンバーの経験値を上げるために狩場を探すのが定石だ。比較的に倒すのが容易なモンスターが多くスポーンする場所が狩場として使われ、そんな場所はダンジョン内に無数に存在するので、パーティごとに独占することが常識になっている。
イオナの場合、目的達成のためにはA級ライセンスが必要不可欠であり、取得のために経験値をかせぐ必要があった。
「さっそく経験値稼ぎをはじめましょう」
「おー」
ダンジョンの前でイオナが宣言した。健吾とイオナは早速足を踏み入れようとすると、
「ちょ〜いちょいちょい、お二人さん待ってよ!」
乃亜が二人を呼び止めた。
「今からダンジョンに行くんでしょ? メンバーの私を置いていくなんてどういうこと?」
乃亜は憤慨していた。
「城北さんをパーティに入れたことなんてありました?」
イオナは健吾に訊ねた。健吾は面白そうだと思ったので、首を傾げた。
「辛辣すぎるよ! 前回、私がいい感じに仲間に加わっていく雰囲気出してたじゃん。王道展開だよ、王道展開!」
「そんなこと言われましても」とイオナは困惑していた。前回は乃亜が戦闘であまり役に立っていなかったので、彼女がいるメリットがイオナには思い浮かばない。
「そんな世知辛いこと言わないでさ。私を連れていくメリットがあるじゃん」
「どんなメリットだ?」
「華やかなパーティになる」
「華やかさよりも、戦闘能力とかの方が大事なんじゃないですか?」
「いやいやいや、華やかさは大事だよ。ルパン一味だって峰不二子がいないと機能しないでしょ?」
(峰不二子が仲間だったためしは一度もなかったような……)
「いーから、一緒に行こうよ〜」
乃亜のダル絡みにイオナは、
「本当に私たちの仲間になりたいのなら、通過儀礼をしないといけません」
と返した。
「通過儀礼?」
「ええ。私の故郷でムラの仲間になるためには健康な歯を抜かなくちゃならないんだ」
「こわっ。そんなことできないよ」
乃亜は抜歯の痛みを想像して震え慄いたが、彼女はめげずに地団駄を踏んでいたので、イオナはしぶしぶ彼女を連れていくことを決めた。
「じゃあ、早速ダンジョン攻略に参ろうよ!」
乃亜は意気揚々と先陣を切ってダンジョンへ進んだ。
◆
「そういえば、イオナってここの世界の人間じゃないって言ってたじゃん? あれって本当なの?」
移動中に乃亜が話を切り出した。
「ええ、私はこの世界の人間ではありません」
イオナはここの世界に来た経緯と、健吾を仲間したことを話した。
「……イオナも大変なんだね」
乃亜はイオナに言った。
「いえ、むしろもう一度蘇らせてくれるチャンスをくれただけでもありがたいと思っています」
イオナは言った。健吾は彼女の考え方がストイックだと感じていた。
第4層をウロウロしていると、倒しやすい割に経験値が豊富なガーゴイルが大量にスポーンする岩場を見つけた。周辺に旗も立てられていないので、まだ独占されていない狩場だった。
「ここ狩場に最高じゃん!」
乃亜は早速、持参した旗を立てようとすると、
「おい! 待たんかい!」
突然、どこからか二人組の
「ここは俺らが見つけた狩場や。邪魔せんといてぇな。姉ちゃん」
「えっ、ちょっと、いきなりなんですか?」
乃亜は輩の手を振り払って、健吾の後ろに隠れた。健吾はまさか乃亜が自分を盾にするとは思ってなかったので、内心、ビビっていた。
「ここを先に見つけたのは私たちですよ?」
イオナは物怖じせずに輩を睨みつけた。
「べつにええやん」
「姉ちゃんが見つける前に俺らが見つけてたんや。なんか文句あるか?」
「今、文句を述べたのだ。聞こえませんでした?」
「ちょっとイオナっ、喧嘩売るのはよくないよ」
健吾がイオナにこっそり言うと、輩は健吾に目をつけた。
「なんやこの兄ちゃん? ごっつイケメンやん」
「ほんまや。せやから女二人連れてんのかいな」
「あっ、いや別にイケメンだからって……」
健吾が言うと、
「ああん? イケメンやから何言うても得するわな? 何しても許されるなぁ? 俺そんなん嫌いやねん」
「ちょい顔かせや。俺がシバいたるわ」
二人組の売り言葉に反応したイオナは剣を抜刀した。彼女の冷徹な人格が現れた。
