64 アイテムポーチ作成

翌日、俺とスカーレットは、朝から植物採取の依頼を受けて、近くの森を訪れた。俺はそこで植物鑑定スキルを使い、今後のダンジョンアタックで必要になるであろう植物と、依頼されている植物を採取していた。森は俺にとっては宝の宝庫だ。もちろん、中には何の変哲もない普通の植物がほとんどであるわけだが、中にはレアな効能のある草もある。例えば、食べるだけで魔力や体力が大幅に回復する草もあるし、毒草もあったりする。1番レアな草としては、スキルを得られるというものもあるのだが、この森にはさすがにそこまでレアな植物は存在しなかった。


大体そういう多大な恩恵のある植物には、大きなリスクを孕んでいることがほとんどだ。例えば、俺があの毒草の洞窟で経験したように、大幅に筋力や反射神経を上げるような草と言うのは、高い致死性の毒を持っていた。俺は1年間スカーレットともにあの毒草の洞窟で過ごし、万癒の果物を食してきた。そのおかげで今のスカーレットも毒への耐性はかなりできており、どんな毒にも耐えられる体になっている。だから俺たち2人にとってはどんな毒草も恩恵でしかない。


この森の中は凶悪な魔獣がはびこり、多くの危険が伴う場所でもあった。しかし、もちろん俺とスカーレットの戦闘力であれば、ただただ遊び場の場のようなところだ。俺は周囲を植物鑑定で見回しながら必要となるであろう植物を採取していった。中には希少な植物もあったりして、スカーレットと一緒に興奮しながらワイワイ言いながら採取していた。1つ見つけた1番レアな植物としてはワイルドウィスパーヴァインだ。


ワイルドウィスパーヴァインの蔓は魔法の杖の柄の材料として用いられ、その力を増幅させる効果がある。武器の所持が違法となったエルフ国においては、よく用いられるのはこの蔦を手の平で握ることで蔦の存在を悟られないで、魔力を増大させることが可能なのだ。よく多くのエルフ族の冒険者がやっている裏技だ。


またこの植物から作られた薬は視覚を鋭くする効能もあり、ダンジョン内では暗闇の中で戦闘する際また相手俊敏に動く際には、対策として薬として服用されることもある。非常に使い勝手のいい植物だ。ワイルドウィスパーヴァインは森の奥深くにしか見つからない。また見つかったとしても、この植物は近くで生物が音を立てると高速で蔦を引っ込め地中深くに潜っていく性質があり、採取は困難を極める。だがこんな森の浅い所で見つかるとはかなり幸運だ。静かに近づき一瞬で掴み取った。掴まえるとブチブチと音を立てて、掴んでいる部位以外は全て地中へ逃げていき、手のひらに残った部分しか採取できなかった。それでも持っているだけで魔力が常時向上する植物だ。持っていて損はない。


探索を続けて依頼にあった回復草のエルフリーフも見つけて採取。また毒素が多く含んでいる草も大量に採取し、『アイテムポーチ』に入れていった。


今から1年前毒草の洞窟にいる時、俺は今後の魔族との本格的な激戦を考えると、なんとか採取した植物を保存する方法はないのかと色々と探っていたのだ。手持ちでは限界があり、基本大型パーティを組んでの戦法を選ばない俺にとって補給品の確保は必須であることがガルーシュ伯爵領での戦闘で良く分かった。そこで思い付いたのは『アイテムポーチ』の製作だ。


昔どこかで『アイテムポーチ』という伝説のアイテムが存在するのを誰かから教えてもらったことがあり、その時は一笑に伏していた。しかし実際にこれからの事を考えればこのようなアイテムに関わらず、どう継戦能力を上げていくかは正直かなり喫緊の課題であった。スカーレットにこの『アイテムポーチ』の作製は可能かと相談したことがある。


スカーレットは眉をひそめながら彼女が聞いたことがある『アイテムポーチ』の仕組みを説明をしてくれた。魔法陣を常時発動させその魔法陣が作り出す「次元の心臓」と呼ばれる空間に物を収納できる、という眉唾物の代物だ。伝説級のアイテムでスカーレットもどこかの貴族が金庫として使っているとの噂を聞いたことがある程度で、実物を見た事はないらしい。別空間を生成する魔法陣も見たことも聞いたこともないというので、その『アイテムポーチ』の存在はまさに伝説級だ。


