83 魔鉱石の階層

―エゴロヴナ―


俺たちは地下11階層から地下12階層へと足を踏み入れた。その瞬間に火魔法で光源を取っていたが突然その火がかき消された。火魔法がキャンセルされる階層かと思ったが、今まで魔力で身体能力を向上させていた効果もキャンセルされていることも考慮すると、魔力自体が発動不能の階層なんだろう。


ドレッドノート「これはヤバいな」

エゴロヴナ「あぁ。ここでさっきまでの竜種みたいな魔獣と遭遇したらタダじゃ済まないな」

ラザロ「けっ!いったん出直して、再アタックをするのか?」

グライム「それがいい」

ドレッドノート「しかしここまで来たんだ。もう少し奥まで行っていつでも安全に地下11階層に戻れるように警戒しながら進もう。ある程度探索した方が対策をたてやすいだろ?どうだ?」


それぞれが意見を出し俺たちはドレッドノートの意見に賛成し、安全を確保しながらゆっくりと前進を始めた。


俺の名はエゴロヴナ。賢魔1位。このパーティの中で前衛を務めリーダーをしている。巨大なミスリルの盾とミスリルの槌を持ち、壁役、アタック役を基本行う。他の3人の連中も同様に一筋縄ではいかないような屈強な戦士たちだ。俺たち皆、筋骨隆々とした体躯を誇り、広い肩と太い腕をしている。髪は長い奴もいれば短い奴もいて、服装もまちまちだ。しかし一つ共通しているのは皆、鋼鉄の胸当てと手甲、レッグガードを装備し、武器を携帯している事だろう。エルフ国では俺たち魔族か、警察機構しか許されていない特権だ。


仲間の一人は魔導師グライム。賢魔2位。身長が高く細長い。後衛から魔法でバフ・デバフ・回復を行いながら、更に攻撃魔法を放つ。魔法の種類も豊富で、火水雷毒光属性を使える。それでいて、腰には魔獣シャドウクローの毛皮で作られた鞭を持ち魔法を使わない時は、その鞭を獣のようにしなやかに扱い攻撃をする。まさにオールラウンダーな奴だ。奴の力は恐ろしい。一振りの動作で鞭が敵の体に絡み付き、その鋭い尖端が肉を裂く。奴の攻撃は容赦なく相手の弱点となる部分を何度も強打する正確性を持っている。


もう一人の仲間は剣士のラザロ。賢魔3位。俺たちの中でも最も背が高く、ミスリルの剣を持つアタッカーだ。奴の剣技は軽やかながらも凶悪だ。素早い動きと相手との『間』を巧みに一瞬に詰め寄る技術がえぐい。とにかく奴の手足の長いリーチで相手をかく乱し自分の『間』で戦えない敵どもを、素早く正確に打ち倒す技術を持っている。俺が壁役として敵の動きを止めてから、奴が横から敵を凶悪な剣技で木っ端微塵にしてしまうのだ。状況をよく把握し戦略的な判断を素早く行うことができる狡猾な奴だ。


最後の一人は斥候のドレッドノート。賢魔4位。俺たちの中で最も背が低いがスピードはチーム1だ。斥候として俺たちのパーティを先行し、罠や敵の存在を誰よりも早く察知できる力を持つ。大体の魔獣などであったら奴の持つミスリルの短剣で切り伏せられる。鋭い刃は敵の肉を容赦なく切り裂き、短剣の軽さと速さを活かして素早く敵を貫く。奴の動きは滑らかで、瞬時に刃を振り回しては再び身を隠す。その攻撃は敵を混乱させ、痛みを与えるだけでなく恐怖心を植え付けるのだ。


俺たちはこのエルフの国で全てを許された存在だ。法を犯そうが何をしようが、誰も何も言える力もなければ権限もない。むしろ俺たちが法だ。


賢魔の中でも下位だが、内政に長けた連中がサニ派とムラカ派の長老とすげ変わり、政(まつりごと)を行っている。うまくお互いの悪感情を煽るようにやり合ってくれているので、俺たちへの非難の目はそれほど強くない。俺たちは何か大義名分はないが、ムカつく奴は全て殺してきた。ある時はサニ派のエルフを殺し、またある時はムラカ派のエルフを拉致して犯し尽した。エルフからの悪感情が増すかと思えば、大体、感謝されるのだ。それほどサニ派とムラカ派同士が憎しみ合っているのだが、俺たちは本当に都合のいい立場だ。


俺たちは賢魔下位の連中にサニ派とムラカ派を上手に操らせ、俺たちの支援をさせている。今、このミハルド伯爵ノートにとって俺たちは最も面倒な存在であろう。俺たちは危険なダンジョンの中に入り探索をする。俺たちに何かあった日には、映像送受信機でその様子は魔族国ガリウッドに送られ、ノートの領地は本国からの派遣される兵士団で跡形もなく破壊されるだろう。それを思えば、日々ノートがヤキモキしているのが滑稽に思う。


