78 スリー・スカイ奪還に向けて

太陽の光が窓から入り、部屋が明るくなっていた。起きると既に太陽が昇っており、窓から聞こえてくる活気のある声が聞こえてくる。冒険者たちの朝は早い。ベッドの横にある魔時計を見ると、もうすでに8時になっている。


「ふあぁ。なんかよく眠れたなぁ。もう8時じゃないか。なんで誰も起こしてくれなかったんだ。というか誰も起きてないのか?」


ウィングは身支度を整え、1階のロビーに出た。普段であればそこにスリーとスカイ、そして他のパーティメンバーがすでにテーブルについており「おはよう」や「おう」とかとこちらに向かって挨拶してくれるのだが、今日はまだ誰もいない。


「珍しいこともあるもんだ。俺が他のみんなよりも早く起きるなんて」


テーブルにつき、所在なげに周囲を見渡した。ちらほらと宿泊客たちが談笑しながら、今日の予定を話し合っている様子が見える。ウェイトレスが近づいてきて「何かご注文されますか?」と聞いてきたので、いつもの朝食を頼み、他のメンバーが降りてくるのを待つことにした。


朝食が運ばれてきて食べ始めてから10数分経つと、ユハが1階ロビーに降りてきた。その後をぞろぞろと他のパーティメンバーも続いた。


ユハ「情けないわ。こんな遅くに起きるなんて。昨日はスリーとネオの探索で疲れ切っていたのかしら。おはようウィング。何時に起きたの?」


ウィング「俺もさっき起きたところさ。あれそういえば、スリーはどこにいるんだ?みんなの中にはいないようだが」


ライト「まだ自分の部屋で寝てるんじゃないか?昨日は大変だったからな。もう少しゆっくり休ませてやりたいところだが、もうそろそろ出発もしないといけないしな。アスク、起こしてやってきてくれ」


アスク「了解。ちょっと待っててね。すぐに行ってくるわ・・・」


と歩き出そうとした時、強烈な違和感がアスクの中で生まれた。


「ってちょっと待って!なんでこんな和やかに話をしているの!?二人はネオの所に行ったのよ!!」


ウィング「はぁ!?何を言っていん・・・だ・・・。そうだ!!!なんでこんな大切なことを忘れていたんだ!」


ユハ「たしかに・・・ほんとだわ!!おかしいわね。そんな大切な情報が頭からすり抜けるなんて・・・確か最後にスカイが歌を歌っていたのを覚えているけども。あの子のスキルで、そんな効果あったのかしら」


アスク「知らないわ。そんなスキル・・・いや沈静化?いや人の気持ちを落ち着かせるとは聞いているけど・・・」


ライト「もしかしたら、スカイの奴、自分の力を隠していたのか・・・?くそ!どうしてネオの所へ行ったんだ!?全く意味が分からんぞ!」


ウィング「ユハ!お前が最初に話をしていただろう?!何を話していた?どうして行かせた!?」


ユハ「ちょっと、ウィング怒鳴らないで。あぁ、だんだんと記憶も戻ってきたわ。


私は反対したのよ。勇者パーティを抜けてのダンジョン探索は死亡率が格段に上がるわよ、って言ったわ。けどもネオ君と一緒にいたいって。ちなみに私は彼女を『行かせて』はいないわ。スカイのスキルで『行ってしまった』というのが正解よ。勘違いしないで」


ライト「スカイは最終なんて言っていた?」


ユハ「あの子は本当に不思議ちゃんね。皆も聞いていたでしょ。『スリーに付いていく方が面白そうだからスリーに付いていく』って言ったのよ。有り得ないわ」


ライト「何故そこで止めなかったんだ」


ユハ「だから・・・、ライト、あなたも分かっていてその発言をしていると思うんだけど、私もあなたと同じ情報量よ。なんでも私に当たらないで。私はあなたのお母さんじゃないのよ」


ライト「そんなことは言っていない!お前が最初にいたんだから二人の状況をより詳しく状況を知っていると思うのは当然だろ!」


ユハ「私も皆と同じタイミングでスカイがロビーにいたことを知ったんだから、同じ情報量でしょ?何で知らないの?」


ライト「そんなものは知らん。今の会話でお前が役に立たないということは分かった」


ユハ「は?それ、どういう意味?」


ウィング「ライト、ユハ!!もう、いい!!うるさい!!!黙れ!!お前たちが言い争いをしている場合じゃない!!そんなことより、スリーとスカイが不可解な行動を起こしているのが一番の問題だ!間違いなく正常ではない。もしかしたらネオの隠し持っているスキルで意識誘導をしているのか洗脳している恐れがある。これは非常にまずい状況だ。ユハ、ネオとスカーレットが泊っている宿舎は分かるか?」


