66 ダンジョンアタック開始

俺とスカーレットは勇者パーティの後ろに付いていき、死の森の中に入っていた。死の森の中の、ダンジョンに向けての道は大きく拓けている。膨大な数の冒険者たちがこの1年間、ダンジョンアタックを繰り返している為、そこに至る道が大きく整備された。拓けた道の端を見ていると行商人たちが商品を陳列し、自分たちの商品の売り込みをしていた。


「マジックポーションがあるよー!1個銀貨1枚だ。どうだ?」

「回復草のエルフリーフがあるよー!銀貨1枚だ。安いよ!安いよ!」

「シャドーリーフがあるよー!銀貨10枚だー!ダンジョン内での安全が確保できるよー!命は金では買えないよ!」


商人たちは商魂逞しく、このダンジョン景気に沸くダンジョン都市ウォルタで、最大限利益を得るために、ギルドから仕入れた商品を売り出していた。俺たちは既に準備も十分していたのでどんな商品も購入する事はなかったが、所々に俺が採取した植物が売られていることに気づき、俺の冒険者としての活動も冒険者や商人たちの生活に貢献しているんだな、としみじみ思った。


道中で俺は勇者パーティーに提案した。


「僕がこのパーティーの先頭から2番目に置いてもらえればと思います。1番先頭は遠距離攻撃のできるストーンさんにお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか?」


ウィングはその意図が読めず、俺にその理由を聞いてきた。


「それは一体どういう意味なんだ?ユハが先導してその後にツリーが壁役として待機しているのが俺たちの基本的な陣形だが」


「僕が道案内をします。かなり奥まで僕の索敵スキルで、敵の有無や罠の有無、そしてダンジョンの道が把握できますので、先導させてもらいたいと思います。けども昨晩もお伝えした通り、僕には戦闘能力がほぼありません。回避はできますけども、攻撃や防御が全くできません。そこでストーンさんが遠距離攻撃で前方にいるすべての敵をこちらに気づかれる前に撃ち落としていただければと思っています。そうすれば、敵に遭遇することもなくなりますので、その指示をさせていただきたいのです。ストーンさん、よろしいですか?」


「俺は構わない」


ウィングは少し不服そうに発言した。

「分かった。一旦、お前の言う通りしようか。それで、お前の姉はどうなるんだ?どこの配置を希望する?」


俺はスカーレットに目配せして、「スカーレット、どうする?」と聞いた。

「私は1番後ろでいいわ。後方の警戒をしておくわ」

俺は、再びウィングの方を見て「だ、そうです。ではそういうことでお願いします。もし、この陣形がうまくいかなかった場合は、どうぞウィングさんのパーティの元の形に従います。まぁ、一層ですから、どうやってもこのパーティでしたら大丈夫でしょう、ね?」


と、俺はユハに水を向けた。ユハはうっすらと笑顔を浮かべ、「そうね。大丈夫よね、ウィング?」と言って、ウィングの反応を待った。


ウィングは「ふん」と言って、再びに前を向いた。


(このパーティは、一体どうなっているんだ?そんな態度を取っていたら、誰もこのパーティを助けようとは思わないぞ。春日は本当に自分の思い通りにならないと、不機嫌になるな。これがこいつの本性なんだろう。この世界で皆、自分の素の部分がさらけ出して生きてきたんだろう)


俺は勇者パーティの後ろで、ユハにそれぞれのパーティメンバーの事を色々と質問しながら、ダンジョンまでの道のりを進んでいった。






                   ◇






今、俺たちの眼の前には、ダンジョンの入り口がある。大きな穴だ。直径10メートルほどの『奈落の底』の入り口が、大口を開いて死の森の中に佇んでいた。森林内の丘の中腹に、横向けに空洞が続いている。俺とスカーレットはこの1カ月ほど1週間に1回はダンジョン内に入っているので、特に驚きはない。しかし初めて来た、という態なので、俺とスカーレットは驚いた様子でダンジョンを見ることにしていた。「これが、ダンジョンなのですね?」とか適当なことを言い勇者パーティに話しかけた。


俺はストーンの後ろで、「一旦僕の言う通り魔力の矢を打ってもらってよろしいでしょうか?僕の索敵スキルを共有いたしますので」と伝えた。


「索敵スキルを共有?」


「はい。僕の魔力をストーンさんの視覚にリンクさせますので、僕の見えているモノを、僕の言う通りに射ていただきたいと思います。ユハさんからは、ストーンさんは狙ったものを確実に当てるスキルをお持ちとお伺いいたしましたので、僕が索敵スキルをストーンさんと共有いたします。よろしいですか?」


「面白い。いいぞ。やってみろ」


「はい、では行きますね」


そう言うと、俺は自分の索敵スキルをストーンにも使えるようにした。これでストーンは空間に存在する魔力の動きが見えるようになった。


俺の魔力操作が一段と上達していくと、自分の魔力を自在に自分の外にでも動かせるようになっていっていたのだ。洞窟にいるある時に面白半分でスカーレットの眼の部分に俺の魔力で覆い、ゴーグルのようにしてみた。そうするとスカーレットには、俺の索敵スキルがどういうものかを疑似体験をさせることができたのだ。索敵スキルで見る世界からの情報量の多さに驚きながらも、あまりの有用性にスカーレットは「自分でもできるようにする!」と言って、猛練習をし始めた。もう既に毒草で強化されていた魔力量を持つスカーレットにとって魔力の体内での移動などは簡単であったようで、直ぐに自分の視覚に魔力を集中させることで、空間に浮遊する魔力の動きが見えるようになった。こうして無事にスカーレットも魔力操作が上達し、目隠しをしながらでも、生活できるようになったのだった。


