第22話 終わらない戦い

『ゴララララ!』


 破壊された市街地の真ん中で、プラッツゴーレムが咆哮をあげる。

 相対する王都の兵士が隊列を組み、前方に向け大盾を構える。


 プラッツゴーレムは腕の太さだけでも人間の胴を超える巨大さを持つ。

 その腕の一振りで王都の兵士は盾ごと吹き飛ばされてしまう。


「たああああ!」


 兵士へと襲い掛かるプラッツゴーレムへ駆け寄った俺は、その腕を殴り壊す。

 露出した核へ拳を叩き込むと、ゴーレムは再生を止め沈黙する。


「大丈夫ですか?」


「ありがとうございます。私たちは無事ですが……あなたこそ大丈夫ですか?」


 警戒していたがどうやら自爆は起こらなかったようだ。

 俺は倒れた兵士へと声をかけるが、ゴーレムを倒したことで『大物喰い』の効果が解けて俺も倒れてしまう。


 いきなり倒れた俺が逆に心配されてしまった。

 既にイルジィによる戦闘継続のサポートは解けていた。


 俺はあたりを見渡す。

 今ので王都にいるプラッツゴーレムはすべてを倒したはずだ。

 建物の上から頭を覗かせていたその姿は見当たらない。


 残るヴィラゴーレムは王都の兵士でも対処は可能だろう。

 一先ず戦闘は終了したと言える。


 王都の被害は甚大だ。

 見渡す限り無事な建物はほとんど無く、壊滅している建物も多い。

 土地はゴーレムの自爆や戦闘の痕で穴だらけであり、通行するだけでも一苦労だ。

 人的な被害も、初撃での隕石の被害が大きく相当なものとなるだろう。


 俺は兵士の人に肩をかしてもらい立ち上がる。

 兵士は街の中央部に設置された救護所へ連れて行ってくれると申し出てくれた。


「ありがとうございます」


「そんな! あなたがいなければ街の被害は更に広がっていました。感謝をすべきは私達ですよ。あなたは王都の英雄です!」


 兵士は目をキラキラさせ感謝の言葉を伝えてくれるが、俺の心は晴れない。

 それは俺の中でこの戦いは終わっていないからだ。


 一番の功労者であるはずのツァウが居ないのだ。

 ハッピーエンドなんて到底言えない。

 ……何としても助けるのだ。


 俺は兵士に支えられ歩き始める。

 ツァウ救出のための準備を整えるため、重い体を引きずり救護所を目指す。

 




☆☆☆


「ツァウちゃんは霊峰ヴィンケルにいるよ」


 仮設の救護所へ運んでもらった俺はすぐさま眠りについた。

 夢に現れたイルジィの顔からはいつもの笑顔は消ていた。

 いつにない真剣な面持ちだ。


「霊峰ヴィンケル! やはり、フルーホの仕業だったんだな!」


 イルジィは「そうみたいだね」と小さくうなずく。

 俺の中で怒りの感情が爆発する。


 災禍龍フルーホ。

 周囲に災いをふりまく最悪の存在で。

 いったい、どこまで俺たちを苦しめる!


「ヴィラゴーレムの襲来から端を発した王都襲撃。全ての黒幕はフルーホだよ。物理攻撃に耐性を持つゴーレムを使ったのはツァウちゃんに魔法を使わせるため。ツァウちゃんが対処するしかないシュタットゴーレムを使い、その核に転移魔法を刻みこむことで記憶を失ったツァウちゃんを転移させる。すべてフルーホの悪意によるものだろうね」


 ボーゲンを襲った時と同じだ。

 標的とした相手を苦しめるためだけに、周囲の被害など考えず、むしろ嬉々として悪意をふりまき続ける。

 悪意の塊のような醜悪なやり口に吐き気を覚える。


「それで、ツァウは無事なのか?」


「保証は、できない……でも、無事な公算は高いと思っている」


「本当か!? 痛っ!?」


 俺は思わず身を乗り出し、イルジィとの間にある透明な顔へと頭をぶつける。


「君は学習しないね……僕は嘘をつかない。それに気休めだって言わないさ」

 

 イルジィが何も無い空間へと手を伸ばす。

 空間へ穴が開き、そこから黄色に光る水晶玉を取り出す。


「それは?」


「ツァウちゃんの異変には僕も気づいていたからね。これは離れていてもツァウちゃんの魔力に反応し輝きを変える、いわゆる探知装置だよ。これで居場所や健康状態が分かるんだ。これを見る限り、ツァウちゃんは生きて活動をしているようだね」


「本当か! そうか、良かった」


 正直死んでいる可能性も高いと思っていた。

 だが、生きていてくれた。

 俺はイルジィの言葉に胸をなでおろす。


「わかってると思うけど安堵するには早いよ。今、無事なのだとしていつまでも無事で居られるという保証は無いんだ」


「それは分かっている。だから、イルジィの下に来たんだ。すぐに助けに行こう」


 俺だけでは動くことすらままならない。

 フルーホの下に向かうにはイルジィの協力が必須だ。

 イルジィも俺の言葉に頷いてくれる。


「本当はこういう時、常識人の僕が止めるべきなんだろうけどね。準備もなく向かうのは危ないよって。でも、これだけめちゃくちゃなことをされて黙っていられるほど僕も人間を止めちゃいないからね」


『タープ!』


 イルジィの背後からターピーアが顔を覗かせる。

 その表情は俺のひいき目だろうか。

 一緒に怒ってくれているように見える。


「僕とターピーアにできるのはサポートだけだ。ほんと、悔しいけれどね」


「ああ。俺がフルーホを倒す」


 俺はあらかじめ考えていた決意をイルジィに伝える。


「霊峰ヴィンケルは呪いで汚染された地だ。一般人は立ち入れない。俺だけで行く」


「ほんと馬鹿げた決断だけど、それ以外に選択肢はないだろうね」


「ああ。今からダンジョンへ、『盲目の兜』を取りに行っている時間はない。俺の『大物喰い』で強化されたステータスで呪いによる影響を耐えてフルーホを倒す」


 超強化されたステータスでのごり押し。

 無策にも近い作戦だが、ツァウを救うにはそれ以外の方法は思いつかなかった。


「僕も全力でサポートをするつもりだけど、所詮は夢の中からだ。僕に出来ることは少ない。剣士君には負担を掛けることになるけど、本当に行ってくれるんだね?」


「ああ。負担を掛けることなんか気にするな。俺は命を掛けるつもりなんだから」


 当然戦いは厳しいものとなるだろう。

 時間経過により呪いが蓄積していく以上、どうしても短期決戦が求められる。

 フルーホは魔物における最強種のドラゴンだ。

 耐久力はゴーレムの最上位種シュタットゴーレムにも劣らないだろう。

 それでも、ツァウを救うためには倒さなければならない。


「ツァウは俺が助けるんだ」


「ありがとう、剣士君。僕も微力ながら全力を尽くすよ」


 俺はイルジィからツァウの居場所について詳しい情報を確認する。

 それを終えると、静かに意識を集中させる。 


 俺の意識が夢の世界を抜け、現実世界へと浮上していく。



 ツァウ救出のため、俺は目を覚ました。




=====


ここまでお読み頂きありがとうございます!

これにて第二章は完結となります!


第三章は現在制作中です。

書き上げ次第、公開予定です。

本作はカクヨムコンへ参加予定の作品となります。

是非、応援の程よろしくお願いします!

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