61 3層探索

勇者パーティはダンジョンアタックのために荷物運搬者(ポーター)のカイトを雇った。


カイトは25歳の男性独身。彼の外見は、中背程度でがっしりとした体格を持ち、鍛えられた筋肉が見え隠れする体つきだ。彼の肌は日差しを浴びて健康的な色をしており、髪は短く整えられ清潔感のある外見をしている。彼の笑顔は明るく親しみやすい雰囲気を醸し出していた。


彼は普段は農作業や狩りで生計を立てている村人であるが、1年前に近隣にダンジョンができてから普段の作業をしながらでも空いた時に1~2週間ほどのポーターの仕事をするようになった。


冒険者たちについていくことは、高確率で危険に遇うことはあるのだが、実入りが非常にいいため、またカイトも自分自身の体力には自信があった為、この1年間は臨時でポーターの仕事をしていた。


そして今回は最下層を目指そうというグループが初の3層へのアタックだ。少し緊張するが戦力を見るとかなり力量があるパーティなので、依頼を受けることにしたのだった。


ウィングたちは様々に準備が終わり、3層へのアタックを始めることとした。転移魔法陣を使い自分たちが記録した場所に飛んだ。


各層の最後の部分と次の層の最初の部分は、モンスターたちの縄張りの緩衝地帯になっており、ダンジョン内のモンスターとは遭遇しないのが普通だ。例外はあるのだろうが今のところ、各層の狭間の緩衝地帯においてモンスターに遭遇した冒険者たちはいない。冒険者たちは、その場所に転移魔法陣のチェックポイントを付けて、ダンジョンの入り口に戻り、また入り口からダンジョン内に移動する際は自分たちがつけたチェックポイントに移動するのが通例になっている。


各層の内部の途中でチェックポイントをつけてしまうと、移動先で突如モンスターに相対する可能性があり、移動していきなり戦闘に突入する、なんていうこともあり得るので、冒険者たちは各層の内部でどれだけ深く潜れたとしても、各層の最初からスタートすることにしていた。


3層は黄色の壁が特徴で爬虫類のモンスターが多く生息している。洞窟内の温度はかなり不快な高さで維持されており、だいたい40℃前後になっていた。皆暑さ対策の為に水魔法で体を湿らせて体温が上がるのを抑えている。アスクの水魔法で皆に満遍なく水を霧状にして与えていたのだ。


ウィングたちは慎重に装備を整えて、今回のダンジョンアタックに臨んでいる。転移魔法陣は高価ではあるが、皆が一つ持っていた。ダンジョン内で逸れた場合に備えてだ。最悪の場合この魔法陣が命綱となるのだ。お金で命は買えない。


ダンジョンで危険なのは、決してモンスターだけではない。ダンジョン内の魔素の溜まり場が何かしらの魔法陣に変異している可能性があるのだ。


ある冒険者の話ではその溜まり場から火炎が吹き出たり、雷が出てきたりしたこともある、とか。最悪なのは転移魔法陣に変異していた場合ダンジョン内なのか、はたまた全く違う場所に移動させられてしまうのかわからないことだ。


ダンジョン自体がこの世界ではレアな存在であるため、ダンジョン内部は謎に満ち溢れており、ウィングたちはかなり慎重に移動しないといけなかった。なのでウィングたちは魔力を感じる力を持つユハを先頭にしてゆっくりと周囲を確認しながら進んでいる。


またダンジョン内には光源が無いため、常に自分たちのパーティの周囲が視認できるように光魔法が組み込まれたランタンを持って移動していた。時にはウィングは前方を光魔法で灯して更に奥まっている所を見ることもあった。


3層の洞窟は不気味な存在感を漂わせ、中からは生温かい風が吹き出していた。


ウィング達のダンジョンアタックに最も役に立っているのは、ユハの空間把握能力と索敵と魔力把握だ。


彼女が先頭に立ち地図を確認しながら、危なげなくパーティを先導していった。


3層の全貌は各々が掴んでいる情報を合わせれば大体把握はされるのだが、冒険者たちはお互いその情報を共有しない為、新しいパーティにとっては大金を払って、ダンジョン内の道筋の教えを先をいく冒険者たちに乞うか、自分で踏破するかのどちらかしかない。


