14.ガイルの提案、レフォードの提案
「みんな、紹介するよ。俺の兄貴のレフォード。よろしくな!!」
山中にある蛮族『鷹の風』の拠点。その中央に設けられた会議室に集められたジェイクや三風牙の幹部、そして隊長クラスの面々に向かってガイルが言った。ジェイクが驚きながら言う。
「青髪の男……、まさか、お前が……」
それは彼らにとって自分達に牙を剥いた得体の知れない敵。マルマジロの鎧を破壊するような攻撃力を持つ警戒すべき相手。それがまさか目の前の男だったとは。レフォードが頭を掻きながら言う。
「ああ、多分それは俺だな。一度お前らとやり合っている。な、そうだろ?」
レフォードはそう言って部屋の隅にいる三風牙のひとりフォーレを見つめる。腕を組んでそれを聞いていたフォーレが答える。
「間違いない。その男だ。私の部下に大怪我をさせた張本人だ」
その口調には決して『青髪の男』を仲間には認めないという強い意志が込められている。レフォードがガイルに尋ねる。
「それよりガイル。商家に行ったはずのお前がどうして蛮族なんかやってるんだ? 何があった?」
ガイルがちょっと困った顔をしながら答える。
「ええっと、商家の家に行った日に蛮族に襲撃されて、それでここの幹部だった人に拾われていつの間にか頭領になっちゃって……」
ガイルの話を聞いたレフォードがやや驚いた顔で答える。
「そうか、そんなことがあったのか」
「でも俺は幸せだったぜ。ここで会えたみんなは俺の財産。かけがえのない仲間だ」
それを聞いた蛮族達の顔が笑顔になる。レフォードが言う。
「とは言え人様のものを奪うような蛮行は許すことはできない。特にお前が関わっているなら長兄として尚更見逃すわけにはいかない」
ガイルが首を振って答える。
「それは違うよ、レフォ
「違う? 何がだ?」
ガイルが自信気に答える。
「俺達は蛮族じゃなくて『義賊』。世の中を正す正義の集団なんだぜ」
「世の中を正す? 人のものを奪っておいて何を言っている」
レフォードはそう言いながらも以前にも聞いたその『義賊』と言う言葉を思い出す。レフォードの言葉に一部の蛮族達がむっとした顔をする。ガイルが説明する。
「違うって。俺達が対象にしているのは悪さをやっている奴らだけなんだ。一般の人達は決して狙わない」
「悪さをやっている奴?」
「そうだよ。違法な取引とかあくどいことをやっている奴。善良な人達から奪ったお金を俺達が取り返しているんだ」
レフォードが考える。確かに蛮族が襲ったのは豪商ばかり。それも悪い噂がある家が多い。
「そうか。だがその奪ったお金を自分達の為に使っているんだろ? だったら同じだ」
「おっさん、それはちょっと違うよ」
レフォードに三風牙のライドが話し掛ける。
「違うのか?」
「うん。確かに僕達のご飯とかにもなっているけど、奪ったお金は近くの村なんかにこっそり配っているんだ」
「本当なのか?」
「本当だよ」
実際『鷹の風』は奪ったお金のうち少なくない額をその近隣の貧しい村に配っていた。レフォードが新聞の片隅にあったそのような記事を思い出す。
「とは言え、お前をこのまま放置しておくことはできんしな……」
困った顔をするレフォードにガイルが言う。
「じゃあさ、レフォ兄がここの頭領やってくれよ」
「は?」
レフォードが驚いた顔でガイルを見つめる。
「レフォ兄は俺の兄貴。兄貴の言うことを聞くのが弟分。レフォ兄が俺達を導いてくれよ」
それを聞いた蛮族の者達の一部が眉間にしわを寄せる。
「馬鹿なことを言うな。俺が蛮族の頭になる訳ないだろ」
「えー、いいじゃん。な、ジェイク?」
ガイルは近くで話を聞くナンバー2のジェイクに尋ねる。
「私はガイル様の命に従うのみ。彼を
ジェイクは従者らしく主であるガイルの命に順応に従う。何よりレフォードの強さに驚愕していた。警戒していた『青髪の男』が逆に仲間になるのならこれは心強い。ガイルの兄貴分とのことだが、このふたりが協力すれば正騎士団とも渡り合える。
「僕も賛成だよ! おっさんと一緒に戦いたい!!」
三風牙のライドも喜んで賛成する。元々彼はレフォードに興味津々であった。彼の強さを知る者のひとり。レフォードが首を振って言う。
「おいおい、だから俺はここの
「えー、だったらどんどん悪いことしちゃうよ」
ガイルが笑いながら言う。レフォードが頭を掻きながら答える。
「参ったな。どうすりゃいいんだ」
「いや、だからレフォ兄が頭になってこれまで通りにやりゃいいんだよ」
笑顔でそう言うガイルを見ながらレフォードが答える。
「分かった、じゃあこうしよう。とりあえず正騎士団に行って今までのことを謝罪する。その後『鷹の風』を解散させる」
その言葉に皆の顔が驚きの色に染まる。
「ちょ、ちょっと、レフォ兄!! それはできないよ!!」
正騎士団と言えば言わば敵となる存在。下手したら皆捕まり処刑される可能性だってある。慌てるガイルにレフォードが言う。
「まあ聞け。解体した後に、逆に騎士団に加えて貰おうと思う」
「え、騎士団加えて貰う?」
ガイルが驚きを持って言う。
「ああ、そうだ。騎士団としたら厄介な蛮族が無くなる上に強い味方が増えるのなら一石二鳥。決して悪い話じゃないはず」
