79 スリー逃亡劇

「もうお客様はチェックアウトを済ませ、お出になっておられます」


急いでネオ達の宿舎に到着したが、もう既にも抜けの殻であった。


ウィングは苛立ちながら何度も床を踏み鳴らした。

「くそ!俺たちが来る事を察知して逃げたんだ!遅かったか!くそ!!!!」


ツリーは不思議に思いながら呟いた。

「洗脳スキルとか本当にあるのかな?それならもっと有力なメンバーを仲間につけたいんじゃないのか?ライトとかウィングの方がよっぽど味方にしたいと思うぞ、俺なら。そもそもの話では、ユハがネオを俺たちのパーティーに誘ったんだろ?こちらからネオに接触して、ネオに何かを仕掛けてたんだったら話はわかるが、こっちからネオに接触してネオから何かを俺たちに仕掛けたっていうのは、理屈に合わないと思うんだけどな~」


ウィングはツリーの独り言の様な呟きを吐き捨てるように反論した。

「それもあいつの策略だったかもしれないだろ。しかも、この状況をよく見ろよ!タイミングがよすぎる!スリーもいなくなり、スカイもいなくなった。そしてあいつらはもう既に宿舎を引き払っている。おかしいだろ!絶対にあいつらが何かしたに違いない!!」


ツリーは首をかしげた。

「だからウィング、そんな前のめりになるなよ。ただの偶然ってこともあるんだから。その方向性も頭の片隅に置きながら、捜査していこうぜ」


ユハは昼11時頃になっていること宿舎の魔時計で確認し、『カフェ』にそろそろ行かないといけないと思い始めた。


そして、一旦全体としてはバラバラになり探しに行くことを提案した。


「ネオの特性は驚異的な索敵スキルよ。大人数で動いていたら察知される率が高くなるわ。だから、それぞれが探す素振りの無いように人ごみに紛れながら動くのが一番だと思うわ。どうかしらウィング?」


「そうだな。そうしよう。ライトは都市の東側。ツリーは北側。ストーンは西側。アスクは南側。俺はダンジョン付近を張ってみる。ユハはどうする?」


「私は諜報部隊と連携を取るわ。何かあったら諜報部隊を使って連絡を取るようにさせるわ」


「分かった。じゃあみんな、スリーとスカイの命の危機だ。なんとか探してくれ!頼む!!スリーとスカイを皆で救おう!」


そうして勇者パーティはそれぞれの場所に散っていった。








ユハは以前、4人で行ったカフェに向かって歩いていた。走るような不審な動きをしてネオに見つかるのを避けるためだ。


目的地のカフェから約100メートルのところにある違うカフェに入り、そこから客を装いスリーが来るのを待った。


カフェの周りにも何名かの精鋭の『根』のメンバーも客を装いながら待機させ、何かあればネオとスリーを制圧することを想定しての配置であった。またスリーと同様にネオも来ていればまた撒かれる可能性を考え、特に索敵スキルが得意なメンバーを選抜して今回の任務に着いている。


ユハは今回の件が一体どこで破綻したのかを深く考察し始めた。


スリーとスカイがこのパーティを脱した。このパーティよりもネオたちの方を優先した。


スリーとスカイの繋ぎ止めにウィングを当初充ててみたが失敗に終わっている。ウィングを理由に彼女たちはこのパーティには残らないだろう。だから、色んな王国の貴族たちや騎士たちを繋ぎ止めに使ったが、梨の飛礫であり功を奏しなかった。ここの人選ミスは大いにあった。


彼女たちの正義感に訴えて、『魔族討伐』の大義を掲げて迫ったのはある程度良かった。彼女たちも意識を持って訓練に取り組みヒト族国の為に活躍してくれた。


しかしスリーの想い人が元橋だったとは・・・。失敗した。サリア姫が元橋の追放をより説得力のあるものにするために、元橋の異常性を証明するために殺人者認定を貼ったが、それがダメだった。スリーは自分の元橋への想いを周囲に言えなくさせてしまっていたのか。それで彼女を追い込み、打ち明けられない心配が常に彼女の心を不安定にさせていた。しかし、誰がそんなことを想像できるのか・・・。


しかしそれでもスリーは3層での激闘をネオと共に乗り切り、ネオに好意を寄せるに至っている。不思議だ。なぜ突然の心変わりが・・・?


