55 ガルーシュ伯爵領へ⑧ ~岩山での死闘~

ノエルは全速力でエマと別れた村へ向かって走り出していた。


(予想以上に時間が経ってしまった。本当にまずい。エマには行き先は伝えていたが、どうやって俺がいないことをフィブラーさんやアルハさん、また他の兵士団の人々に伝えようかな。


怖くて逃げだした。いやいや、それではどうやってノエルは再び彼らの元に戻ってこれたんだ?この世界でノエルが生きていけるほど、生易しくはない。


このまま見つからずにエマを隠密護衛するか?いや、それではあまりに難易度が高くなりすぎる。護衛対象と接触できずに護衛するなど、非効率にもほどがある。


特別な任務を与えられたことにするか。いやいや、なんで何もできないノエルにエマは何を託すのだ?託すなら兵士団か、最悪でもアルハさんだろう。


皆に力を明らかにする。いや、情報の秘匿は作戦上において要だ。魔族に絶対に俺の存在は知らせたくない。味方から情報は漏れていく。短いスパンではいいだろうが、長いスパンではどこかで破綻をきたす。これは悪手だ)


うーん、うーんと唸りながら、とにかく怖くて逃げ出し、村のどこにひっそりと隠れることにしたけど、やっぱりガルーシュ伯爵領での生活に戻りたいと気付き、一緒に行かせてくださいと、泣きながら謝る。これしかないな、と一応の結論を下し、一路、村へと急いだ。


あの銀髪の魔族を殺した後。


俺は、映像を流している魔法具を破壊した。戦闘中にも流れていた、あの胸糞悪い映像を一刻も早く止めたかったのもあるが、正直、この魔法具の希少性、有用性は計り知れず何とか鹵獲できないかと色々と試行錯誤して発信元の魔法具を調べたが、スイッチや構造など、解析不可能だった。さすが天才魔法具士メイユ。鹵獲もさせない構造はお前好みだな。そう愚痴りながら手刀を縦横無尽に放ち、魔法具の原形も分からないぐらい、細切れにして破壊した。映像が止まり静寂が部屋の中に戻った。


戦争は残酷だ。


戦争は人々の最も恐ろしい側面を暴き出す。俺は幾度も魔獣と戦闘したから分かるが、文化が構築されていない社会は弱肉強食がルールだ。それは魔獣でも人でもエルフでも関係ない。人との戦闘の残酷さは人が失った魂を示すようなものだ。血しぶきが舞い破壊の跡が広がり生き残るためには他の命を奪わざるを得ない状況に追い込まれる。


戦争では人々は自分たちの本能的な生存欲求に従い、憎しみや怒りに駆られて行動する。友人が敵となり、知らない人々が味方になる。そして戦場での恐怖と苦しみは、俺が想像できるものを遥かに超えている。それはあまりにも残虐で、あまりにも無慈悲だ。


俺はこの戦争の中で多くの大切な人々を失った。ガルーシュ伯爵領の人々、彼らの顔と名前、笑顔と夢を忘れることはできない。戦争は俺たちから多くを奪い、何世代にもわたって傷を残していくだろう。そして最終的には何の意味もない犠牲を強いるだけだろう。


この戦争下で受けた傷は俺にとって心と体に永遠に刻まれる。俺が平和勢力を後押しし、世界を平和と協調の方向に進められるとしたら、俺はその道を進んだ方がいいのだろう。しかしこの混沌とした情勢の中では、その選択肢は困難を極める。


無気力が世界を覆っていく。


ムラカ派との対話。サニ派との和解。魔族への対抗。


どれもこれも、最難関にして絶対不可避の課題。それを全生命を賭して正面から取り組む人たちがいた。


それがガルーシュ伯爵家。


俺はこの人たちを誇りに思う。人の可能性をどこまでも信じる、その精神的な強さに惹かれる。


そんな思いを持って俺はエマに優しく話しかけた。





「エマ、大丈夫か?」


「みんなが・・・みんなが・・・。あ・・・あ・・・」と涙を流しながら、エマは気絶した。


エマの全身の擦り切れた姿を見れば、俺が去ってから、今まで何が起こっていたかは、だいたい分かる。そう現場を分析していると、横から声がしてきた。


「ごほごほごほ。お前は、誰だ?いきなり蹴り飛ばしてきて」


まさにエマを上空から串刺しにしようとする刺客を、俺は横の岩石に蹴り飛ばした。その岩の中に埋め込まれた女が、ガラガラ崩れ落ちる石の中から出てきた。ドレス姿でハイヒール。右手に抜き身の細い剣を携えている。赤い瞳と、青黒い肌は、魔族特有の特徴だ。なんとも岩山という周囲の環境とミスマッチしている女だ。


おそらく、この女がエマをここまで追い込んだのだろう。近因でも遠因でも、直接的原因でも、間接的な原因でも、関係していない事はないだろう。俺の索敵能力は、今回の戦いで大幅に強化され、昔よりかなり広げられる。正確に測る事はできないがおそらく今は10キロぐらい、全ての気配が手を取るようにわかる。


