76 赤石そらの気持ち

高校1年生の学園祭の時、赤石そらは実行委員をやっていた。実行委員の選挙に立候補した時、圧倒的な人気で彼女は当選した。


赤石そらは、身長は低めだが、女性としての身体的な魅力を持つ学園のアイドル的存在だった。そらは学園内では目立つ存在感を放ち、瞬時に人々を惹きつける抜群の魅力を持っていた。


彼女の笑顔は明るく、誰かと話すときや困難な状況でも絶えず微笑んでいた。彼女の笑顔は周りの人々に幸福感をもたらし、親しみやすさを周囲の生徒たちは感じていた。そして、誰とでも友達になりやすく、人々に優しさと思いやりを接している姿に皆、惹かれていた。彼女の気配りと気遣いが、多くの人々に親しまれる要因ともなっていた。また容姿は抜群に美しく、それが彼女の人気を一層高めた。彼女はファッションセンスにも優れており、学園祭やイベントでいつも魅力的に見えていたが、そらの実家は古風な家柄で厳しく礼儀作法を叩き込まれているようで、普段は陽気で天然な振る舞いをしているが、その実、言葉や態度の奥には他人を尊重する心が垣間見れ、これが彼女の品位と魅力に一層磨きをかけていたのだ。


そらは学園祭の実行委員として、忙しい日々を送っていた。学校中の生徒と協力し、素晴らしい学園祭を実現させるため、毎日のように会議や作業に追われていたのだ。


彼女にとって実行委員は初めての経験で不安でいっぱいだったが、段々と段取りが分かってくると、次第に自信をつけていった。彼女は計画立てることが得意で、予算を管理し、スケジュールを調整し、ボランティアたちとの連絡を取る役割を担っていた。彼女のデスクはメモやスケジュール表でいっぱいで、忙しい日々を過ごしていたが、それでも彼女は笑顔を忘れなかった。この経験が、ファーダム国での歌姫としての活動にも大きく貢献していたのだ。


そらは夜遅くまで学校に残り、仲間たちと一緒にアイデアを出し合い、準備作業を進めた。時折、疲れがたまることもあったが、彼女は仲間たちとの協力と学園祭の成功を目指す情熱で乗り越えた。


学園祭当日、そらは実行委員として全力で動き回りました。会場の装飾をチェックし、イベントの進行を調整し、トラブルが起きた際には冷静に対応した。学生たちはそらの指示に従い、学園祭は大成功となった。


彼女の企画した学園祭の一大イベントであるカラオケ大会では、多くの生徒や来場者で賑わった。大会のステージにはプロジェクターが用意され、大きなスクリーンに歌詞が表示された。そら自身もカラオケ大会に歌手としてエントリーし、自分のパフォーマンスが大会の成功の一助になればとの思いであった。


そらがステージに上がる瞬間、会場の期待と緊張が高まった。彼女はマイクを握り、自信を持って歌い始めた。その瞬間、彼女の歌声が会場に広がり、人々は彼女の歌に引き込まれました。彼女は情熱的に歌い、感情を込めて歌詞を伝えた。


観客からは大きな拍手や歓声が巻き起こり、スクリーンには彼女のパフォーマンスが映し出された。彼女は曲が終わるまで全力で歌い、ステージから降りたときには満足そうな笑顔を浮かべた。


その後、審査結果が発表され、そらはカラオケ大会で高い評価を受け、賞を受賞した。彼女の歌声とパフォーマンスは多くの人々に感動を与え、学園祭の一大イベントであるカラオケ大会は大成功となった。


そらは学園祭での実行委員の仕事とカラオケ大会でも輝いた瞬間を迎え、多くの人々から称賛を受けた。彼女の情熱と才能は学園祭を特別なものにし、多くの生徒たちにとって思い出深い瞬間となったことは間違いなかった。


学園祭が終わった後、そらは疲れ切った体を感じながらも学園祭を成功に導いた陰の人たちへの感謝の思いを伝えたいと思い、ある男の子を探した。


実は学園祭の実行委員として、そらが多忙な日々を過ごしている中で、学園祭当日2日前が、大雨の予報となり、カラオケ大会の為の屋外ステージの音響機材が濡れるのを防ぐために、急遽防水対策を施す必要が出てきた。


そらはパニックに陥りそうになった。百台ほどの大小の機材だ。何をすればいいか混乱を極めた。しかし、その時音響担当の裏方の一人の男子生徒が「とにかくやらなければいけないことは、やるしかないんだから早くやろう。大丈夫だよ。まだ雨は明日の夜の予報なんだから十分間に合うよ」と周囲に優しく声をかけ、黙々と音響機材にビニールを被せ始めた。彼のその落ち着いた態度と指示で、周囲は落ち着きを戻し、皆で協力して効率的に作業を進めていったのだった。


次の日の夜、少しの雨が降ったが大きな機材トラブルもなく学園祭当日のカラオケ大会は成功になるのだが、そらは学園祭中その男の子の事が気になり、友達の女の子に聞いていた。


「あの最初に音響機材のビニールがけをしよう、って言ってくれた子誰だったのかな~?知ってる?」

「そんな子いた?知らないわ。サキ知ってる?」

「さぁ?覚えていないな~」

「あぁー、いたね。誰だったかな?」


周囲は誰も知らない様子だったが、ある一人の女の子はボソッと「たしか元橋君っていう子だったと思うわ。1年A組だったかな」


「へぇ~、1年A組なんだ。って同じクラスじゃん!?」


そらはてへへ、と苦笑いしながら、その男の子を探した。


伸城は学園祭終了後、会場で後片付けに勤しんでいた。そらは伸城を見つけると、彼の協力に感謝の気持ちを伝えて、彼の頼りになる姿勢に少し惹かれていた。伸城もまたそらに笑顔で『歌上手だね』と伝え、どこに住んでいるかなどの自己紹介をしていった。