「ちょっとイオナっ!? 剣は流石に不味いって!」
健吾が言うと、
「峰でシバくから不味くない」
イオナは冷ややかな目をして言った。
「おっ、威勢のええ姉ちゃんやん。どうせお前らB級も持ってないんやろ? B級持ってる俺らがわからせたるわ」
「最後の忠告だ。このまま背を向けて去れ」
イオナの言葉を無視して輩の一人が挑みかかると、彼女は容赦なく首を剣の峰で切りつけた。輩が倒れると、彼女は追撃のチャンスと見て、輩に馬乗りになって剣の塚で頭を何度も殴った。
「やめて! やめてくれ!」
殴られてる輩はイオナに懇願した。彼女は、
「お前が私の力量を測るのを見誤ったからこうなっているのだ。戦争ならとっくに死んでるぞ?」と冷徹に吐き捨てた。
健吾はイオナのあまりの容赦の無さに驚いて、彼女を止めることも忘れていた。
「きゃっ!?」
輩の一人が背後から乃亜を
「おい! 城北を離せ!」
健吾は慌てて矢筒から矢を番えてもう一人の方に向けた。矢筒から吐き出されたのは麻痺の矢だった。
(どうして麻痺の矢なんだ……)
「アホか。その矢下ろして、こっちに渡せ」
輩が言うが、健吾は乃亜をどうやって助けるかで頭がいっぱいになっていた。
「野崎ぃ〜」
乃亜は涙目になりながら健吾に助けを求めた。彼は輩の言う通り、弓から矢を外した。
「おい健吾! 言いなりになるな!」
イオナは言うが、健吾は彼女に合図を送って、矢を手渡した。その際、彼は手を滑らせて、輩の手を矢尻で軽く切ってしまった。
「おい、危ないやろ!?」
輩は健吾を殴りつけると、彼は無抵抗のまま地面に転げた。
「ふん。最初から大人しく場所譲っとけば…こんなことにならんかってん……そっちのアマも……ソイツ放せや」
イオナは言われた通り、輩を解放した。
「そろそろ効いてきたでしょ?」
健吾は立ち上がった。
「矢尻に麻痺薬を仕込んでおいたのさ」
輩は口も聞けなくなり、ブルブルと体を震わせていた。
健吾は輩から乃亜を引き剥がし、輩を殴りつけた。
「これでおあいこだ」
◆
輩2人は逃げ出した。
「助けてくれてありがと」
乃亜は健吾に言った。
「あの人たちはなんですの?」
剣を収めたイオナは後ろ姿を見送りながら言った。
「ともかく、ガーゴイルの狩場なんて貴重だよ。正直お金を取れるレベルだ」
健吾は狩場を見回した。
「うん。ここで練習すれば、経験値はあっという間に稼げるね」
乃亜は頷いた。
「とりあえず、ダンジョン庁に独占許可を申請しなくちゃな」
健吾は言った。
ちょうどいい時間になったので3人はダンジョンから切り上げることにした。
申請はリーダーであるイオナがやると言ったので、彼女に任せることになった。
「僕らも帰ろうか」
健吾は乃亜に言って歩き出そうとすると、
「ちょっと待ってっ」
乃亜が健吾の服すそを掴んだので、彼はつまづきそうになった。
「……あのさ、ちょっと付き合って欲しいんだ」
「……え?」
◇◇◇
【?報】ダンジョン攻略掲示板part2332
286.ダンジョンに潜る名無し
イケメンニキと仲間が狩場で輩に絡まれてたところを目撃したで
287.ダンジョンに潜る名無し
>>286
マ? どうなったん?
319.ダンジョンに潜る名無し
>>287
イケメンニキが麻痺薬を塗った矢を輩に捕ませて痺れさせて成敗してた
324.ダンジョンに潜る名無し
>>319
はへ〜なかなか策士やね
443.ダンジョンに潜る名無し
>>324ドヤ顔で「まだやるかい?」って花山薫みたいに訊いてたで
498.ダンジョンに潜る名無し
>>443
麻痺如きでイキってて草
546.ダンジョンに潜る名無し
>>443
ドヤ顔麻痺ニキ爆誕
674.ダンジョンに潜る名無し
イケメンニキとその取り巻きに絡んでいた輩って、大手パーティの『攻略旅団』のメンバーっぽかったで
712.ダンジョンに潜る名無し
>>674
そマ?
832.ダンジョンに潜る名無し
>>712
八咫烏の刺青っぽいやつ腕に入れてたし、間違いないで
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