⨕21:幻妖ェ…(あるいは、おりやんせ/ボル鉄ボル使途/男木ヴォルタ)
衝撃が、まず己の顎に来て、それから両眼球を通って、蒼い火花となって操縦席前方の
<……何をシテイルのデスカ?>
と次の刹那、抑揚が無さ過ぎて機械が喋っているのかと思いまごうほどの
「……ち、違うんだッ!! 僕たちは、僕たちはただ、光力の循環を滞りなく授受するためのッ、『すべから健全!僕の私の!テッカイト健康体操第一』を粛々と行っていた、ただのそれだけのことなんだよァゴヒィィィィンッ!!」
変な声が出た。と同時に舌を思い切り噛みちぎるところだった。再度の頭上からの垂直に貫かんばかりの衝撃は、我が愛機の方が
<そそそそ、そうッ!! そうなんですアランチⅠ督、
とんでもない不穏さを即座に感じ取ったのか、割と分かってくれた銀髪少女と、プラス同型機体に搭乗していた赤髪と緑髪のこれまた年端もいってなさそうな少女らが先ほどまでの反抗的な態度とは真逆に俺のことを擁護してくれようと、パシュパシュと開いていく画面の中でそんな幾分湿ついた言葉を発してくれるが。
<……
そしておもねりの追従笑みと揉み手でこの場を切り抜けようと中腰で振り返った俺の顔面全土に突き刺すようにして放たれてきたのは、液体窒素から出したての
<アビルシⅡ騎は北北東―大聖堂の大伽藍の上から、シィガレーⅡ騎は北西地区龍門の門壁上、フェディレアⅢ騎はこの場にて、『圧縮光力』を射出し続け、『
見たことも無いような妖艶かつ凄絶な、それでいてヒトらしさの欠片も無い笑顔なのかただ顔筋が攣っているだけなのか分からないほどのこの世のものとは思えぬ凄惨表情にて、そんな不気味に穏やかな指示を軽やかに飛ばしてくるのが本当に怖ろしいのだが。俺の他三名は機体の姿勢をこれほどまでかと思うほどに直立不動の態勢に即座に直らせると、ハィィィイイイイイッ!! との一糸乱れぬ腹からのとても良い返答をしたかしないかのうちには速やかに己の持ち場へと、そんな俊敏な動作出来たんたへぇぇ……と脱力感心させられるほどの脱兎の如きの移動をかましていたのだが。
「……」<……>
後に残されたのは、これまでのそこそこ長引いている我が人生を顧みてもこうまで静謐な修羅場があっただろうかと思わせんばかりの、光をも呑み込まんばかりの冷たい重力場だったわけで。
<……何をシに来たンでス……?>
辺りの喧噪が再び鼓膜に振動するようになったと思った瞬間を狙ってなのか、そんな抑揚は未だ無いが、こちらに向けて何かを掬い取ろうとするような音声が吐き出されてきた。操縦席横の画面を恐る恐る見やると、例の口にくわえる球みたいな
答えなければいけねえ。俺はここに何をしに来た? だが考えがまとまらねえよ……
「俺は、何か……出来ることがあんじゃねえかって、思って」
<今さらッ!! 今さら正義の味方気取りでですかッ!? それで? それで『ああ助かった』とか、『ありがたい』とか思われたかったッ? ふざけるのも……ッ!!>
鋭い声。食い気味の。意外だった。が、今になって。こんな状況まで落とし込まれて初めて。初めてコイツの本気の感情を受け止めたような気がした。
「いや……何て言ったら、だが、ずっともやもやしたもんが、肚の底辺りにあって」
<はあ。で? 自分の……何かを満たしたかったと。で? で? それは充足できました? 『光力』……そんなものまで持ち出して。それで後方支援は為ったと。で、満足、そうですよね?>
今まで上司とか同僚とかに、どんな罵詈雑言を吐かれてもてんで堪えることなんざ無かったが、今、目の前の機体から、その鋼の身体を共鳴させるようにして響き紡ぎ出されてくる音波、言葉は。俺の精神の痛点だけを精密に刺し貫いてくるようだった。
「ここに来るまでも、いろいろ考えてた。いや、自然と脳内でぐるぐる回っていた、っていうか。ともかく俺のあの対応は間違ってた。だからその……」
だめだ。言葉がうまく出てこねえ。呻きが、言葉にならない音が、てめえの喉元から鳴るのを吹き消すように、あからさまな鼻からの溜息を突かれた後、
<……土下座でもして、なし崩し的に場を収めようとか、通じませんから。勝手にやっててください。私はもう現場に戻らなくてはなので>
あ、ダメなのね……