ウィングたちはエルフ国内にいるヒト族の諜報部隊の『協力者』たちのおかげで十分なお金の留保があった為、他のパーティにお金を払いこの3層攻略の為のレクチャーを事前に受けた。


このようにして、ウィングたちはこの未知の地下世界を探索する準備を十分に整えていたのだ。


三層の最上部を探索し始めて、モンスターが出てこないかユハは注意深く周囲を睨んだ。最初の数メートルでは天井が低く洞窟の壁が湿っていた。ウィングたちは一言も発せず静かに周囲の音に耳を澄ませ警戒した。進むにつれて洞窟はますます狭く不気味な雰囲気が漂い、危険に満ちていくことを感じた。


彼らは暗闇の中でランタンを使いながら進み、足元の地形に気を配った。洞窟内では奇妙な鳴き声や水滴の音がこだまし、時折上部から小さな石が頭上から落ちてきたりするので、ハッと息を呑む瞬間もあった。


彼らが進んだ先に地下水の川があった。どこかに豊富な水源があるのか、とてもクリアな水が10メートル先も見えるようなそんな水だった。1メートルぐらいの深さの川となりゆっくりとしたスピードで流れていた。ユハは索敵で水の中を探ったが、生物の存在はいなかった。皆川の中に入り、荷物を水につけないように頭上高く掲げ進んでいった。危険な区域ではあるが、水の美しさに圧倒され洞窟の中で見ることのできる驚くべき鍾乳石の形成も目に入ってきた。


しかし洞窟の奥深くへ進むにつれて、ウィングたちはますます危うい状況に直面していた。狭い通路を通る際はもしここでモンスターと遭遇すれば非常に危険であるため、ウィングが光魔法で光度上げかなり奥まで照らし、モンスターの有無を確認しながら進んだ。


巨大な穴が前方に現れた。その底は全く見えないほど深い穴であった。その端を渡る時は長い縄を出し一人がもし落ちれば全員で引き上げられるようにと慎重さと連携を持って進んでいった。


洞窟内には奇妙な植物も存在していた。鮮やかな黄色の草で、ポーターのカイトに聞くが全く見当もつかないとのことだった。それらを慎重に観察し、洞窟の中で繁栄している未知の生態系に驚きながらも、何かの採取依頼が掛かっているかもしれないと判断し、採取しながら進んでいくことも忘れてはいなかった。


数時間が経過しウィングたちはダンジョンの壁の黄色が徐々に鮮やかになっていくのを感じた。ユハが索敵しながら敵との遭遇を回避しながら進んでいたため一度も戦闘になることはなかった。壁の色の濃さはその層のかなり奥深くまで到達していることを意味している。


更に進むとそこには壮大な鍾乳洞が広がっておりその美しさに目を奪われた。そしてその場所がウィングたちにとって、周囲を十分に確認でき戦闘もしやすい場所だと判断し一旦休憩することにした。


「今のところは順調だな」


ウィングは汗を拭きながらパーティメンバーに声をかけた。


「とにかく暑すぎる。こんな調子で進んでいったら本当に不味いな」


ライトはアスクに頼み、手元の動物の皮で作った水筒内に水を生成してもらい水分補給をしながら毒付いた。


ウィングたちはここまでモンスターに出遭わなかったのを幸運に思いながらも、どんな敵が来ようが全て撃退してみせるとの気概で意気軒昂であった。鍾乳洞に座りそれぞれがアスクに生成してもらった水を飲み、蒸し暑いダンジョン内の気温と湿度にすこしずつ体力を奪われていたのに気付いていた。


その時ユハは全員に静かに戦闘態勢の指示のハンドサインを出した。横からぬぅと出てきたのは壁の色に擬態した全長3メートルもする巨大なトカゲだった。まだ大トカゲはこちらに気付いていないようで、ユハの索敵のおかげで先制攻撃のチャンスを得た。


