65 ネオの実力
ユハは二人が現れたのを視認し、笑顔で迎えた。
「ありがとう。よく来てくれましたね。まずは皆で個室に移動しましょうか。どうぞ、こっちへ」
そう言って皆で少し大きめの個室へと案内された。
俺とスカーレットは差し出された椅子に座り、勇者パーティもそれぞれの席につきテーブルを挟んで相対した。
(なぜ勇者パーティが全員いるんだ?)
俺とスカーレットは勇者パーティの全員が来るとは思っておらず少し面食らっていた。
俺の索敵スキルは既にかなり洗練されており、物の輪郭や色も把握できるようになっている。そのスキルで彼らの様子を確認すると、さすが変装魔法アミュレットをしているだけのことはあり、彼らの外見は全てエルフ仕様になっていた。
髪の色は金髪で眼も碧眼となっている。しかし基本的な顔のパーツが変わっているわけではなく、彼らの面影は色濃く残っていた。
(確かに勇者パーティだな。よくこいつらここまで来たな)
冷静に話をしようとは思っていたが、沸々と怒りの感情が込み上げてくるのを感じる。やはりこいつらと行動を共にするのは間違いかもな・・・。
ギリっと俺は歯を食いしばった。俺の様子を見てスカーレットが俺の手を握った。
(落ち着いて。私はここにいるわ)
と言ってくれているかのような温かみと安心感が手を伝って俺に届いた。
おかげで少し冷静になった。俺は握り返し(ありがとう)とスカーレットに伝えた。
ユハは早速自己紹介から始めた。
「この子たちは、ネオとスカーレット。この都市で冒険者をしています。そして私たちのパーティは左からライト、ウィング、ツリー、スカイ、ストーン、そしてスリーです。初めまして」
笑顔でユハがこの場を取り仕切っていた。勇者パーティのメンバーはユハの雰囲気とは裏腹に意気消沈という感じであった。
ライトは、はぁー、とため息をつき、俺とスカーレットに気を遣うことなく、大きな声で話した。
「ユハ、どんな奴に同行依頼したかと思えば、こんな盲人のガキを呼んできたのか。がっかりだぜ。」
ウィングも2人の非戦闘員らしき雰囲気を見ながら驚いていた。
「ユハ、俺たちはダンジョンに慈善活動をしに行くんじゃないんだ。ポーターとして雇うにしても無理があるだろう。ガタイができ切っていない。前のポーターのカイトは、走れたり自分で判断して動けたりしたんだ。この盲人の子たちは大丈夫なのか?」
スリーも少し心配した様子で、ユハに話しかけた。
「ユハさん、ちょっと心配かな?私たちだけでも大変なダンジョンアタックだから、この子たちの事まで守り切れないと思うけど・・・」
他のメンバーは何か言うこともなかったが、心配そうな視線でユハと盲人の2人を交互に見ていた。
ユハはそれらの視線と懸念の声に答えるように自信を持て答えた。
「大丈夫よ。おそらくこの都市の中でも有数の冒険者であることを私が保証するわ。多くの採取困難な植物を獲得しているパーティなのよ」
ライトからは、「どんな植物だよ?」と遠慮のない視線で、俺とスカーレットを見ながら言った。
「ドラゴンローズ、シャドウリーフ、グリフォンの羽根草、挙げればまだあるわ。それぞれは、普通の冒険者では入手は不可能なのよ」
「ユハさん」
俺は静かにそれでも威圧するようにユハに言った。
「あまりそんなことをここでは大きな声で話さないで下さい。僕はこのことを公にするつもりはないんです」
ユハは焦って「ごめんなさい」と謝った。
ライトは無遠慮に、今の俺の言葉も聞いていないように言葉を継いだ。
「ドラゴンローズ、シャドウリーフ、グリフォンの羽根草か・・・たしかに大したものだ。俺もその植物の名前は何度か聞いたことがあるし、シャドウリーフに関しては、俺たちもダンジョン内で闇に紛れて、休憩する時に使うからな。こんな葉っぱ、どこから取ってきてんだといつも思っていたが、お前たちの様な植物採取専門の冒険者が採ってきてんだな。こんなところでご対面できてうれしいぜ。