「えぇー、元橋君って川田駅が最寄りなんだ!私と一緒じゃん!同じ市でなんだね」

「へぇ、赤石さんも川田駅なんだ。今まで全く知らなかったよ」

「そういえば・・・、あなた、前に夜道で女の子を助けてくれたことある??」

「ん??なんのこと・・・?あ、まさか!!あの時の女の子?!」


そらが高校生なってすぐの頃、帰りが夜遅くになってしまった時の事だ。

地元の駅から降り、薄暗い夜道を一人で歩いていた。そらは塾の帰りが遅くなり、いつもの駅から自分の家への帰り道であったが、すこし不安な雰囲気が漂っていることを感じていた。


そらが歩いていると、不審な中年男性が後ろから近づいてきて話しかけきた。男性は突然、そらに対して意味不明な質問を投げかけた。


「未来の予知者は誰だと思う?」

「今日の天気はどうだったと思う?」


など、文脈に合わない質問を繰り返した。


また男性は不自然な笑顔を絶えず浮かべており、その笑顔が不気味でそらに不安な気持ちでいっぱいになった。彼の目も怪しげに光り、そらに対してしつこく接近した。彼女が不快に感じるほどの距離でせまられ、そらはますます不安に感じたのだ。これらの奇妙な行動でそらは恐怖を感じたが、どうすべきかわからなかった。


その時、近くを歩いていた見知らぬ同じ高校の制服を着た男の子が現れ、突然その中年男性に声をかけたのだ。


「ねぇ、トイレどこか知りませんか?」


中年男性は「は?そんなもの知らん。俺は今忙しいんだ」と突き放すように答えた。


男の子はそらの方を見て「僕はこの男の人と話があるから、君は帰っていいよ」とそらに声をかけ、そらはコクっと頷きサッと走って逃げて行った。


「あ!!」と中年男性は声を上げるも、男の子は「すいません。トイレの場所を教えて下さい」とせがみ、この質問の意味も分からず、こんな暗い夜道でトイレを聞いてくる高校生の存在に、気味悪く感じて中年男性は「分けわからないガキだ」と吐き捨ててどこかに消えていくのだった。


そらはその男の子が誰かが全く知らず、今の今まで忘れていたのだが、元橋に対面しその時の記憶が突然蘇ったのだ。


「あの時は怖かったわ~。本当にありがとうね。あなたは大丈夫だったの?」


「あぁ、大丈夫だったよ。はははは。正直気味の悪い質問だからね、『トイレどこですか?』ってさ。ははははは。あんな夜中に知らない人に聞く質問じゃないんだけどね。なんか女の子が変な男に絡まれているから、何かしなきゃと思ったんだけど、僕もどうしたらいいか分からず、あんなことを咄嗟に言っちゃったんだ。相手も気味悪がってすぐにどこかに行っちゃったよ」


「いえ、ありがとうね。『トイレはどこですか?』ってウケるね」


「僕も咄嗟になんて言っていいか分からなくてさ。けども『トイレはどこ?』はないよね、はははは」


「そんな事ないよ。本当にあの時は怖かったから助かったよ」


「はははは」


それから二人は少し距離が縮まったように感じたが、それから二人が話をすることはほとんど無かった。そらは学園のアイドル的な存在として、また実行委員も経験し多くの生徒たちの羨望の的となっていた。周囲には常に人が囲まれるようになった為、そらは気軽に元橋と話ができないでいた。それからもそらは、ずっと元橋の事は眼では追っていたのだったが。


転移後は突然の事で気が動転し元橋の事も気にかけられず、一人密かに心を痛めていた。


それからそらは、元橋の事は心の中で一旦の区切りをつけ、自分自身が生き残るために、必死に頑張った。様々な貴族に言い寄られたが、それを躱しながらも、舞踏会やパーティなどで歌を披露し、勇者パーティとして活躍し自分の有用性を示してきた。


勇者パーティがエルフ国に来てから、ユハも交えて色んな話をしたが、その中で一番の衝撃は、美幸が元橋の事を想っている事を吐露した事だ。


(美幸は元橋君が好きなんだ。それにまだ諦めていないなんて・・・)


そらは美幸の頑固なまでの信念と思いの深さに感銘を受けながらも、自分自身の心の中にも同じような思いがあることを密かに感じていた。


都市ウォルタの冒険者ギルドで、エゴロブナに絡まれた時は恐怖に慄いたが、『トイレはどこですか?』との発言にハッとした。『まさか??』との思いが脳裏を過った。


(まさか・・・、この子・・・元橋君?いや、ありえないわ。この子はエルフよ)


それからネオがパーティに入ることとなり、ネオとも話す機会が増えたが、明らかに違う体格と距離を感じさせる他人行儀な言葉、またエルフ語をお互いが話すため、昔の元橋の面影は見受けられなかった。


『勘違いだったかなー』と思い始めた時に、あの美幸のネオへの態度を見て疑惑が再燃し、『あの美幸なら動くならすぐかな』と思い、ロビーで一人隠れて美幸を待つこととした。まさか本当に動くとは、と我ながら驚いた。


そらとしては、元橋への思いもあるが、美幸だけを行かせられない、心配だとの思いも本当で、また親友の美幸と離れ離れも嫌だとの思いから、一緒に行きたいと申し出たのだった。


美幸はそらの気持ちを聞き「まぁこの世界、好きなように生きた者勝ちよね」と言ってコロコロと笑いながら、二人でネオとスカーレットの宿舎へと向かっていった。

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