72 三原美幸の気持ち

目が醒めるとどこかの部屋で休めている、ということはなかった。


まだダンジョン探索は続行中。暗闇の中で私は横たわっている。


「起きましたか?」


近くから声がしてそれがネオの声だとすぐに分かった。


「イタタタ・・・どうして私が起きたってわかったの?」


「体が少し動きましたので、空気の振動と体が床に擦れる音で分かるんですよ」


(そうなの?ネオの声はこの洞窟内では反響して、私にはネオが話している声の方向さえ分からないけど、どうやらネオなら分かるということらしいわね)


「さっきの叫んでいたモンスターたちはどうなったの?」


「大丈夫でした。何とか逃げ切って安全な場所に退避できたと思います」


「に、逃げ切ったの??凄い数がいたように思ったけど・・・?」


「まぁ、僕の索敵スキルは生半可な力ではない、ということですよ」


(そうなの?私にはまだ魔力がうまく使えないけど、どうやらネオならできるということらしい)


「あ、それとさきほどスリーさんの荷物を探っていたら、たぶんランタンらしきものが出てきました。たぶんこの中に燃える燃料があるんですよね?」


「そうなの。けども結局そもそも火を起こさないと着火しないから使えないのよね。失敗だわ」


「そういうことでしたら、たぶん大丈夫です。火花ぐらいなら何とかなりますし」


「え?」


「ん?」


「ど、どうやって火花を出すの?ここはダンジョン内で火を起こせるようなものはないようだけど・・・。上下左右どこを触っても岩のようだわ。同じ石材同士ではお互いをぶつけても火花は出ないのよ。このダンジョン内の石材が同質のものじゃなければいいのだけども・・・」


「いえ、同じ石材でも非常に高速でぶつかると摩擦によって熱が発生し、火花が生じます」

(けどもこの高速は音速を越えるスピードなんだけどな)


「そ、そうなんだ・・・。知らなかったわ。けども火花がでる程の高速でぶつけることは可能かしら?」


「とにかくやってみますね。スリーさんは耳を塞いでおいて下さい」

(さっきの戦いでも火花は散っていたからたぶんできると思うけどな)


そうして俺はランタンの燃料を地面に置き、右手で近くに転がっている石を拾って燃料の真横の地面を思い切り叩きつけた。俺の今の身体能力は猛毒草のおかげで桁違いに強くなっている。火花ぐらい出せないでどうすんだ!


「いきます!!!」


ガン!!!!!!!!!!!!!!!!!!


洞窟内に超巨大な音が発生した。耳鳴りが止まないぐらいの強烈な音が洞窟内に木霊した。スリーも耳を塞いでいたがあまりの大きな音に驚いた。


床の岩盤が砕け大きな穴が開いた。そして右手に持っていた石も砕けた。砕けた時に確かに火花が出た。


「す、すごい」


「出ましたね」


「本当に出たわ!!それがうまく燃料に着火したらいいんだけど・・・」


「何度かやっている内に着火するでしょう」


そう言って、場所を変えて俺は何度かこの工程を繰り返した。そして10回目の時。


ボッ!!


「点いたわ!!凄い!!!本当に点いたわ!!」


「良かったです。これをランタンの中に入れて」


俺はランタンを掲げ、スリーさんを火で照らした。ランタンの火は俺や周囲も全て明るく照らしているのだった。


「ネオ君す・・ご・・・・い・・・・・・」


スリーは灯った火に照らされた俺の顔を見て驚愕した。


「伸城君!!!!!!!」


「えっ?」


スリーは俺に抱き着いてきた。スリーは俺に抱き着き泣き始めた。俺は今、火を持っているので危ないので、落ち着くように俺はスリーに言った。


「ちょ、ちょっと待ってください。何を泣いているんですか?今俺は火を持っていますので危ないです。今からランタンを床に置きますから、ちょっと待ってください」


スリーは両肩に両手を置いて腕を伸ばした状態で、ネオを見つめた。


『ぐすん・・・伸城君。ぐすん・・・なんでそんな他人行儀なの!?』


「ノブシロ??誰の事ですか?何のことか僕にはわかりませんが」


『ぐすん・・・どうして隠そうとするの?ぐすん・・・転移のショックで伸城君の時の記憶がないとかなの?』


「スリーさんが何を言っているか、僕には分かりません。記憶があるもないも、僕は生まれた時からずっとネオですので、誰の事を言っているのですか?」


『ぐすん・・・おかしいわ。ぐすん・・・どうして、私が記憶の話をしているのかわかるの?今私が話しているのは日本語よ。あなたは今言ったわ[僕には分かりません。記憶があるもないも、僕は生まれた時からずっとネオです]って。ぐすん・・・・もしあなたがエルフ族のネオと言い張るなら、ぐすん・・・日本語が分かる理由を教えて。この階層では魔力が使えないから、魔力でのコミュニケ―ションもできないはずよ』


