⨕27:剣呑ェ…(あるいは、最上へと続く道途/能ありしエレディタ)
瞬間、身体前面、いや全面に感じたのは、何よりも先んじて「冷たさ」だった。年齢と共に不意に感じるようになった悪寒とか、根拠不明の怖気とはまた違った、もっと根源的な冷却感だった、わけで。
硬度充分の割には鋼鉄の半分くらいしか重量の無い優秀で高価な「エスドネ鋼」を惜しみなく使用してガワを固めていた装甲だった。それが一撃で、それも一気に器用にも全部破壊された。いや破壊と言うよりは「斬り裂かれた」、か。どの道、瞬では理解は及ばなかったものの。鈍い衝撃が遅れてやってきて、後方斜め下方向への強烈な引っ張られ感を感じた時には、
「内部骨格構造」へとシフトしていたこのテッカイト弐式であったため、胸部腹部の装甲が脱落したところで稼働にはそれほど支障は無い。俺の搭乗する「頭部コクピット」もキャノピーはぶっとばされちまったが、計器類が鎮座した「本体」の方はぎりぎり前方少しを削り取られただけで、主たる働きは問題無さそうだ。が……
「ハッ、『光力』、光力とやらかッ!! そうこいつだけはいまだ全くもって掴めんッ!! もしかすると『最終』はそこにあるのやも知れんなッ!!」
まぁた、「外面人格」みたいのが
恐怖。言葉にしてしまうとよりそれに支配されちまいそうで癪だが、確かに俺は今のでびびっちまっている。とんでもねえ鋭さ、強靭さだ……何とか敵の視認を、と思って上げた目線の先には、遮るものが取っ払われて直に対面することとなっちまった野郎の、
「……こいつさえ奪ってしまえば無問題ッ!! そうワタシの聡明なる頭脳が叩き出したッ!! いやいやいやいや今まで随分好き勝手やってくれたもんだなッ!! ついでに喰らってやるとするか覚悟しておけッ!!」
これでもかの傲岸高笑いを呈する巨顔があるわけで。今度は赤々とした……赤銅色と言った方がいいか。いや正にの「赤銅」のような金属質。妙に滑らか艶やかな巨体は体高は今までとそれほど変わらんものの、肥大した筋肉の、いや筋肉の繊維が束になったように不気味な「房」が全身を隈なく覆い膨らみ、耳・鼻・踵とかに至るまで
それよりも、
「……」
触って確認するまでも無かったが、胸部の損傷具合を確かめるために滑らせた機体の左指先は、はっきりの「空洞」を改めるだけだった。眼前の野郎がこれ見よがしに掲げてるのは紫色の「榴弾」、それは俺が「発掘」し、これまで滅茶苦茶な稼働にもその蓄えた莫大量の光力を供給し続けてくれていた、虎の子の
「光力」。俺もその全貌を知らねえし知るよしもねえのだが、ここまでの御都合を支えてくれた大事な切り札があっさり失われたということだけは把握している。うぅん窮地……
その間にも例のぷひょぷひょ音は鳴っていて。若僧くんが支援射撃というか
「……!!」
ぼけーと見ている場合でもねえ。いまだ震える顎に
<97.25%>
右側の画面に現れた緑色に発光する数字は残りの光力値。外付け
……「残り寿命」と置き換えられるかも知れねえ。
「!!」
考えても詮無いことを考えているんじゃあ無かった、馬鹿か。
衝撃。舗装道から外れた土面に臀部から突っ込む。またしてもケツから背骨を通って操縦席には翻弄されるしかないほどの縦揺れ。必死に両腕で操縦桿を握りしめ、両爪先を鐙に突っ込み捻じ込んで自分の身体をその場にとどめようと踏ん張るが、五体をバラけさせられるような力を全身で感じさせられている。こんなんしてたら肩とか股とか外れちまいそうだぜ……やろうッ、分かりやすいほどにいたぶってくるじゃねえか……自分が優位に立ったと確信した
と、
すひょひょひょひょひょひょ、というこれまた間の抜けた音が俺の背後で上がる。振り向くと街の上空に「水色」の弧を引いた幾つもの軌道……弾道。後方に詰めていてくれていた「組織」の面々が、この最前線の俺らの状況を見かねて遂に援護射撃を開始したってことか……そいつはありがてえ、のか? ともかく壮年の意識がそちらに向いたことを肌で感じた。俺としてはひとまずの立て直しを、だ。
「いったん、引く、ぞッ!!」
