63 今後の行動方針
俺は宿泊先に戻った。
もう22時頃にはなっていたが、スカーレットは俺の帰宅を待ってくれていた。
早速俺は先ほどのユハとの話をスカーレットと共有した。
「そう。勇者ね。あなたを死に追いやった国の人たちよね?」
「そうだ。こんなところで会うとは思わなかった」
「それでついて行くの?」
「色々と悩んだが、そのつもりだ。まずはこのユハの組織の諜報能力は危険だ。早めに潰した方がいいと思う。今後の俺たちが魔族とやり合っている時に必ず障害になってくる。勇者パーティぐらいなら何の心配もないが、俺は情報戦が如何に戦闘の趨勢を決めるかを身に染みて感じているからな。ニコの時がまさにそうだった。情報戦で俺たちの戦いは一度は負けた」
俺が不用意にニコの姿で戦闘に入ったせいで、魔族にガルーシュ伯爵と俺とのつながりを見せてしまい、ガルーシュ伯爵は皆殺しに遇った。一つの情報は時に人々の命運を左右する。決して軽く見てはならない。
「・・・あれは不遇な出来事よ。あなたは何も悪くないわ。じゃあ、勇者パーティを殺す?」
「あぁ、そのことだが、色々と考えたがまだ時期尚早だと俺は思う。ファーダムの間諜の実力が計り知れない。本来はギルド職員しか知らない情報を元にして俺に交渉して来た。組織力はかなりのものだと思っていい。あいつらを消すとどれほどの奴らが俺たちを襲ってくるか、全く分からない。
しかし、俺たちが既に9層に達している事実を知っていれば、あの脅すような交渉は有り得ない。自分の身を亡ぼすような愚行だ。だからまだ、俺たちのことはまだかなり有能な『植物ハンター』ぐらいにしか思ってない。
まずはアイツらの力の把握をしたい。それとあまり関わりすぎるとこちらの言葉の端々から俺の身元がバレる可能性もあるから、付かず離れず距離は取ろうと思う」
「分かったわ。ネオが行くなら私もついて行く。あなたはすぐに色んな女の子に手を出すから心配だわ」
真剣な話をしているのに、突然話の流れ思ってもいない方向に変わったので、俺はズッコケた。
「おいおい、そんな事ないだろ・・・だったらスカーはいいのかよ?今までの探索や討伐依頼の中で、スカーも今までも結構な男たちを助けて、その男たちをその気にさせていたよな」
「私はいいの。私の場合はネオ以外の男には感情が入らないわ。
それに、誰かを助けた所で私に何か特別な感情を抱く男はいないわよ。けどもネオの場合女の子が勘違いしちゃうから心配なのよ」
「ど、どういうこと?まぁ・・・、よく分からないが、とにかく、スカーに安心して欲しいのはエルフ族国を魔族の手から解放した後に、俺はヒト族国に行く。この国を救うのが先決だ。ちなみに魔族を全て皆殺しにした後はどうするんだ?」
「まずはエルフ族のサニ派とムラカ派の和解を進めたいわ。もしサニ派の法王がまだこの期に及んで、差別的で前時代的なことを言っていたら、最後の手段としては私自身の手を汚す事も覚悟しておいた方がいいかもしれないわ。そもそも、サニ派の法王自体が魔族の可能性もあるしね。結局サニ派とムラカ派が手を取り合う以外にはエルフ族国の未来はないわ」
「それはそうだろうな。サニ派とムラカ派が手を取り合った後の国作りはどうするんだ?」
「そうね。その時はあなたをエルフ族の王にでもしようかしら。ふふふ」
「やめてくれ。俺はそんな柄じゃない。エルフ族もヒト族も魔族の事も全て終われば、ヒト族国の王族を亡ぼして、このエルフ族国に戻って静かに暮らしてもいいな。何かの爵位でももらって土地をもらってスカーと過ごしたいかな」
「ネオは自分の世界に戻りたいとは思わないの?」
「俺はもうこの世界で一緒に生きたいと思える存在に出会えたからもう未練はないよ。うちの家族も友人も元の世界にはいるが、そもそも自立した後は海外に行こうと思っていたんだ。あまり変わらないだろう」
