68 7層探索

俺とスカーレットは、勇者パーティとは3回だけ一緒に参加して、彼らのダンジョン探索を助けた。彼らの信頼を得ることで、少しでもユハたちの情報を得られるかと思い、ネオは自分のスキルや積極的な意見の共有をして、かなり思い切ってパーティの援護はしてきたおかげで、多くの情報を得ることができた。


勇者パーティのメンバー達は、ユハの組織からかなりの支援を受けているようだ。資金、資材、宿舎、情報など。その『滅亡しかけている遠くの国』から、多くの人員が派遣されている。その国を救うために『超高純度魔鉱石』が必要になるとのこと。ストーンも自分たちの出身の国を、同様に『ある遠い国』だと言っていた。その派遣された人々は長年このダンジョン都市ウォルタに住み、ここの人たちと同化して生きているとのことだ。


(さすがにヒト族とは言わなかったな)


信頼を寄せてくれているストーン辺りから多くの情報漏洩があった。この1ヶ月ぐらいでかなりの信頼関係が築けることができた。元々彼のオタク気質をよく理解する俺だからこその関わり合いだったかもしれないな、とも思う。


(しかし、長年同化して生活をしていると言うことは、もう既にどの人が怪しいかなど、分からない状況なんだな。深い根をこの社会に張り巡らしているのだろう。本当に準備周到だな、ファーダム王族たちは)


ユハの諜報組織の規模がかなりデカいということが分かった。また分かったのは、「協力者はギルド内にもいるから、ここでの生活はかなりスムーズなんだよ」とストーンが漏らした言葉から、ギルド職員にもスパイが入っていることが分かった。道理で俺の情報がユハに筒抜けだと思ったよ。


彼らと行動を共にしている2週間に1回ほどの時間以外は、ただ俺とスカーレットだけで、かなりのスピードでダンジョンの探索に励んでいた。


俺たちはとうとう11層まできた。10層ぐらいのモンスターの力は上位層に比べて比較にならないほど強いが、まだこちらの戦闘能力には及ばない。


11層にはとうとう竜種が現れた。


俺とスカーレットが洞窟内を歩いている時、前方50メートルに全長5メートルもあろうかという竜が姿を現わした。こちらを睥睨し獲物が迷い込んだかと考えているように、じっとこちらを睨みつけていた。


この洞窟の生物の共通点は目がないことだ。この洞窟に明かりがないため、眼の機能は退化したと思われる。だからあの竜がこちらをじっと睨め付けていることはないのだが、確実にこちらに意識を向けているのはわかる。こっちは魔力で相手の色や輪郭まで把握可能だが、向こうがこちらをどのように認識しているかは分からない。


なので、このダンジョン探索の成功のカギは、どこまでも索敵スキルなのだ。それをよく理解しているユハが俺たちに接触してきたのは、戦略的に非常に的を得ている。


さすがだな。


それか常に光源を持ちながら移動することだ。常に真っ暗の中であるが、幸いなのは俺とスカーレットは索敵スキルをかなりの練度で使用可能で、戦闘能力も格段にある。また俺のアイテムポーチの存在もあり、ダンジョン攻略に必須のスキルを持っていることが俺たちのダンジョン探索の成功の理由だったりする。


11層の洞窟はこの竜種がいるからか大きいのか、それともこの洞窟がこの大きさだから竜種がいるのか判別は付かないが、縦横と約10メートルぐらいの広さで地下へと続いている。


竜は周囲の洞窟の壁から1メートルほどの石の塊を魔法か何かで取り出し、自分の周囲に浮かべた。おそらく岩を操る竜種なので、石竜なのだろう。その石の塊はその石竜の周囲に50〜60個ほど浮かべられた。しかもこの洞窟の壁の素材でできた石の塊。かなりの強度を誇ると言ってもいいだろう。