声を出さないと、能動的には動けない気がした。左斜め前で未だ硬直状態の姐ちゃんと、奥面の湖の際で先ほどから遠距離射撃に徹してくれている若僧くんにも言い聞かせるようにして何とかしゃがれにしゃがれながら声を発する。俺は俺で機体をぐると体勢をうつ伏せ、というか四つん這い姿勢に移行させると、無様なはいはいにて野郎から、とりあえず策も無く遠ざかろう遠ざかろうとするほかは出来ないが。
その途上で見上げた上空。水色のは「鉱石粉弾」、だろうか。一旦高々度まで打ち上げられてからは十数発、それぞれが異なる軌道を以ってして、しかして目標は一点と定まっているのか、余裕の腰に手をやりポーズにて俺から奪った「紫色榴弾」をジョッキを呷るかのようにしてその先端部から自分の口腔を通して中の光力を飲み干さんとしていた壮年へと向けて結構な速度にて集束していくが。
「……つまらんと、言ったはずだッ!!」
不必要と思えるほどに張られた声が響く。既に「榴弾」からエネルギーは全て回収したのか、それを無造作に投げ放ってからの動きは、
「……!!」
到底目で追える速度じゃあ無かったわけで。跳躍。したのか? またゴム
破壊衝動。今までは抑えていたのか単に興が乗ってなかったのかは分からんが、とにかく今の今の野郎はそれに乗っかってその上で
考えてみりゃあ、あんだけ大層な啖呵切って呼ばれてもねえのに参上して、挙句にこのザマか。敵さんに大量の光力という
……考えてみりゃあ、今までの人生での諸々と、そんな変わりは無かったか。ここ最近の諸々に、ヒーロー気分を履き違えて身の丈に合わねえ
「おっとぉ~、君はそれでも面白いッ!! 面白いと思うんだなぁ~その脳の使い方ひとつでッ!! だからワタシが喰らって『活用』してあげようじゃあないかッ!! いいぞこの身体は……進化の最先端にいるという全能感に包まれた感覚を……キミにも分けてあげよう……ッ!!」
そんな些末存在をも、見逃してはくれねえようだ。ていうか過大評価し過ぎだろうがよぉ……第三壮年の姿、「金属筋肉球」の赤銅色が視界の隅で動いたかと思った時には、もう俺の背後、湖を背にするところまで跳躍し終えていて。四つん這いで振り向いたテッカイトの肩越しに、ぼよんぼよんとこちらに見せつけるようにして跳ね飛んでいる図があったわけで。ひと飛びひと飛びごとに、その丸めた身体の回転速を高めていっているようだ。おそらくてめえの「最大級」を計りながら、「試し」も兼ねて俺へのとどめとしようとしているんだろうぜ。効率の良さを無駄に考えるっつうのもあるあるだよなぁ……
喰われる。姐ちゃんの父ちゃんや、あと他にどれくらい多種多様の壮年を喰っているかは分からねえが(壮年に限らないかも知れないが)、俺もそんな不気味な謎生命体の仲間入りをしちまうってわけか……終わり方だけ、非凡ではあったか。
そんな諦観が、こんなにもあっさり呑み込めちまうのかというくらいすんなりと。俺の脳をつらりと流れるように支配していこうとした、その、
刹那、だった……
「……んん~?」
金属筋肉球が自らによるものでは無さそうな、そんな震動をした、ように見えた。その後ろっかわに見えたのは。
<……
声の無駄な張り方ではまったくひけを取らないところの、若僧くんことフーリ主任操るところの、「
「……ッ!!」
おそらくは自分も無傷では済まねえ正にの捨て身の攻撃。俺なんかとはまるで覚悟が違った。
呆けている場合じゃなかった。ビビッてる場合じゃなかった。
俺は俺だろうが。
――俺の中心にいる、俺だろうが。
光力全開。四つん這い体勢から
俺は最大限の膂力を愛機に促し、大股で右脚を振り出すようにして地面を突くと、そのままの勢いで右方向へと球をうっちゃっていく。その先には、未だ固まったままの姐ちゃん機がぽつり立ったまんまだったが。
「ナディルカぁッ!! いい加減、目ぇ覚ましやがれってのッ!! やれぇぁッ!!」
俺は叫ぶ。信じてくれる仲間を、信じるんだ。
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