『カフェ』を監視しながら思考に没入していき、1時間経過した。




昼12時頃となったが、まだスリーの姿はいない。まだ時間としては指定された昼間だ。


(もう少ししたら来るだろうか)




しかし時間が更に経ち、12時半頃となった。




(まだ来ない)




まさかこちらの潜伏に気付いたのか、との考えが脳裏を過ぎる。ネオが一緒なのだ。もしかしたら私たちの動きを察知して来ないのかもしれない。


どうするべきか・・・


こちらを察知して逃げたと考えてもいいだろう。他の方法を考えるか・・・


スリーはアスクと接触したがっているのであればアスクを監視すればいい。



そう次善策を練っていると、スリーの背格好によく似た人物がカフェ内に入っていた。


(スリーか!?)


ハンドサインを送り徐々に包囲を狭めた。


ユハはカフェに入り、スリーが座っている席の前に座った。


「こんにちは」


「ユハさん!どうしてここに・・・?」


ユハは胸中でほくそ笑みながら、驚いたような表情は作り話し始めた。


「偶然かな。スリーがここに来るかな~、と思ってここに来てみたら、スリーがいたからビックリしたわ」


「・・・」


「ねぇ、もう落ち着いたの?ネオの所には行けたの?」


「・・・」


「受け入れてもらったの?無理だったんじゃない?」


「・・・あなたに話すことはないわ。偶然にこのタイミングで来れるなんて嘘だわ。アスクはどうしたの?」


「分からないわ?何のこと?それより話しない?」


「ごめんなさいね。あなたとは話すことは何も無いわ。あまりにもお互いの立場の違いがあり過ぎるから議論は平行線よ。あなたたちも『魔鉱石』を目指しているのでしょ?私たちも目指すから、それまでお互い不干渉でいかない?」


「ネオとスカーレットは私たちのパーティとは探索を続けてくれるのよね?」


「それはネオとスカーレットに聞いて。私は知らないわ。私とスカイはネオとスカーレットと一緒にダンジョンに潜るから」


「転移魔法陣もなく、どうやってダンジョンアタックを続けるの?死ぬつもり?」


「それは私たちが心配すること。あなたが心配する事ではないわ」


「そうね。けどもごめんなさいね。あなたをこのまま行かせるわけにはいかないの」


「どういうこと?ここで私を拘束でもする?」


「そうね。一旦ゆっくりと冷静に話をしたいかな」


「ユハさん。ごめんなさいね。私はアスクと話したかっただけなの。ユハさんとはもう少しお互いが落ち着いたら話をした方がいいと思うの。お互いの為にね。今日は帰るわ」


「帰れないわ。ここであなたを拘束します」


「さよなら」


そう言って、美幸はカフェの外へと飛び出した。そこは大きな通りなのだが、明らかに大通りの人々の流れには乗ってはいない人たちが5~6名、こちらにゆっくりと歩いてきていた。


後ろからはユハが近づいてくる。


「スリー、ここからは逃げられないわ。大人しくしてくれないかしら」


「ごめんだわ」


そう言って美幸は大通りを人ごみの中を走り出したが、目の前にはスラッとした長身で長髪の、普通の市民の出で立ちのエルフが立ちはだかった。


「スリーさん、ここは通さない。あなたはこの場で騒ぎを起こしたくないでしょ」


「あなたもね」


そう言って美幸は更に加速してそのエルフの横を走り去ろうとした。予想外の速度の上昇に驚き、前に立ち塞がることができず、そのエルフは美幸の体の側面に針を立てるようにして針の暗器を放った。


グサッ!


