⨕26:拘泥ェ…(あるいは、波かさなるッセェロ/不安ゴッソ/天+海+地)
鼻から入る、空気が熱い。
焦燥。この最終局面に至るまでに何度も何度も危惧していた。粘着度高い「やはりそうなのか感」は思考の襞みてえなところを何度拭ってもそこにこびりつくかのようにして脳内にずーと在ったものの。
「……」
いざ鼻先に呈されると、対応は困難であることを突き付けられる。なので動く。ひとりひとりを助け補い合うがチームでしょうよぅ……という、いつか鉱場を襲った十何年に一度とかの
仕事で、業務で。もちろん馬鹿言いながら一緒にやって来た仲間らはいる。現場作業も各々が担当の作業をこなしながら、大枠の流れの中ではひとつのチーム内での共同作業ではある。だが今のようにここまで。お互いのお互いを助け合う、補い合う、っていうような感情に支配されるってなことは無かったはずだ。
窮地ではある。姐ちゃんがこんな局面に落とし込まれて、充分に思考・行動が出来るとも思えねえ。どころか最悪マイナスの方へ足を引っ張られちまうってことも十二分に有り得る事態とも思える。だが補う。そいつはいま俺らが補うぜ……だから納得するまで、その目の前の怪物が虚言作り出し野郎であるということの確証を得て、早々に戦線に復帰してくれよぅ……
「おぁあいッ!! 打撃戦は
それも込みで、だ。それ込みで「仲間」ってやつでしょうよぅ……と、これは劇中では言ってなかったかなと思ったが、何故かそんな感じで俺の脳に宿った薹立ち女教師が高らかにそんな言葉を紡ぎ出すと、俺の脳から下部の身体に熱を巡らす。
それに
もうひとつ謎は残る。なぜ目の前の姐ちゃんを「娘」と認識できたかだ。これまたいやな予感想定だが、またまた「光力」絡みかと思われるぜ……先ほど姐ちゃん渾身の光力踵落としを喰らった、その際に送り込まれた光力の何だ、波長だとか何だかを読み取って、てめえの記憶内からそれとの関連性を引っ張り出してその上で「人間関係性」を演出してみた……? 万能すぎんだろ。そんなことされたらまぁ硬直しちまうよなぁ……
ぷひょぷひょ、とまたも間抜けな発射音。考えすぎで固まっちまってた俺を咎めるように、鼓舞するように。視界右奥から中空突っ切り放物線を描いて飛んでくるのは言うまでもねえ、若僧くん発の
「ああああああああああッ!!」
気合い一発、腹から声を駆け昇らすようにして覚悟も決める。何も考えず、とりあえず右脚を駆動させて野郎に向けての第一歩目を踏み出してみた。稼働が機体の全身に伝わり、その震動が
直球弾の、壮年への着弾を待つ。案の定、軽くそれはさっきと同様に、ノールックで伸ばされた左手に遮られてそこで起爆し、おそらく大したダメージも与えられないまま終わる。そこは若僧くんも想定内だろう。こいつは第二ラウンド開始の
「……」
右手を腰の後ろに回す。そしてそこに確かにある事を念のため、本当に念のために触って確認しておく。大事な仕事道具「
相変わらず余裕の姿勢で佇みつつ、固まったままの姐ちゃん機と向かい合ったままだった
「……!!」
もちろん俺も「囮」に徹するってわけでもねえ。もっとぬるりと流動的に。補い助け合い、チームとして、最終の一撃へと向けて。
瞬間、テッカイトの地面を突いた右脚の足首が「桃色」に
野郎の足元へ。機体の頭っから突っ込んでいく。瞬速の
厚みのある平面、というような何度凝視してもよく分からねえ見た目の身体、その左脚らへんにテッカイトの両腕を伸ばし、掴みかかろうとする。が、
「ははっ、面白い動きだが所詮それは『想定できる範囲』での動作なんだよなぁ……それじゃあつまらない。それじゃあ私の血肉とたりえない」
!? ……漫画のページをめくるように。いや違う。「パラパラ漫画」を見せられているかのように。薄い「一枚いちまい」が高速で後方へとパラパラと連続で散っていき。奥面の方へと壮年は「移動」をカマしていたのであった。最善と思われ組付はそれによりあえなく躱される。が、何だこの動き、いや、この生命体わぁぁ……ッ!!
