⨕13:面妖ェ…(あるいは、ウルティモ未納と/ルァゴ過びるッポ)

 空中、落下中、背後取られ中、という、ままならない三銃士たちにも言葉通り背を押されるようにして、いや実際ごり、と先ほど背後よりぶちかまされたままにそのまま地面向けて押し付けられるようにして意に染まない宙空疾駆をしておるわけだが。


 このまま眼下の針葉樹林帯におめおめ突っ込まされるわけにはいかねえ。この高さこの速度……操縦席ごと俺自身がぺっしゃりいかれてしまう可能性しか見えてこねえ。窮地。が、が……少々想定外はあったが、「空中に跳んだ」のは何もおめえさんの虚をつくためだけにやったことじゃあねえんだぜ……?(と言っておこう……)


「らああッ!!」


 裂帛一発。俺は「自由になった」機体の両腕を肩が外れんばかりに上から後方へと勢いよく回すと、背中にはっついている野郎を手探り指探りでしっかり掴めそうなところを手繰ってがちり保持する。機体掌てのひらに感じるのはさわさわふさふさとしたような……何だこの質感、とか思わないでも無かったが、無論そんな暇は無い。流石手運搬バケツリレィ専用機、いかなる形状のものでも指と掌を稼働駆使することによって、対象をズレさせずブレさせず巧みなフィット感で固定することが出来るぜぇ……との余裕な思考を敢えて浮かばせ自分を奮い立たせる。地表までの到達時間、予測あと二秒半。


「……ッ!!」


 落下寸前まで溜めに溜めた。それは更にの「返し技」を恐れたからであって。それが功を奏したかどうかは分からなかったが、木々の天辺の葉を掠めるくらいまで我慢して我慢して最後の激突の瞬間の毛ほど一瞬前に後ろ手に掴んだ所を支点として後方へ逆上がり回転を、さらに反時計回りに全身(半身だが)をよじり捻って相手のバランスを空中で崩すと、そのままの落下勢いをも加算して野郎をその横っ鼻先から硬い岩盤面へうっちゃりぶつけることに成功したわけであって。


 結構激しめの衝撃音。反動で俺の機体からだも林立する樹木の間を滑るように掠るように地面と平行方向に吹っ飛ばされたものの、それら枝とか葉を掴み絡ませながら両腕を操って衝撃を殺しつつ方向も微調整していくと一瞬後、何とか枯れ草が厚めに覆っていた坂面に受け止められるようにしてぶつかり止まることが出来た。とは言え割とな衝撃感。さらに操縦席は剥き出しな面が「前・下」と二か所あるため、流れるように通過するように侵入してきた結構な土砂やら草葉が俺の身体を埋めようとしてきているのだが。久しく嗅いでいなかった土の匂い。何故かそれに喚起された郷愁。いや、そんな記憶はねえだろ、何だ? この感触……いやいやそんな事も考えている場でもねえし、余裕もねえはずだ。今しがたの野郎の「着弾点」の方に土混じりの唾を吐きながらもてめえの顔面を何とか向ける。


「……」


 効いた……のか? とか思って固唾を呑んで固まってしまうのは何故か危険な気もしたので。視線も意識も目標からは切らず、機体の両腕を地面をまさぐるようにしてわさわさ動かし、何とか体勢を整えていく。ついでに操縦席にこんもり盛られてきた湿り気を帯びた土とか諸々を全身を震わせながら足元の「掃き出し口」から外へと篩のように少しづつ排出していきつつ。と、


 おーカッチョさん、ナイスバディスラム……みたいな通信が若僧くんから入るが。そんなんええから早よとどめをォォン、と吹き込んだ、正にのその、


刹那、だった……


「……」


 上空。に向けて何かが打ち上がった。勿論それが何かは認識はしていた。先ほど空中で俺のバックを取った、その挙動とさほど変わりも無かった。ものの……


「……」


 違和感。まあ正体不明のこいつら輩からは、初対面の時からずっと抱き続けさせられている感覚ではあるものの、それらをさらに上回る、と言うか。


 鳥、だった。いや正確に言うと巨鳥のように見える何か、だった。


 おいおいおいおい、全部が全部、違い過ぎるだろ。何が「第一態」だっつうんだ、さっきの昆虫野郎からして初見な見た目だったが、さらにまた異なってくるたぁ……どういうことぉぉん……?