俺は様々な毒草を食べている中で実は、魔法陣作成スキルは得ることができたていた。あまりその時は有用性は感じなかったが、試みに色々と試してみた。その時、魔法陣が描けるなら、あの『転移魔法陣』も描けるかもと思い魔法陣作成を発動させると、頭の中に転移魔法陣の作り方が浮かび上がってきた。


(これはすごい)


俺は驚嘆した。これは使えると思った。そしてその思考はそのまま『アイテムポーチ』の作製に及んでいった。そもそも転移魔法陣が可能なのだから別次元なんてよく分からない空間ではなく、どこか安全な保管場所にチェックポイントを記録してそこに腕だけでも飛ばして取ればいいんじゃないか、と。スカーレットはまず転移魔法陣が描けるスキルを得たことに驚愕の表情をした。


「ネオ、落ち着いてよく聞いてね。転移魔法陣作成能力のある者は国家の管理の元、王宮で保護されて生活をすることになるぐらいの超レアスキルなの。もしこのスキル保持が判明して王国やギルドへの報告がなかった場合は、国家反逆罪が適応され逮捕連行死罪となるのよ。絶対このことを口外してはダメよ。もしくは思い切って口外してしまい、国家の保護の対象となるかだけど、まぁそれはあり得ないわね」


「そんなスキルが取得できる毒草があることが判明すると、俺たちを拉致しようとしてくるだろうな」


「そうね。この洞窟自体が国家機密級の存在だし、国家反逆罪は転移魔法陣だからというか私たちの力の存在の理由が分かれば、死罪は免れないわね」


はははは、と乾いた笑いをスカーレットはしていた。


「ネオといると、世界観が変わるわね」


その後色々と話をしていると、とにかく腕のみを転移させるような転移魔法陣を作るのは不可能だ、否定された。


転移魔法陣は常時発動することはなく、使用は一度っきり。そしてチェックポイントに飛んで元の魔法陣発動位置に戻ってくるには、チェックポイントを魔法陣発動位置に記録しておく必要がある。腕だけをチェックポイントに飛ばし戻すことはできない。俺はこの『アイテムポーチ』を絶対に可能にすると腹を決め工夫次第でどうにでもなるのではないか、と転移魔法陣の仕組みをこねくり回しながら、うんうん唸りながら諦めず思索した。


(魔法陣が一度っきりの代物であれば、単純に何度も作ればいいじゃないか?)


腕を入れて出したとしたらその腕は切断されるのかと思い、試しに木の枝の一部だけが行くのかと転移魔法陣に置いたら、一部だけでなく木の枝全部転移してしまった。その転移魔法陣の中に入れた分だけでなく転移魔法陣で移動することを指定された存在全部が転移されてしまうようだ。つまり腕を入れたとしても俺の体全身が転移してしまうのだ。全体としてチェックポイントに転移されるので一部だけの転移は無理だった。


それでは、俺自体がチェックポイントに移動し物を取り、そして元の位置に戻ってくる、という工程がどうしても必要となる。これはこれで可能だが、周囲からは突如俺が消えてまた戻ってくることとなり、時間のギャップが生まれるから非常に不便というのと、そもそも俺の転移魔法作成スキルが公に公開されてしまうから先程の国家反逆罪適応になる。周囲の忌避感も半端なくあるだろう。なので、こっちの方向性で考えるのは厳しい事が分かる。


魔法陣作成スキルを色々試していると魔法陣を時限型にしたり、遠隔操作型にしたり、自立型の組めることも判明した。


時限型魔法陣は魔法陣をある場所に設置し時間が経てば起動させることが可能になる。


遠隔操作型は任意にその魔法陣を発動させることが可能になる。例えば火の魔法陣を作りどこかに設置する。そしてこちらが発動させたい時に魔法陣に埋め込んだ炎を上げることも雷を発生させることも雲を発生させることも水を生成することも可能になってくる。


また自立型は魔法陣の起動条件が満たせば自立的に起動するというものだ。例えば誰かが魔法陣を踏むとか、誰かが魔法陣を壊した時とか、と条件を組み込むのだ。その条件が満たせば、俺の意思に関係なく『自立的』に作動する。