ゴーグルをかけるように、ストーンの眼の部分を魔力で覆った。


「な!!??」


ストーンは、驚愕の視界に驚いた。


「す、すごい!!このダンジョン内のあらゆるものが見える!!あそこと、あそこにゴブリンが徘徊しているのが分かる。しかも、魔力の大きさから、それぞれの魔獣達の強さも把握できる。この把握スキルは、反則級じゃないか!!こんな風に見られていたら、すでに身を隠すとか、隠れて魔力を溜めるとか、弱点を隠すとか、もう不可能なレベルだ。君はこれが常に見えているのか?」


興奮気味にストーンは俺にマシンガンのように「あれはどうなんだ?これはどうなんだ?」と質問攻めにあった


後ろにいた勇者パーティは、何が起こっているのかと、ストーンと俺を不思議そうに見た。ストーンが何か興奮して話をしているのは分かるが、何の話をしているかは、聞こえないでいたからだ。


ウィングは、訝し気に聞いてきた。

「ストーン、何かあったのか?」


ストーンはウィングの質問を無視して、「ネオ、どうなんだ?教えてくれ!教えてくれ!教えてくれ!」と俺に答えをせがんできた。


(そうだった。立石悠真はたしかかなりのオタク気質だったな・・・忘れてた)


と愚痴りながら、それでも冷静に彼の質問攻めに対応していった。


「はい、そうです。これが普段の私の視界です。使い方は追々で。では進みましょう。あそこにゴブリンがいます。右胸の辺りに魔力が集中しているのがわかりますでしょうか?あそこがあのゴブリンの魔鉱石があるところです。魔力の矢で貫いて下さい」


「わかった!」


そう言って、ストーンは早速右手に魔力を溜めて、魔力の矢を生成し、正確にゴブリンの右胸を貫いた。矢が貫いた後は、ゴブリンは地面に倒れ、絶命した。


「お見事です。では、次はあの角を曲がった先にいる、2匹のゴブリンです。見えますか?」

「明確に正確にな」

「では1匹は頭に、もう1匹には腹部を射抜いて下さい。それぞれお願いします」

「おう!」


と言って、ストーンは矢を2発同時に打ち込んだ。ストーンの弓術の真骨頂は何と言っても、この必中スキルだ。視界に入っていなくても、魔力でターゲットを指定し、そこへ至る道筋を描き切れれば、必ず矢を当てることが可能になるのだ。


ドン!!ドン!!


簡単にゴブリンを殺すことができた。


「次は、あそこに魔力の渦があるのはわかりますか?」

「あれは、何だ?」

「あれは、生成されている魔法陣です。」

「なっ!!??そんなことまでわかるのか?」


(そりゃ、俺はここに何度も潜っているから知っているが、設定では俺はここには初めてのはずなので、あまり何でも知っている雰囲気を出すのはまずいよな・・・)


「いえ、死の森にも同じようなものがあったので、分かるのです。潰しておきましょう」

「どうやって?」

「簡単です。先ほどの矢を、あの魔力の渦に打ち込めばいいのです。どうぞ」

「わかった」


ストーンは、一発魔力矢をその渦に打ち込むと、その魔力の渦は霧散した。


「おぉ、なるほど、これで、魔法陣の生成が防げるのか」

「けども、この魔力の渦が起こっているということは、もともとこの場所には魔力が溜まりやすいようです。どれだけ渦を霧散させても、また渦ができやすい場所なのでしょうから、常時この場所を通る時は魔法陣が生成されているか、気にしなければなりませんね」

「ネオ、君はここのダンジョンが初めてではないように感じるな」

「いえいえ、僕は死の森で何度もこのような魔素の特異な動きを観察するのが好きなので、たぶんこのダンジョンでも同じ現象が起きているのだと推測しているだけですよ」

「そうか・・・しかし、これで俺たちのダンジョンアタックの安全性は大きく増したんじゃないのかな?ユハにはこんなことはできなかったと思うぞ。ネオ、この索敵スキルは本当に凄い!」


それからも、ストーンに俺はそれぞれの魔力の流れの意味を説明をしながら、次々に現れるゴブリンや他の魔獣の討伐の仕方を指示しながら、勇者パーティを先導して、ダンジョンの奥へと進んでいった。


後ろから見れば、突如、ネオがストーンに何もない壁に魔力矢を打たせたり、遠くの方に魔力矢を十数本いきなり放たせたり、何にもない天井に魔力矢を射させたり、とネオの指示は、荒唐無稽すぎた。


しかし、ネオとストーンが先導してから、一度としてゴブリンや他のモンスターとの遭遇はない。またいつもなら、何かの魔法陣に引っ掛かって、炎でダメージを受けたり、稲妻が迸り、進行が中断することもあるが、一度もそれが無い。ストーンへの指示は全て意味があると判断せざるを得ないのだが、一体何をしているのか、一体何を話しているのか、一体何故あんなにもストーンが興奮しているのか、など全く皆目見当がつかない状況に、他の勇者パーティたちは困惑していたのだった。

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