第14話 対策会議
「おはよう! 約束通り来てあげたわよ!」
「ああ。待っていたぞツァウ。さっそく話があるんだ」
翌日、目覚めた俺はツァウの来訪を待ち受けていた。
それは昨日の話をツァウに聞かせるためだ。
「あら? いきなりやる気じゃない。昨日はあんなに落ち込んだ顔をしていたのに。何か光明でも見出したの?」
「ああ。最高の光明をな!」
自分でも気持ち悪いほど高まったテンション話す俺の変化に驚くツァウへ、会話の内容を聞かせる。
「なるほどね! その話、完全に理解したわ!」
「……その不安になる言い回しは止めてくれ」
「あんたに馬鹿にされるのは心外よ! なんたって、私は天才なんだから! つまりフルーホ討伐の為に私の力を借りたいんでしょ? もちろん協力するわ!」
二つ返事で俺からの申し出を了承するツァウ。
俺はその即断即決に面食らう。
「いいのか、そんな簡単に」
「むしろ拒否する選択肢が無いわよね。相手は憎きフルーホなんでしょ! それに加えて倒せば私の呪いが消えるかもしれないんでしょ? 当然乗るわよ!」
ツァウの力強い宣言に当てられ、俺の中で闘志が湧き上がるのを感じる。
ツァウが味方になってくれるのなら百人力だ。
「それで、何か準備があるのよね? 私は何をすればいいの?」
「ああ。イルジィが教えてくれたダンジョンがある。そこにはレジェンド級の頭装備、『盲目の兜』が眠っているというんだ」
「『盲目の兜』? 聞かない名ね。私、めぼしい装備の知識はあると思うんだけど。その装備、どんな効果があるの」
「『装備者のスキルの発動、新たなスキルの獲得を封じる』という効果だ」
「とんだクソ装備じゃない!?」
ツァウの怒声が飛ぶが、その反応が出るのは当然だ。
分類上、魔法もスキルとして識別される。
『盲目の兜』を装備した場合、攻撃技や魔法の発動が全てが封じられてしまい、装備者は通常攻撃しか出来なくなる。
さらに新しいスキルの獲得も封じられるのだ。
その性能は一見デメリットしかないように思える。
「そんなクソ装備、私が知らなくて当然だわ。これが何の役に立つというの!?」
「フルーホのまき散らす呪い。イルジィが言うにはあれも特殊スキルに分類されるらしいんだ」
「……つまり、その兜を装備すれば」
「ああ。呪いを新たに付与されるのを防ぐことができるんだ」
フルーホは周囲に呪いをばらまく。
攻撃を受ける、攻撃を与える、その場に一定時間留まる。
ありとあらゆる条件で強烈な呪いを付与されるため、イルジィの回復魔法による解呪が期待できない以上、盲目の兜による呪い対策は、俺たちが勝利するのに必要不可欠だ。
「でも! スキルを使えないんじゃどうやって戦うのよ」
「『大物喰い』は一度発動すれば以降、敵を倒すまで効果は継続する。俺には他に発動できるようなスキルは無いからな。戦いの前に大物喰いを発動させておけば、盲目の兜のデメリットはない」
「大物喰いを事前に発動させる? そんなことが可能なの?」
「それはイルジィが何とかしてくれるらしい。俺たちはイルジィが準備を整えている間に盲目の兜を入手するんだ」
これがイルジィが話してくれたフルーホ討伐作戦の全容だ。
『大物喰い』と『盲目の兜』によるフルーホの攻略。
『大物食い』の発動に関しては、「当日までに“秘密兵器”を用意しておいてあげるからね!」とイルジィは意味深に笑っていた。
イルジィは嘘を嫌う。
イルジィがそう言うからには何とか都合をつけてくれるだろう。
「それで、ダンジョンの攻略に私の力を借りたいわけね?」
「ああ。盲目の兜が眠るのは『暗闇の洞窟』だ。明かりを付けても数メートル先が見通せない漆黒の闇のダンジョンだ。中は暗闇に紛れたトラップだらけで、おそらく今の俺との相性は最悪のはずだ」
敵対するモンスターがいなければ俺はただの雑魚だ。
大物喰いの対象とならないトラップの多いダンジョンは俺の天敵であった。
「お前の得意な氷魔法ならトラップと相性はいいだろう」
ツァウの炎の魔法は闇を晴らし、氷の魔法でダンジョン中の壁を凍らせてしまえばトラップは無効化できる。
ダンジョン攻略時はいつもツァウの魔法に頼っていたものだ。
「そういうことなら任せて! 呪いを解くためだったら、魔法だってバンバン使ってやるわ!」
「頼りにするぞ。ツァウ」
心強いツァウからの返事。
ツァウは掛けられた『不明の呪い』により、魔法の使用を制限している。
しかし、呪いが解かれるというのならその使用に制限をする理由はなくなる。
全力のツァウであればダンジョンの一つや二つ、攻略は難しくないはずだ。
「そうと決まったらさっそくダンジョンにアタックよ! 場所だけ教えてくれる? あんたと、そこで寝てるあんたの連れはここで大人しく私の凱旋を待ってなさい!」
ツァウの言葉に隣で眠るユンガへと眼を遣る。
ユンガは昨夜からまだ目覚めていない。
回復までもう少し時間が掛かる様子だ。
ユンガに、イルジィに、ツァウに。
俺は仲間に頼りっぱなしの自分へのふがいなさを感じる。
ダンジョンへ自分も付いていく、そう言いたい。
だが、それは俺のわがままだろう。
今は俺のプライドの話などしていられない。
俺はツァウへダンジョンの場所を口頭で伝える。
「ツァウ、すまない。頼んだ」
「ツァウちゃんに任せて! ハイリゲスはここでどーんと休んでなさい――」
ツァウの言葉を遮り、王都中に重厚な鐘の音が響く。
ウインクをし、教会を後にしようと踵を返したツァウは動きを止める。
「鐘が、鳴っている」
王都の四隅に設置される監視塔。
鳴ったのはそこに設置されている鐘だ。
顔を曇らせるツァウ。
確か、鐘が鳴る条件は……
「街に危機が迫っているわ」
王都の危機を報せる鐘の音を受け、事態は一変する。
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