どうやって採ってんだ?盗んできたか?大金を払って買っているのか?もしお前が本当に採取したとしたら、お前は何のスキルを持っているんだ?たしかシャドウリーフは、透明になった葉っぱしか効果が無いはずで、それを採るには夜に採るしかないが、それも透明で見つけるのは困難なはずだ。お前たちのスキルが関係しているんだろう?何のスキルを持っている?」
初対面でスキルの話をするのは御法度だ。お互いの手の内をすぐに明かすような、愚かな冒険者はいない。またその前にかなりの傲慢な発言もしている。これはライトがこの二人を見下し、情報を明け渡すのが当たり前であるような高圧的な態度を取っていた為であった。
この傲慢な発言の為に、一気に雰囲気が悪くなった。ユハの表情に緊張が走った。
俺の横にいるスカーレットは昔、俺に初めて会った時は、同様にこんな感じでズケズケと俺にスキルの事を聞いたのを思い出してか、(こんな感じで聞こえるのね)と自嘲的な笑いをしていた。
その笑いをライトは、自分を嘲笑する笑いと取り苛立った。
「おい、何がおかしい?バカにしているのか?」
スカーレットはこのライトとかいう男の怒りを何でもないように受け止め、「何も」と涼しい顔をして、いなした。
「スカーレット、今のタイミングで笑うと、この人の質問がバカみたいだと笑っているように取られたから、この人は怒っているんだよ。自制して」と俺は説明した。
ライトはその発言にキレた。
「おい!!貴様!何様だ!?ぶっ殺すぞ!!」
ドン!!!とテーブルを強く叩く音が個室内に響き渡った。あまりの大きな音であった為、部屋の外の冒険者ギルド建物全体が一瞬で静まった。何せ、この都市の冒険者ギルドで、あの凶悪なダンジョンアタックをしている、数少ないパーティだ。何が起こるのかと、皆注目をして部屋を見ていた。そんな時に部屋から大声と大きな音が聞こえてきたので耳をそばだてて、部屋の中で何が行わているかを探ろうとしていた。
ユハは急いで部屋のドアを開けて、ギルド全体に「すいません。ちょっと白熱してしまったようで・・・」と全体に謝った。ギルドにいる冒険者たちは、このような荒事には慣れているので、すぐに自分たちのことに戻っていった。
「この人は、とても怖いですね。ユハさん、僕たちはこんな扱いを受けにここに来たんじゃないんです。不快なので帰ります」
「ちょ、ちょっと待って!ライト、もう少し落ち着いて!喧嘩をするために、呼んだんじゃないのよ!」
「ユハ、これぐらいの圧で怖がっているんだ。こいつらは大したことはない。さっさと追い出してしまいな」
「ライト。この人たちは眼が見えないのにも関わらず危険度Aの植物採取をしているのよ。あなたたちでも簡単ではない採取依頼よ」
俺は再度、ユハを窘めた。
「ユハさん」
「ごめんなさい。けども、こうでも言わないとこの人たちは納得しそうにないの。少しだけでも、あなたたちの力を見せてもらってもいいかしら?そうしてもらえたら、この人たちも納得すると思うの」
「・・・・しょうがないですね。何を示せたらいいですかね?」
「そうだな。さっきの植物採取の方法を言ったら、俺は納得するぜ」
とライトは先ほどの苛立ちをぶつけるように言い放った
「それは、無理です。そうですね、代わりと言ってはなんですが・・・」
そう言って、俺は索敵のスキルを指向性を持って、冒険者ギルドの奥の方に伸ばしていった。
「このギルド内の窓際に男性の冒険者の方が座っています。大柄な方ですね。身長は約190センチで、顔に傷のある方です。服装はゆったりとしたワイルドな感じです。ゆったりとした服装ですね。体には多くの傷があり、少し体のバランスが悪いですね。おそらく右足に負傷しているのでしょう。右足を庇って左足を中心的に使っています。上半身の肉体が少し大きく発達をしているので、腕を使っての攻撃が多いのではないでしょうか」