もうあのようなヘマはしない。自分の映像が撮られた為に、ガルーシュ伯爵家は壊滅に追い込まれた。エマになんと謝ればいいか分からない。エマになんと説明すればいいかも分からない。とにかく、こいつをまずはなんとかしないと。


なけなしの魔力を注ぎ、上下左右前後の隅々まで、索敵範囲を最大限に広げ、不審なものはないかを探ったが何もなかった。ただ岩山と獣の通常の営みがあるだけだった。ホッと一安心して、俺はこの女に向かい合った。


「俺はニコ。冒険者だ。うちの令嬢を追い詰めている、お前は誰だ?」


「君がニコか。エマ令嬢隠密護衛の冒険者だね。最近魔族界隈を賑わしている、時の人だ。『謀殺の三悪女』を瞬殺。凄いな。君に会えて光栄だよ。私は魔族のノア。賢魔24位にして剣豪の称号を持つ者だ。エマ令嬢を連行するためにここにいる。けども君にも用はあるんだ。一緒に来てもらっていいかな?」


「連行?殺戮の間違いじゃないのか?」


「邪魔が多く入ってしまったからね。不幸な事故だった。エマ令嬢も逃げるから仕方なく剣が出てしまったんだよ。抵抗しなければ彼女の護衛兵も従者も殺さなかったよ。


それに知ってる?エマ令嬢の護衛達の涙ぐましい活躍を!偽物役のエマ令嬢を仕立て上げて、エマ令嬢の従者達はその彼女を最後の最後まで、死を賭してまで護るんだよ。あれでは、騙されてもしょうがないよね?あの必死さは本物だったよ。


執事達もいたけど、最後までよく頑張ったよ。2人とも戦闘に関しては素人だったのが残念だったかな。瞬殺だったね。全く面白くなかった。


それと、偽エマ令嬢もそんなに強くなかったなー。足を潰して、腕を潰して、ゆっくりいじめあげて、殺したよ。どれだけ魔族が、エマ令嬢の活動のおかげで、煮湯を飲まされてきたかを、一剣一剣、刺しながらじっくりと説明してあげたよ。偽物のエマはよく鳴いてくれたよ。この魔剣はね、人の悲鳴を聞くたびに強くなっていくんだ。さて、この魔剣で更に鳴いてくれるのかな、ニコは?」


「かなりイカれた奴だな。言っていることとやっている事が違うことに気付いてるのか?」


「はははは!!!!私はとにかくこの魔剣が振れるのが楽しくてしょうがないんだ!はははは!!!君もボロボロだけど、大丈夫かな?怪我もしているように見えるし、どこからか逃げてきたのかな?」


「そうだな。とにかくその気持ち悪い口を閉じろ。聞いているだけで吐き気がする」


「私はね『謀殺の三悪女』と比べて近接戦ではより強力な力を持つんだ。24位だからと舐めない方がいいよ。それにこの魔剣はうちの部隊長から頂いた、最高傑作さ。流した血の量だけ強力になっていくんだ。かなりの血を吸わせたからね。今の私なら、1桁ぐらいの魔族は屠れると思うよ」


「それはご高説痛み入る。とにかくお前の全てを否定してやる。御託はいいから、さっさとかかってこい」


今のノアの話を聞き、正直ノブは焦った。


(まずい。こんな敵がこんなところにいるとは。ガルーシュ伯邸での戦闘とここまでの移動で、魔力はほとんど使い切っている。残存する少ない魔力を使ってここまで戻ってきたが、1桁台の力を持つ魔族か・・・魔力無しで何とかなるのか・・・何とかするしかない・・・)


ノアは袈裟懸けに切りつけてきた。俺はその剣を上手く手のひらで受けて、下へ力を逸らした。


ザンッ!!


地面がバターのように切れていき、刀身が地面に埋め込まれた。


地面に剣が埋まっているノアの側頭部に横蹴りを放って、俺の蹴りが直撃した。


ノアの顔が横を向いた。口の中を切ったのか、血が口から滴り落ちてきた。


「不思議だな。ニコ、君の力はこんなものか?これぐらいで、あの三悪女は殺せないよ。手を抜いているなら、早く本気になった方がいいよ」


「これからだよ」


思い切り下顎を蹴りで蹴り上げて、ノアを後ろに仰け反らした。


2、3歩後退り、ノアは剣を構えて切先をこちらに向けた。


「どうした?こんなものか?実力を出さないのか?魔力を使わないのか?温存しているのか?まぁ、それは貴様の勝手だ。私は私の好きなようにするだけだ。私の剣の錆にしてやるよ!」


