第5層「バハムートスレイヤー爆誕」



 健吾の両親は事故で他界していたので、ひとり暮らしだった。停学中の健吾はすることがないので、暇つぶしにエゴサーチをしていた。

 グリーンライセンス所有者が超S級難易度のバハムートを倒したことが攻略掲示板で話題になっていた。


【悲報】A級さんが勝てなかったバハムートに初心者が挑んだ結果wwwww


1.ダンジョンに潜る名無し

バハムートが瞬殺された。ヤバくね?


6.ダンジョンに潜る名無し

こいつ何者なんだよwww


52.ダンジョンに潜る名無し

なんかえぐい矢使ってて草、チートやん


65.ダンジョンに潜る名無し

攻略界隈を担う天才現る


214.ダンジョンに潜る名無し

くっそイケメンらしいで


267.ダンジョンに潜る名無し

史上2人目のスーパーライセンスかもだってさ


546.ダンジョンに潜る名無し

>>267

スーパーライセンスってなんか特典あるん?


674.ダンジョンに潜る名無し

>>546

なんか自分で考えたオリジナルの役割ができるらしいで


712.ダンジョンに潜る名無し

>>674

どうでもよくて草

ちな一人目の役割はなんなん?


832.ダンジョンに潜る名無し

>>712

非公表らしいで



 健吾がブサイクな見た目のこと以外で話題に上がるのは初めてで、今までの人生の嫌なことを全部チャラにしてもいいぐらいだと思っていた。SNSやネット上で匿名の誰かに話題に上げられる方が、証拠として残るので、一生とっておこうと決めた。


(あーあ、学校が待ち遠しいな。今回の一件でみんなからちやほやされるだろうしな)


 健吾はニヤニヤしていると、インターホンがなり、彼は我に返った。


 玄関を開けると、翔太が立っていた。健吾は目を大きく見開いた。


「おっす、野崎……」


 翔太は健吾の反応を推し量りながら声をかけた。健吾は突然の来客にどう反応すればいいかわからずにいると、翔太は頭を下げた。


「あの時、助けてくれてありがとう。野崎が来てくれなきゃ、俺は死んでた」


 翔太は健吾の方にやってきて、菓子折りを渡した。


「えっ。これ……」


「こんなんじゃ足りないけど、せめてもの感謝の気持ちなんだ。受け取って欲しい」


 健吾は状況を飲み込めないまま菓子折りを受け取った。


「あ、うん。ありがとう」


「それとさ……」


 翔太は再び居住まいをただした。


「今まで、野崎のことを虐めて、ごめんなさい」


 翔太は再び頭を下げた。


「俺、今まで野崎に酷いことしてきたのに、助けに来てくれて、死にかけになりながら戦ってくれたのを見て……本当に感謝してるし、それと同時にいままで本当に野崎に申し訳ないことをしたと思った。バカだよな。俺」


 翔太は言葉を詰まらせながら、健吾のもとを訪れた理由を打ち明けた。


「俺は今までの野崎に対しての行動や態度を許してもらおうなんて、虫のいいことは思っていない。だけど、俺は野崎の気の済むまで、何度でも謝るし、なんでもするし、今後学校で会っても、おまえに迷惑をかけないって誓う」


 健吾は突然の翔太の謝罪に対して、謝られてスッキリすると思っていたが、全くそんなことはなかった。


(僕は忍ヶ丘に謝ってほしかったわけじゃないんだ……たぶん、わかってほしかったんだ……)


 健吾は自分の本心に気づいた。


「なんでもしてくれるのか?」


 健吾が言うと、翔太は、


「ああ、今ここでボコボコにしてくれてもいいし、犬の糞でも食べてやる」と言い切った。


「それじゃ…………僕と友だちになってよ」


 健吾が言うと、


「えっ? 友だち?」


 翔太は予想外の言葉に目を丸くしていた。


「うん。僕には友だちがいなかったから、忍ヶ丘がなってくれたら……」


 健吾は恥ずかしさで、だんだんと声が小さくなってゆく。


 健吾の言葉に翔太は泣き始めた。


(えっ、どうして泣いてるんだ? もしかして僕と友だちになるのは犬の糞を食うより嫌なのか?……でも、今の僕はイケメンだし)