「グッ!!」


鋭い痛みが体の側面部に走った。その針の先には麻痺毒が塗られている為、直ぐに動けなくなるはずであった。


しかし、美幸は走りながら回復魔法を体にかけて針を抜き、走り去っていった。


「ちっ!!!止まらないか!聖女も伊達じゃないか」


他の『根』のメンバーも走り出し、スリーの後を追った。


ユハはすぐに近くの『根』の肩に手をかけ指令を与えた。


「私はスリーを追いかけるから、この近くにいる勇者パーティメンバーを呼んできて」


「了解」


美幸は魔力を体に纏い走りながらデトックスを体にかけ解毒し、リジェネを体にかけ体全身にかかる疲労を一切消した。そして全力疾走で走り続けていった。


追い付こうと必死に走る『根』たちは美幸の見事な体捌きと動きに驚愕した。


(は、速い!!回復魔法師のくせに、何て言うスピードだ!人混みの中にも関わらず、全然速度が落ちないぞ!)


『根』たちは全力疾走の美幸を追いかけるも、どんどん距離を開けられる美幸の背中を見ながら毒づいた。


美幸はある店の外に置きっ放しになっている箒を手に取り走り続けた。


(ごめんなさいー。ちょっと借ります。これなら武器所持としては止められないわよね。掃除の為よ)


と心の中でその店に謝りながら、全力で走っていった。


美幸は今まで様々な戦闘を経験する中で、身体能力を発達させ、魔力操作も上達していた。しかも全国の治療行脚や実戦の中で回復魔法などを使い続け、彼女の魔力量は300倍へと跳ね上がっている。普通の諜報部隊員では追いつけない実力を美幸は持っていたのだ。しかも、今まで公で使ってこなかった魔力量と魔力操作で、『根』にとっては未知の速度で走っていったのだ。


しかし


「私からは逃げられないわよ」


ユハは美幸の進行方向を読み、最短距離で美幸のところまで疾走していた。


横からの気配が近づいてきている事を察知して、美幸は目の前の細く暗い路地に走り込んでいった。しかし残念なことに、そこは袋小路になっており逃げられない状況だった。


美幸は振り返るとそこにはユハがゆっくりと歩いてきていた。


「さぁスリー、逃げられないわよ。観念して話をしない?私の仲間も後ろから付いてくるわ。勇者パーティも直にここに来るわよ」


「じゃあ全員が来る前に押し通るまでよ!!」


美幸は箒の穂先を下にし、柄の部分をユハに向けた。そして魔力を箒に大量に流し強化させて、右手に箒を持ちユハに向かってダッシュした。


「私もただの支援系職ではないわよ!舐めないで!」


ユハは足を肩幅ぐらいに開けて、美幸の突進に備えた。


美幸は右にステップを踏んだ後に、高速で左にステップを踏んだ。そして更に右へと高速で切り返した。美幸はその勢いを落とさず逆袈裟切りでユハの顔面に向けて箒を打ち付けた。


予想外の美幸の動きの為、彼女の姿を見失いユハの反応は遅れ、美幸の打撃はユハの顔面に直撃。数歩後ろに後ずさるが、美幸の勢いは止まることなく、跳び膝蹴りがユハの胸部に刺さった。


「ウグッ!!」


(スリーがこんな風に動けるなんて信じられないわ!この子、今まで全力を出していなかったんじゃないの?!今まで後衛にいて、実力を隠していたわね!)


ユハは横に吹っ飛ばされ、壁に激突した。


「これでも剣道部歴は長いのよ」


美幸は先に進もうとするが、ユハは倒れながらも後ろから針を投げ、その針は美幸の太股部分に深く刺さった。針の先には筋力弛緩毒が塗っており、動きが緩慢になるはずだった。しかし


「痛ッ!!く・・・、けど、さっきから針を多用しているけど、針は使えるのね。暗器だから今のエルフ国内でも隠し持てるんだ。けど残念ながら効かないわ。治療行脚の時に解毒は死ぬほどやったからね」


そう言って太股裏の針を抜き、回復魔法をかけて再び走り出していった。


(くそ!!回復魔法ランクSSSは伊達じゃないわね!)