「・・・」


『答えてよ!どうして日本語が分かったの?』


「・・・『三原さんは鋭いな』」


『伸城君!!!ああああぁーーーー!!!会いたかったわーーー!!!本当に会いたかったのよ!!』と言って、再度美幸は伸城に抱き着いた。


『三原さん、久しぶり。僕の顔で分かったの?あ、そっか!もう僕は今、黒布もしていないし、変装アミュレットも木端微塵に破壊されたから、今の僕の顔は日本人の顔なんだ』

伸城は三原の背中を優しく叩きながら、三原を宥めていた。


『会いたかった・・・。ぐすん・・・・。本当に会いたかった・・・。ずずず・・・』


三原が落ち着くまで軽く10分ぐらいはかかった。ダンジョン内にはもう外敵はいないし、また仮にいたところ今の伸城ならどんな敵も撃退できる能力は既に身に付けていたので、伸城は三原が落ち着くまで心ゆくまで待つことにした。


そうして、三原は伸城から少し離れた。それでも両肩には手を置き、変装アミュレットを外して、本来の三原美幸の姿へと変わった。と言っても髪の毛と瞳が黒色に変わっただけの事だが。それでも色が変わると大きくその人の印象は変わるものだ。確かにエルフ族の印象からヒト族の印象へと大きく変化した。


『結局、変装アミュレットも髪の毛と瞳の色を変えるだけだから、顔や体の基本的なパーツを変える程の力はないからね。顔を元々知っている人が見れば、私が誰か分かる人は分かるよね。伸城君は私の事を分かっていたのね。


伸城君・・・何があったの?どうしてあなたはここにいるの?あの転移魔法陣で飛ばされた後はどこ行っていたの?それに少し背が縮んでいないかしら。それに声も少し変わっているわ』


『んんんんん・・・・かなり長い話なんだけど・・・』


『教えて。何があったの?』とグググと顔を近づけて俺に迫ってきた。


『分かった分かった・・・ちょっと長くなるけどいいかな?』

(まぁ、もうこの階層内には危険はないからな・・・ちょっと長居しても大丈夫かな)


『お願い』


そして俺はランタンで照らし出されるダンジョンの中で、今までの俺の越し方を選別しながら話し出した。


部屋の中で殺されそうになった事

人殺しと責められたが人を殺していない事

転移後は猛毒の洞窟に飛ばされたが、何とか逃げられた事

その時に猛毒草の影響か、回復草を大量に摂取したせいで体が縮まった事

這う這うの体で洞窟から這い出し、その途中で敵対勢力から逃れるエルフ族のスカーレットと出会った事

二人で何とか森を抜け出して、今この都市ウォルタに身を寄せている事


『俺はヒト族国を許さない。俺は誰も殺していないが奴らには俺に人殺しの汚名を着せた。それだけに留まらず、俺は猛毒の洞窟で死ぬところだった。あれは本当に奇跡的に運が良かったから生き延びられたんだが、あの場所で俺は99.9%死ぬ予定だったんだと思う。悪運が強かったんだろう。俺は何とか生き延びた。俺の人生をめちゃくちゃにしたヒト族国、すなわちあの国を運営する王族たちは殺す。その復讐心で今俺はここにいる』


『そうなのね・・・そんなことが・・・』


三原は絶句した。咳払いや質問なども全くできず、ただただ話を聞くしなかった。あまりに壮絶な日々。そこに自分がいれなかったことや、その中でも伸城が生き抜いたこと、など複雑な思いが胸に迫り、涙がとめどなく流れていた


『だから、本来は三原さんに俺の正体を告げるつもりはサラサラなかったんだ』


『そ、うな・・・んだ・・・』


『三原さんがヒト族国をどう思っているか知らないが、俺はあの国を許さない。このダンジョン探索が終わったら、まずはエルフ族国の復興を手助けるが、その後は俺はヒト族国へ行き、サリア姫筆頭に国王などの王族たちは全員殺すつもりだ。これは三原さんがどう言ったとしても変えるつもりはないよ』