「もちろん、もちろん……」


 翔太は涙と鼻水を手で拭った。


「今日から俺と健吾は友だちだ!」


◇◇◇


 謹慎が明けた健吾は学校へ行く途中、声をかけられた。


「野崎! 元気にしてた?」


 声の方を見ると、乃亜が笑顔で手を振っていた。彼女は健吾のもとへ駆けてきた。


「あっ、うん元気にしてたよ」


 健吾が言うと、乃亜は安心した様子だった。


「そっか。みんな野崎のことを心配してたんだよ」


「えっ、そうなんだ。ごめん」


 健吾は言葉とは裏腹に


「だからさ、こんなことあったとき連絡できた方がいいじゃん。だからインスタフォローしてよ」


「あっ、うん……インスタ?」


「うん。メッセージでやり取りできるでしょ?」


 健吾は慌ててスマホを取り出した。


(まさか、みんなが持ってるから作ったのはいいが、何すればいいか分からず放置していたインスタがこんなところで役に立つなんて……人生は何があるかわからないな)


 健吾は乃亜のアカウントをフォローした。彼女の投稿は自撮りや旅先の風景ばかりだった。


「たくさん投稿してる……僕とは大違いだ」


 健吾が言うと、


「うん。思い出だからね。本当は毎日投稿したいぐらいなんだけど、それだとキリがないから、心に残った瞬間だけ投稿してる」


「城北はその……あの時のケガとか大丈夫だったの?」


「うん。私はなんともなかったよ。誰かさんに突き飛ばされたところがあざになってるだけだけど……ほら見てよ」


 乃亜は、制服の胸元のボタンを外しはじめて、肩を辺りをはだけさそうとした。


「あっ、いやっ……そんなところ見れないよ」


 健吾は慌てて目を逸らしてが言うと、乃亜は笑った。


「冗談だよ。からかってごめん。学校に行こうよ。遅刻しちゃうよ」


 乃亜が歩きはじめたので、健吾は後ろをついていくと、彼女は振り返らずに、話しはじめた。

 

「あのさ、あの時、私を突き飛ばしたじゃん。その時、思ったんだけど……」


 彼女の言葉を健吾は黙って聞いていた。


「やっぱり野崎は優しいよ。前に否定してたけど、やっぱり野崎は優しくて、素敵な人だって思った」


 乃亜は振り返って、微笑んだ。


「ほら、はやく行かないと、遅刻しちゃうよ」


 彼女はそう言って、少し早歩きになった。



 健吾が教室に登校すると、クラスからヒーロー扱いされた。彼は今までの人生の中で主役になったことがなかったので、面映おもはゆく思うのと同時に、承認欲求が満たされた。


 クラスメイトが健吾に対して矢継ぎ早に話しかけてくるが、健吾は全てに応えることができなかったので、苦笑いしながら、自分の席に座った。


 やがて、朝のHRが始まり、担任から重大発表があると言った。


「先日、野崎がバハムートを倒した件について、そのことをダンジョン管理庁がえらく感謝して、感謝状と共にスーパーライセンスが支給されることになった。みんな拍手」


 先生がいうと、ざわめきと共に拍手が起こった。


「スーパーライセンスってのは噂には聞いていたが、実際に見るのは先生も初めてだ。おめでとう!」


 担任に手招きされて、教卓の前に行くと、賞状とカードが渡された。そのカードはプラチナに塗られていた。ライセンスを見せろとの声が多かったので、健吾は供託の前で、カードを見せると、皆が驚嘆していた。


「放課後にダンジョン庁にライセンスカードを持っていって役割ジョブ登録するんだぞ」


 担任が言った。


 健吾は一応喜んでいるフリをしたが、内心、オリジナルの役割がいまいちピンとこなかった。


 ニアは健吾のことを嫉妬と羨望の入り混じった眼差しで見ていたが、一方で、彼は乃亜を睨みつける加島が目についた。


◇◇◇


 健吾は授業中にオリジナルの役割ジョブをノートの隅に落書きしていた。


(弓を持ってるし、狩人系の役割だな……)


 健吾はノートの隅に走り書きをした。


 役割—屠竜者バハムート・スレイヤー


 彼の中で中二病が爆発してしまった。

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