ノートから、家も食料も武器も金も女も奴隷も全て、自分たちの要求するモノは全て提供させている。俺たちが伯爵領に不満を漏らさない限りは、この領地は平穏になるのだ。安い出費だ。そもそもノートはかなり手広く事業を展開しているようだから金には困っていないだろう。武器を開発し魔族国へ売り込んでやがるし、鉱山開発をし周辺地域に売りさばき富を吸収し、娯楽にも力を入れて民衆の感情を抑えて上手くコントロールしてやがる。魔族とどっちが悪辣化なんて俺には分からないがな。


俺たちはダンジョンで強敵に出会う時もある。その緊張感は最高にゾクゾクする。また弱い魔獣どもを嬲り殺しにする時の征服感も抜群だ。しかし、エルフの女を蹂躙する時の快感は格別だ。毎日、宿舎に違うエルフの女を呼ばしている。エルフどもは自分たちの宗教の教義の為に、自分の番いと一生添い遂げなければならないと説かれている。俺たち魔族には全く理解できない。最初は好きだろうが長年一緒いれば、こんな奴とは一緒になんて、いれねぇなんてこともあるだろう。だから、庶民の間では基本一人の女は一人の男に添い遂げるのだが、貴族どもにとっては権力があり自由にできる女がいるのだから、自分たちで教義を曲解し一夫多妻制は宗教上可能という事にしているらしい。一人で満足できないが、しかし教義には反せられない。だから、貴族の連中には何人もの女を侍らしているケースがほとんどだ。まぁ、本能のままに生きることに関しては俺も激しく同意するがな。


それでだ。エルフどもにとっては、その一生を添い遂げる一人を決めることは非常に大切なのだ。人生を左右する。その相手を二度と変える事はできないからだ。そのエルフの女どもを犯し、その女の貞操感を破壊した時のあいつらの恨み節が最高だ。その恨み節を抑え込み蹂躙していく。そして捨て去る。これ以上の快楽は存在しないだろう。


俺たちはダンジョンアタックに疲れた時は三日三晩、ノートに何十人というエルフを呼んで犯しまくっている。奴隷もいれば庶民もいれば貴族の令嬢もいる。しかし奴らは俺たちに何も言えないのだ。この優越感も最高だ。


今も俺の脳裏に蘇るのは、あの以前に冒険者ギルドにいたあの3人のエルフたちだ。あの女たちは気高く、高い能力を持ち、自分が高嶺の花とかお高く留まり、そして何よりそれに見合う絶世の美しさを持っていた。あのような高潔な女どもを蹂躙できる喜びは格別だろう。ノートにもあの女たちを要求したが、あいつらでも冒険者ギルドに圧力をかけてあの女どもを寄こすのには骨が折れるようだ。今回のダンジョンアタックが終わり戻ったら、あの女どもを見つけたら全力で拉致るか。それかノートを脅しつけてやり、あの女どもを渡さなければ、この領地を潰す、と迫ってやろうか。そうすればあの女どもを蹂躙することも可能だろう。そう考えれば、もうすぐにでも帰還した方がいい気がしてきた。


斥候のドレッドノートは手元にあったランタンを真っ暗の洞窟奥まで投げることを提案した。もし魔獣が襲ってきたらすぐに地下11階層との狭間まで退避する、と言ってきた。たしかに、まずはこの階層中の奥の様子が知りたいので、皆その意見に同意した。俺はだんだんどうでもよくなり、今はどうノートを脅してあの女エルフどもを手に入れた後のことを想像して、笑いが込み上げてくるのが止まらなくなっていた。


ドレッドノートがランタンを洞窟奥まで投げ入れた。洞窟自体は長い直線になっていたが二手に分かれるところでランタンが壁にぶつかり、地面に落ちた。


俺たちは、自分たちが眼にしたものが信じられなかった。


この階層は異常だ。


それは、第一に魔獣がいないこと。まぁ少なくともこのランタンが照らした長い直線の中にはいなかった。そして何より、驚くべきことにこの洞窟の地面には魔鉱石が敷き詰められている!


