⨕14:空虚ェ…(あるいは、惨憺/賛嘆/フシィレのどけき六sin合体ィィズ)


 見得を切る余裕までは無かった。だが、それでも大地に立つ。機械の脚、機械の身体で。申し訳程度に巻き立つ砂煙。だいぶ控えめな演出エフェクツであったものの、二体の機体の空中合体は完了……というか、けん玉技ふりけんのような挙動にて、収まるところに収まったというか、収めてはいけないところに収めてしまったというか、それは分からなかったものの、まあともかくこれで。


「……」


 こっちの、この両腕はフリーで扱えるってこった。反面、飛び道具は使い切り失ってしまったが。うぅん、先の昆虫野郎に撃ち込んでいた「杭」を回収して再利用とか出来ねえかな、などと考えてみるものの、相対する奴からこちらへの意識・注意・あるいは敵意とかは一瞬たりとも切れなさそうだ。瞬でかぶりついてくるだろうは必至……こちらも野郎の挙動から意識を離すな。周囲環境は未だぼんやりとした昼下がりののどかな現場風景であるものの、とんでもない混沌の後に来た静寂は、先ほどまでの上振れが寄せてぶり返してきたかのように、あまりに静か過ぎて逆に耳奥がキンと鳴っているかのようであって。自分の鼻が微妙にピーピー鳴っているのがやけに間抜けで気障りだ。いや、集中しろ。


「……」


 顔面中心に力を込めて鼻の通りを何とか正常に戻すと共に己の呼吸も整えつつ、機体をゆるゆると、肩、腕、肘、そして指先。腰、脚、膝、そして爪先まで。相手がどう仕掛けてくるかを想定しつつその体勢を調整していく。視線をやや上に上げると、先ほどの破瓜の大音声瞬間からもずーと、岩盤斜面の中途に屹立した我らが「合体機」と目を合わせる高度にて、鳥野郎は動ぜずにわざとらしいほどに静かに降下してきてはそこらの中空にて羽ばたき停止していやがる。何だこいつは。今までのやつらとは何かが違うような気がする。落ち着いてんだよなぁ……目の色変える「鉱石粉」がほどよくまぶされてんだろうこの機体を前にしても、前の軟体野郎や今さっきの昆虫野郎のような性急さは全然見せて来ていねえ。不気味。静かなる。そして、


 個体差……っていう言葉では括れないほどにバラエティに富んだ外面を持つこいつらだが、じゃあ一体どんなカテゴリで括ればいいかもあやふやになりつつある。黒い。ぐらいかなもう共通点は……


 いや、「鉱石レアストゥラを好み、鉱石に弱い」ってとこだけは共通のままであって欲しいが。そこしかつけ入る隙は無いと見えるので。とは言えさっきから見せつけてきている挙動から鑑みると、鳥野郎コイツの速度はまた俺なんかの知覚じゃまともに追えない速さであって。両手が使えるようになったこの合体機と言えども、まあまともに相対しては何ひとつままならないと思われるわけで。


 こいつの体内に鉱石粉を撃ち込み沈黙へと持ち込む、その算段は未だくっきりはっきりは立っていないものの……


<『掘腕機ディガー』二機、間もなくそちらに現着します。しかしこれをどうやって……っ>


 いや、相変わらず頼れる面々が後方についていてくれるってのは、やはり心強いわ。そして先ほどのひと言で諸々察してのこの手際よ。アランチ殿、そして心許ないだろう鈍足小型重機にてこの場に迷わず急行してくれている勇敢な二名がとこがいるそうだぜ有難し。そうだぜ最前線に出張る俺の腰が引けててどうする。後先の事は考えるな、腰いわせちまってもいいぐらいに、超絶稼働ストンピヒィングしてやるぁぁッ!!