非常に使い勝手の良いスキルであることが考えれば考えるほど、その理解は深まっていく。実験を繰り返していくうちに攻撃用にはほとんど使えないことが判明して、ガックリきた。殺傷能力はほとんどないに等しい。炎も肉を少し焼くぐらいだし、風も扇風機並だ。しかし何でも要は使い用なので諦めずに試行錯誤をし続けた。


転移魔法陣は起動時には少しの魔力を使用する。一番大変なのは大量の魔法を使用して魔法陣を描き設置するところだ。それが終われば大半の仕事は終わっていると言ってもいい。


魔法陣作成スキルは、間違いなく今後の俺の冒険者人生としても非常に助かるスキルだ。例えば野外で寝ている時も俺の周囲に魔法陣を罠として設置しておけば、誰かが近づいたら罠が発動し大きな音を発生させることが可能なのだ。まさに少人数パーティにとって必須スキルじゃないだろうか?


魔法陣の特性に思いを巡らし、何とかこれを使って『アイテムポーチ』を作れないかと必死で考えた。絶対可能なはずだ、と断固たる決意だった。


では逆転の発想で、まずは岩山の洞窟を見つけて誰も入ってこれないような場所を探す。そしてそこに大量の物資を置いておく。そしてそこに何個も魔法陣を設置する。そして転移先を俺の持っているなんの変哲もない袋の中に指定しておく。そして自分がほしいものがある転移魔法陣を起動させれば、そのものがこちらに転移させられ袋の中に現れる!!!


「できた!!」


この仕組みを発見をした時はスカーレットも驚いた。しかし彼女の視点は非常に鋭く一瞬でこのやり方の問題点を突いてきた。それは


『どれぐらいの距離が離れても、転移は可能なのか』


というものだ。


なるほど、たしかに。早速実験だ!


俺は魔法陣を何個も毒草の洞窟の中に設置し、その上に多くの草を置いてチェックポイントを袋の中にした。そしてだいたい30分ほど走って、100キロ先ぐらいまで移動した。そこで転移魔法陣を起動させた。問題なく転移させることが可能だった。さらに30分ほど行き起動させると可能だった。


(す・・・凄い)


さらに30分、さらに30分、さらに30分と距離を伸ばして、実験していったが、どれほど遠くに行こうとも、問題なく転移魔法陣は起動できた。


これはこれで恐怖でもあった。もしかしたら、例えば他の誰かが俺に転移魔法陣を貼り付けそれを発動させることで、俺を深い深海の底とか、マグマの中とかに転移させて殺害することも可能になるんじゃないかと思った。完全犯罪が可能になる。最強の武器になる。試すことはできないがこの大陸の端にいて反対の端に置いた魔法陣を起動させることも可能になるのだ。


しかし実験を様々に繰り返す中で分かったことは、転移魔法陣の特性として誰かが俺に転移魔法陣を設置し起動させて、俺をどこ遠くに飛ばそうとしたとしても、魔力のある人や知性のある程度ある魔獣などは転移魔法陣からの干渉は簡単にキャンセルできるのだ。動物や物に関して問題なく飛ばすことは可能だった。転移魔法陣で魔力を包有している人や魔獣を転移させたい場合は、転移される側が転移魔法陣の魔力の干渉を受け入れないと、その人や魔獣が持つ魔力が邪魔をして転移がうまくいかないのだ。


しかしいくら魔力があったとしても、その人や魔獣が保有する魔力がゼロになってしまうと、簡単に魔法陣の魔力で転移させられてしまう、というからこれはまた恐ろしい。


これが分かっていない人たちは、魔力を全て消耗しても平気な顔をして日々の生活をしている。


分かっている人たちは絶対に魔力を必ずゼロにしないように、戦闘中は気を使っているのだろう。この場合は転移魔法陣対策というか戦闘のために、魔力量の管理は絶対だ。俺もそれで昔はかなり大変だったしな。


よく考えれば、どこの世界の人が私生活の中で転移魔法陣に引っ掛かるかもしれないと思いながら、魔力を空っぽにしないようにしようと思うのかと、そもそもそんな自立式の転移魔法陣が一般的な町にあるはずもなく、人々は気にしないだろう。そんな万が一に備える人はさすがにこの世界でも存在しない。そもそも転移魔法陣自体がそんなに日常に溢れるものではない。