「何?海外って?」
「海外というのは、自分の国を離れるという、俺の世界での言い回しだ。この世界でスカーと住めるならどこでもいいよ」
「あなた、よくそんな恥ずかしい事を惜しげもなく言えるわね。それはそれで私は嬉しいけども・・・」
スカーレットは顔を赤くして最後まで言葉を言えないでいた。家族以外の異性からこれほどの愛情表現を受けること自体が彼女にとってはいつまでも慣れないことだった。
「まぁ、俺にとってスカーがそれぐらいの存在という事だ。誇っていいぜ」
「もう」
そう言いながらスカーレットはネオの体に身を寄せた。ネオの体の温かみを感じながら確かに自分の居場所がここにあることを感じ、安心感に身も心も満たされていたのだった。
「じゃあ明日は夜20時頃にギルドに行こう。そこで一緒にユハに会う。そこでダンジョンに一緒に潜る事を伝えようか。
一日一緒に行けば銀貨100枚だ。まぁ、ちょっとした小遣い稼ぎだな」
「ネオはどれぐらい見せるつもりなの?」
「力か?そうだなあ。索敵を使い生活のために稀少植物を乱獲したことはバレているが、盲目であると設定はまだ生きている。
ギルド職員には念押ししたけどな。バラさないのが条件で納品するって。多分だけどギルド職員の中にユハの一派が入ってるんじゃないかと思うんだ。でなければギルド職員がコンプライアンスを破ることはないと思うんだ。
とにかくファーダムの間諜組織は侮れない。
俺たちが魔力を使える事はもうユハは分かっているから、索敵に徹するのでいいかな」
「戦闘時は?」
「ユハの話では勇者パーティはかなりの戦闘能力のある有能な人材だそうだ。奴らの影にでも隠れておこう。あのトカゲの大乱闘騒ぎで二の足を踏む実力だけども」
「あー、あのトカゲの蠱毒でしょ。最後一匹になるまでのバトルロワイヤルね。何回かは私も参戦したけど、あれはいい訓練だったわね」
「今のスカーだと勇者パーティ全員を相手にしても余裕な気がするが。とにかくこれからの行動方針を決めておきたい。
今の最大目標はあくまで超高純度魔鉱石を手に入れること。これが今後のエルフ国の命運を握っている。勇者パーティとの行動は2週間に1回ぐらい、2~3日潜る程度で俺たちの務めを果たす。それ以外はもう直ぐにでも魔鉱石は取りに行こう。俺たちならもうすぐに行けると思う。
そして魔族の殲滅。俺の正体は絶対にバレさせない。
その後の目標がエルフ族の復興だな。
その後にヒト族国の国族の殲滅だ。俺個人としては、正直勇者達よりもヒト族国の王族達への怒りの方が大きい。
これが順番だけど、ユハの組織の全貌が分かって、機会があるならエルフ国にいるファーダム諜報機関は潰す。
決してそれを最上位目標にはしないが、魔族の駆逐とエルフ族国の復興に必ず支障となるのがユハの組織だ。できれば、こいつらは今の内には潰しておきたい。そしてファーダムへのルートも分かるなら吐かせておきたいな。
できれば勇者パーティと行動を共にしているときに、何とかユハの諜報組織の全貌が知りたいが、ここでリスクになるのが、俺たちの戦闘能力が何らかのルートでファーダム国に知られたら、後々のファーダム国の殲滅や、魔族との闘争に支障が起こる可能性がある。
だからこちらがあいつらと共有する情報は、俺たちの基本情報のみに限定したと思う。
だからスカーは勇者たちに特に何かをする必要はないよ」
その後は色々と詳細を詰めて必要な備品を購入して一緒に床に着いた。
スカーレットは甘えるように俺の胸の中でスヤスヤと寝息を立て始めた。
今後は勇者たちと行動を共にする時間を少し取り、ユハの諜報機関を探っていく。
今回の勇者たちとの邂逅は俺とスカーレットにとって大きな転換点になるだろう、と俺は確信をしていた。
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