 と、背後から軋む走行音。左右ふたつ。大小問わず無限軌道キャタピラの奏でる音であれば、何十年となく聴いてきたから間違えるはずもねえ。そして「これをどうやって」? そいつぁ無論勿論……


「若僧くん、五時方向に三歩下がりつつそこでしっかと踏ん張っといてくれや」


 と同時に足元の相棒にそんな指示を飛ばしつつ、俺も機体を心持ち猫背にさせ両腕の動力ちからを抜いてその瞬間を待つ。<了解>の通信が入るとほぼ同時に身体に感じられた後ろ向きへの慣性を確認しながら、音声を周囲へ発する「拡声」モードに切り替える。一歩、二歩。背後そちらの方は見ないまま、後方から迫りつつあるだろう御二方に向けて、いちかばちかの、指示を、放つ。


<ショベルの操縦者ぁッ!! そのまま飛び降りてくれやぁッ!!>


 果たして。瞬の後、


「……ッ!!」


 此方の機体は、やや腰と重心を落としつつ指示通りに三歩目でかっちりその場に停止してくれた。身体に感じる急制動をいなしつつ、コクピット天地を貫く「平角ひらヅノ」二本の隙間から前に首を突き出し、左右に視線を飛ばす。両脇真横。操縦者あるじを失ってもなお、なだらかな斜面を細かい土砂と共に滑り進んでくるは、二台の小型ショベル。指示通りに操縦者ふたりは既に離脱を終えていてくれたようだ。向かってくる無人機ふたつ、その間に挟まる自機の計三点が直線になった。瞬間、俺は腹からの、


「武装ぉぉうッ!! THEバケッツぅぅあッ!!」


 咆哮を野郎へ向けて。こういう時は何だって気合いだ。そして当然、技を放つ時には技名を、だぜ。指さし声だし万事ヨォァァァシッ!!


――昂燃メモその17:説明しようッ!! とは言え割と惰性でそれらを行っていることが常態であるがゆえ、あまり意味は為さないと思われるものの、何事も無ければそれでヨシ!の体なのであるッ!!――


 機体の両腕を、脇のショベルのアーム部外側をはするように一旦伸ばして通過させ、そこから肘を曲げてアームの中ほどをしっかり挟み込む。そのまま引っこ抜くように車体を持ち上げてやや強引にアーム基部を今度は機体の両脇にしっかりと抱え込む。背後に回るショベル本体部がかなり重心を後ろ側に寄らせるものの、そこは若僧くんの足さばきに任せるとするぜ。俺は「装着」の方に留意しろぉぉいッ!!


 機体の三本指および掌を最小限に折り畳み、アーム先端にぶら下がるバケットの保持へ向かわせる。アームの主骨と気筒シリンダの隙間を若干の引っかかりを覚えながらも突破させれば、これ以降は固定されてそうは外れる心配も無くぶん回せるだろうぜ。三本指をすかさず今度はがばと全展開させて、バケット内壁を絶妙な三点で支えがちり固定する。これで即席の、鉱石粉がまぶされた「ナッコォ」の出来上がりだぜぇぁッ!!


 オレンジ色が目に眩しいバケットに包まれた拳(掌底と言った方が正しいかもだが)の挙動を確かめるようにフンフンと軽くジャブを入れてみる。光圧動機には俺からエセベロを介して光力を流し込めば滑らかに収縮可能で、さらに威力も足して拳は撃ち込める。ただその機構には操縦者てめえの生命力を吸われちまうから、活動限界は保って三分くらいか? だがちょうどいいだろ、1RでKOしてやるぜぇあッ!! おおおおお……よしよしよーし、大分機体カラダもあったまってきたぁッ。挙動はアーム蝶番の可動域に制限されちまうから上下方向への融通はやや硬くぎこちないものの、反面、左右方向へはぐりぐりよく稼働するぜ、虚を突く軌道も描けるかもなぁぁああッ!!


「……」


 なんだぁ? 鳥野郎、目の色が変わったか(見えねえけど)? 流石にこの採掘現場第一線で結構長年鉱石を掘って来ただろう「バケット」はおめえさんの御眼鏡に叶ったってことかぁ? 抗えねえってか。けっ、さっきまでさんざんおすまし態度取りやがって、でも分かんだよなあ、好きで好きで堪らねえものにほど、無関心とか嫌悪とかを装っちまうどうしようもねえサガみてえなもんをなぁぁぁッ!!(姐ちゃんもそうよね……) で、で、おめえさんもナリは違うが、結構なところで人間サマを筆頭とする業深ごうふか生命体と根本はそうは変わらねえってこった。


 ……だったら話は早えぇッ。


 と、今まで何気なくふわふわと宙に浮いていただけの野郎が、いきなりくちばしからこちらに突っ込んできた。鼻息荒げて、かどうかは分からんが、性急な挙動はこれ、やっぱ本能には逆らえないってやつかねえ……


「らァッ!!」


 気合いを、腹からの声に乗せて。俺の方も本能にどかりと腰を据えることにするぜ。


 ……てめえを殴りのめしたいっつう、野性の本能ってやつによぉぉぉぉッ!!