「だとしても俺達を素直に受け入れると思う?」
レフォードが少し考えて答える。
「これまでのことをきちんと謝罪して、国の為に働くとしっかり誠意を見せれば何とかなるだろう」
「うーん、でもなあ……」
心配するガイルにレフォードが言う。
「安心しろ。騎士団への直訴は俺達がやる。
「俺達? レフォ兄の他にも誰かいるのか?」
「ああ。ヴェルリット家当主、ここの領主様だ」
その言葉に驚くガイル。
「え、レフォ兄って領主と繋がっていたの?」
「何言ってるんだ。お前だって繋がってるぞ」
「ええ?」
意味が分からないガイル。レフォードが笑って言う。
「ヴェルリット家の当主の名前は、ミタリア・ヴェルリットだ」
「ミタリア……、ミタリアって、あのミタリアなの??」
驚くガイル。レフォードが頷いて答える。
「ああ、あのミタリアだ。彼女に騎士団との連絡役をやって貰う。きちんと話をすればきっと彼らだって理解してくれるはずだ」
「ミタリアが領主……、マジか……」
基本孤児院では誰がどこに行ったのかは知らされない。レフォードだけが懇意にしてくれた主任使用人のミーアから密かに教えて貰っていただけ。よってガイルはミタリアがヴェルリット家に行ったことも知らないし、無論その後領主の跡を継いだことも知らない。
「ミタリアは元気なの? 会いたい……」
またひとり大切な兄弟の名前が出たガイルが嬉しそうな顔をする。レフォードが笑って言う。
「ああ、領主としてお前の蛮行にカンカンに怒ってたぞ。俺はお前の首根っこを掴んで連れて来いと命じられている」
「マジか。あのミタリアに叱られるのか、俺?」
そう言って笑い合うレフォードとガイル。
「そんなことは認めないっ!!!」
騎士団加入と言う突拍子な話が出たものの、和やかな雰囲気になり始めていた会議室。そこへひとりの男が前に出てその意見に異議を唱えた。ガイルが尋ねる。
「フォーレ、お前は反対なのか?」
三風牙のひとり、風魔法のフォーレ。その後ろには同じく三風牙の槍使いレンレン。ふたりが不満そうな表情で前に出る。
「反対です。ガイル様」
普段は順応なフォーレ。しかし愛する『鷹の風』が消えるかも知れない事態に黙ってはいられない。
「ガイル様の長兄か何か知りませんが、そんな奴に大切な俺達の家族を預ける訳にはいきません。もしかしたら皆殺されるかもしれない。そんな危険があることを易々認める訳には行かないです!!」
後ろにいるレンレンも同じく頷く。ガイルが困った顔をして言う。
「とは言ってもなあ。俺もレフォ兄には逆らえないし。考えたことはなかったが、騎士団として仕事ができるならそれは悪くないと思ってる」
「そんな上手い話があるはずないです!!」
レンレンも負けじと声を出す。ガイルが尋ねる。
「今の頭は俺だ。俺の決定が不服なら、俺を倒して頭の座を奪え」
「うっ……」
単純なこと。『鷹の風』では基本強いものが頭領となる。頭領になりたければトップを倒すのみ。
「それは……」
それはできない。やりたくないし、やったところでガイルに勝てるはずがない。フォーレがレフォードを指差して言う。
「じゃあ、俺達がそいつを倒す。それができたらこの計画は中止。それでいいですか?」
指差されたレフォードを見てガイルがため息交じりに答える。
「まあ、俺はいっけど。レフォ兄、いい?」
「大切な弟に頼まれたからには受けざるを得んな」
「了解」
レフォードが頷いて答える。
「おい、やめろよ。ふたりとも」
同じく三風牙のライドがふたりに声を掛ける。フォーレが尋ねる。
「お前はあんな奴の言いなりになって悔しくないのか?」
「え? ないよ」
あっけらかんと答えるライドにレンレンがイラっとして言う。
「あんな奴にこの大切な『鷹の風』を……」
「おっさん、強いって」
ふたりが黙る。そして言う。
「そんなものやって見ないと分からない」
「分かるよ」
フォーレとレンレンはもう何を話しても無駄だと言った顔でむっとする。
レフォードに対しては『ガイルの兄』と言うだけでその強さは認めていなかった。ガイルだって兄だから抵抗しない。そう簡単に考えていた。
(愚か者め。あれで幹部を務めていたとは……)
ジェイクが無言でフォーレとレンレンのふたりを見つめる。一瞬、先ほどレフォードがガイルを殴った際に一瞬だけ放たれた彼の覇気。あれに気付かなかったと言うのならばまだまだ鍛錬が足らない。
(可哀そうに。レフォ兄のげんこつ、マジで痛いんだぜ)
そしてもうひとり。弟のガイルもレフォードに喧嘩を売った部下ふたりの身を案じる。
それでもレフォードの強さを見せつけるにはちょうどいい。この話に納得いかない人間もいるのは明らか。新たな頭として認めて貰うにはあのふたりはちょうどいいかもしれない。
「表に出ろ。青髪の男」
フォーレはレフォードにそう言うと先に部屋から退出する。
「レフォ兄、怪我させない程度に頼むよ」
ガイルが少し苦笑いして言う。
「ああ、分かった」
レフォードもふたりの後に続いて部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます