77 三原と赤石

(何をしに来たんだ・・・この子たちは・・・)


夜はすでに3時頃。魔時計を確認して明らかに他の人の部屋を訪れていい時間帯ではない、ましてや他の男性の宿舎の部屋は決して有り得ない。


しかも来たのが三原さんだけならまだしも、赤石そらさんまで来ている。何がどうなっていることやら・・・。


「ネオ、これはどういうこと?」


横でスカーレットがゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてくるような表情で、俺にこの2人の美少女の深夜の来訪を疑問視している。


(スカー、怖いからそんな目で見ないで・・・汗)


「さ、さぁ・・・。とにかく事情を聞いてみようか。えーと、スリーさんとスカイさん、どうしてここに?ご用件は?」


美幸は既に全ての状況を伸城もスカーレットも分かっているのは分かっているが、誰がどこで聞き耳を立てているか分からない状況で何を話していいものかと思い、スカイを見るとスカイと目が合った。スカイはその美幸の心情を直ぐに汲み取り、口を開いた。


「私たちのパーティがよく使う方法で『魔力遮断』というのがあるんだ。私は歌を皆に届かせることもできるし、逆に届かせないようにすることもできるようになったんだ。もともとは魔力で音声を響かせることしかできなかったけど、スキル向上に伴って人の魔力の指向性もコントロールできる。よく私たちの中で外部に漏れたら困る会話の時は魔力で会話をして、それが外に出ないようにしているんだよ」


と言って、スカイはこの部屋の中の魔力をこの部屋内のみに留めるようにスキルを発動した。


ネオは早速、魔力で言葉を飛ばした。

「なるほど便利だな。スカイさんにはこんな力があるんですね」


スカイはまずは状況の大前提の設定から始めた。

「えーと、おそらくネオ君を取り巻く、今の状況はもう既に美幸から聞いているから、ここからの話は全部状況が分かっている前提で話してもらっていいよ。あ、勘違いしないで。私は伸城君に付いてきたいからここにいるんだよ。もう勇者パーティに戻る気は無いよ」


俺は今の赤石さんの言葉に驚いて三原さんを見た。

「三原さん、全部しゃべったの?」


「ごめんなさい。もうほとんど赤石さんは自分で伸城君の事も察知していて、自分でネオ君の事を伸城君だと分かっていたわ」


「そうか・・・やっぱり勇者パーティと一緒にいるのは、昔の関係もあるからバレるリスクがそもそも高かったよな・・・失敗だったか」


(赤石さんがここにいる意図がどこにあるか分からない以上は、これはやはり最悪、赤石さんを殺さなくてはならないな・・・それはできるだけ避けたいんだが・・・)


俺は意を決して赤石さんに正対した。

「赤石さんはどうしてここに?」


そらもこの質問の答え次第では今の伸城が置かれている状況を考えても、そらの生死を決する重要な質問であると感じ、緊張しながらも徐に口を開いた。


「結論から言うと、私ね、やっぱり伸城君が好きなんだよ。だからここに来たんだ」


「それは唐突だな。俺も赤石さんにそういうことを言ってもらえて嬉しいが、この局面で赤石さんが何の意図があってその事を言っているか分からない」


「そうね。分からないよね。けども、私も美幸も他のクラスメイトもそうだけど、この世界に来て、躊躇することはもうダメなんだ、ということを実感しているの。


この世界ではいつ死んでもおかしくない。いつ理不尽に自分たちの人権を蹂躙されても文句はないんだ。力が全てであり、正義は悪の前に平伏す事は珍しくも何ともない。


ヒト族の人達も自分たちのことだけ考えているよ。魔族も同様。エルフ族国の状況もかなり混沌としているよね。この中で自分の思いを抑えて生きているのはダメなんだと思ったんだ。


伸城君、あなたの事をずっと見ていた。高1の文化祭の時から、ずっとね。目立たなかったのかもしれないけど、貴方の人柄と振舞に惹かれていったよ。誰も見ていないところで人の為に苦労して、誰も気付かれなくても人に親切にして、誰も傷つけないように振る舞い、誰も損をしないように行動していたのは気付いていた。あなたは仮に自分が多くの損を被っても人を優先した。


あなたは知らないかもしれないけど、私はじっと見ていたんだ。

それで、本当に私が一緒にいたい人は、こういう男の子だな~、とずっと思ってた。


こっちの世界に来て、私も多くの貴族の人たちに言い寄られてたんだよ。みんな表面だけ。薄っぺらい人たちばかり。栄誉だけを求め、人からどう見られることだけに固執し、自分が貫くべき信条なんて一つもなかった。私の事もステータスの一つか何かと思っていたよ。


