80 ウィングとの邂逅
スカーレットとスカイは、ダンジョン付近のお店で食料品などを見繕いながら買い物をしていた。
すぐにウィングと彼を隠密で行動を共にする諜報部隊が近づいてくるのに気付いたが、何気無く店の中で品定めするフリをしながら、一般冒険者を装った。
スカーレットもスカイも目立つ容姿をしている為、人の陰に自然と隠れるようにしながら、ネオとスリーの帰りを待つことにした。
スリーがアスクと話がしたいと言い、宿舎に伝言を伝え昼にカフェで会う段取りがつきそうだ、と嬉々として今朝は語っていたが、帰りが遅いので心配をしだしてはいた。
スカイはスカーレットに心配そうな表情をして話しかけた。
「大丈夫かなー」
スカーレットはスカイとは目線を合わさずに商品を手にしながら答えた。
「まぁ多分大丈夫よ。ネオが行ったしね」
「それもそうだけど最悪の事態になっていたらユハの諜報部隊が一緒に追ってきそうだよね」
「確かにね・・・とにかく、今はうまくいっている事を願うしかないわね」
そう話をしていると、二人の横にネオとスリーが自然と現れた。
「ただいま」
スカイは突然二人が現れたのにかなり驚いた。
「おかえりー。凄いね。接近に全く気付かなかったよ。どんな魔法なの?」
「魔法じゃない。人の注意の隙を狙って動くだけだ。人は注意しているようで注意していないからな。その間隙を魔力で察知するのさ。まぁ、スカイも慣れたらできるよ」
「いや、ネオ。そんな簡単な事じゃないでしょ・・・」
と呆れ顔でスカーレットは反論した。
ネオは何を言っているんだ?と言わんばかりの表情をしながら、スリーに何があったかをスカイとスカーレットと共有した。
「ユハに襲われライトとの交戦を回避してきた。まぁこれでヒト族との決裂は決定的だな」
沈んだ顔をして、美幸は言った。
「ごめんなさい。ユハは傍観すると思っていたんだけど、まさかこれほど激しく反応してくるなんて思わなかったわ・・・」
スカーレットはため息をついた。
「まぁどうせいつかはこうなるなら、仕方ないわ。とにかくここに長居すればする分だけ状況は悪化する。けども正直、悪いことばかりじゃないわ。スカイとスリーが私たちに参加してくれたおかげで、魔族を殺す算段もついたしね。スカイの魔力遮断は役に立つかもしれないわ。頼りにしているわよ」
スカイはよく分からない風に首を横に傾けた。
「どいうことなのかな?」
「まぁそれは後で説明するわ」
横でスカーレットとスカイの話を聞きながら俺は周囲を索敵した。
(さて、ウィングがあそこに張り込んでいるのは見えている。
あれで隠れているつもりなのだろうか?目がギラつかせて、木の後ろに隠れて往来する冒険者を見ているな。
道行く冒険者たちからも気付かれ見られている。
あれでは不審者だろう・・・)
「じゃあ行こうか。今日中にはダンジョンを攻略する」
ネオは皆に小声で声を掛けた。
皆は神妙な顔をしてうなづいた。
「ねぇ、ウィングはどうするの?」
「俺が対応する」
「他の諜報部隊もいると思うけど」
「そっちはスカイの歌で沈静化させて、攻撃されてもスリーの回復魔法で切り抜けて、スカーレットがカバーして切り抜けてくれ。まずは俺が先に行ってウィングとできるだけ多くの諜報部隊の注意を一身に受ける。みんなはその後ろから隙を見てダンジョン内へ入ってくれ。ダンジョン内で会おう」
「分かったわ」
そうして、俺は店を出てゆったりとした歩調でダンジョンに向かって歩いていった。
露店では相変わらず店主たちが精力的に自分たちの商品を売り出している。その声は段々と遠のくようにして、俺の意識から離れていく。まるでボリュームを絞って音量が減っていくようだ。
目の前には木の後ろから俺を見つけて急いで俺の進行方向の真ん中に仁王立ちになっているウィングがいる。
ウィングの眼は血走り息を荒立て肩を唸らしながら、俺を見ていた。まるで親の仇でも見るような表情だ。
「待て!」
ウィングもこの地にいて約1年程経つのだろうか、流暢なエルフ語で話をしてくる。俺は何の事か分からないようにダンジョンに向かって歩いていく。止まることは無い。人の流れも目視で10人程前を歩いている。人の往来のある場所だ。大立ち回りをすれば多くの人の衆目を集めることになる。そのことを分かっているかどうかは分からないが、ウィングは俺を道の真ん中で待っていた。
「あぁこんにちは。ウィングさん。どうかされましたか?」
「止まれ。スリーとスカイはどこだ?彼女たちを返してもらおう」
「スリーさんとスカイさんは僕の所に来ましたが、本人たちが僕の所に来ただけですので、僕はどちらでも構わないんです」
「ふざけるな!!!止まらんと実力行使で止めるぞ」
「待ってくださいよ。そんな暴力的にしないでください。僕には何がなんだか・・・」
そう言ってウィングはすでに近くまで歩いてきていた俺の胸倉を掴み凄んできた。
周囲の冒険者たちは不穏な雰囲気を察知して距離を置いていく。巻き込まれない為に距離を取る人たちもいれば、少年を助ける為にじっと見ている冒険者たちもいた。
「お前が彼女たちに何かしたのか?」
「何もしていませんので、本人たちに話をしてください。僕は忙しいので、また」
俺はウィングの呼吸を見ながら一瞬、手の指の力が緩んだタイミングで、スルスルと服から指を離した。
「なっ!!??何をした」
「いや、ウィングさんが指を離したんじゃないですか?」
「くそ!何かのスキルだな。抵抗するならここでお前を潰す!」
「ちょ、ちょっと!」
そう言い放ちウィングは俺に向かって魔力の剣を発現させて斬りかかってきた。
さすが魔力無限大であり高出力の連撃だ。体全身を魔力で纏い、超高速の動きで魔力剣を縦横無尽に放ってきた。周囲の冒険者たちの存在も忘れて襲い掛かってくるとは・・・
「おい!!」
「やめろ!!」
「逃げろ!!」
「危ない!!」
様々な叫び声が周囲に響き渡った。
全ての斬撃を紙一重で躱しながら周囲の様子を索敵していく。
(まだ動かないか)
諜報部隊はウィングと俺との攻防戦の様子を観察しながら事態の推移を見定めているようだ。
(くそくそくそ!!俺は数々の死線を乗り越えて、ここまで来たんだ!何故こいつに一撃も当たらない!?)
ウィングが上段から真っ向斬りをするも横に避けられ、逆袈裟斬りを燕返しで狙うも上体を斜めにして剣戟の軌道と同じ角度にして避けられる。左薙で剣戟を放つも体を後ろに逸らして上体だけの動きで全てを避ける。
(俺の動きは遅いんじゃないはずだ!俺の高速の斬撃が何故こうも避けられる!!??こいつの回避スキルは異常だ)
俺は後ろの3人と目配せしてウィングが集中して攻撃をしている今に移動するように合図を出した。
スリーとスカイとスカーレットは、動き出しダンジョンに向かって走っていった。
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