不細工すぎて現代に転生してきた美少女に魔物扱いされた僕、女神さまにイケメンにしてもらい、チート武器を手に入れてダンジョン攻略を始める。

乱狂 麩羅怒(ランクル プラド)

第1層 イケメンに生まれ変わった僕



 ブサイクは生きづらい。


 容姿のせいで下に見られてしまい、いじめの対象になる。


 ブサイクは生きづらい。


 誰も僕のことを助けてくれようとしてくれない。


 ブサイクは生きづらい。


 世間は見た目とか関係ないというが、そんなのは大嘘だ。


 この世の人間全ては見た目で全てが決まる。君も見た目で判断したことがあるはずだ。この僕だって見た目で判断したことがある。それが真理なのだ……だから、もし生まれ変わるような事があったら、イケメンになりたい。


 いや、イケメンだなんて、贅沢は言わない。フツメンに生まれ変わりたい。


◇◇◇


 新学期が始まって一週間が経った。


 野崎健吾は学校を目指して通学路を歩いていた。彼は目立たないように周りの生徒たちと歩幅を合わせていた。


 しかし、健吾は周りから浮いていた。それは顔のせいもあるが、他の生徒の大半はダンジョン攻略のための装備を身につけていたからだ。普通の学校をしている健吾は逆に目立っていた。

 ダンジョンは健吾の通うあすなろ高校の近くにあるために、モンハンをプレイするが如く、ダンジョン攻略が流行っていた。


 不意に、健吾の背中に衝撃を感じた。振り返ると、ふざけ合って、彼にぶつかった女生徒が尻もちをついていた。


「大丈夫?」


 健吾は手を差し伸べた。


「あっ、ありがとうございます」


 女生徒はそう言って、顔をあげるやいなや、健吾の顔を見て青ざめた。彼女は恐怖のあまり、悲鳴をあげて逃げだした。


 御察ごさっしの通り、健吾の顔は女子から悲鳴があがるぐらい不細工なのだ。


 彼はもう何度も経験したことなので、もはや何も思わない。


 ちなみに彼のあだ名は妖怪で、クラスメイトにいじめられて友達が1人もいなかった。


(あー、学校行きたくないな……)


 通学路はまだ桜が残っていて、風に吹かれていた。


 学校への近道を通るために、まがり角を曲がろうとした刹那、トラックがクラクションを鳴らしながら通り過ぎた。


(もし、あのトラックに轢かれていたら、異世界に転生できたのだろうか? なんかチートスキルとかもらって無双できたら、気持ちいいだろうな……)


 健吾はしばらく妄想した後、くだらないと吐き捨てて歩くと、ふと、悲鳴が空から聞こえてきた。

 

 見上げると、空から女の子が落ちてきた。


(いきなりなんだ!?)


 彼女は悲鳴を上げながらも、体勢を整えて、着地した。金色の髪を靡かせて、美しい顔立ちから汗を拭った。その立ち振る舞いは、アニメのワンシーンみたいだ。


 彼女の青い瞳が健吾の顔を見て、悲鳴を上げた。


「メガミ、コノマモノタオツェパ、ワンガネピラウヤ!?」


(どういう日本語!?)


 女子の悲鳴に慣れている健吾も流石に驚いた。


「ありゃ? 年代がそのままだったのじゃ」


 もう一人、声が聞こえてきた。見てみると、美少女の肩に小さい女神が座っていた。彼女は杖をとりだして振った。すると……


「女神さま、この魔物を倒せば、経験値が得られるのですか!?」


 現代の言葉を話し始めた美少女はテンパりながら健吾を指差した。


「ああ、コイツを倒せば経験値がかなりもらえるぞ。しかもコイツは隠しスキルの『死神』を持ってるレアモンスターだ」


 女神は頷いた。


「いや、僕は魔物じゃないですよ!」と否定するが、


「なら倒しましょう!」


 彼女は剣を取り出すと、目つきが鋭くなり、健吾におどりかかった。急展開のあまり、彼は混乱する暇もなく叩き切られた。意識が血と共に飛び散り、走馬灯が流れた。


(我が生涯、不細工すぎて、辛かった……)


 健吾は倒れた。すると、彼の体から魂が抜けて、俯瞰で彼女らを見ることができた。彼女らが時々火が灯った蝋燭に見えた。


(……これが死後の世界?)