いつだって事なかれ主義で、周りの努力する奴らを横目で笑い、たまたま適性がまあまああった自分にとって楽な仕事を無気力に適当にやるしかしなかった、してこなかった。相手に合わせる振りをして自分をごまかし、いつも自分というものを曖昧にすることで現実を直視することを全力で避けてきた。いつだって周囲、いつだって自分以外。その延長線上に、いやそのもやもやとした曖昧な範囲上に自分を他人事のようにぽんとほっぽって、自分は一歩下がった、高みから見下ろしているかのような偽りの全能感に酩酊させながら、ただただてめえの人生をも傍観するだけの青春だった。人生だった。
それはもうやめよう。
「今さら」。いや正に「今さら」なんだが。それでも今からでも。俺は俺を俺の人生のド真ん中に置いて。
……俺以外のものと向き合わなきゃあならねえ。そのはずだ。いや「俺」がもうそう決めた。から、俺はもうそれで行く。行くぜ。
<……!!>
くるり機体を翻し、最前線のどこかに戻ろうとした薄緑色の細身ボディのその前に、その眼前に。
「俺も、戦わせてくれ。あの、野郎どもと」
この上なく
<……不要です。光力のことについては感謝しますが、ここから先は我々だけで充分。むしろ訓練を受けていない貴方が加わることの方が危険、まであります。武装も無いのでしょう? まだ得体の知れない『大物』との決戦場に連れていくことは私からも許可できません>
もっともな言葉が流れ出てくるが、そんな御題目は分かっちゃいるんだ。だがその上で、自らの意思を、意志を。
……通していかなくちゃあ、自分の人生じゃあねえ。
息を吸い込む。そして、吐き出す。自分の今の全てを乗せた言葉と共に。おおおおぉ……
「……お前をッ!! お前をひとりで危険な目に合わせたくねえんだッ!! だからッ!! 俺をそばに置いて一緒に
あれ、途中から脱輪したかも……慣れてねえからかな。いや、それでもそれはこれは自分の意志だ。意志からの……言葉だ。と、
ふぇぇ……のような拡声音が
<い、一応、りょ、分かりましたけど……べ、別に貴方に護られようなんて思ってないんですからねッ!! ただの『
あっるぇ~、貫けた……んだろうか。んんまあ一応了承は取れたよう……だが……
左側、各自、別個な方向に散ってたはずの銀・赤・緑の三色が画面にまた三つ揃いで並ぶと、えぇチョロぉ……のような言葉をハモりながらまた同じような空虚な表情にて吐き出すばかりであったのだが。またもそこから垂れ流されるのは冷却された空気のようなもの……大丈夫かな、俺、というかその他諸々全部ェ……
だがまあ逡巡している暇はねえ、行くんだッ!!
「ではこれより『光力タンク』であるところの此方機の『絶・超威力鋼竿棒』を……」
<あ、私は光力大丈夫なので、それはあちらの方に……>
だが手始めにずいと機体腰部を突き出して補給を試みようとするもそれはあっさり躱され、突き出したままだった左腕をあっさりと極められると、くるり身体を返して背後より前方へと有無を言わせず、とっととっと歩かされていくのだが。
刹那、だった……
<
いつの間に接近を許していたのだろう……十五mほど先、いつの間にか後ろ向いて両脚をぴんと伸びきらかせ腰部を高らかに突き掲げ上げた姿勢にて建屋のひとつに掴み縋るようにして鎮座していた見覚えのある二足機体より、地声以上に金切る拡声爆音が、俺の恐怖を司る器官的なものを全力で体重をかけてブっちぎろうとしてくるェ……
「無理無理無理ッ無理だろーがッ!! その型の奴に搭載されてるなんて聞いたこともねえッ!!」<万事無問題……計算したところによると、むしろこちらの方が玄人好みとの見立てもあるという……>「無根拠計算にて弾き出される完全狂気ッ!! ぶっ壊れんぞマジでぇッ!!」<ハハッ、大丈夫、そんなヤワな機構にあらずッ!! いっちょガツンと来んかぁぁぁあああいッ!!>
後ろからとんでもない膂力に因りて寄り切られようとしつつある俺は、結構な勢いに抗えないまま、腰のモノを抜き放ったまま、徐々に迫る若僧くん機の背後へと、折り重なるようにして
しまうのだが。
――煩用四足獣型合体兵機:ヘイスタ×テッカイトⅡ=フーリ
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