正直ここまで言う必要もなかった。自分の心の内を語る必要もなかった。ただエルフ族国で楽しく過ごしているぐらいの事で全く問題はなかった。三原さんと敵対することも有り得る。しかし、今目の前で俺の生存を涙を流しながら喜び、必死に俺の今までの事を聞いてくる彼女に、全てを包み隠して話すことは俺にはできなかった。それでも隠すところは隠したが。


そうすると、三原さんからは驚くべき発言が飛んできた。


『そうなのね・・・分かったわ。じゃあ私も一緒に付いていくわ』






(は・・??)






『今なんて??』


『付いていくって言ったのよ。私の中でこれは確定事項よ』


『待て待て待て!!俺の話を聞いていなかったのか?俺はヒト族国と敵対するつもりなんだ。国賊になるんだ。後悔する。三原さんは今のまま聖女として生きていた方がいい。聖女が歩んでいい道じゃないんだ!全てを捨てることになるぞ』


『伸城君・・・お願い、私をあなたと一緒にいさせて。これは私がこの世界に来て、あなたと別れてからずっと考えていたことなの。今のこの瞬間での思い付きでの発言でも何でもないわ。


私は何が何でもあなたに付いていく。


私はこの世界で、自分自身に生き切ることの大切さを学んだわ。環境は関係ない。人も関係ない。今までの自分も関係ない。社会も国も常識も世の中の規範も、何も関係ないわ。私がどうしたいか、が一番大切だと分かったの』


『それは極端すぎる。程度による。周囲とのバランスも取りながら生きて行かないと、幸せな人生は生きていけない』


『あなたがそれを言うの?本当にあなたがそう信じるなら、ヒト族国と敵対する、なんて発想は出てこないはずよ』


『・・・まぁ、それはそうだが』


『もう一生後悔しない。言わせて。私はあなたが好きよ。大好きよ。あなたと一生一緒に生きていきたいの。私はこの気持ちに気付いたの。私はバカだったわ。地球にいた時や、あの転移された王宮にいた時は周囲の目を気にしてばかりいて、恥ずかしくてあなたと一緒にいることができなかった。本当はもっとあなたと話したかったのに友達に流されて、あなたを正面から見れなかったの』


『三原さん・・・』


『お願い。あなたが地獄に落ちるなら、私も一緒に落ちるわ。あなたが国賊になるなら、私も一緒に国賊になるわ。あなたの横にいられるのなら、私は何でもするわ。あなたと一緒に人生を歩ませて』


『三原さん・・・、待ってくれ、それは無理だ』


『なんで?』


『え・・・、と。まずは・・・、そこまで言ってくれて嬉しい気持ちはあるんだけど。本当に。けども・・・』


『けども・・・?』三原は眼を潤まして上目遣いで俺を見てくる。


『そうだな。分かった。三原さんも自分の心の内を全て言ってくれたから、俺も本音で話そう。現実的な所から言うと・・・


まずは三原さん、君は弱い。魔法は使えるようだけど、身体的な能力はほぼないに等しい。先ほどの猿の一団。実は俺が奴らを壊滅させたんだ。かなりヤバかったけど、魔力無しの肉体で奴らは皆殺しにした。


俺がこれから進む道は、茨の道だ。生半可な道じゃないんだ。君の力では俺の横にはいられない。今、俺は誰かを守りながら戦えるほど余裕はない』


『確かにそれはそうね。けどもこの階層はかなりレアだと思うわ。この階層は魔法師殺しの階層だったと思うの。普通に魔力が使える階層であれば私も結構強くなったのよ。回復魔法もファーダム歴史史上初めてSSSまで上がったし、全属性への適性もあったし。今後はこんな魔法無効化の場所にも対応できる対策も考えるわ。だから大丈夫よ』