あなたは死んだと思ってた。だからもう諦めていた。


けども伸城君、あなたが生きている事を知った。


だからヒト族の未来よりも、私はあなたとの未来を大切にしたいと心の底から思っているんだ。躊躇するだけ意味がないの。


だから、私もあなたと一緒にいたくてここに来たわ。どうか私も受け入れてほしい」


「・・・」


俺は何か夢でも見ているのか。


赤石そらといえば、学園の最も輝かしい女子生徒だった人物だ。


彼女の歌声を聞いた人たちは皆、赤石そらに恋をしたと言っても過言ではない。

文化祭のあの野外ステージでの歌声は、圧巻の一言だった。


彼女の人柄に触れた人は皆、赤石そらに魅了されたと言っても過言ではない。

文化祭実行委員として活躍した彼女の苦労は、見事の一言だった。


そんな彼女が俺を目の前にして『俺と一緒にいたい』と言っている。


しかし、それで済まないのが今の状況だ。


「赤石さんにそこまで言われて嬉しいと思わない男子はいないだろうが、赤石さんは分かっているのか?俺の今後の動きを。俺の最終的な目的を」


「えぇ、美幸から聞いたわ。ヒト族国への復讐よね。賛成よ。あの国の王族はみんな消えていった方が人類益にもなると思う。私たちの人生をめちゃくちゃにして、それをずっと繰り返しているのよね」


「今、この場に三原さんと赤石さんがいるということは、ユハはなんて言っていた?」


「ユハは大反対だったわ。今までの恩はどうするの?って感じで迫ってきたけど、お門違いよね。そっちが勝手に渡した恩を返せ、というのは恩着せがましい話だと思うわ」


スカーレットは横から一歩前に出て言い放った。

「三原さん、赤石さん。あなたたちが私たちと一緒にいることで、これからヒト族は私たちを追ってくるでしょう。その迷惑は考えなかった?私とネオには、まずは『魔鉱石』採取の戦いがあり、その後には魔族との熾烈な戦いが待っているわ。そしてその後にはエルフ族の平定の為の戦いがあるのよ。あなたたちの保護までできないわよ。あなたたちはまだ奈落の底3層に届くぐらいの力しかなかったのよね?私たちの力で7層まで到達したけど、あなたたちのネオへの想いだけで、ネオの所に来るのは迷惑よ。それは考えなかったの?」


痛烈な言葉だった。


たかだか二人の少女の想い人へ募らせる思いより、もっと大きな歴史のうねりの中で俺たちはいる。その思いと、膨大な数の人たちの安穏と平和を天秤にかけた時に、二人の想いを優先する法はない。こんな世界だからこそ、人の想いなんかすぐにそのうねりの中に飲まれていくのだ。人権尊重なんて存在しないこの世界で、自分の想いをくみ取ってほしいというのは我儘すぎる。スカーレットの発言は、至極真っ当な意見だった。いや、むしろ二人の命を最も大切にした優しさに溢れた言葉でもある。


「分かっているわ」

「うん、分かってるよ」


三原さんと赤石さんは、二人とも今のスカーレットの言葉は重々承知しているとのことだった。


三原さんは自信を持って言った。「そのヒト族から追跡されたとしても、それを上回るメリットがあると私たちは確信するわ」


スカーレットは厳しい表情をして詰め寄った。「どうやって?」


三原「私のスキルは聖女。回復系が得意よ」


スカーレット「回復は私たちの絶大な魔力で十分賄えているわ」


三原「分かっているわ。けども私の回復魔法はSSSランクとなり、かなり進化されたの。例を言えば、


リジェネレーション:回復魔法が常にかかっている状態にする

リヴァイブ:死者を黄泉がらせる

タイムリバース:過去の状態に体を戻す

ライフ・リンク:お互いの生命をリンクさせ、一方のダメージが与えられても、そのダメージを他方が代わりに受けることができる


それにもちろん、全属性の攻撃と防御魔法も使えるようになっているわ」


スカーレット「じゃあ、私の質問はどうしてそれだけの力がありながら、3層までしか行けないのか、ということよ。それが最も重要な点じゃないの?」


三原「それは、私もそらも、自分たちの本来の力の事を勇者パーティには伝えていないからよ」


スカーレット「え?どうして伝えなかったの?」


三原「これだけの魔法が使えるとヒト族国が把握すれば、私もそらも、もっと激戦地へ送られ、他の勇者たち同様もう既に戦死していたと思うわ。先ほど聞いたら、そらも同じことを考えていたことにビックリしたけど。