そう心の中で愚痴り、動き出そうにも先ほどの打撃が脳を揺らしたせいで足が動かない。


(油断した!まさかいつも後衛でやっているスリーがこんなに動ける機動力を持っているなんて!)


美幸が路地裏から出ようとするが、目の前には後ろから追いかけてきた5人の男女の『根』のメンバーが立ちはだかった。


「うまくは撒けないか」


美幸は一足飛びで1人の『根』に近づき素早く脳天への打撃を繰り出した。1人の『根』は美幸の動きを全く視認することができず、頭を強打。一瞬で1人を無力化した。しかし他の『根』たちは冷静に連携を取り動き出した。1人は端が輪っかになっているロープを、うまく美幸の左手首辺りを引っ掛け縛った。


美幸はそのロープを引っ張ろうとするが逆に引っ張られ、そのエルフの男のところに引きづられそうになる。しかし、その勢いを利用して、美幸は跳躍しその『根』の喉に箒の柄を突き刺した。


「ぐあっ!」


喉が潰されて息ができない状態に陥りつつも、その『根』は反撃の殴打を放とするのだが、美幸は油断なく胸部辺りに強烈な打突を放ち、その『根』を昏倒させた。


一連の動作が終わり隙を見つけて、周囲の『根』たちが一斉に3方向から美幸の首、背中、足首に針を放ち突き刺した。


「痛ッ!!」


強烈な痛みで美幸はその場で蹲るが、美幸は上空から襲い掛かろうとした諜報部隊員を察知し、箒の柄で叩きつけ吹き飛ばした。他の隊員たちも追撃の為に美幸に飛び掛かるが、美幸は軽く回転して避けられながらその一人の隊員の体を掴み、もう一方の隊員に向かって投げ飛ばした。二人の隊員たちはお互いに頭部と頭部をぶつけられ、その一撃で崩れ落ちた。


美幸は首筋、背中、足首にあった針を抜き地面に投げ捨てた。この戦闘中はずっとリジェネが掛かっているので、どんな攻撃のダメージも瞬時に治っていくのだ。デトックスをかけて解毒し、周囲を見渡した。追ってきた諜報部隊員たちは全て無力化した。


(さぁ戻るとしますか)


直ぐに離脱しようとしたが、自分の周りが暗くなり大きな影が差したのに気付いた。



ハッと後ろを振り返ると、そこに大きな体躯を持った、丸坊主の筋肉隆々の男が立っていた。



「なんだ、これは?」




スリーの目の前にライトが出現した。


「ら、ライト!!??」


「よう、スリー。どうしてこんなところでケンカしているんだ?しかもエルフたちがぶっ倒れているじゃないか」


美幸をジロジロと見るライトに対して、美幸は警戒した。


「ライト。話を聞いて。おかしいわよ、このユハと彼女の組織は。私たちを守るはずのユハが、私を襲おうとしているの。しかも毒を使ってよ。私を殺す勢いで止めようとしているわ」