思わず呆気にとられちまったが、ひらひら舞い散る白黒の「ページ」の何枚かは次の瞬間、共有の意思を持っているかのように、突如指向性をもってして飛来すると、
「万能」には「御都合」。御都合ィックパゥワー、全・開ッ!!
腹に呑み込んだ「光力タンク」に急速稼働を促すように、両の拳にてガガンとドラミング的な撃を撃ち込む。瞬間、性急に発射される機体各所からの「光力」は何故かこう急に出すと粘りのありそうな白濁色を呈するのだがそこは気にせずに、瞬で全身に貼り付いていた「ページ」を内側から全部吹っ飛ばす。
これも「想定通り」か? まあそう言う分だけなら何だって可能だよなあ……俺はクリアになった視界で空を見上げるように首を起こすと、俺と壮年のすぐ頭上まで迫ってきていた若僧くんの「飛球弾」に焦点を合わせる。着弾想定二秒前。
「らあッ!!」
の前には既に膝を軽く曲げ落としてからの
「!!」
刈り込むように下へ、手前へ。軌道も速度も中途で変えた、渾身の
起爆。テッカイトの左手も巻き込まれてしまうのは織り込み済みだ。そうまで捨て身でやって初めて開ける道ってもんがあるでしょうよぅ……
――昂燃メモその29:説明しようッ!! 今とは「違う自分」になりたいというような逃避同然の妄想も勿論ことあるごとに夢想するのは多々あるが、それに本当に引っ張られてしまうということもままあるのであるッ!!――
「……」
どうにもさっきから薹の女教師に人格を乗っ取られているかのような振る舞いを見せる俺の脳だが、何だろう、よく分からねえ「波」に揺られ委ねそしてその勢いのまま、行き当たりばったりだが、決してやけくそでは無い「強い」流れの中にいるような、そんな全能感、心地よさを感じている。
ぴしりと、「桃色爆発」に包まれた野郎の頭頂部が確かに割れてまた妙に柔らかな手ごたえが、ぐずぐずになった機体の掌を通して、俺が握る操縦盤のレバーにも伝導してきたように感じられた。
「想定」「想定」言ってたが、の割りにはたったの一個か二個くらいの「ひねり」「裏かき」にあっさり対応できなかったようだなぁぁ……
とは言え。
こいつらの「擬死」は毎度毎度のことだからもう俺は騙されねえし気も抜かねえ。このくらいでとどめを刺せたなんざ思ってもいねえよ。今のはただ、お前さんのツラというか外観全部をとりあえずブチ壊したかっただけだからよぅ……
姐ちゃんの、親父さんの外観。上っ面だけに過ぎねえだろうが、それでも絶大な「抗えない力」を持って存在していたその見た目をよぅ……
左後方に視界をやる。薄緑色の機体はまだ先ほど壮年の身体から滑り降りたその場所に留まったまんまだ。今の連携攻撃でガワはぶっ飛ばせたんだが、やっぱ一回呈された「父親が生きている」、いや「父親の何かが遺っている」っつう可能性は拭えねえか。であれば。
「……」
またダメージを喰らってだんまりになっちまった
なら今度はこのタイミングで決める。静観じゃあなく畳み込みだ。俺は後ろ手に回した右手で腰に吊るした
「銃床」に当たる部分を右胸に突き固定する。至近距離、にはまだ素立ちで固まる彫像のような「平面体」が在る。金属だ筋肉だ言ってたが、こいつらの本質は「鉱石」の何かだ。そこは揺るがせられない、何かがあるんだろう。そこから逸脱できてない、そこは何故だか残したまま荒唐無稽な「進化」を表面でやっているように俺には見えるぜ。そこは譲れないんだろうなあ……生物としての本能か? 抗えないよな分かるぜぇぇ……
相手が石とか岩とかならよぅ……いつもずっとそこに寄り添ってきたんだぜ。長年に渡りずっと培ってきた、
……この俺の掘削技術を、今こそ見せてやるぜぇあッ!!
気合い一発、野郎の胸元辺りに掘削機の回転を始めた先端を当てがった、その、
刹那、だった……
「……ッ!!」
突然に過ぎる衝撃が、俺の目の前の
思わず操縦席で身をこごめた俺の爪先をはするかのように、
「!!」
何かの「巨大な爪」のようなものが、テッカイトの胸から腹にかけての一切合財を、
「……」
もぎ取っていたわけで。
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