ドレッドノート「おい見たか!?あの魔鉱石の量を!」

ラザロ「あぁ。パッとしか見ていないがかなり質の良い魔鉱石がわんさかあるな」

グライム「ここはそういう階層なんだろう。最初にここに到達したパーティが魔鉱石を総取りできんだろうな」

エゴロヴナ「くっくっくっくっくっ。こいつはいい。これだけの魔鉱石を喰らえば大幅に俺たちの戦闘能力を上げることができるな」

ドレッドノート「とにかく周囲の警戒は続けるが、お前たちもよく見ろよ。俺の索敵がうまくてもここでは魔力が使えないから、俺の聴覚頼りだ。完全じゃない」

エゴロヴナ「わかったわかった。おい、お前たちも周囲を警戒しながら魔鉱石を喰えよ。そればかりに集中するなよ」

グライム「子供じゃないんだ。分かっている」

ラザロ「うるっせぇな。警戒しておけばいいだろ?早く行こうぜ!俺は待ちきれねぇ!宝の山だ!!!」


そう言って、俺たちは急いで地面の無数にある魔鉱石を手当たり次第喰らい始めた。


グライム「これはいい!かなりの純度の魔鉱石だ。力が漲る」

ラザロ「もしかしたら、この階層は次の階層の準備場所として、このダンジョンが設置しているのかもな!」

エゴロヴナ「そうだな。先ほどの地下11階層の竜種もなかなかの強さだったからな。ここで補給をしろっていうことかもな。ダンジョンの考えることはよく分からん」

ドレッドノート「これほどの魔鉱石なら、俺たち全員が部隊長クラスになれるぜ!」


俺たちはただただ無限ともいえる魔鉱石を貪り喰い乱れた。魔族も肉などを喰らいエネルギーを補給はするが、魔鉱石からとれる魔力補給で、俺たちを存在進化させることができるようになる。存在進化とは、単純に体が強烈に強化され進化するケースもあれば、より頭脳的な優秀さを増す進化のケースもある。違う形態の種に進化するケースもある。とにかくこれほどの魔力補給だ。俺たちには想像できない程の進化を経験することになるだろう。


数時間経ってもまだ無くならない魔鉱石。俺たちは狂喜乱舞した。それぞれが存在進化を一回は経験した。かなりの戦力アップだ。既に俺たちの形はここに入ってきた時より、より凶悪に、より凶暴に、そしてより強靭になっている。警戒も続けるが今の俺たちならこの魔力キャンセルの環境だろうが、どんな敵が来ようと敵無しだ。


俺は喰らいながら誰よりも奥へと入っていった。その時に驚いたことに俺の掌を広げたほどもある大きさの魔鉱石が1個、転がっているのを見つけた。俺は喜んでその石を拾い上げた。しかし・・・


(妙だな)


嬉しさの反面、俺には何か不吉な予感が脳裏を過ぎる。何故この魔鉱石だけ巨大なんだ?他の魔鉱石はほぼ俺の指一本分の大きさでほとんどが統一されていた。それがこの階層全体が生成しているものだという説明で理解できる。しかし、何故この一つの魔鉱石だけが妙にでかいんだ?周囲を見ても、この魔鉱石を特別にするような環境はないように思う。ここのボスのような、そんな予感が・・・


ドレッドノート「おい、エゴ。なんでそんな奥でぼぉと突っ立ってるんだ。おぉ!お前、えらくデカい魔鉱石を見つけたな!」

ラザロ「それは山分けだろ!割れよ!」

グライム「お前ひとりで占領するなよ。それは明らか、かなりの高純度魔鉱石だ!」

エゴロヴナ「うるせぇ!頭の無いお前たちには考え付かないようなことを考えたところだ。阿呆が。ここでは見つけた奴が総取り。お前たちに渡すわけねぇだろ!愚か者どもが!」


俺はそう吐き捨てて、一気にこの巨大な魔鉱石を飲み込んだ。強烈な力の奔流を感じる。力が!!力が溢れる!!


エゴロヴナ「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」


大きな咆哮をして、俺は再び存在進化を遂げる。


ラザロ「くそっ!!こいつ、また進化しやがった」

ドレッドノート「あぁ、またこいつとの差が開いたな」

グライム「しまった・・・無理やりにでも奪うべきだった・・・」


俺の体は更に多くなっていった。今までは2メートル近い巨躯であったが、今では3メートル近い大きさまで進化した。今までの力では考えられないような力で、体全身が漲っていた。


付けていた防具なども小さくなり全て取り外した。こんなものより俺自身の体皮の方がよほど頑丈だ。


何度も斥候のドレッドノートにはランタンを奥に投げ入れては状況を確認しながら進んでいたが全く魔獣はいない。ただ魔鉱石があるだけの階層。


(不思議だが、こういう階層もあっていいのだろうが・・・)


俺たちは魔鉱石を喰らいながら進んでいくと、かすかだが洞窟の奥の方から音がするのが聞こえる。また遠くの方が明るい。あれは・・・


(戦闘音だな。何かが戦っている。それにあの光・・・この階層が終わるのか?)


エゴロヴナ「おそらく、魔獣同士が戦っているのだろう」

ドレットノート「一旦俺が見てくるぜ。この魔力キャンセルの階層ではできるだけ戦いたくないからな」

ラザロ「そうだな。ドレッド、早く見てこいよ」

グライム「油断は常に大敵だ」

ドレッドノート「うるさい。分かっているから行くだろうが。そこで待ってろ、お前らは」


ドレッドノートは更に聞こえてくる音に注意し、警戒を更に強めながらそれでいて素早く前進していった。だんだんと音も大きくなっていく。明らかに何かが何かと激突している。音がより明瞭になっていくと、色んな音が混ざり合っているのが分かってくる。


(魔獣の叫び声・・・それと何かの衝撃音・・・洞窟への激突音・・・それに・・・かすかに聞こえるのは・・・歌??)


ドレッドノートは訳が分からなかった。先を進みにつれて、光の中を目視できるようになり3つの影がいるのが見える。


(エルフ???)


「マー―――!!!!!」


その一人のエルフが何かを叫んでいる。まさか、俺たちより先に来ているパーティがあるとは!?


更にドレッドノートが進んでいくと、その影が4つに増えそれぞれが完璧に視認できた。


(なっ!!??あの生意気なエルフたちじゃないか!?)

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