『そ、そうなのか?け、けども、三原さんが付いてくるとしたら、どういう過程を経て俺と一緒に行動できるのか正直分からない。


つまり、もし仮に三原さんが俺と一緒に来たとしよう。そうするとヒト族国はどう動くのか。三原さんがヒト族国の勇者パーティと離れることは認めないだろう。


離れることを認めたとしても、ユハの諜報部隊は常に三原さんを監視し続ける。これは避けたい』


『私は私の思いをそのままユハさんには話すわ。私がネオに救われて好きなったから一緒に行きたいって。間違っていないわ。


そもそもパーティも国が勝手に決めているけどパーティ変更は自由意志よ。私がどのパーティに参加するかは今の段階では私たち次第。


そして、私は私でダンジョン探索を続ける、とも言うわ。ネオの実力はもうパーティメンバーも分かっているし。あ、そうだ、分かっていると思うけど、他のパーティメンバーもクラスメイトよ』


『あぁ、分かっている。春日に菅原に赤石だろ』


『やっぱり分かっていたのね。まぁそれはいいわ。この勇者パーティのメンバーはあなたの実力は既に分かっているから、現勇者パーティで探索するよりネオ君とスカーレットさんと探索する方が探索は進む、と伝えて私は勇者パーティを離脱するわ』


『そんなことは無理だ。三原さんはヒト族の象徴的存在だ。聖女だよ。王族たちがその存在を簡単に手放すとは思えない』


『えぇ、それも分かるけど、だから[この探索]では私は勇者パーティを離脱するだけにして、その後は戻ってくる、と伝えるわ。


それに、もしかしたら私がこっちのパーティにいることでネオ君とスカーレットさんをヒト族国に引き込めるかもしれないとユハさんなら考えるかもしれなわ。私もそのように話をするし。あなたたちと信頼関係を結んで、一緒にヒト族国に連れて行く、と。


それと、[超高純度魔鉱石]が、もし手に入れたらヒト族に渡すと話をするわ。ネオ君とスカーレットさんはそもそも[超高純度魔鉱石]には無関係だと思うの。だからそうすれば他のパーティメンバーが何と言おうと、ユハさんや諜報部隊のメンバーは納得でしょ。あ、ちなみに、伸城君がここにいるのは、[超高純度魔鉱石]の為なのかな?』


『そうだ。ヒト族にも魔族にも[超高純度魔鉱石]は渡せない。その為に潜っている』


『いいわ。じゃあ[超高純度魔鉱石]をヒト族に渡すという態で話をして、手に入ったらそれを持って逃げましょう』


『いやそれでもその後、三原さんは勇者パーティに戻らないつもりだよね。[超高純度魔鉱石]を持って逃げたら、ヒト族も魔族も必死になって追ってくるだろ?』


『逃げ切りましょ。[超高純度魔鉱石]のダンジョンアタックが終わった後、私たちの力であれば、どこにでも隠れることも可能だし、変装して過ごすことも可能と思うの。


死んだ、という状況証拠を集めるのも手かしら。例えば、[超高純度魔鉱石]奪取後にダンジョンが崩落していくと聞いているけど、その崩落から逃げ遅れて巻き込まれて生き埋めになったことにすればいいかもしれないわ。その場合は転移魔法陣を持っていなかったことをしっかりと事前に証明しなければならないけど。どこかに隠しおいて見えないところで『ドロン!』、かな。


けども、そもそもこの戦役で語られるぐらいの膨大な魔力を内包している伝説の魔鉱石を持っている相手に対して攻撃を仕掛ける程、ヒト族も魔族も馬鹿じゃないと思うの。全員殲滅できてしまうじゃないのかしら。手が出さないと思うわ』


『たしかに・・・』


『為せば成る為さねば成らぬ何事も。成らぬは人の為さぬなりけり』


『どういう意味?』


『やればできる。何事もやらなければできない。できないのはやろうとしないからだ、という意味の言葉よ。江戸時代の上杉鷹山が言った言葉じゃない』


『そういえばそんなことを授業で習ったね』


『伸城君は理系の力は凄いのに、文系的には弱かったもんね。伸城君、格好良かったよ、あの植物対策の時の[植物には4つの方法で周囲を感知する方法がある]ってね。さすが植物ハンターのネオ君はよく知っているな~、と思っていたけど、伸城君なら当然だったね』


『あ、ありがとう・・・ってそんなことじゃなくて。話を逸らさないで』


『逸らしてはいないわ。絶対大丈夫。この世界で人は簡単に死ぬわ。そしてヒト族国は滅亡の危機に瀕している。勇者パーティの1つや2つぐらい死んだところで、王国は何も感じていない。それは私がファーダムにいて感じるの。あぁ、やっぱり私たちはただの道具なんだなって思う瞬間はいっぱいあったわ。