ウィングは一気に何十発もの火魔法のスラッシュを放った。


ズシャ!ズシャ!ズシャ!ズシャ!ズシャ!との音がしたが表皮を少し削る程度だった。


ウィングの攻撃に重ねてアスクも火魔法のファイアボールを放った。


ファイアボールは超高速で回転しながら大トカゲに直撃したが、バウン!と跳ね返り地面に激突した。


ウィング「前情報では他のパーティもかなりの火力で何とか一体倒せるとのことだったからな。みんなで行くぞ!」


「お前の火力なら何とかなると思ったが、無理だったか」とライトは残念そうに呟いた。


「これぐらいの強度のあるモンスターがなかったら、そもそも他の冒険者も全員ここの場所を突破しているわ。覚悟を決めて臨みましょう!」とスリーはライトを宥めた。


「俺がまず先行して奴を止める!」とツリーが先頭に出て魔力を発動。魔力の壁である反射壁スキルを展開した。以前の魔族との戦いで反省点であった、二つのスキルの同時展開を激しい訓練と戦闘の末に可能にしていたのだ。そして、この反射壁は物理攻撃反射、魔法攻撃反射の効果があり、並の魔獣ではあればツリーが展開する反射壁で粉砕されてしまうのだ。


「殺す」ストーンは魔力矢を生成して必中強襲スキルを乗せて上空に放った。矢は大トカゲを貫通し「ギャ―!」との叫び声が聞こえてきた。


そこにウィングが無尽蔵の魔力を使い、次は水魔法を纏ったスラッシュを無数に浴びせた。大トカゲはゆっくりと動いており、全てのスラッシュをもろに食らった。


大トカゲは火魔法の時よりも水魔法の方が表皮をかなり削られたようだった。3層を探索中の他の冒険者パーティからは火トカゲ、水トカゲ、木トカゲ、金トカゲ、聖トカゲ、闇トカゲなどの全種類の属性のトカゲが存在している事を教えてもらっている。


それぞれが全く違う性質を持っている為それに応じた攻撃をするのが効果的であるようだった。それから鑑みるに、どうやらこの大トカゲは火トカゲかもしれないな、との予想を立てた。


攻撃を立て続けに与えていたが、大トカゲはゆっくりとウィングのパーティの方に動いてきた。ツリーはその動きを反射壁で抑えこんだ。


動きを抑え込まれている大トカゲに対して横から飛び出したライトが、2つのスキルを同時に行使し身体能力100倍と防御力50倍を乗せて拳打を大トカゲの横っ腹に打ち込んだ。


バガン!!!!!


強烈な破裂音がして大トカゲの体の側面部に穴が空き、大トカゲは側方に吹き飛んだ。


その打撃の影響はライトの腕にもダメージを残し手に痺れが残った。


ライトのスキルの身体能力向上や攻撃力増加の大きな問題は、実はその強烈な力の反動からくる体への大きな負担だった。もし防御力を上げないで使う場合、強烈な反動が起こりライトの体にダメージを残すのだ。ライトの体の耐久力を上げないと十全に身体能力・攻撃力の大幅な増加はできないでいたのだ。


その事に悩んでいたライトであったが、当初は2つのスキルの同時使用ができずにいたので、ライトは十全にスキルを使えないでいた。


一度ライトは、身体能力50倍と攻撃力50倍で拳打を岩に放った時は、腕の骨が粉砕されて再起不能になるかと思って、肝を冷やしたことがある。


すぐにアスクの回復魔法によって事なきを得たが、もしこのままの状態で放っておけば腕の骨は砕けたままだっただろう。


ライトは以前からも自分の体を鍛えに鍛えたがそれだけではなく、スキル同時行使をしない限りはスキルを100%使えないと確信し、スキル同時行使に必死に取り組んだ。


大トカゲは血を流しながら今まで溜め込んでいた火を吐いてきた。


ツリーはすぐに前進し全ての火炎を魔力の盾で抑え込もうとしたが、あまりに大きな火炎であっため、炎は後ろにも広がっていた。盾で受けた炎は大トカゲに反射し、炎の勢いはある程度削ぐことはできていたが、恐ろしい程の勢いの火炎が勇者パーティを襲った。ウィングは、しかし、平然として火炎の中に入り込みトカゲの体に空いていた穴にウォーターストライクを放った。


ガン!!と大きな音が洞窟内に響き大トカゲの体が横にズレた。それでも火炎の勢いは止まらず、ツリーの後ろに火炎は迸っていく。アスクは、水魔法のウォーターウォールを発動させ水の壁を作り上げて相殺しようとしたが、それでも火炎の勢いは止まらない。


