74.絶対王者ハルク
「レフォード兄さん、お待たせしました」
金色の美しい髪に騎士団長のみ着ることを許される白銀の鎧。聖剣を構えたエルクが横たわるレフォードの隣に立つ。
両腕を折られ、レスティアの膝の上で顔だけ向けたレフォードが尋ねる。
「もう大丈夫なのか……?」
「ええ。心配お掛けしました。もう平気です」
イケメン騎士団長がにこっと笑って答える。レフォードが言う。
「あいつは強ぇ。俺も一緒に……、うっ!?」
立ち上がろうとしたレフォードをレスティアが押さえつける。
「ダメでしょ~、レーレー。まだ動いちゃ。治療してあげるからちょっと待ってて」
「は、放せ!! 俺は大丈夫……、痛たたたたっ!!!」
無理やり起き上がろうとしたレフォードの腕をレスティアが強めに掴む。思わず声を上げるレフォード。優秀なスキルがあるとはいえ『痛み』は問答無用に襲って来る。エルクが言う。
「兄さんはそこで大人しくしていて。私は随分と休ませて貰ったみたいだからここは任せてよ」
「ば、馬鹿言うな。あいつはケタ違いに強ぇぞ……」
エルクが聖剣を握って答える。
「大丈夫。私も弱くはないですよ!」
少し間をおいてレフォードが言う。
「……奴は魔法で強化された
「分かりました。兄さん」
そう言ってエルクは新皇帝ハルクに向けて剣を向けた。
(ラフェルの正騎士団長だと? 王国最強の騎士か。ふっ、くだらねえ)
ハルクの単眼に自分に剣を向けぎっと睨むエルクの姿が映る。それに応えるようにハルクも拳を握り大声で言う。
「来いよ。最強の騎士さん。俺がぶっ潰してやる!!」
白銀の剣を構えたエルク。そのまま気合と共にハルクに向かって突進する。
「うおおおおおおおっ!!!!」
ガン!!!!
振り下ろされた聖剣とハルクの拳がぶつかり合う。エルクが思う。
(強い!!! だが……)
ガンガンガンガン、ガン!!!!
エルクの聖剣がハルクの拳を跳ねのける。細い体。見た目とは違った力強い打ち込みに、ハルクが驚きながら徐々に後退する。
「はあっ!!!」
ガーーーーン!!!!
「ぐっ!!」
エルクの気合の入った一撃。それを真正面で受けハルクが一旦後方へと下がる。
(なんだ、こいつ!? 見た目と違ってあの強い打ち込み。どうなってやがる??)
じっとエルクを見つめるハルク。エルクが言う。
「お前が
ラフェル国王の正騎士団長に代々受け継がれる白銀の聖剣。退魔、そして魔法を打ち破る力を有する宝剣であり、つまり魔法によって
「これで屈しろ!!
エルク最大限の力を込めた攻撃。白く輝く竜巻が轟音と共にハルクへと伸びる。
ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
「ぬん!!!」
ハルクが顔の前で腕を十字に組みその攻撃を耐える。しかしその白銀の竜のような竜巻はハルクを巻き込んで空へと吹き飛ばす。
「ぐあああああ!!!」
ドン!!!
吹き上げられ地面に叩きつけられたハルク。エルクは聖剣を振りかざしその好機を逃さないように迫る。
ガン、ガガガガガン!!!!
何度も打ち込まれる聖剣の強撃。ハルクが初めてこの戦いで防戦一方となる。離れた場所で観戦していたガイルが叫ぶ。
「すげえ、すげえぞ、エル兄!!!」
このまま押し切れば勝てる。誰もそう思った瞬間、ハルクの逆襲が始まった。
ガシッ!!!
「!!」
防戦一方だったハルクがエルクの聖剣を掴む。掴んだハルクの手からぽたぽたと流れ落ちる鮮血。エルクが言う。
「くっ、は、放せ!!!!」
手に力を入れるエルク。だが掴まれた聖剣はびくともしない。ハルクはもう片方の手で制剣を掴みそして気合と共に力を込めた。
「ぐおおおおおおーーーーーーっ!!!!!」
バキン!!!!