その石塊は回転しながら、俺たちを襲ってきた。1発1発を避ける度に俺たちの後方で石塊が壁にぶつかる音で洞窟内に凄まじい音が反響した。


「私がヤる」


そう言ってスカーレットが高速で石竜に向かって接近した。全ての石塊を避けながら左右に高速でステップを踏みながら、確実に着実に石竜に近付いていった。もう5メートルぐらいまで来たところで、スカーレットは風魔法で竜巻を生成し放った。この竜巻の風はかなりの速度で、その暴風から発生する真空刃が周囲の壁という壁に深い亀裂を無数に作っていった。石竜は5メートルもの巨大な体に似合わない、素早い動きで横に回避行動をし、竜巻の直撃を避けようとしたが、いかんせん洞窟の中はそれほど動けるスピースもないため、右の翼が切り刻まれていった。


「ギャーーー!!!!」


あまりの激痛に石竜は叫び怒り荒れ狂い、特大の石塊をスカーレットに向けて放った。


スカーレットは拳に濃密な魔力で風を纏わせドリルのような回転を生んでいた。突進力を向上させるスキルを発動させ、その石塊の中心に突貫した。


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!


石塊の中央に大きな風穴を開け、そのままの勢いでスカーレットは石竜の胸部あたりを貫いた。


魔鉱石は腹部にあったため、石竜はまだ死には至っていない。大きなダメージを与えたことには変わりなく動きは大幅に鈍くなっていた。


尻尾をスカーレットに向けて放つも、風の防壁を展開し片手で受け止める。そして一陣の真空風を腹部に放ち、石竜の体内の魔鉱石を一刀両断した。


石竜は全身を痙攣させて大きな地響きを伴い地面に倒れ伏した。


「お疲れ」


真っ暗闇の中での戦いであったが、もちろんお互いどこに何があるかは把握できている。俺はスカーレットに近付いて声をかけた。


「さぁできれば今日中には12層の直前までは行きたいわね」


「あぁ急ごう。まだまだ上の層で踏みとどまっているだろうが、ぐずぐずしていると魔族パーティも降りてくるかもしれないからな」


そう言いながら俺たちはダンジョンの最深部に向けて走り出した。






                 ◇

  




俺たちは勇者パーティと再びダンジョンまで来た。今回はアスクが先頭となる。先頭のアスクの転移魔法陣を起動させて皆でチェックポイントに飛んだ。


パーティの順番と役割は以下のようにしていこうと話し合った。


アスク(風魔法で微風で自分達の匂いを後ろに流しこちらの熱源を感じさせないようにしつつ水魔法で氷を作りパーティ全体の熱源を下げる)

ネオ(先導・アスク補助)

ウィング(火魔法で熱源を他に用意して植物の注意を引く・光源の確保)

ツリー(中衛護衛)

ユハ(中衛索敵)

スカイ(中衛警戒)

カイト(ポーター)

ストーン(後方遠距離射撃)

スリー(後方確認・回復担当)

スカーレット(後衛索敵)

ライト(後方護衛)


俺は勇者パーティには2週に1度のみのヘルプで入っているが、俺の索敵能力の有能性を買われ参加する際は先導を常に任される事になっていた。


「さぁここから第7層です。各自周囲の警戒を怠らずお願いします。ウィングさん、火魔法は緊急手段ですのでお願いしますね。それと他の方々見えやすいように光源を絶やさないようにお願いします」


「あぁ分かっている」


プイと横を向くウィングに(お前は子供か)と心中でため息をついた。ウィングとしては自分が中心でなくては我慢ならないようなのだ。誰も号令をかけないので、俺が号令をかけているがこれからウィングが言うまで待っていようかな、と思う。トラブルはできるだけ回避していきたい。


俺はスカーレットと一緒にここの層を遠の昔に突破している。基本どんな毒が来ようが俺とスカーレットにはビクともしない。しかし勇者パーティの面々には猛獣の檻に入れられた小さな子供のような感覚で、恐怖が身体全身を覆っていた。


7層は他の層とは違い巨大な空間が広がっている。上部はおそらく50メートル近くあるようだ。かなり高い。住居用のマンションだと15階ぐらいの高さだ。また左右を見ても横の端が見えない程の奥行きだ。その中に樹木や草が生え渡っている。まるでジャングルの中に入り込むようだ。


この層の不思議な所はやはり生物が一匹も遭遇しない事だ。本来はこれほどの植物が繁茂すればその植物を餌として生きる魔獣も出てきていいようなものだが、あまりに猛毒が頻繁に大気中に放出されるので、ほとんどの生物は死滅していくのだろう。恐ろしい空間だ。