<やはり……ですね。こいつらは『適応』への速度を高めていっています……ッ!! いえ、これは……『進化』? 進化速度が尋常じゃない速さ? そしてそれを個体間で共有することも出来ている……? いったい……?>


 姐ちゃんからのノイズ混じりの通信が慌てて入ってくるものの、最後の方は自分の内への問いかけのようになっているように聞こえたが……俺が最初に相対した時にしていた「擬死」やら「脱皮」やらは最早そんな悠長なレベルには無え、っていう認識でいればいいのか? いいか悪いかで言ったらいいところは欠片も無さそうだが。


 そして何より、いま見上げる高度にてばっさばさと羽ばたきながら宙停止ホバリングしている黒い影のような鳥野郎の形態フォルムは、この地球アストゥラ上にいる鳥類のどれにも似ていないように思えた。俺の不確かであやふやな知識と記憶に依るわけでそこは何とも言えないが、


 逆光受けての更にのシルエットではあったものの、それは「翼を背中から生やした人間」のような形状に見えたわけで。もっと言うと、「天使」、的なイメージ、というか。ただそれら類いに備わっている神々しさというものはまるきり無かった。あるのはやけに生物的なぬめる挙動と、性急な羽ばたきからも示唆される、相対してから今まで強弱はあろうものの変わらねえ敵意と、何と言うかの禍々しさだけだった。掌に残る感触、あれは「羽毛」だったのか? そこはどうでもいいか、それより、


「撤退、か?」


 聞くとも無しに呟いてしまっていた。斜め上方向を見上げながら、阿呆みたいに口を半開きにしながら。上空の野郎の様態を見るにつけ、先ほどの俺の会心の体落としはまったくもって効いてないようだ。まあ銃弾とかも弾くとか言ってたっけ。やっぱ単純な衝撃じゃあ、その真奥までダメージは通らなさそうだぜ……であればやっぱり「粉」を体内にぶっ込むしか無いんだろうか。が、目の前でこうまで重力を無視したように自在に飛行をかまされると、若僧くんの射撃技術が如何に尋常じゃないとは言え、当てることはおろか、掠めるのでさえ難しいのでは、とか思ってしまった。あの射出するにはいささかゴツ過ぎる「杭」であるし、上空向けて撃つとなったら必然、大した弾速も無いゆえにさらにへなへななもんになっちまうような気もした。


 ただ幸か不幸か、野郎の敵意ヘイトはこの俺に向けて発せられている。今も一見そうとは窺い知れねえものの、その相変わらずの中空にぽっかり空いた「無」のような黒空間の奥の奥から、こちら向けてじっと見下ろしてくる「視線」があるように感じられた。何事も無かったような素振りだが、「痛み」とかはあるのかもな。あるいは精神的なイラつき、だとかは。


 であれば、そして奴に「飛び道具」的なものが無いのであると仮定するならば。先ほど俺は奴の死角をついて跳び上がったものの、その実、隙だらけもだらけだったあの「奇襲」の際は、返しで自分の身を突っ込ませて来てた。そのことから鑑みると、長距離射程のものは持ってないのでは無いだろうかと思える。多分に楽観的な見方かも知れねえが、そうと踏むしか無い局面でもある。考えすぎんな。つまりは、「至近距離」まで近づいて来てくれる、その可能性は高い。いや、高くあってくれ。であれば。と、


<そんな課長さんに残念なお知らせがありますぞ>


 そんな、残念感は滲ませて来ない軽い声質の通信が、ままならない思考を転がしているばかりの頭蓋骨の内に転がり入ってきたのだが。いや、いま以上の残念さがあるって言うんかい。


<駆動体、残弾ゼロ>


 んなぁ~るほどぉ~、こっちは空手カラてと来ましたかぁ~、じゃあ至近距離も何もねえじゃあねえかッ。うぅん、こっちの枷の方が大分キツぅぅい……


 だが。


 そのくらいの氷河期並みの凍てつく不毛なる不遇なんぞには、もうこちとら慣れ親しむほどに飼い馴らされてんだよなぁぁぁ……最悪を想定してのさらに斜め下、それがこの俺の処世術の基盤だぜぇあッ!!