そう俺が言うとドア際に立っていたツリーが、ドアを開けてパッとその男を探した。冒険者ギルドも広く、50台ほどのテーブルがある場所であるので、窓際といえば、どこを指すのかも分からなかった。しかしよく見ると遠くの方に今、この盲目の男が説明に該当する男がいた。先ほどの描写に合う身長190センチの厳つい男だ。
ツリーは「確かに該当する冒険者は要るな」と言った。
ライトはイラっとして発言した。
「出鱈目だ。なんでそんなことまで分かる。適当に言っているんじゃないのか?!」
「では」と言って、俺はライトに正対した。
「あなたは身長2メートルほど。体重150キロぐらいですかね?かなり鍛えられた体躯だ。指を見ているとカサブタが多くありますので、剣などの武器をかなり振っていたのではないですか?それにあなたの足運びも体の使い方もかなり上手ですね。また筋肉の付き方のバランスが非常に整っている。多種の格闘技を習得されているのではないでしょうか?またあなたのスキルは、身体能力向上系でしょうね。体中に古い傷が多くありますね。もしかしたら、あなたのスキルの為に大幅に攻撃力を上げられてはいるが、体の耐久力が追い付いていないのではないですか?拳の骨も折れた跡がある。肘も腕も足も踵も。そのせいじゃないですか?」
「なっ??!!」
ライトは、大きく目を見開いて、ネオの観察眼に驚いた。
「な、何故分かる!!??お前は目が見えないのじゃないのか!?実は見えているのか?!」
「いえ、これは索敵スキルの為です。魔力だけでなく物質的なものも『見える』のです。どうですか?他の人も言いましょうか?だいたい合っているとは思いますが」
勇者パーティは皆押し黙ってしまった。ネオの言ったことがあまりに的確であった為に、彼の観察眼を信じざるを得なくなったのだ。
「し、しかし」
ウィングは何とか反論をしようと、声に上げた。
「戦闘能力はどうなんだ?どれだけ観察ができようが、戦いにならなかったら、話にならないぞ。」
「たしかに、その通りですね」
落ち着いた声色で、俺は答えた。
「僕の戦闘能力はほぼないです。戦う力はありません。うちの姉も同様です。お互い索敵特化のパーティとして冒険者として活動をしています。危険な場所には近付かない、回避する、という方法で今まで生きてきました。なので、あなたの指摘に関しては反論の余地はありません。同意です。こんな私たちでよければ、雇ってもらって結構です。もし無理なら、雇わなくても全く問題ありません。私たちは、自分たちの採取依頼をこなしていくのみですからね」
「「「「・・・」」」」
みな押し黙った。確かにこれほどの索敵能力があれば、もしかしたらダンジョンアタックもより進むのかもしれない。十分な索敵をユハにはしてもらっているが、そのユハが紹介している冒険者たちだ。そしてその実績。危険度Aの依頼も達成している。それを支える力は今、見せてもらった。本物だろう。
「いいじゃないの」
スカイは、今まで黙っていたが、徐に口を開いた。
「だって、めっちゃ可愛いじゃん!むしろ格好いいのかな?お姉さんも綺麗な人だし、一緒に活動出来たら、楽しそうだよね♪」
勇者パーティは、ズコっとこけて、苦笑いをするメンバーもいれば、爆笑するメンバーもいた。
ライト「まぁどれぐらい役立つか見物だな」
ウィング「そういう問題じゃないんだが・・・」
ストーン「どっちでもいい」
ツリー「まぁ、実力は十分なんだし、いいんかな」
スリー「私もいいと思よ」
ユハ「では、それで。明日に元々アタックの予定でしたので、明日の朝6時にここに集まりダンジョンアタックに臨みますが、よろしいでしょうか?そこでネオとスカーレットの実力もどんなものか見てみましょう。まずは1層から行きましょう」
皆、それで大丈夫ということで頷き、一旦その場を散会することとなった。
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