勇者パーティの進度も周囲の植物への刺激が無いように高レベルの警戒をしながらなので、かなり遅くなっていった。


一歩一歩慎重に進んで行く。足元には毒を帯びた植物の茂みが広がっており、パーティメンバーはそれらを避けるために足元にも注意を払わなければならなかった。高い木々が広大なスペース内に点在しており、多彩な植物が咲き誇り美しい花々や奇妙な植物が散見された。その美しさとは裏腹に恐ろしい毒を有していることを思うと、パーティメンバーたちに冷たい汗が零れ落ちていった。日光を栄養にせず、魔素を源とする植物の生態系は異質としか言いようが無かった。


何度も勇者達は毒植物に触れそうになり、何とか回避をし続けた。お互いにハンドサインをしながら触れないよう、また自然な風を起こしながら植物を掻き分け、道なき道を進んで行った。葉やつるを避け枝が生い茂り押し分けて進む以外ない所は迂回しながら進んだ。時折立ち止まって進路を確認したが、遅々として進まない進行に、皆苛立ちが溜まっていった。


アスクに魔力視で見えるようにしながら進んでいると、何百本という細い蔦が垂れ下がっている箇所に差し掛かった。それを退けようとアスクが手を伸ばそうとした時、俺は即座に指示を出した。「待て、手を止めろ!その蔦に触れるな!」ビクッとしてスクは手を止めた。


俺はアスクと共に他のパーティメンバーも警告を促した。


「ここの蔦群だが細い糸が垂れ下がっていて、何でも無いよう見えますが、小さな針状の突起がその細い糸に存在しています。軽く触れても針が魔素で覆われているので、簡単に僕たちの魔力装甲を貫いてしまうんです。これらの針を触れた場合、毒が体中を拡散し体を麻痺させ、少し経つと体が動かなくなる。死にはしないが後の処置が煩わしい。だから絶対に触らないで下さい」


それを聞いたアスクは青褪めた顔をし俺の方を見た。(なんでそんな事を知っているの?)と言いたげな目だった。俺はそれに軽く答えるように「こういう植物は何度も遭ったことがありますからね」と言っておいた。今までの俺の信頼があってか、または『植物ハンター』への信頼か、アスクはコクっと頷き、目の前の蔦を避けて屈みながら進んで行った。


俺も同様に垂れ下がる蔦に触れないように屈んで進み、冷静に目の前を見ながらアスクに指示した。


「アスクさん、右に進んで下さい。その道の先に少し開けた場所がありますので休憩しましょう」


後ろからは他のパーティメンバーが続いていたが、ウィングは俺の指示に対して疑問を持った。


(なんでそんな事を知っている?それだけアイツの索敵スキルは優秀ということか?自分を有用であることを証明するためのブラフじゃないのか?これぐらいの細い糸に針があるのか?信じられないな)


と思い少しだけ触ることにした。


蔦の針は魔力で覆われ触ったもの全てを貫く。ウィングは仮に針があったとしても刺さらない程度に軽く触ってみた。指には魔力を纏わせていたが・・・


チク


(痛ッ!)


確かにこの針はウィングの魔力を貫いて指の皮膚に小さい傷をつけた。


(ま、まぁ、これぐらい大丈夫だろう・・・)


そう思い自分自身に回復魔法をかけてウィングは歩き出した。


直ぐにちょうど何も無い空間が広がっていた。昔俺がここを通る時に、風魔法を発動させて切り拓いた場所だったりする。その時は周囲が猛毒の霧で立ち込めたが、知らぬ顔で俺とスカーレットはご飯を食べて休憩したのを覚えている。


パーティメンバーは疲労が濃く周囲を警戒しながらゆっくりと座っていった。アスクの疲労が一番キツイようで、常時風魔法を起動させながら歩かなければならず、今も休憩しながらパーティ全体を風で包み、その風をゆっくりと来た道に流している。そして氷を随所に浮かばせて、できるだけパーティメンバーの体温が高くならないように配慮していた。アスクは手には魔法ポーションの瓶を何本が持ち飲みながら神経を尖らしていた。


