第15話 激変

 王都の四方を囲う城壁。

 その四隅には監視塔が城壁よりも高い位置に設置されており、その中から王国の兵士が昼夜を問わず周囲を見渡し安全を確認している。

 監視塔に設置された巨大な鐘は王都に危機が迫るときに鳴らされるのだ。


「鐘が、鳴っている」


 教会の中、ベッドに横たわる俺はツァウと顔を見合わせる。

 王都の危機を告げる鐘の音を聞き、そのままツァウは踵を返した。


「待て、ツァウ!」


「何よ? 止めるつもり!?」


「いや、俺も連れていけ」


 慌てて教会を飛び出そうとするツァウを俺は呼び止める。

 危機が迫っているのなら、俺でも役に立てることがあるかもしれない。

 俺は振り返ったツァウの眼を見据える。


「……いいわよ。舌だけは噛まないようにね」


 体が浮き上がり、次の瞬間には体が前に引っ張られる。

 教会を出ると、そのまま浮遊し上空へと急上昇する。

 ツァウは状況把握に、上空からの確認を選択したようだ。


「何よ。何も異常は無いじゃない?」


 ツァウに連れられ王都を見下ろせる高度まで来る。

 辺りを見渡すが、そこにあるのは昨日と変わらない平和な王都の日常だ。

 鐘の音を聞いて出てきた住民たちも混乱した顔で互いに顔を見合わせてる。


 鐘の誤作動か?

 そんな甘い考えは、すぐに裏切られる。

 悪い予感がした俺は頭上を見上げ、絶望を叫んだ。


「違う。上だ!」


 

 視線を上げた先。

 俺が見たのは巨大な隕石だ。

 建物が降ってくるかと錯覚する程の大きさ。

 それも数は一つじゃない。


 百を超える隕石の雨が王都に降り注いできていた。



「何よ、あれ! あんなのどうすれば……くっ、『穿孔蕾氷バドドリル』」

 

 ツァウの周りで魔力が膨れ上がる。

 周囲を白い冷気が包み、顕現したのは花の蕾を模した巨大な氷柱だ。

 生み出された氷柱は全部で十個。

 そのすべてが鋭い先端を上空に向けると回転を始める。


「行って!」


 魔力により操作された蕾の形をした氷柱は、まっすぐ隕石へと向かう。

 激突の瞬間、氷柱は隕石を穿つが、隕石に対し数が足りない。

 ツァウは続けて氷柱を操作し別の隕石も破壊するが、数が多すぎる!



 ツァウの攻撃の合間を抜け、こちらに向かい来る隕石が一つ。

 その軌道上には俺が先ほどまで居た教会が。

 あの教会にはまだ、ユンガが!




【個体『ヴィラゴーレム』との戦闘状態を確認 敵対者とのレベル差分のステータスが上昇します】



 体に感じる強烈な変化。

 これは、『大物喰い』が発動した兆候だ。

 しかし、なぜ?

 いや、今は考えている場合じゃない!


「ツァウ! 俺をこの隕石の前に!」


「はあ? あんた死にたいわけ!?」


「いいから、早く!」


「……もう! どうなっても知らないから!」


 体が引っ張られ、教会へと迫る隕石の軌道上に移動する。

 今の俺は武器も、防具も装備していない普段着だ。


 ツァウの力で接近し、眼前を埋めつくす程巨大な影を落とす隕石の前へ。

 俺は渾身の力を拳に込める。




「うおりゃ!」


 振りぬいた拳が隕石の中心を撃ちぬく。

 破壊音と共に隕石を砕き、目の前が一気に晴れる。


「はあ!? 何よあんたのその力!?」


「後で答える! ツァウ! 俺を別の隕石まで飛ばしてくれ!」


 何故隕石相手に『大物喰い』が発動したのか。

 何故いきなり隕石が王都に降ってきたのか。


 疑問はあるがまずは事態を打開するための行動が先だ!


「意味わかんない! けど、頼んだわよ。ハイリゲス!」


 体が急加速する。

 目の前には隕石が迫る。

 拳を振り抜くと、衝撃を受けた隕石は爆散する!


 間髪入れずに次の隕石が目の前に迫る。

 それを俺は蹴り飛ばし破壊。

 反作用で隕石が固まっている方向へ。


 破壊直後に感じる脱力と、次の標的を定めた時に感じる高揚。

 連続するその感覚に俺は確信する。


 この隕石の正体は、魔物だ!



 数秒後。

 広範囲へ降り注いだ隕石ゴーレムにより、王都は壊滅した。

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