第2層 学校でちやほやされる僕
いきなり魔物扱いされて殺されて、かと思えば蘇らされてイオナの仲間にされた健吾は戸惑っていた。
「……………………」
「……………………」
健吾とイオナは顔を見合わせた。
(なんだこのシチュエーションは?)
「……あの、学校に案内していただけますか?」
「えっ、あっ、はい」
健吾は学校の方へ歩き始めるのを、イオナが後ろからついてきた。彼は沈黙が耐え難かったが、何を話せばいいかわからなかった。
「あの、ちょっと……」
健吾はイオナが話しかけてきたので、助かったと思った。
「あっ、はい?」
「私は健吾さんに謝らなくちゃいけない」
イオナは立ち止まった。彼女は顔を真っ赤にさせて、気恥ずかしそうに体をもじもじさせながら言った。
「健吾さんを斬り倒した時に、その……下着まで切ってしまったみたいで……」
「えっ? 下着?」
イオナは意を決して言った。
「あのっ……下半身がっ!……丸見えなんです!」
健吾は下半身を見ると、完全に露出していた。彼は慌てて露出している部分を隠した。
(あのクソ女神、僕の服まで蘇らせろよ!!)
「ちょっ、ちょっと待ってて!」
健吾は慌てて家に着替えを取りに戻った。彼とすれ違う通行人は彼のことをジロジロ見ていたので、いつ通報されるかヒヤヒヤしていたが、彼らは、健吾の顔しか見ていないので、健吾が半裸と気づいていなかった。
◆
健吾はイオナを学校へ連れて行き、職員室へ送り届けた後、トイレに入った。
「えっ!? これが僕!?」
手を洗おうとした健吾は鏡で自分の姿を見ると、今までの健吾とは別人になっていて驚いた。
スラリと長くなった足、ほどよく筋肉がついた腹と胸、広い肩幅に、長く細くなった首。極めつけはハリウッドスターに負けず劣らずの甘いマスクだ。まるで、テレビに映った芸能人のようだと思った。
(今の僕の姿を見たら、みんなどう思うだろう? っていうか、なんて説明すればいいんだ? 整形したとか?)
健吾はイケメンになってから、不思議と自分に自信が湧いてきた。高校に入学してからずっといじめられていたからだ。だから、トイレを出て、教室へ向かうときは、彼は堂々としていた。周りが見えていなかった。以前の彼は不細工すぎて、すれ違った生徒が二度見するほどだったが、今度は甘いマスクのせいで二度見していた。一人の女生徒は頭に手を当てて、
(イケメンになるって、こういうことなんだ)
扉をガラリと開くと、健吾の姿を見て、教室が静まり返った。クラスメイトの注目を浴びたことがない健吾は顔が真っ赤になった。
「えっ? 転校生?」
「うそ。めっちゃかっこいいじゃん」
女子生徒から歓声が上がり、健吾を近くで見ようとして、取り囲んだ。
「あの、見ない顔ですけど、転校生ですか?」
クラスの一軍女子(いつも僕をいじめてきた加島メイ)が、キラキラした目で健吾に話しかけた。
健吾は好意的に話しかけられたことがないので、
「えっと、野崎だけど……」
しどろもどろになりながら答えた。
「ウソだ! 野崎はもっと暗くて、この世のものとは思えない顔立ちしてたぜ?」
クラスの一軍男子(こいつも僕をいじめる忍ヶ丘翔太)が言った。着崩した制服に、茶髪のいやな髪型をしていた。
「絶対整形だろ!」
翔太の言葉に健吾はビビってしまい、何も言い返せなかったが、
(いや、僕はイケメンなんだ。堂々としよう)
「もう翔太、失礼なこと言わないでよ。野崎が困ってるでしょ?」
加島が翔太を諌めると、彼は健吾を睨みつけた。
「先生にここのクラスって言われたんでしょ? とりあえず、私の隣の席が空いてるからそこに座りなよ」
加島は健吾の席を指差した。
「いや、だから僕は……」
「めっちゃカッコいいですね」「今度お茶しませんか?」
健吾は弁明する前に、クラスの女子たちは矢継ぎ早に話しかけてきた。
「ちょいちょいちょい、野崎、困ってんじゃん」
城北乃亜が女子たちの間に割って入り、彼女らを制した。
「ね? 野崎」
乃亜は、健吾に言った。彼女はいつも加島と一緒にクラスの女子を纏めている、いわゆるクラスの一軍のスタメンだ。加島が健吾を虐めるのを、彼女がその場にいた時はやんわりと止めてくれるので、健吾は乃亜のことを覚えていた。彼女は明るい色に染められたショートカットの髪を耳にかきあげた。
「あっ、うん」