勢いは削げたが水の壁は蒸発してしまい後衛陣を襲った。スリーはポーターのカイトとスカイを守るために魔法防御壁を展開。火炎が彼女ら後衛陣を炎が包んでいってしまった。ストーンは素早く横に逃れ、強化された器用さと走力をフル活用し、横の壁を疾走した。走りつつ何本もの魔力の矢を両手から連続発射し、大トカゲの体を貫通していった。


「グギャ――!!」


鋭い矢の連撃を嫌い大トカゲはスリーたちよりもストーンに向けて炎を向けた。ストーンはすぐさま地面を転がり巨大な炎を地面にへばりつき寸でのところ回避した。巨大な炎がストーンの頭上を迸っていった。


「とっととその口を閉じろ!!!」

「おらーーー!!!」


ウィングが顎下からウォーターストライクを大トカゲの口を下から叩きつけた。同時にライトも攻撃力100倍、防御力50倍を拳に乗せて大トカゲの顎を下から振り抜いた。


「ブシュ―――!!!」


強制的に口が閉じられたせいで、炎が大トカゲの中で止まり、炎上していた。下からのダブルの攻撃の勢いで大トカゲは仰向けて後方に倒れた。


「今だ!!!」


ウィングのウォーターストライク、ライトの打撃、ストーンの貫通矢、アスクのウォーターストリーム、スリーのホーリーで、そしてスカイの魔力急上昇で全員の魔力を底上げした総攻撃を一極集中で大トカゲに叩き込んだ。


「ギャ―――――!!!!」


大トカゲの腹に大きな穴が空き絶叫を上げて動かなくなった。


大トカゲが静かに横たわり、パーティの7人は肩で息をしながら、残心の構えを解かなかった。


ウィングはそぉっと近づき大トカゲの体を蹴ったが、大トカゲは動く気配は全くなかった。


おそらく死んだものだと判断できる状況ではあったので、ウィングは大きく息を吐き、皆の方に振り返った。


「ふー、やっと殺せたな。さすが3層のモンスターだな。今までのモンスターとは桁が違う。全員の力を総動員する必要があったな。事前の話では火トカゲ、水トカゲ、などの全種の属性のあるトカゲが生息する、と聞いていたからな。そもそも火を吐くということは、属性攻撃には耐性があるんだろうから、最初の火魔法の攻撃は効果があまりなかったな」


アスクはウィングの感想に頷いた。


「そうね。これからは最初に何度かウィングの魔法を乗せたスラッシュを打ち込んで、どれが一番反応が大きいかを試した方がいいわね。幸いウィングの魔力は無限にあるわけだから、魔力枯渇を考える必要はないでしょ。それで弱点となる属性が見つかったら、その属性の魔法攻撃をしていくわ」


「まぁ妥当だな。みんな怪我はないか?」


ウィングは皆を気遣い声をかけた。皆は、少し疲れた様子を示していたが先に進もうとの強い意志を示し先を促した。


ウィングは皆の様子を見て取りポーターのカイトに大トカゲの素材回収を頼んだ。カイトは大トカゲの胃袋、眼玉、手と足の爪、そして体に残っている肉を切り取り氷の魔法陣が入ったカバンに入れて準備ができたことをウィングに知らせた。


ウィングはその合図を受けて、ユハに先頭を託した。


「了解です。では、先に進みましょう」


ユハが先導しその後をツリーとライトが続いた。中衛にはウィングとアスクとスカイが配置されポーターを間にいれ、一番の後方にスリーが続くことになっていた。


更に先に進んでいくとダンジョンの中は更に狭くなっていき、湿度が高くなっていくのを感じた。


岩壁には破壊された跡が残っており、このダンジョン内のモンスターたちの戦闘の生々しい爪痕であることが容易に予想された。


かなり激しい戦闘だったんだろう。壁の抉れ具合がかなり激しい。喧騒の様な声が遠くから聞こえてきたと思うと、ユハは全員に止まるようにハンドサインで指示した。


「この先に数百個の生物の反応がします。それぞれがかなり高い魔力を有している反応です。こちらに向かってくる様子はありませんが、どうやらお互いを殺し合っているようですね。数が減ったりしています。それでも増えているようにも思いますが、どうしましょうか?」


