⨕03:不穏ェ…(あるいは、崩壊ウェイト/そいつぁオルゴーギォが許さない)
「こちらが……えと、『鋼捻機』? です?」
オンナの欲望が飽和点に達したのち、その後の失望により脆くも霧散していくサマというものは、まぁ人生顧みて、まぁまぁ見慣れていた光景というかすべからく毎度のことであったので特にこちらの感情が
――昂燃メモその5:説明しようッ!! 未だにちょっとした好意未満の行為にあっさりノせられてしまうものの、その裏ではもはや若いコに好かれるという事象が皆無であることも脊髄で把握できているので、冷めるのも急速なのであるッ!!――
いったん坑道から出てぐるり裏手に回っての、金属臭がただよい溢れる無骨で大仰な昔ながらの佇まいの
とは言え何とか諸々の体勢を立て直そうとせん俺を尻目に、我が「愛機」はいつも通り
「……だいぶ年季が入っちゃいますが、都度都度改修を繰り返してますからねえ。全然現役。いま市場に出回っている奴らと馬力は遜色ないか稼働域によっちゃあ高いまである。機体フレームは『コザァーン』の『ステイブル弐式』、そこに『ジナ=テック』の『第六世代光力エンジン』を調整に調整を重ねて無理やり積んだ、まあまあの暴れ馬ってぇやつですわ。そんでもっての二十年来の腐れ縁。『愛機』、言うなりゃあ、そうなりますなあ」
深緑色にカーキが混ざったかのような、いや実際削った岩盤粉とかで長い年月かけて正に自然にまぶされ
いやまあ言うて
そしてただただ言ってて自分が気持ちいいだけの最早「口上」みたいになっちまった言わでもの説明は、言うまでも無く俺の自己満足のためだけに、殊更に腹からのいい声を出して開陳してやった。ものの、
「えと……何と言うか『ヒト型』? みたいなのを予想していたものですから。あ、あー、こういうのんなんですねぇ……」
生憎、御姉様のお気には召さなかったようで、それでもおざなりな追従笑みだけは返してくれるものの、その精度は先ほどあれほど完璧に己の感情やら腹の底をシャットしていたとは思えないくらいに、「残念」という概念を顔筋だけで表現してみた前衛的な芸術が如くの何か、みたいな身も蓋も無いものだったわけで。何でこんなに分かりやすくなるんだ? もっとこう……あるだろう? いや、それよりも訂正せねばなるまい……
「いや? こいつぁ……まぎれもない『ヒト型』。と同時に『採掘』等々の作業効率性も鑑みると、この機体バランスは正に『最適』。にして『至高』。まま、乗ってみりゃあ分かりますぜぇ、自慢じゃあないが、こいつ一機で『アマ鉱』だったら採れ高一日平均120
とは言え。俺も俺で何とも言えない
「はぁ……まぁ、そうだとしましても、その『機能』とやらを実感しませんと?
相対してきた姐ちゃんのツラは、これまたこれでもかのお澄ましヅラであるわけで。その上でまるで興味ありませんが風情を声色からも醸しても来るんだが、本当、下っ手くそな素振りもあったもんだ……何だろう、先ほどまでの緊迫感はありつつももったりともしていたやり取りと比較するとあまりに稚拙かつ直情的そして見るに堪えない応酬が展開しているェ……
「……」
で、ありゃあ、ま、乗ってみてもらうほかは無えよなあ……と言うか元々そういう流れだったわ、そっから先は考えてねえにしろ、とりあえずは「あの場所」まで案内して、その反応を見てからのこっちの応対を即時決めていく……無論、この姐ちゃんが何らかの隙を見せてくれたのなら好都合であったが、機体に関しての嗜好は同じかと思って色々繰り出したはみたものの、どっこいその志向はちょいとズレていたようだぜ……が、
「うわぁ、こんな感じなんですねぇ、まさに『操縦する』って感じでこれは分かります、分かりますともっ」
おっと、ふっ、このカスタマイズにカスタマイズを重ねた「
……そして辿り着いたのが「ヒト型」であったと。
「ヒト型」……それはロボットに携わる者であれば誰もがあこがれを抱くであろう、至高の境地……「
ただ、それを実現させるのがひどく難しいということに尽きるだけだ。
俺の愛機も確かに、完全な「ヒト型」かと言うと語弊はあるかも知れない。大きく張り出した両肩。そこから伸びる長大な腕は、前屈み姿勢も相まって、指先は地面を擦らんばかり。さらに猫背ガニ股の上、バランスと安全を取るためにコクピットのある「頭部」は平たく、胴体にめり込むような感じで鎮座している。うん、「猿人」とか「原人」といった佇まいか。それでも、
「ようこそ、我が愛機『テッカイト』のコクピットへ。多少手狭ではございますが、乗り心地に関して言やあ、巷の軟弱な『エセベロ機』なんかにゃあ全然引けは取りやせんぜぇ」
目指したい「境地」というものはあるわけで。そんなわけでこんな状況下でも私情を挟みまくることこの上無いが、まあ譲れないものってのは誰にもあるだろうとか、そう思う。そして、
いいですねいいですね、こういうのでいんですよぉ、と割とまた食い気味感がぶり返してきたような姐ちゃんにまたもさっくりと勝手な好意を感じつつも、その「テッカイト」っていう名前は何か由来があるんですか? とかまた絶妙なフリをかましてくれるから、
「……古いアソカゥの言葉で『
会心のニヒルな返しをかまし返した。と思ったが、返ってきたのは、えぇダサぁ……とのくぐもる困り声であって。あるぇ、やっぱし、ちょっとした所でズレてんのかねぇ……
だが、それがいい……
――昂燃メモその6:説明しようッ!! ポジティブもネガティブも、割と何でも飲み下せるほどまでには六つの感覚器官は爛れてきているものなのであるッ!! (いちばんの恐怖は無関心無反応)――
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