⨕22:人外ェ…(あるいは、スクォーラ/情緒譲渡/インスタ微利ッター)
白目を剥いて意識を遥か高みまで飛ばしている場合じゃあ無かった。
「……このまま本丸まで押していって、『大物』を仕留める。作戦てほどじゃねぇーけど、それでそこまで間違っちゃあいねえはずだ。『光力』も即座に尽きるってくらいにカツカツでも無いが、かと言って無尽蔵ってことも無え。こっからは迅速にコトを進めるぜぇ」
ぱりと正気に戻って来た俺は、諸々を仕切り直したい気分が多々あってあってあり過ぎたため、敢えての現状振り返り説明台詞を長々と繰り出す間に間に、眼前で明らかに何か漲ってきていた若僧くん機の
目標地と思しき北方の「湖」までほぼ直進にて直結しているこの国道何号線だかの、俺ら中心とした半径三十mほどの視界は、今や例の「黒もや」も晴れてクリアになっている。おっいぇ~、十kmほどでぶち当たる算段でございますでありんすねぇ~という、何故か艶やかな感じになった声色の若僧くんが、それでも思考は落ち着いた感じで、今欲しかった情報をつらりと差し出してくれていた。と同時に、俺の背後からはいくつかの車輪が奏でる走行音がけたたましく近づいてきてから停止する。
<
パシュと今度は右手側に
<早く>
葛藤というにはおこがましいほどの脳内弁論を展開させようとした
<……>
足場上、横並びに整列しているのは、向かって左手側に薄緑色の細身機体の姐ちゃん機―何かまだ「怒り」みたいな感情を表現したかのような素立ち腕組み姿勢にてじっと前方だけを直視しているかのような佇まいで何か怖ろしいが……そして右手には巨大な脚部を屈曲させ、その上に乗った、おそらく急造で改修されたのだろう、文字通り飾りのような申し訳程度の華奢な上半身と、以前はその内部骨格を模型のように露わにしていたが今日はそこはちゃんと補修されて鈍い輝きを放つ赤銅色の
ともあれ、時折路上に放置されたままのクルマやらを器用に左右に車体を振って躱しつつ駆搬車は走行を続ける。周囲を覆うようだった黒もやは光力による捕捉・霧散化が奏功したのか、各所に散ったあの
違和感。あんだけ無尽蔵に湧かせていた黒もやだ、光力の威力が絶大だったとは言え、そんな簡単に全部消し去ることが出来るか? 何かを察知した「大元」の奴が、黒もや現出をもう止めているんじゃあねえか? やはり、意思だの知性だのを持った輩が奥に鎮座ましましてんだろうなぁ……厄介、そういうのがいちばん厄介だぜ……とは言え、地区内の「異常事態」は外面上は収まっているかのように映るわけで、パニックとかは防げそうだ。俺らはその「大元」「大物」野郎をガンぶちのめすことだけに集中すりゃあいいってことで、そいつは幸甚とも言える。今の俺なら、そして両脇のこいつらと一緒になら、それはいともたやすく行える類いの事とも、根拠は無えが確信している。
息を吸い込む。あれほどいつも全身を苛んでいた「痛重さ」は今は微塵も感じてねえ。
視界はぐんぐんと、目的地であるところの「湖」まで、そこにフォーカスしてズームインしているかのようにそれはスムースに、拡大されていく。今のところ、異状は無い……異状と感知できるかは別問題として。ぶわと両脇に流れる景色の内容が、人工物である建物の並んだ密さがほどけるようにしてまばらになり、木々や岩肌が代わりに占拠するようになって来た。道幅も細く、片側一車線にまで幅員は減り、よって駆搬車はやや斜めに