ラフェル正騎士団長に代々受け継がれて来た聖剣。その白銀の剣の命の灯が消えた。
「ば、馬鹿な!?」
真っ二つに折られた聖剣。どんな攻撃にも、どんな相手にも決して負けることのなかった騎士団の誇りの敗北。両手を血で赤く染めたハルクが叫ぶ。
「俺の勝ちだぁああああああ!!!!」
ドフッ!!!!!!!
「ぐわああああああっ!!!!」
ハルクの渾身の右ストレートを腹部に受けたエルクが轟音と共に後ろへ吹き飛ばされる。倒れたまま動かないエルク。自慢の白銀の鎧も砕け見るも無残な姿となっている。
「エ、エルクっ!!!」
レスティアに治療されているレフォードが倒れた義弟の名を叫ぶ。倒れたエルクに歩きながらハルクが言う。
「皇帝に逆らう愚か者め。さあ、くたばれ」
血走り、真っ赤に染まった単眼。体から発せられる覇気は戦うごとに増していく。皆が倒れた荒野に立つその姿は、まさに『皇帝』であった。
「くっそおおおおお、エル兄ぃいいい!!!!!」
倒れ動かないエルクに迫る皇帝。その絶対王者を緑の風が包んだ。
ドフッ!!!!
「う、ぐっ……、ぐはっ!!!!」
無我夢中で飛び出したガイルに強烈な拳を打ち込むハルク。ガイルは血を吐きながらその場に崩れ落ちる。
倒れたエルクとガイルにその大きな足を上げたハルクに、今度は背後から叫び声が響く。
「やめろおおおお!!!!」
それは脇腹に剣を受け負傷したゼファー。目にも止まらぬ速さでハルクに迫る。
「ふん!!!!」
ドフッ!!!!!
ハルクは両手を組み、それを迫るゼファーの頭に真上から叩きつける。
「ぐほっ、ごがっ……」
地面に叩きつけられたゼファー。
「俺の勝利だあああ!!! 皆、跪けっ!!!!!!」
皇帝の叫び。周りが倒れる中、ハルクひとり叫び声を上げ勝利に酔う。
ドフッ、ドフッ!!!!
ハルクが倒れたエルクやガイル、そしてゼファーを蹴りつけながら言う。
「くくくっ、この俺に逆らう愚かな奴らめ!!!」
足蹴りにされたエルク達が苦痛の表情を浮かべる。
「いや、やめて、もうやめて……」
離れた場所にいるミタリアが涙を流し蹲る。
(俺は一体何をやってるんだ……)
離れた場所でレスティアの治療を受けるレフォードが思う。
(弟達が戦い倒れ、あんなに苦しんでいるのに、俺は何をやってる……?)
ピクリと動いたレフォードを見てレスティアが言う。
「レーレー、まだ。まだまだ。もうちょっと待って……」
必死に治療するレスティア。だがそれを無視してレフォードが起き上がる。
「ちょ、ちょっと、レーレー!! まだ治療が……」
「もう大丈夫だ。次はあいつらを診てやってくれ」
レフォードはそう言い残すとゆっくりと皇帝ハルクへと歩み寄り始めた。
「ん? なんだ、お前。まだやるのか??」
歩み寄って来るレフォードに気付いたハルク。馬鹿にしたような顔で言う。
「……」
無言のレフォード。ただただゆっくりと歩みを進める。ハルクが言う。
「じゃあお前からやってやるよ。くたばれ、死にぞこないが!!!!」
そう言って打ち込まれた強烈な拳。これだけの戦いをしておきながら衰えぬ体力。目にも止まらぬ速さの拳がレフォードを襲う。
シュン!!
(え?)
ハルクはその拳に一瞬何も感触がないことに戸惑った。
ドオオオオン!!!!!!
「ぐっ、うぐっ……」
同時に感じる腹部への強烈な痛み。強い圧力。体の中身がすべて破壊されるかのような衝撃。そこには先程骨を折ったはずのレフォードの右拳が打ち込まれていた。
「な、なんだと……」
明らかにさっきまでの相手とは違う。すべてが違う。怒りの形相をしたレフォードが言う。
「俺の兄弟に手を出したこと、生涯後悔させてやる!!!」
ハルクは
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