――昂燃メモその16:説明しようッ!! とは言え、ちょっとした幸運じみたものに出くわすと、それだけでもう万事がつつがなく回ってしまうような先走り万能感に襲われやすいチョロさをも秘めているものなのであるッ!!――


「……バケットパンチ」


 敢えて、そんな端折りまくった単語を発してみる。気合いと、ここから先はどうなるかは分からねえがゆえの。そして果たして。


<オッ、イェ~、ナイス判断~。ではでは今度はワタシが『足』になりましょうぞ?>

<ふたり、既に着到してそちらに向けて移動中っ、装着は現場でお願いしますッ!!>


 阿吽の通信が矢継ぎ早にふたつ。若僧くんと姐ちゃん、やはりこいつらは頼れる面子だったってわけで。いよぉぉし……


「……ッ!!」


 とか、瞬で熱血走っていた俺の元へ、上空の鳥野郎がふわりとした変な挙動にて降下してきやがるが。舐めてんだろ、本当に舐めたいのはあの「鉱石粉」のくせに思わせぶりな所作ムーヴごくろうさん。もうてめえの言いようにはやらせねぇんだよッ!!


<フーリッ!! 『合体』だッッ!!>

了解アイサイ、オメロ氏>


 そんな掛け声も一糸乱れなかった俺と若僧くんだったが。先ほどから今まで、岩盤斜面をじりじりとよじ降りつつ近づいてきてくれていた「征駿機ヘイスタ」の方へ向けて、華麗なる合体ドッキングをせんとばかりに、「汎搬機エセベロ」の両腕を使って極めて軽くソフトリーに跳躍を試みたものの。


「へ?」


 俺の機体の右腕に何かが巻き付けられたかと思ったら、次の瞬間、引っ張られるようにして(実際、牽引されてた)、遥か上空へ向けて打ち上げられていたのだが。え?


<ハハッ、『合体』は空中にて行うが作法ですぞッ!!>


 馬鹿野郎ッ、それはそういう機構が備わっている奴においてだろーがッ!! いや、そもそもそんな機体は虚構の中でしかお目にかかったことねぇか……とかぐるぐる考えている暇も無く、あの杭打ち機が結びつけられたザイルに絡め取られた瞬間には、二体ふたりが揃って上空へと青年と中年が跳躍ジャンプ。と思ったら最高到達点でさらに捻りを加えて回転させられつつ、ザイルから放たれた俺の機体だけがさらに上空へと。あれ? うぅん嫌な予感……と、


<連結部を強固にするためッ!! 本機の『論利掩斬刺アナリティカル=ドラッバー』をそちらの下部連結口より挿入するッ!! やや痛みを呈するかと思われまするがッ!! 可能な限り優しく行いますゆえッ!! どうか中空の染みの数でも数えていてくださいぞなッ!!>


 危ぶむほどに嬉々とした完全無欠の精神的流浪人遣神パーヘクツ=サイコパッセンジーな通信が俺の身体の末端から血液ごと凍らせていくようであるが。既に体温の粗方を喪っているスカスカな足元の穴越しに下方向を見やってみると、頭部辺りから二本の鋭く平たい「角」のようなものをいつの間にか生やした野郎の機体が「衝突」と表現できそうなほどの速度にてこちらに迫ってくるのが見て取れた。あかぁぁん……ッ!!


「無茶無茶無茶ッ無茶だろーがッ!! 挿入の瞬間、俺がほどよく串刺しになるっつうの!!」<万事無問題……計算したところによりますと、およそ五mmほどの余裕がありますゆえ……>「五mmはあかんッ!! 現場じゃ五mmで命を落とぉぉすッ!!」<ハハッ、見せつけてやりましょうぞ奴らに、我々人類の、英知を尽くしたこの機体たちのッ!! ……完璧なる凹凸接合連結部パクト・クワエ・コンダトーコというやつをぉぉぉッ!!>「いやぁぁぁらめぇぇ、そこは何かを挿れる穴じゃらいのぉぉぉ……ッ!!」


 アッー!! との叫びを呑み込むほどの、瞬間、激しい激突音と共に俺の両脇を掠めて操縦席を垂直に貫く「角」。死んだかと思ったが生きていた。三途サンヅの川に浸っていた爪先を抜き出すようにして、飛びかけていた意識が戻ってくる。機体のバランスを取るため、「角」越しであったが正確に精密に操縦を行うと、下半身の操縦は相方が担ってくれているのだが、それも精密に稼働すると衝撃を最小限にして岩盤に着地を為すことが出来た。そして、


――煩用人型二足歩行兵器:エセベロ×ヘイスタ=オメロJYU×フーリ、爆誕――

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