第16話 ゴーレムインパクト

「いやあああああ!」


「こっちに来るな! 助けてくれ!」


「何なんだよ! なんで魔物が城壁の中に入ってきてるんだ!」


 王都中を飛び交う悲鳴と怒号。

 王都に突如降り注いだ隕石の衝撃波により、王都の半分近い建物が崩壊した。

 倒壊を免れた建物も壁が崩れ、屋根が落ち、無事な建物を探す方が難しい状況。


「行くぞ! 『ファイア』!」


「「「『ファイア』!」」」


 王都の兵隊や冒険者達がゴーレムに向け魔法を放つ。

 ゴーレムは物理攻撃に耐性を持つ魔物だ。

 通常は一体につき、三人以上のパーティで対処するのだが、数が多すぎる。


 兵士たちで対処しきれないゴーレムが各地で暴れ、被害は急速に拡大していく。

 人的な被害も大きい。




「お母さん! お母さん!」


「モルゲン! あなただけでも逃げなさい」


 つぶれた家の下敷きになった女性。

 その子供が母親を助けようとその手を握り、泣き叫んでいる。

 そこへ迫る巨大な影。


『ゴララララ!』


 岩を固めて作った人形のような見た目のゴーレムと呼ばれる魔物。

 体長は3メートル近くあり、その質量も体格に比例し重い。


 ゴーレムはその見た目にそぐわない俊敏な動きで両の拳を合わせると、子供の目の前で両腕を振り上げる。



「させるか!」


 腕が振り下ろされる寸前。

 俺はゴーレムと子供の間に滑り込むと、渾身の拳を振り下ろされる腕に叩きこむ。

 ゴーレムは俺の攻撃を受け、木っ端みじんに吹き飛んだ。


 体から力が抜ける前に別のゴーレムを標的に定める。

 これだけ敵がいれば『大物喰い』の対象には困らないな。


「大丈夫か?」


 俺は目の前で起きた光景に茫然とする親子に声を掛けると、母親を瓦礫の中から助け出す。


「お母さん!」


「モルゲン! 良かった」


 駆け寄ってきた子供を母親が抱き寄せる。

 どうやら柱の間に体が挟まっていただけで、母親の体は無事なようだ。


「ありがとうございます」


「いえ。それよりも早く避難を」


 母親からのお礼に、今は応えている暇はない。

 俺は避難を促すとその場をあとにする。


「お兄ちゃん、ありがとう!」

 

 背後から聞こえる子供の感謝の言葉を力に、俺は次なるゴーレムへと駆ける。




 王都の各所で悲劇が起こっていた。

 原因は空から降ってきたゴーレムの大群。

 その数は百体以上で数えることも難しい。


 魔物による都市の奇襲……

 同じことを俺は経験したばかりだ。

 これもフルーホの仕業なのだろうか。


 ゴーレムは南方の砂漠地帯で生成される魔物だ。

 自由意志はなく、ゴーレムの体を維持する魔力の塊である核に刻まれた命令に従い動いている。

 核は魔物や人間の魔力によって生成され、核に込められた魔力が尽きるまで命令に従い動き続ける。

 つまり、ゴーレムが動く影にはそれに命令を与える黒幕が存在するのだ。



 地面へ降り立ったゴーレムは周囲の建物を破壊しながら人間を襲っている。

 その動きに秩序だった動きは見られない。

 ただ眼前の標的を破壊しているように見える。


 ゴーレムは見た目通りの硬い体をしており、物理攻撃が通りづらい魔物だ。

 さらにその質量から繰り出される攻撃は、人間など軽く吹き飛ばしてしまうほどの威力を秘めており一般人はおろか、訓練された兵士や冒険者であっても一対一で戦い勝つことは難しい。

 対処には魔法使いが当たるのが一般的だ。


 王都には兵士や冒険者、多くの戦える人間がいるはずだが外で戦っている者の数は少ないように思える。

 建物の崩壊に巻き込まれた者が多いのだろうか。


 ならば、戦える人間がこの現状を何とかしなければならない。

 俺はスキルを失い魔法を使うことができないが、俺にはこの拳がある。

 目についたゴーレムへ駆け寄ってはその体へ強烈な一撃を叩きこんでいく。


 いくら物理攻撃に耐性を持つと言えど、圧倒的なステータス差があるのだ。

 ゴーレムは俺の攻撃を受け、全て一撃で倒れていく。




「ツァウ! 次は!?」


「こっちよ!」


 周囲のゴーレムを倒し終えた途端に感じる脱力。

 俺はツァウの魔力による移動のサポートを受け、次なるゴーレムの下へ。


「くそが! いったいどれだけいるんだよ!」


 倒しても倒しても次が湧いてくる錯覚に陥る。

 目の前で襲われる人々を目にする度に、気持ちばかりが急いでいく。


 早く、何とかしなければ。



「ツァウ! 次だ!」


「ハイリゲス! 大型が現れたわ!」


「やはり出たか、上位種! そこまで連れて行ってくれ!」


 ボーゲンの時と同じだ。

 特定の魔物が大挙して町を襲う。

 それを指揮するにはその上位種が存在するはずだ。


 ツァウは俺の言葉に頷くと、魔力の糸で俺の体を上空に放り投げる。


 瓦礫の山を超え、上空へ出たことで視界が開ける。

 

「見えた!」


 原型を残す建物と比べ、その体は更に巨大だった。

 周りのゴーレムを10体並べても余る、ゴーレムの上位種!