「それは、お前が止まらないからだろ?まず俺たちにもしっかりとした説明をすべきだと思うぞ。何もなく出て行くのはまずいだろ?」


「ごめんなさい。手紙は置いておいたんだけど、また落ち着いたら説明しに来るって言ったけど、手紙では足りないわよね」


「手紙??何のことだ?誰宛だ?俺宛か?ウィング宛か?」


「??何言っているの?私の部屋に置いておいたでしょ?」


「そんなものは知らん。お前の部屋に入る前にお前を探しに行ったんだ。とにかくスリー、お前は一旦止まれ。止まらんと力づくで止めるぞ」


仄かに殺気を放ったのを感じて、スリーは後ずさり箒を地面に投げ、両手を挙げて交戦の意思が無いことを示した。


「さて、私はもう止まっているけど、私の話は聞いてくれるの?」


「さぁな、とりあえず、スカイはどこだ?俺はお前もいなくなったのも驚きだが、あいつもいなくなったのに一番驚いているんだ。スカイの居場所を教えろ」


「ライト・・・、あなた、スカイのことを心配しているの?」


「まぁそんなところだ。スカイは今、どこだ?」


「ライト、ちょっと落ち着いて。私、さっきユハたちから攻撃を受けたんだけど・・・」


「俺も気は長くない。もう一度聞くが、スカイはどこだ?」


「スカイは・・・」


そう言って、美幸は首を横に振った。


「分からないわ。自分で調べて。ユハさんに聞いたら分かるかも」


そう言って、美幸は再び走り始めようとした。


「ちっ!」


ライトは一瞬で美幸の目の前に現れ、彼女の腹部にボディブローを突き刺そうとした。ライトの拳打の直撃を避けようとし地面の箒を拾い防御しようとしたが、魔力で覆っているのにも関わらず箒は破壊され、拳がそのまま美幸に向かってきた。


若干速度の落ちた拳打の直撃は辛うじて避けられたが続く蹴撃は受けざるを得ず、腹部に中段横蹴りが突き刺さった。


「あぁぁく!!」


ガッシャー―――ン!!


路地裏の奥のフェンスに激突した。美幸の顔には苦悶の表情が滲み、口から血が流れる。今の中段蹴りで内臓のどこかが損傷した。しかし直ぐに回復魔法が効き始め内臓のダメージは完治した。失った血は戻らないが、まだ痛みやダメージが無いのが救いだ。


しかしそれでも美幸は逃げるように再び走り出し、フェイトを織り交ぜた動きでライトと壁の狭い隙間を狙って滑り込もうとした。しかし、ライトは高速で動き回る美幸の進行方向を巧みに塞ぎ美幸の下顎を蹴り上げた。


「くは!!!!」


痛みはあったがリジェネの効果でダメージは、すぐに回復した。しかし当たった時の勢いはキャンセルすることはできないので、美幸は後方へまた弾き出された。


(まずいわね。腕力では彼には敵わないし、スピードでも圧倒的にライトの方が速いわ)


空中を飛ばされながら、地面に手をつき一回転して勢いを止めて地面に着地した。直ぐに立とうとしたが後ろから突如現れたライトに組み敷かれ、腕の関節を極められた。


「がッ!!」


「お前もタフだな。いやお前の回復魔法か。よく俺の攻撃にも対応できるな。さっきの俺の攻撃を喰らっていても意識があるんだから、お前の回復魔法はかなりの威力だな。なぜそれを今まで使っていなかったんだ?お前もネオと同じく裏切者なのか?それともただ洗脳されているのか?」


「洗脳?なんのこと?まさか私がネオに洗脳されているとかいう話になっているの?全く違うわよ!そもそも王国の陰謀でしょ!」


「お前が俺たちの話を無視して逃げようとするから、洗脳とか言われるんだ。冷静に話をしろ。話を」


と言いながらライトは小枝を折るように美幸の腕を折った。


バキッ!!!


「きゃーーーー!!」


「じゃあ、もう一本だ」





と言い終わる前に、目の前に妙な少年が現れた。





「誰だ・・・?あぁ、ネオ、お前が来たか」




「はい、ちょっとスリーさんが帰るのが遅いからどうしたかと思ったら、こんな路地裏でスリーさんは、ライトさんに組み敷かれているとは。何をしているんですか?」


「お前がスリーとスカイを拉致ったのか?」


「拉致る???相当な誤解ですね。彼女たちが僕の所に突然来ただけですよ。これから同じパーティとしては動く予定ではありますが」


「スカイを返しな。お前には過ぎた女だ」


「彼女もスリーさんも大人の女性です。返す返さないとかで語る人たちではないでしょ。僕に言うんじゃなくて、本人たちに言ってください。本人たちが出て行くのであれば、僕は関与しません」


「御託はいい。スカイはどこだ?」


「さっきも言いましたが、みなさん大人の女性です。いちいちお互いの行動は関知しませんよ。ご自分で調べてください」


「わかった・・・、じゃあお前の言う通り、自分で調べることにしよう」


と言って、スリーのもう一本の腕を折り、スリーの頭を地面に思い切り叩きつけた。スリーは苦悶の表情をして沈黙した。(しかしすぐに回復魔法で治療したので、痛みはあるがやはりダメージは無かった)