元々生徒35名、教師1名で転移されたけど、今では生存してる生徒は25名、教師1名なのよ。それも25名の生徒の内でも戦闘に参加している生徒はすでに18名に減ってしまっているの。


最初の説明では、勇者は1名のみが死亡したとの話だったけど、よくよく話を聞いてみる、その大半が魔族との戦闘の中で戦闘不能になったり、保養地で生涯を閉じる人なんだって。それも眉唾物だけどね。


戦闘以外の分野で王国の発展に寄与したりする人もいるとは言っていたけど、実はほとんどいないわ。それほどヒト族はこの世界での魔族との戦闘に、私たちを投入したいのよ。王国の説明は決定的に不足していたわ。意図的に隠した、としか言いようがない。正直不信を感じているの。


だから、もし生き埋め案で行ったとして、私たちが死んだとしてもユハさんたちが必死に助けるとかはないと思うわ。一人いなくなったら、また違うところから補充、ぐらいしか考えないと思う。[超高純度魔鉱石]は地中深くに埋まったから誰も取り出せない。だったらこのエルフ国からは撤退かしら。そんな[超高純度魔鉱石]が地中深くに埋まってあって暴発でもしたら怖いから、エルフ国の間諜組織は引き揚げさせるのかもしれないわね。


今は魔族との戦争中だからね。冷静にメリット・デメリットを見定めて、ドライに生きているわよ、あの人たち』


『・・・』


『最終的には伸城君が私と一緒にいてもいいかどうかに集約されると思うの。伸城君が私を受け入れてくれて一緒に生きることを決めてくれたら、必ず道はあると思うの。意志のある所に道はあるわ』


『分かった。けども、それでも絶対に無理な理由があるんだ。それに最大の理由は・・・』


『最大の理由は・・・?』


『俺には既にスカーレットがいる。もう他の誰かと一緒にいるつもりはない』


『そうなのね・・・。やっぱりスカーレットとはそういう仲なのね。姉と弟にしては距離感が近かったからね』


『そうなんだ。申し訳ないが三原さんが俺と一緒に来ることは無理だ。俺の心はもう既にスカーレットと共にある。またスカーレットも俺と共にある。俺たちは様々な死を共に乗り越えた絆でつながっているんだ。この関係は切ることはできない。三原さん、もう少し違う形で違うタイミングで再会できていたら、と本当に思うよ。本当にごめん』


そう言って俺は深く三原さんに頭を下げた。


『それは大丈夫よ。この世界で私も多くのヒト族の貴族と会ってきたけど、この世界の基本は一夫多妻制よ。私が側室になるわ』


『は???』


『伸城君、あなたはまだ日本の常識に囚われているわ。もう一度言うね、環境も他人も今までの自分も社会も国も常識も世の中の規範も全て何も私たちの生き方に関係ないわ。私がどうしたいか、が一番大切なの。私の心の底。その更に奥。そのまた更に奥。そこで私が本当に望むこと。その私の本当の願い。それを叶えることが一番大切なの。


全ての環境要因や自分の能力の要因、過去の要因も、全て私たちの人生の決断に関係ないわ。それがこの世界よ。


あのせいで私はこうなった。

このせいで私はああなった。

あの人のせいで苦しい。

この人のせいで不幸だ。


それは全て嘘よ。最後は[私]が決めた人生を[私]が生きていくの。


それをこの世界で学んだわ。全ての虚飾を剥がして私は自分自身に問うたわ。


[本当に私は何がしたいのか?]と。


答えはシンプルだったわ。




[私が愛する人と一緒に生きたい]。




皆、伸城君は死んだって言っていたわ。けども私は信じなかった。1%でも可能性があるんだったら私は生きている事を信じると決めたの。これは私の決断。これがこの世界での私の生き方。


私は全てを捨ててもいいの。あなたといれるなら。伸城君はどうしたい?』


俺はここまで三原さんが俺に対して思いを持ってくれているなんて思いもしなかった。人生でこれほど好かれたこともない。


なんて言ったって、今まで好きになった子4人に告白しても無理だった経験があるから、『俺なんて・・・』『お前らなんかに俺のよさが分かるか!?』と一人でキレたことがある。これほど好かれると、心の底から温かい感情が湧き上がってくる。


しかも相手は初恋の三原さん。嬉しくないと言えば嘘になる・・・。どうしたものか・・・。

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