アスク「あー、助かったわ。ネオ。あなたのような植物ハンターがいないとここの層の探索はできないんじゃないかしら。あなたがあの蔦の事とか知っていて助かったわ」


アスクは疲れた顔をしながらぼんやりとした口調で俺の隣で話しかけていた。


ネオの右隣にアスクが座り左隣にスカーレットが座った。またスリーはスカーレットの横に座った。今までもスリーとスカーレットは探索の中で隊列の中で近くになる事が多く、会話をする機会も多くあった。元々スカーレットも貴族としてどんな人とも会話や交渉する機会が多くあり、すぐに勇者パーティとも馴染んでいたのだ。その中でもスリーとは気質的によく合うのか、喋ることが多かった。


ネオは周囲を注意深く確認しながら、アスクの質問に答えた。


「僕は植物採取を生業にしているので、よく森の中であの手の植物に遭遇するんです。あれだけ群生しているのは驚きですが、知っていたおかげで皆さんの役に立てて何よりです」


「ネオ君は本当に凄いね」


と横からスリーが入ってきた。


「ありがとうございます」


とネオは軽く会釈して返答した。その時。


バタン!!


誰かが地面に倒れた。パーティたちの男性陣は周囲を警戒し、女性陣が倒れた者を見た。自然とやるべきことを分担して臨戦態勢になったのだ。


「なんだ!!攻撃か?!」

ライトは苛立ちながら周囲を見渡した。


「ウィング!!どうしたの?!」

「何があったの!!??」

「大丈夫!?どこをやられたの?!」


と女性陣はウィングの周りに集まった。スリーは今までもファーダム王国のスラム街で治療活動に従事していたので、冷静にウィングの体をよく観察し外傷がないかを確認した。しかしウィングの首筋や顔、腕など肌が露出している部分に異常はなかった。


ウィングは痙攣をし出して白眼をむき出した。


「ゆ・・・ゆ・・・び・・・が・・・」


ユハ「指がどうしたの!?」

スカイ「ん??指が大きく腫れているよ!」

スリー「さっきの蔦の針じゃないかしら?小さな棘も刺さっているわ」

アスク「さっきネオから触るなって言われたのを聞いてなかったの!?」


ウィングはそのまま意識を失って昏倒した。


ネオはウィングの状態を理解し「これは麻痺毒ですね」と結論付けた。

スリーは「毒であれば」と言いながら、急いで「デトックス!」と唱え解毒を行った。さすが回復魔法SSSの力か、すぐにウィングの状態は回復し痙攣や白眼などの症状は全て無くなった。ウィングは今も気を失い昏倒していた。


スリー「本当に・・・何を考えているのかしら・・・」

スカイ「どーしょうもないなー。軽率」

ユハ「ウィング・・・大丈夫かしら」

アスク「ライト、ウィングを横にしてあげてくれない」

ライト「しょうがないな。多分試しに少しさっきの蔦でも触ったんだろう」


とライトはウィングを担ぎ、ライトの目の前で横にして置いておいた。


ネオ「おそらく十数分は気を失っていると思いますが、先ほどのスリーさんの解毒魔法はすごいですね。解毒ポーションを何本も投与しないと回復しないケースが多いんですよ。そんな冒険者の方々を何人も見てきました。凄いです」


スリー「へへへ。凄いでしょ~」


褒められたことで少し嬉しくなり、顔を赤くした。そう言いながらスリーは何歩か後ろに下がり、近くの地面に座ろうとした。


ネオはスリーが座ろうとした地面付近にある、虹色の草が偶々視界に入った。


(ん?なんだ、あんな草以前にあったか?)


数週間前にここを岩肌が見えるぐらいに刈り広場にしてから、徐々にだがこの場所にも草花が侵食してきている。しかし、それでもこんな色の草はあまり見たことが無い。


そう思い、ネオはスリーに「ちょっとそこに座るのは・・・」


と言いかけた時にスリーがその草を踏むと、草の中の魔法陣が起動しスリーが消えかかりそうになっていった。


(転移草か!!!???くそ!!転移する前に引き出さないと!)


そう思いネオは急いでスリーの元まで行き、彼女の腕を掴み転移草の影響下のある場所から引き出そうとしたが、ネオがスリーの腕をつかんだ瞬間にネオとスリーの姿が忽然と消えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る