ユハ「分かるわ。郊外にある宿舎よ。直ぐに行くの?」


ウィング「あぁ。二人が危ない。もしかしたら隷属されているか、もうすでに殺されている可能性がある。助け出さないと。二人がいないとそもそもダンジョン探索はできないからな。ネオ、あいつ・・・。とうとう牙を剥き出したな。俺はずっと怪しいと思っていたぜ」


ユハはウィングの勝手な解釈に内心驚嘆しながらも、そこまで考えられるウィングの才能に頭が下がる思いだった。ユハは心中でほくそ笑んだ。

(まぁ、そういう見方は有りね。ここはウィングの話に乗っておきましょうか)


ユハ「そうね。直ぐに向かいましょう。ネオの宿舎へは先導するわ」


その時ユハの脳裏にスリーとの会話の一部が脳裏を掠めた。


『ちょっと私も自分勝手な行動だな、と思っているから、誰も納得させられる自信がなかったの。だから先に抜けて落ち着いてから、詳しく説明しに戻ろうかと思っていたのよ。あ、手紙は私の部屋に置いてあるわ。日本語だからパーティメンバーたちは読めるから』


(『手紙』・・・まずいわね。あまり変な情報が勇者パーティに伝わると良くないわ。けどもその手紙はみんなに宛てての手紙。私も知っている前提の内容なら、まだそこまでおかしな事は書かれていないか・・・)


そう考えていたユハに、フロントから従業員が声をかけてきた。


「失礼いたします。ユハ様、少々お時間よろしいですか?」


ウィングは間の悪い従業員だ、と内心毒づいた。


「すまない。今、一刻も猶予もない状況なんだ。また帰ってくるから、後でいいか?」


ユハはウィングを手で制して従業員と話を受けることにした。


「ウィング、ちょっと待って。たしか、スリーとスカイは落ち着いたら帰ってくる、とも言っていたでしょ。もしスリーとスカイがここに帰ってくる可能性があるわ。フロントに言付けを頼んでおきたいとも思っていたのよ。従業員さん、こちらからも少しよろしいですか?」


ウィングはユハの気の利いた配慮に理解を示すが、苛立ちながらユハに言った。

「なるほど。それは分かったから早くしろ!」


ユハは従業員とフロントまで来て話をし出した。声はできるだけ落として話し出した。

「何かしら?」


「スリーからは言付けがある」


「なに?」


従業員からは1通の手紙をこっそりと渡された。

「これは?」


そう思い、手紙をフロントの所で広げた。

「読めないわ。なんて書いてあるの?」


「早朝スリーがホテルに来てこの手紙を『必ずアスクだけに渡すように』と言われたんだ。日本語で書かれている。日本語が分かる『根』に解読をさせたが、『昼、カフェで みゆき』と書かれている」


「なるほど。で、後は追った?」


「いや、途中で見失った」


「くっ!ネオね。あの子の索敵スキルは半端ないからな」


ユハは手紙を掴み、手の中でその手紙を潰した。


そして、少し大きな声で話をした。

「スリーとスカイ二人、が帰ってきたら、私たちはこのホテルで滞在しているから待つように、と伝えてもらっていいかしら」


「承知いたしました」


ユハが振り返ると、勇者パーティーメンバーたちはユハの先導を待っていた。


「ユハ、どうした?えらくフロントと話し込んでいたな。何かあったのか?」


ユハはウィングに近づき耳元でささやいた。


「私たちが長い期間泊っているんだけど、ここ2~3日間の宿泊代の支払いが滞っているから、支払いをお願いしますと言われたの。私の失敗よ。ごめんなさいね」


「こんなタイミングで言わなくても・・・」とウィングはタイミングの悪さに苛立った。


「みんな生きるのに必死ってことよ。じゃあ行きましょう」


そう言ってユハは皆のほうに向き直り、出発の号令をかけた。その後を勇者パーティは続いて行った。

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