「ツァウ!」


「任せて!」


 宙に浮く体が前方のゴーレムを目掛け加速する。

 近づいた今、それはもはや壁であり、全容が見渡せない。


「はあっ!」


 全力で放った拳。

 それがゴーレムの体に穴を開ける、が。


『ゴララララ!』


 俺の開けた大穴は、周りからせり出してきた岩によりすぐに塞がれてしまう。



「簡単に倒せるとは思ってねえよ!」


 ゴーレムの振るう腕が辺りを薙ぎ払う。

 俺はゴーレムの懐にもぐりこむように移動し、それを回避。

 今度はその巨大な足目掛け拳を振るう。


 左足が砕け、ゴーレムのバランスが崩れる。

 俺は下がった頭を目掛け跳躍。

 その額を殴りつけた。


 ゴーレムの首から上を吹き飛ばす。



「……ハズレか」


 破壊したゴーレムの左足が、頭が、見る見るうちに再生していく。

 これはゴーレムの持つ『再生』スキルの力。


 ゴーレムの体のどこかには核と呼ばれる術式が刻まれた石が存在する。

 核に刻まれた術式によりゴーレムは体を維持しており、それを砕かない限り体をどれだけ壊してもすぐに再生してしまう。

 核を破壊しない限りゴーレムを破壊することは不可能だ。


 だが、核の場所に目星はついた。


 俺は駆け出していた。

 ゴーレムの核は個体ごとに別の位置に存在している。

 ただし、どのゴーレムも核を守るよう命令が刻まれるため、行動によりその位置を見定めることが可能だ。


 このゴーレムは俺が攻撃をしたとき、右足を半歩引いて攻撃してきた。

 つまり、狙うは右足。


「そこだ!」


 俺は振り下ろされるゴーレムの腕を寸前で避け、右足へ蹴りを喰らわせる!

 右足は砕け、青い宝石のような見た目の核が露出する。


 俺は蹴った足で着地すると、再生が始まる前に反対側の足で蹴りを打ち込む。

 

 核が砕け散る。

 核の表面に走る術式が赤く光輝く。

 俺が異変に気付いた次の瞬間には、ゴーレムの核が大爆発を起こす。


「ぐっ……」


 俺は体を丸め爆発をやり過ごす。

 体が浮き上がりそうになり、ゴーレムの体の一部が体にぶち当たる。


 苦悶を漏らし、爆風に耐えること数秒。

 衝撃が収まり、顔を上げるとそこにはゴーレムの残骸が。



「ハイリゲス、お疲れ!」


 地面に座り込む俺の前にツァウが降り立つ。

 敵が消えた事でステータスの強化が消えていた。

 あぶねえ。さっきの爆発、素のステータスで受けていたら死んでいたぞ。

 俺の背中に冷や汗が流れる。


「あんたゴーレムの『自爆』のこと、忘れていたでしょ?」


「ああ。面目ねえ」


 ゴーレムの一部には、核が攻撃され破壊される際、刻まれた術式を暴走させ事前に決められた魔法を発動する個体がいる。

 体の維持に使っていた魔力全てを一度の魔法の発動に込めるためその威力は絶大。

 自分の命と引き換えに放つ魔法のため『自爆』魔法と俺たちは呼んでいた。


 自爆は今のような爆発魔法だけでなく、強風を生み出したり、炎を吹いたり、様々だ。

 物理攻撃が効きづらいため、ゴーレムとの戦いは賢者や魔法使いに任せていたが、こんなところで仇になるとは。

 俺は安堵のため息を吐く。


「それにしても、まさかあなたが一人でゴーレムの上位種であるプラッツゴーレムを倒しちゃうなんてね。普通、一人の物理攻撃だけじゃあいくら攻撃してもゴーレムの持つ再生速度を上回れないはずなんだけど、どんな馬鹿力よ……立てるかしら?」


「ああ、ありがとう」


 あきれたように首を振るツァウに支えられ立ち上がる。

 まあ、結果的に倒せたので良しとしておこうか。


「さあ、ゆっくりしている暇はないわよ。残るゴーレムも倒しに行きましょう!」


「ああ。行こう!」


 俺たちは決意も新たに、残るゴーレムを倒すべく移動を開始する。


 



 この時の俺たちは油断していたのだ。

 ゴーレムの上位種を倒したことであとは残党狩りが待つだけだと。

 しかし、その考えは間違っていた。


 この後、俺は大切な仲間を失いその過ちに気づく。

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