「おお~。見事な剣捌きじゃイオナよ。ひょっとすると、コイツを仲間にできるかもしれないから、さっそく試してみよう」


 女神は健吾に復活魔法をかけると、彼は死の淵から舞い戻り、のたうちまわりながらむせ返った。


「はっ! 一体何するんだよ!? 警察に通報するぞ!? っていうか誰か救急車呼んでくれ!!」


「おっ。魔物が仲間になりたそうに話しかけているぞ。仲間にしてやるか?」


 女神は健吾の言葉を無視してイオナに訊いた。


「だから魔物じゃないですよ!!」


「初めて倒したモンスターだから、仲間にしたいけど……見た目がヤバすぎる」


 イオナは健吾の醜態に恐れおののいていた。


「うーむ。確かに。見た目が酷すぎてイオナが可哀想じゃな。やっぱり初めての仲間はカッコイイほうがいいじゃろ」


「本人を目の前に失礼なこと言わないでくださいよ!」


 健吾は言うが、女神は言葉を無視して、杖を振り、彼に魔法をかけた。


 魔法にかけられた健吾を見たイオナは、


「すごい……」


 恍惚とした表情を浮かべていた。


「僕にいったい何をしたんだ!?」


「さて、さっそくステータス値を見てみよう」


 女神は虫眼鏡を取り出して、健吾を観察した。そこに健吾のプロフィールが映っていた。


—野崎健吾 魔物 HP3/5 攻撃力3 守備力2 魔法力2—


「なぬっ!? お主、クソザコじゃないか!?」


「いきなり失礼なこと言わないでくださいよ!」


「このステータスは酷すぎるな。力を覚醒させてやろう」と言って、杖を取り出して振った。すると、健吾の体が光に包まれて、生まれかわった健吾を再び虫眼鏡で覗き込んだ。


「まあ、こんなもんでよいじゃろ」


 女神は満足げに頷いて、健吾に弓矢を手渡した。それはいわゆる普通の弓矢ではなく、豪華な装飾がされていた。


「これは死神連中から借りパクしてる武器じゃ。お前から返しておいてくれ」


「いや、自分で返してくださいよ!?」


 健吾は女神にいうが、女神は無視して、


「魔物よ。いざとなれば、この武器を覚醒させて敵を撃ち殺すのじゃ」


「女神よ、見た目を変えてくれてありがとう」


 イオナは頭を下げた。


 健吾は目まぐるしい展開についていけてなかった。


 ◇◇◇


「あらためまして私はイオナです。よろしく……」


 イオナは剣を納めると、人が変わったように、険しい目つきから、優しい目に変わって、上品な微笑みを浮かべた。健吾は彼女のあまりの変わりように、怖くさえ感じた。健吾は人生で初めて女の子に挨拶されて緊張した。


「あっ、はじめまして、野崎健吾といいます。よろしく」


「私は女神じゃ。よろしくな」


 ニケは両手で健吾の人差し指を掴んだ。


「あっ。どうも……女神?」


「そう、実はな……」


 女神はイオナが空から落ちてきた経緯を話した。


 イオナは元の世界で、王族につかえていたが、反王政派との戦争がはじまり、敵と相討ちになってしまった。

 それを見かねた女神は、最下層に行くと願いが叶うダンジョンのある現代日本に彼女を転生させた。


「ダンジョンってあの古代遺跡のことですか?」


 健吾が訊ねると、女神は頷いた。


「そう。そこの最下層に置いてある金印を手に入れると願いが叶うのじゃ」


 今から3年前、S県で新たな遺跡が発掘されて、調査を進めていたが、発掘作業がなかなか進まず、それをみかねた日本政府が、誰でも遺跡の発掘作業を行えるように、ランク別に分けられたライセンス制度を導入し、武器を支給する等のガイドラインを整備した。さらにはダンジョン管理をしている省庁とあすなろ高校が連携して、授業としてのダンジョン攻略まで行われているのだ。


 それがきっかけで若者たちの間で、SNSや動画サイトに攻略情報を載せて拡散したり、敵を倒す様子を配信するのがブームになった。その中には全くのデマや出鱈目が数多くあり信ぴょう性に欠けるので、かえって肝試し感覚でダンジョンに訪れるにわか探検者を増やした。


 その渦中にダンジョン攻略の第一人者で伝説的な存在がいる。


 彼の名は田村勇次郎といい、一番初めにダンジョンの最下層まで到達し、攻略達成を宣言したとネット上で話題になっていたが、彼は『探せ。この世の全てをそこに置いてきた』と言い残して、行方をくらませた。彼の攻略動画に登場するダンジョンは現在と全く違う構造になっていて、CGを使った自作自演だと炎上騒ぎになったこともあり、真偽のほどは定かではない。


「でも、ダンジョン攻略なんて無理ですよ……」


 健吾が言うと、女神は、


「そんな事言わずに、がんばって、イオナを元の世界にもどしてやるという願いを叶えてやるのじゃ。死神よ。イオナと共にダンジョン攻略をはじめるのじゃ!」と言った。


「だから、死神じゃないですって!」


 健吾は女神に言い返すが、女神は、彼の姿をジロジロみて、何か思いついたように手を叩いた。


「おおっ。見たところ、おまえはそこのあすなろ高校の生徒みたいじゃないか。ワシが魔法の力でイオナをそこの生徒にしてやるから、今から連れて行くのじゃ!」


「ええっ? 僕がですか?」


「じゃあ、ワシはザギンでシースーしなくちゃだから、後は頼んだぞ」


 そう言って、去って行った。


「ザギンでシースーって何!?」

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