「野崎って、あの野崎だよね?」
「うん、そうだけど……」
「そうなんだ。なんかカッコよくなったね。なんかあったの?」
彼女は好奇心を剥き出しにして訊ねてきた。健吾はどう説明していいかわからなかったので、
「なんていうか、生まれ変わったんだ」と言った。乃亜は混乱した。
「えっ? 生まれ変わった?」
乃亜が話していた途中で、チャイムが鳴った。
「また、あとでお話し聞かせてよ、野崎」
彼女は胸の前で小さく手を振って、自分の席に戻って行った。
健吾は自分の席に着くと、隣の席に座る星田ニアが彼の顔をじっと睨みつけていたので驚いた。
彼女の存在をこの高校で知らぬものは居ない。
ダンジョン攻略界隈で有名なストリーマーで、この高校で唯一のA級攻略ライセンスの所持者である。父はダンジョン庁大臣で、母は元アイドルという血筋もあり、美人に加えて成績もトップで、そして何より、歯に衣きせぬ発言が人気で学校に多数の信者がいる。
そんな彼女が普段は健吾のことを見る素振りすらしないので、彼は緊張して、何も言えずにいたが、ニアはしばらくしてそっぽを向いた。
(嫌われてるのかな……)
◆
朝のHRが始まり、転校生としてイオナが紹介された。健吾といい、美貌の良い人間が2人も登場すると、いよいよクラスは有名アーティストのライブの如く、半狂乱状態になった。
担任が淡々とイオナの紹介を終えて彼女を席に着かせた。
「えー、今日は午後からダンジョン攻略の授業があるから、そのつもりで」
健吾は担任に言われて、カバンの中を探ると、カバンの中に女神から託された弓が鈍く光っていた。
(……これ、勝手に使っていいのかな?)
◇◇◇
今日は初めてのダンジョン攻略の授業であるため、グリーンライセンスを発行するために、ダンジョンの入り口に置いてある水晶玉の前に並ばされていた。それに手をかざすと、魔法のようにステータスが浮かび上がってくるのだ。
「ダンジョンってどれぐらいまで深いんだろうね?」
「第65層まで開拓されたんだって」
並んでいる間、各々、ダンジョンについての噂を友だち同士で話していた。健吾はそれを盗み聞きしていた。
「なんかダンジョンの最終層にある金印を手に入れたら、夢が叶うんだって……」
(そういえば、女神もさっき言ってたな……)
「ねえ、野崎の願い事は何かな?」
突然、後ろに並んでいた乃亜が健吾に話しかけてきたので、
「うわっ、びっくりした」
驚くと、乃亜も驚いて笑っていた。
「ちょっと、そんなに驚かないでよ」
乃亜は健吾の肩を叩いた。
「ああ、ごめん」
「ちなみに私は成績がよくないから、頭が良くなりたい! 野崎は?」
彼女は元気いっぱいに言った。
「僕は……」
健吾は小学校の頃、公園でみんなからボコボコにされていたところを誰かに助けてくれたことがあった。その人はいじめられていた健吾少年の手を引っ張って、公園から一緒に逃げ出した。健吾は殴られて消耗していたので、助けてくれた人が誰なのか覚えていなかったが、いつか、その人を見つけ出して、お礼が言いたいと思っていた。
『大丈夫だよ。私が守ってあげるから』
そのセリフが妙にこびりついている。今思えば、きっと男勝りの女の子だったのだろう。
健吾がその話を言いかけると、突然、周囲がざわついて、彼の声がかき消された。皆が水晶玉に注目していた。先に測定を終えた生徒たちが、
「イオナちゃんすげぇ!」
「まさか、ニア様とタメを張れるステータスだなんて!」
と、騒ぎ立てていた。
「イオナちゃん、なかなか凄そうだね」
乃亜が健吾の前を指して言った。
イオナのステータスがグリーンライセンスに載っていた
—HP240/240 攻撃力 300守備力296魔法力54—
「ほら、次は野崎の番だよ」
彼女は水晶玉を指差した。
(そういえば、僕は女神に強くしてもらったらしいけど、どれぐらい強くなったんだろう?)
健吾が水晶玉に手を伸ばすと、それは澄んだ青から、燃えるような赤に変わり、やがて紫色になって、
パリン。
音を立てて砕けた。
「えっ?」
周りにいた生徒も、ライセンスを発行していた係員も驚いて声が出ず、静寂に包まれた。
(やっちまったか?)
健吾は水晶玉の弁償費用で頭がいっぱいになった。
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