74 ネオ・スリー帰還


ユハを先頭にして勇者パーティは第一層から隈なくダンジョンを探索していった。もしかしたら上位層に転移をしていたら、転移魔法陣が何かしらの理由で壊れていたとしても、ここまで何とか自力で辿り着くかもしれないとの淡い希望的観測を持っていた。


ユハは基本モンスター対応で周囲を索敵した。他のパーティメンバーたちは血眼になり、どんな些細な異常も見逃さないつもりで、ダンジョン内を隅々まで見て回った。


第一層には多くのゴブリンたちが生息していた。もちろんこの絶境の魔界である奈落の底で生き抜いている魔物たちだ。簡単な攻撃では死ぬことは無いが、今は皆討伐よりも探索を最優先として進んでいるので、関係のない魔物たちは無視してどんどん先に進んでいった。


「後方からゴブリン5体急接近!」


スカーレットは後方索敵を担当しており、パーティに警告を発した。ストーンは何発かの魔力矢を放つもどれも的確に急所を与えることは能わず、重傷を負わせられたが、5体のゴブリンが接近してきた。


後方護衛をしているツリーがゴブリンたちの棍棒や槍などの攻撃を一身に受けた。ツリーはスキル反射壁を展開し全ての攻撃を全てカウンターにして返していった。ゴブリンたちを後方に吹っ飛ばしダメージを与えた。


ストーンは地面を転がった瀕死のゴブリンたちに留めとばかりに十数本の魔力矢を放ち、とうとう5体のゴブリンたちは沈黙した。


「あんな雑魚に構っている場合じゃない!行くぞ!」


ウィングはユハを急かしながらどんどん先に進むように皆に促した。


ユハはウィングを窘めるように言った。


「ウィング、奈落の底を舐めないで。私たちはネオとスカーレット抜きだと、10カ月間でやっと3層に突入できたグループよ。どこの階層探索にも致命的なリスクを負うわ。私も慎重に魔力探知をしているんだから、急いては事を仕損じるわ。焦る気持ちもわかるけど、焦らないで急ぎましょう」


「どっちだよ?焦るのか急ぐのか?」ウィングは禅問答の様な事を言われてもよく分からないでいた。苛立つウィングに対してユハは、誰にも分からないようにため息をついた。


「もういいわ。あなたはしっかりと周囲を警戒して2人を探して。先導は私が責任を持って安全に移動するから信じて」


「早く行くぞ」


「そうね。早く行きましょう」


ユハはできるだけ急ぎながら慎重に進んでいった。






2日経った。






今は7名のパーティで探索をしているので、ダンジョン内での寝る時は不寝番を交替で立てて安全を最優先して進んでいった。現在1層の最下部にまで到達した。もう少ししたら2層に入りそうだ。昔に比べたら驚異的なスピードで進んでいた。


これもネオが索敵スキル共有でダンジョン内のルートを魔力で見せてくれたことで、全体像が把握できたことが大きかった。パーティメンバーたちは今更ながらにネオの貢献度を感じるのだった。ウィング以外は。


今はおそらく外は夜23時頃。野営をするのにいい場所に辿り着き休憩する事にした。最初の不寝番はウィングとスカイとなった。


焚き火を目の前にして、ウィングは大きなため息を付きながら、スカイに話しかけた。


「スリーは大丈夫かな・・・たしかスリーたちはそれぞれ1週間分ぐらいの非常食は携帯していたはずだから、後5日ぐらいは食糧は持つな。その後になればなる程死亡率が高くなる」


「そうね。早く見つけてあげないと・・・ネオの索敵スキルがあるから大体のルートは把握できると思うから大丈夫だけど、常に敵を回避することはできないからスリーの交戦力にかかっているわね。本当に心配だわ」


「・・・」


ウィングは何も返答せずに空中をただぼうと見ていた。ネオがそれ程役に立つとは思えない。なぜ皆、口を開けばネオネオと言うのか。戦闘能力ゼロだぞ。スリーの戦力が唯一の頼み綱だな、と思っているが他のパーティメンバーは常にウィングは違う意見を持っている。それが癪で何も言わないようにしているのだ。


すると奥の方から2つの影がゆらりと現れて近付いてきているのがウィングには見えた。


「何だ!?敵か!?」


その声に反応しスカイも立ち上がり臨戦態勢に入った。よく見たらだんだんその影が何なのかがはっきりしてきた。


スリーとネオの2人が奥からゆっくりと歩いてきたのだ。


「スリーーーー!!!!」


スカイが走って近付いて行った。


「スカイーーー!!!みんな!!!」


スリーは同様に走り寄り2人は固く抱擁を交わした。


他のパーティメンバーも今の叫び声にビックリして起き上がった。


皆、寝る直前であったので、すぐに起き上がりスリーに走り寄って行った。


「スリー!本当に良かった!」

「スリー!生きていたか!」

「スリー!死んだと思ったぞ!」


スカーレットはスリーの横にいたネオに抱き付き、耳元で囁いた。


「どこに行ってたの?」


「たぶん12層。転移魔法陣でさっきここまで来た」


「スリーには?」


「大体な」


「了解」


ネオとスカーレットの隣では喜びで涙する勇者パーティがいた。


ユハがこちらに歩いてきて声をかけた。


「お疲れ様。良かったわ、あなたも生き延びていて。あなただったら大丈夫と思っていたわ」


「ありがとうございます。とにかく疲れましたので、帰りましょう。皆さんのどなたかで転移魔法陣をお持ちですか?早く宿舎に帰りたいんです」


ウィングはスリーに詰め寄るように言った。


「どうして転移魔法陣で帰って来なかったんだ!この2日間本当に心配したぞ」


スリーはネオに目配せして話した。

「飛ばされた場所が三層だったの。転移先の近くにいたトカゲに攻撃されて、荷物の中に入っていた転移魔法陣を壊されてしまったわ。何とか逃げ切ってここまで歩いてきたわ。みんな探しにきてくれて本当にありがとう」


ウィングはホッとして言葉を継いだ。

「そういうことだったか。最悪の想定ではなかったな。本当に良かった、生きていてくれて」


そう言いながら活気を取り戻したパーティは、転移魔法陣を使いダンジョン入り口へと戻って行った。

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