そらが使う『沈静化』も今回初めて勇者パーティに使用したわ。その結果、勇者パーティを全員戦意喪失させたわ。このスキル使用後の瞬間に全員殺すことも可能な凶悪なスキルなのよ。私のリヴァイブも何年も経っているとダメだけど一日ぐらいの死者なら蘇らせることは可能よ。けども、私もそらも、自分の力は全て開示しないようにしてきたわ、王国にむざむざ無駄死にさせられないようにする為に。


称号とスキルは王国に把握されるけど、幸い実際そのスキルを使って何ができるかまでは、スキル鑑定では見えないからね」


スカーレット「・・・」


三原「ヒト族国は『勇者』を戦争の道具にしか見ていない。私がファーダムの為に治療行脚で全国を回った時、王族たちは反対したわ。後方支援より前線に行け、と。『勇者』たちはどんどん前線に送られ戦死していったわ。そんな国の為に私は、いえ、私とそらは自分たちの命を使いたくない。どうせ死ぬなら、私たちが愛する人の為に使いたいわ」


スカーレット「けども、ヒト族国はこれからあなたたちを取り戻そうと画策するんじゃないかしら?」


三原「ユハにはヒト族国とは敵対しているつもりはない、とは伝えているわ。相手側からの追跡はあるかもしれないけど、妨害は無いはずよ。魔族と戦うのはユハたちとは目的が共通ですから、『こっちに帰ってこい』とはならず『好きにしろ』のスタンスだと思うわ。そして、エルフ国平定に関しても魔族と事を構える為であれば、当分は見逃すはずよ」


スカーレット「どうする?ネオ。正直、不確定要素であることには変わりないわ」


ネオ「まぁあの国だ。自国ファーストで動くだろうし、勇者たちを『使いたい』のであってわざわざ『敵対したい』わけじゃないだろう。ある程度は好きにさせると考えていいと思う。まぁ勝負はこの1週間以内でつけるがな」


三原「どういうこと?」


ネオ「11層から竜種が出てきているから、おそらく13層が最下層だ。以前の情報なら魔族パーティは8層だっただろう。しかも探索ペースも上がっていると聞いているから、魔族たちもそろそろ13層に来るかもしれない。12層の猿共は俺が全て皆殺しにしたから、あの層は今素通りできるはずだ。魔族たちが辿り着く前に早く13層で『超高純度魔鉱石』を奪取しないとまずい。勇者パーティが色々と今後の方針なんかを考えている間に、俺たちはこの都市から脱出する。『魔鉱石』を使って本格的に魔族戦線に打って出るつもりだ」


三原「もうそこまで進んでいたのね・・・」


ネオ「そうだ。その戦闘に三原さんと赤石さんが付いてこれるならいいとは思う。むしろ、貢献してくるなら尚良しだ。ヒト族国の影響はエルフ国ではほぼないだろうしな」


スカーレット「・・・」


ネオ「あとは・・・、三原さんと赤石さんの想いは正直俺は受け入れてあげたいと思っているんだが・・・、スカー」


スカーレット「何?」


ネオ「俺にとってスカーが一番大切なのは変わらない。けども・・・、このまま彼女たちをヒト族国の手に置いておくわけにもいかないとも思う。おそらく使えるなら激戦地、使えないならその内殺されてしまうのだろう。俺は即、殺されかけたしな」


スカーレット「それで?」


ネオ「俺が彼女たちを受け入れたいんだが、スカー、許してくれるか・・・?」


スカーレット「・・・ふー、まぁ・・・、いいじゃないかしら。私が正室であることは変わりないからね。貴族の中でも種を残すために多重婚を認めるのがエルフ族の文化としてあるし、私もそういう夫婦の形は多く見てきたわ。けども私がネオの一番の寵愛を受ける立場であることはここでしっかりと確認しておくわ。いいかしら、三原さん、赤石さん」


三原「よかった・・・。私はそれでいいわ。伸城君、これからよろしくね」

赤石「私もいいわ。よろしくね、伸城君」


ネオ「ふー。とにかく一旦、この話を終わらせるとして、少し休んでダンジョンへ行くぞ。もう一分一秒も無駄にしたくない。みんないいか?」


スカーレット「もちろん」

三原「了解よ」

赤石「はーい」


三原「ちなみに、今晩は誰が伸城君と寝るの?」


それからスカーと三原さんと赤石さん3人は、今後のネオと寝る順番を話し合い、スカーと俺が一緒に寝るということで話が落ち着いたらしい。話がついた時には俺はもう既にベッドで寝息を立てていたが。

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