 軽く前に揃えて出していた双拳の左側、鳥野郎が突っついて来ようとしている方はその場にあえて留まらせ、その裏でもう一方の右拳を後ろへ、後ろへと引き絞っていく。次の瞬間、左拳の方はくちばしの衝撃によってえらい勢いで上方へと跳ね上げられちまったが、もちろんそれは百も承知の囮行動に他ならねえわけで。そして、


 「つっつき」によって、望んでいた「モノ」の摂取が微量だが成ったんだろう。そして想定通り、あるいはそれ以上の「逸品」と判断できたんだろう。今までとは段違いの速度とのめりようで、打ち上がった左拳バケットの方へ照準をすかさず切り替えるとさらにの追撃をかまそうと空中で溜めを作る野郎だけれども。


 ガラ空きだぜ、その喉元から下腹部までの全部がよぉ。


 ここまで無防備をさらけ出して来たことに、逆に罠なんじゃね? と一瞬躊躇させられちまうものの、まあそんだけコイツらにとってあの鉱石のなんたらは抗えないものなのだろうとの自分の中で納得をつけると、瞬で切り替え、今できる最善の行動へと移っていく。


 右の下方突上拳アパカー、その、正にのそれへ。


「……ッ!!」


 上半身をたわめて。その瞬間には、下半身も絶妙の沈みと捻りと溜めを生じさせられており。おそらく最上の、最適の、これが必殺の一撃だぁぁっぁッ!!


 喉元へ。「最短距離な弧」、みたいな軌道を描いたバケットは、鳥野郎の体表上を隈なく覆っているように思われる真っ黒な「羽毛」のようなものをむしるようにはすりながら。


「!!」


 ごぶり、というような沈むような音を発して、野郎の体内にまで達した、ような手ごたえを感じた。いったろ、これは。


 「能動的に喰らう」時ならず、「無理やり突っ込まれた」場合であっても、こいつらは「取り込む」行動へと移ってしまう。さっきも言った、「本能」とか、そういう類のレベルでプログラムされてるに違いねえ。細胞とか、そんくらいの規模でわさわさ起きている事象でもあんだろう。分かるぜえ……俺だって気に食わねえ上司を張り飛ばしたくなる衝動や、御法度の店でつるっと境界線ボーダーを超えて突き挿入しいれてしまいそうになる葛藤や、


 ……どうとも収まらない、日々のしかかってくる現実に、絞り潰されそうな胸の奥の痛みの「核」みてーなものを、鋭利な切っ先でえぐり出したくなる欲望に、


 日々耐え難きを耐え忍び難きを忍んでいる身の上だからよぉぉ……


 首とか肩とか腰とか身体の痛みは、俺が自暴自棄に発散していきたくなっちまう俺以外の世界との端境をくっきりと縁どってくれる大事な事象なのかも知れねえ。


 脳がままならなくなってきてんのも、忘れたくなくても忘れなきゃいけねえ事柄や、それでも忘れちゃならねえ事柄を曖昧にひっそりと、本人にも気づかせないように奥の奥にひっそり仕舞っておくための大事な機構なのかも知れねえ。いやいやいやいや、物思いにふけってる場合でもねえよねぇぇ……そして、


 ……化け物に感情移入してんのもこれもあれか? 大脳がほどよく混乱しバグってんのかもだが。が、が、まあとにかく……


「フオオオオォォンッ!! 『秘儀:飛天絶:堅牢ケンローbut宇賀ウガ』ァァアアアアアアッ!! ッ貫けヘェェエエェエエェエエンッ!!」


 最大級のぶん回し稼働にて、双拳を右に左に上へ下へ、野郎の前面の至る所に隈なく、金属を叩いて丁寧に延ばしていく作業の如くに執拗に精密に叩き込んでいくばかりなのであって。

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