そうユハはパーティに状況を説明しつつ、ウィングに意見を求めた。ウィングはとにかく様子を見に行くことを提案し、皆でゆっくりと進んでいった。モンスターたちに気付かれないように岩陰からそっと、その殺し合いの様子を確認した。


眼下には、壮絶な殺し合いの場面が繰り広げられていた。縦横奥行が50メートルぐらいある円形の巨大な空間に1メートル前後の大きさのトカゲが所狭しとひしめき合い、素早く動きながらお互いを殺し合っている地獄絵図が展開されていた。


水鉄砲のような水が強烈な勢いで発射され、何匹かのトカゲの体が切断された。


あるトカゲは火を吹き、周囲のトカゲを火だるまにしていた。


身体中が葉っぱか何かで覆われている個体もおり、その葉っぱの中から蔦が飛び出し周囲の数十匹のトカゲ達を締め殺していた。


金のような輝きで周囲を照らし、その金剛石のような体で他のトカゲに上空から押さえつけ圧死させているのもいた。


血みどろの戦いが繰り広げられ、もし自分たちがこの中に入っていくようなものなら自分たちもこの壮絶な戦いの坩堝の中に巻き込まれてしまう。


そう思うと恐怖で背中がゾクっとした。しかもこの地獄のような状況を更に悪化する事象が確認された。


この大広間に通じる穴という穴から、新たな1メートルほどのトカゲが次から次へと這い出てきていたのだ。その騒乱は止まることを知らず、永遠と繰り返され続けるように見えた。




ユハはウィングに近寄って話しかけた。


「どうしましょうか?」


ウィングはこの混沌とした地獄のような光景を見ながら思案に暮れた。


早く進み魔族のパーティに追いつきたい。しかしこの無秩序の大乱闘が収まらない限りは進めないだろう。この混戦の中を突破するにしてもかなりの損害を覚悟しなければならない。


後ろを振り返ると絶望的な表情をしているパーティメンバー達がいた。


(そう思うよな)


ウィングは心を決めた。


「一旦退こう。なにも一年間ずっと殺し合っている事はないだろう。数日してもう一度来れば事態も変わっているかもしれない。何も火中の栗を取りに行く必要はない。火が消えた後に栗を取ればいいだけだ」


そう言って、皆に撤退を告げた。


彼らはこの地獄のような光景を見て確かにその決断の理知的な事に納得していた。ライトでさえもあの数百匹のトカゲが、激しく争っている中に入る事には二の足を踏んでいた。


実はこれが、このパーティの限界であったのだ。


これより更に奥に潜れば、更に激しい戦いが待っているということを、彼らは知っているはずだった。しかしこれぐらいの戦闘ぐらいで退散しなければならないのであれば先はないのだが、自分たちが先ほどの大トカゲとの戦闘を思い出すと、このダンジョンの凶悪さを感じざるを得なかった。


このままではいつまでも上層部で探索が足踏みしてしまう。その焦燥感を持っているのはウィングだけではなく、実は一番感じていたのはユハだった。


(このままでは、何十年経ってもこのパーティでこのダンジョンを突破はできないかもしれない。そして最悪なのは魔族に超高純度魔鉱石が先に奪取されてしまうこと。そうなればヒト族は滅亡してしまう・・・マズイ。かなりマズイ状況です、サリア姫。何か方法はないだろうか・・・何か・・・)


皆が退却をしようと周囲の状況を確認しウィングが転移魔法陣を取り出した。


(たしか『根』からの報告で、最近話題なっているあの奇妙な2人の盲目の冒険者の事を教えてもらったけど、戦闘能力は置いておいたとしても、索敵能力に関しては抜群の力を持っているらしいわ。この状況を打破するために、一度コンタクトを取れるものなら取りたいわ・・・)


とユハは打開策を必死で頭で巡らしていた。


「このトカゲの大乱闘で、足踏みをしているのは他の冒険者パーティも同様のはずよ」と、スリーがパーティメンバーに話をしているのを横で聞き、ウィングが転移魔法陣を使い視界が一気に暗転した。

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