沈黙したスリーの様子を見て、彼女をそのまま地面に伏せている状態であると思い、ライトは次にネオに向かっていった。


「お前には手加減はしねぇぞ」


スリーが一瞬ネオを見た。一瞬ネオと目と目が合いスリーの無事を確認したネオは、ライトの横をサッと通り抜けて、倒れているスリーを片腕で抱えた。




「なっ??!!」




ネオの動きがあまりに速かった為、ライトはネオとスリーの接触を止めることはできなかった。


「すいませんが、僕たちは今から野暮用がありますので、ここで失礼しますね。ライトさんたちもご機嫌よう」


と言ってネオはスリーを抱えながら、ライトに向かって歩いていった。


「お前なめてんじゃねーぞ。逃がすか!!」


超高速の打撃の嵐がネオとスリーを襲った。


後ろから見ているユハは、ライトの出現でネオとスリーの確保は確実であろうと安堵の表情で見ていたが、目の前には驚くべき光景が繰り広げられていた。



ライトの攻撃が全く当たらないのだ。


(な、なんなんだ!!??こいつは!?全く当たらない!!)


ライトは内心で焦った。ライトの超高速の一撃一撃がネオに当たったかと思うと、一瞬でその打撃がいなされて行っているようにも見えるし、もしくは当たる一瞬前に回避しているようにも見える。


(当たっている。確実に奴の体には俺は触っているんだ。触っている感触もある。しかし、当たらない!!ダメージが通らないんだ!!こいつの回避スキルは化け物か!!??)


(12層の猿よりかは遅いな。あの時は目を瞑ってあの猿の攻撃を避けていたが、今は魔力で周囲を把握できる状態だから、ライトの攻撃は当たる気がしない)


そう思いながら、暴風のような嵐の打撃を紙一重で躱し続けた。しかも、スリーを脇に抱えながらだ。


(この子、回避能力が圧倒的だわ。ライトの一撃必殺の攻撃が手玉に取られているわ。こ・・・これほどの能力を秘めていたなんて・・・)


(と、思われていると困るので、一撃ぐらいは喰らっておこうか。今後ヒト族国で活動するのに変な情報が伝わっているとやりにくいしな)


ネオはそう思い、ライトの一撃をネオの右腕に炸裂させた。





バーーーーーーーーーーーーーー―――――――――ン!!!!!!!!!






ネオの右腕の骨という骨が粉砕し、筋肉も脂肪も全て破壊された。ネオの右腕は辛うじて皮だけで残っているような状態になった。ネオは唸った。



「グッ!!!」



「へっ、やはりな。回避だけに特化している分だけ装甲は紙だな。逃げるのだけは上手いようだが、一撃でも当たらればお前は死亡だ。恐怖を味わいながら逃げ回りな!!!」


ユハはホッと胸を撫でおろした。


(やはり、ネオの戦闘能力がゼロだというのは本当ね。このままライトが押し切れば制圧できる。ネオも馬鹿ね。ライトに楯突こうなんて)


(と、思ってくれていたらいいな。さて、もうここからは離脱するか)


「スリー」


「了解」


スリーはすぐさま回復魔法でネオの右腕を元に戻した。


「むだむだむだむだ!!!一撃でも当たれば終わりなんだよ!!」


「まぁ、その一撃が当たればの話ですがね」


と言いつつ、ネオはサッと再びライトの横をすり抜けていった。


「くそ!!!ちょこまかと!!」


「逃がさないわ!」


ユハが路地と大通りの境に立ち塞がった。これでユハとライトで、ネオとスリーを挟み撃ちにしている形となっている。


「ちょっと急ぎますので。話ならまた落ち着いてからって、スリーに言われませんでしたか?」


とネオはユハに語り掛け、ユハが持てる針を全て持ち、ネオとスリーに放った。


しかし、その場にはもうすでにネオとスリーはおらず、ネオはユハの頭上を悠々と飛び越え、人混みの中に消えていった。

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