いよいよかと、そんな予感が脊椎の後ろ辺りを貫く。ふと左側を見やると、表情の無い姐ちゃん機の頭部前部顔面部もこちらにやや向けられていて、何か言いたそうな感じだったが敢えて言葉を呑み込んでいるかのような、つるりとしているものの、そんな「顔つき」に何故か見て取れた。が、敢えてこの場で改めて話すことは無い気がしている。俺の中の最悪想定は、「大物」が「姐ちゃんの父ちゃん」であるということ。無論、「人間そのまま」では無いとも考えているが。あの例の「黒い輩」に、身体だか意識だか何だかを乗っ取られてしまっているような状態……それでも外面だけは「人間だった時のそれ」を模しているというか踏襲しているというか。ありがちかも知れねえが、それゆえ可能性は高いと見ている。見た目八割、みてえな事は、それが真実で無いことをいくら差っ引こうとも、なかなかに揺るがせられない事であろうから。だが、それでも躊躇せず「対象」と見られるか、ってことだ。「殲滅」の。が、が、
いま敢えて釘を刺すことでもねえ。大丈夫、姐ちゃんにしても、それは百も……といった感じだろう。十六年前失踪した父親が、例え生きていようが死んでいようが、まったく連絡とか情報とかが無かったんだ、その時点でろくでも無え結果が待っていることは嫌でも分かっているはずだ。その類いの最悪事象を突き付けられてもひるむこたぁねえ。その事実を確認し、納得、そしてそれに決着……始末をつけに来ただけのこったろ? そいつに、その単純作業を、微力ながら手伝うぜ、付き合うぜ。それでもって全部がせいせいさっぱりしたところで、三人で旨い酒でも飲みに行こうや。
潮風とか、そこまでの海辺感は無かったものの、湖際にもやはりの「水感」というものはあるわけで、そんな感覚を受け取ると同時に、なだらかな登り坂を上がりきった地平から湛えられた「水」の面が目の前にせり上がって来ていた。地図上ではそのくらいの大きさと想定は出来ていたものの、実際に面と向かってみるとそのでかさは思ってた以上だ。海すらあまり直に感じたものは無いものの、視界を突っ切る水平線はどこまでも続いているようで。壮大、そんな陳腐な表現がかちり嵌まるほどの壮大な風景に一瞬呆けて口半開きで見入ってしまうものの、見逃してしまいそうなほどにほんのわずかな違和感が俺の視界に点を穿つかのように突き入ってきたわけで。
<……ッ!!>
人影。彼我距離はまだ約五十mほどはある。視界のほんの少しを占める
<一応、ですが、父親ではありません。記憶でしかないですが、面影も無し。いえ、例えそうだったとしても『目標』として応対します>
自分に言い聞かせている意味合いが強いんだろう、左側の画面からそのような押し殺した音声が。そしてどこかほっとしたような声色にも感じられた。良かった。判断軸は分からねえし、姐ちゃんの言う通り記憶頼りの曖昧なものなのかも知れねえが、「違う」と直感で判断したのなら。してくれたのなら、その流れで突っ切れる。まあ例え父親ムーヴをカマされて来ようが構わず俺はこの
「……」
雑で適当な
ああーっと身体全体が滑ったぁぁああ、と本当に間抜けた声を出しながら、しかし視点は冷静に
「おっとぉ、なかなかに肝の据わった御方がいるんだねぇ……いやはや」
いかつい後ろ姿に着弾する前に何かに当たって拳は弾かれた。いや、ぬめっと滑ってあらぬ方向にいなされたと言うか。その一事でもうこの壮年が人ならざる者あるいはとんでもなく怪しい技術を持った輩という判断は成った。が、遠慮なしにぶん殴ることの出来る
「無機質の
よく響くバリトンだが、拡声器無しにこちらまで指向性を持った音波を飛ばせる時点でさらに只者じゃあねえポイント1獲得だぁ。とか、その声主から一歩二歩と後ずさり間合いを取りながら何とか落ち着こうと呼吸を深める。何事も無さそうに振り返ったそのよく日に焼けて褐色のエラ張り出し顔は、やはりその世代に特有の、余裕さと尊大さと傲岸さを兼ね備えているような、プラスいけすかないオールバックに整えられた口髭顎髭をも蓄えた、これでもかの壮年ヅラであったわけで。
こいつは人間か? それとも黒い輩と同じく未確認生命体か? まあどちらでもそう変わりはナイのカも知れナい……
ソウネン
――昂燃メモその25:泡沫ナル 無思慮ナ輩ドモヨ 今コソ
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