なので転移魔法陣で、戦闘中に相手を転移させることは基本は不可能だ。皆、魔力で自分の身体能力強化をしながら戦っているので、転移魔法陣ぐらいの微力な力であれば干渉がキャンセルさせられる。


そもそもすべての前提として、魔法陣を描くスキルが稀である。もちろん国家が管理しているのだから一般人が普通に出遭ったことがない。そして転移魔法陣は更に稀だ。今ダンジョンで転移魔法陣が売り出されているがかなり高価であり簡単に描けるものではない。


俺はスカーレットと白熱した議論を繰り返し、とにかく懸案事項を上げまくった。懸案事項を上げては潰す。懸案事項を上げては、また潰す。そのような事を繰り返しながら俺は転移魔法陣の実戦運用を可能にした。


毒草の洞窟を出る前に俺はできるだけ多くの万癒の果実を乾燥させて保存用にし、魔法陣上に置いておいた。そして自分の袋の中にチェックポイントを置いていつでも取り寄せるようにした。これで俺はいつでもどこでもあの毒草の洞窟の中の物質を取り出せることが可能になった。その事実をスカーレットに伝えると目を大きく見開いて、俺に抱きついてきた。


「ネオ!これはすごいことよ!これで、私たちの継戦能力と生存確率が大幅にアップしたと思っていいわ!本当にあなたには驚かされっぱなしだわ!素敵だわ!」


「そうだな。正直この力はあまりにも凄すぎる。エルフ族国家がこの転移魔法陣の使用を厳しく管理している理由がよくわかるよ。多くの人々がこの転移魔法陣を使えるようになると、この世界の経済や戦争の形を大きく変わるだろう。とにかく俺とスカーレットがこの力を手に入れたから、エルフ族国の復興に大きく一歩前進したと考えて良いだろうな」


「ありがとう!ネオ!」




                   ◇





俺はスカーレットと、ウォルタ郊外の森の中で植物採取を続けていた。森の中には回復効果のある草や、毒草なども色々とあった。それをどんどん自分の袋に入れていき、ある程度集まったら保存倉庫として使っている、近くの岩山の洞窟の中に送って行った。


横を見るとスカーレットが鼻歌を歌いながら、植物採集をしていた。毒草の洞窟の中で死を賭して戦闘能力を磨き多くのスキルも学ぶことができた。水魔法、風魔法、土魔法、闇魔法、と。それに伴う苦痛で死にそうにはなったことは100回はくだらない。今は生き生きとしているスカーレットを見て俺は目を細めた。


突然、目の前に一体のグリフォンが現れた。この魔獣はランクBに指定されている。その機動力と攻撃性はかなりのものであるが、単体であればほとんどの冒険者が倒せないことはない。しかし一番恐怖なのはグリフォンが仲間を呼ぶという特性だ。決して一匹で狩りをするのではなく偵察として一匹が餌場を調べて、ターゲットの獲物やものがないかを調査する。そして獲物があれば仲間を呼び、数十匹のグリフォンが飛来し襲ってくるのだ。群れとなったグリフォンのランクはSSだ。今目の前にグリフォンはまさに偵察の為にいる。俺はスカーレットと話をして取得依頼のあるグリフォンの爪と羽を毟りとっていこうかと話をした。


俺はグリフォンに軽く近づき親しく話しかけた。当然グリフォンは俺の話す言葉を理解できるわけもないので、警戒感を露わにし身構えた。小さいエルフ族の子供だ、自分が仲間を呼ぶ必要もないだろう、と思ったのかこちらに対して威嚇し攻撃をしてきた。軽く嘴の攻撃をいなし、俺は嘴を掴み近くの木にグリフォンの体をぶつけた。バキ!!と大きな音がして、グリフォンは瀕死の状態になり動けなくなった。グリフォンは必死の叫びをあげた。


「キュピーーーーーーー!!!」


東の空から大群のグリフォンがやってきた。普通の冒険者が見たらぞっとするような光景かもしれないが、俺とスカーレットから見たらちょうどいい訓練の場のようなものだ。これぐらいの数のグリフォンだったら、多くの素材を得られるな、と思い、大群のグリフォンを見ながら俺とスカーレットは自然と笑顔がこぼれた。




                  ◇  




そして夜になり、俺とスカーレットは、ギルドに着いた。そこには予想していなかったが、勇者パーティメンバーが全員いた。

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