「ギャーギャーうるさい奴だ。弱い奴ほど吠える」


「な、なんだと!!!ぶっ殺す!」


ノアは突進して剣を振りかざして襲ってきた。ニコは冷静さを保ち機敏に身体を動かし、必死になって相手の攻撃を見切っていった。ニコは全身の筋肉は極度に緊張させ、全神経を尖らせて、どんな攻撃がどのタイミングでどの方向から来ても大丈夫なようにし、一つひとつを丁寧に対処していった。素手で全ての切先を受け流し、ニコは古武術のテクニックをフル活用し、ノアの攻撃を躱わし続けた。ノアの剣が空を切り裂く音が響く中、ニコは敵の隙間を見つけ速やかに反撃する。彼の手が相手の体に触れる瞬間、ノアは後方へ弾き飛ばされる。しかし致命傷になる事はなく、再度猛烈な勢いで剣戟がニコを襲った。


袈裟斬りの動作。彼は半身で横になりギリギリで剣の軌道から自分の体を外す。返す剣戟が彼の胴体を狙い放たれたが、間合いを完全に見切っていた彼は一瞬で1歩後退し、皮一枚切れる程度で剣戟を躱わし、横一文字の剣戟を交わした。真向斬りをサイドステップでギリギリ躱わし、逆袈裟の斬撃は上体を横に逸らしてやり過ごし、左一文字斬りを少しの跳躍でギリギリ躱わした。着地したところを狙い、左袈裟斬りが放たれたが、タイミングよく刀身に手のひらを添え、地面へと勢いをいなしていった。


「ほらほら、こんなものか?!剣豪が聞いてあきれるな!あくびが出るぜ!」

「くそ!!!ちょこまかと!!!このゴミが!」


ノアの剣が空気を裂き続ける。ニコは一瞬の油断もなく、瞬時の判断力を駆使し、身体をしなやかに動かした。彼の瞳は鋭く、敵の動きを逃さない。剣が逸れた瞬間、ニコの腕が伸び、彼の手のひらから発せられる気配が相手に向かって伝わった。ノアは体を硬直させた。ニコの攻撃が来るのがわかっているが、剣の勢いで体が流れてしまっているのだ。受けるしかない。ニコの掌底はまるで風のように感じられ、相手の身体に触れる前に敵の反応を遥かに上回る速さで迫り、掌底がノアの鳩尾に突き刺さる。ノアは後ろに数歩後退するが、痛みを耐えながら、再び縦横無尽に剣戟を展開していった。


「お前の攻撃は単調だな!剣豪の意味が分かっているのか?」

「うるせぇぇぇぇ!!!殺してやる!!!」


ニコは相手の間合いを見切り、相手の呼吸を読み予備動作からノアの剣が上段より振り下ろされる剣の軌道を見切った。その瞬間、ニコは筋肉は引き締め、血管が額に浮き出た。ニコの表情は静かで集中力に満ちており、ニコはこの一瞬が時間が止まったように感じられた。そして放たれた真向斬りの剣の腹を、フック気味で放った掌底で横に吹き飛ばした。


ニコはバランスを崩したノアの背後に回った。ノアは不意を突かれて体が完全に無防備になっていた。ニコの拳が相手の体側面部に命中し、その一撃で相手は悶絶しながら、ニコから距離を取っていった。


「威勢だけは剣豪だな。それで剣豪になったのか。魔族も優しい連中ばかりだな。叫べば剣豪になれんだな」

「ゲホゲホゲホ・・・チマチマと打撃を重ねてきやがって。むかつく野郎だ。ちょこまかちょこまか、と。どうせ、魔力が尽きて、どうしようもない状態なんだろう?死に損ないが!殺してやる!!!」


ニコはエマの傍を離れるわけにはいかなかった。このことがニコの状況を更に悪化させていた。もしエマから離れてしまうと、ノアがエマを攻撃し出す。そうすれば、エマを守ることはもうできない。ただただニコはエマの傍でターゲットを確実に自分だけに集中させるように煽りに煽った。そしてノアの攻撃を回避し続けた。ノアの高速で振り回される剣がニコの周りで猛烈な速さで舞い踊る。ニコは身体を柔軟に動かし、剣の刃が彼に触れないように瞬時の運動で回避していった。彼の身体は風のように滑るように動き、鮮やかに攻撃を躱す。剣の刃がニコの身体に極めて接近するが、ニコの反応は常人離れしていた。鋭い剣先がニコの服をかすめ、布地がちりちりと裂ける音が響く。しかし、ニコに致命傷を与えることは一度もなく、その刃を避け続ける。彼の視線は鋭く、相手の剣の動きを読み取り、次の一歩を予測していた。剣の刃が彼の周りで縦横無尽に舞い続けるが、ニコは、ただギリギリの回避を続けていく。


ニコは剣の振り回しに対して、タイミングと動きの微妙な変化を使って避け続けた。ニコは集中力を研ぎ澄まし、一瞬たりとも動揺することなく剣を避け続けた。剣の刃が空気を裂きながら近づいても、ニコは瞬時の反応で回避し、まるで舞うが如く踊り続けた。ニコは最終的には相手の攻撃をかわし続けることで、相手の動きを読み、勝利に近づいていこうと決心していた。ニコの鍛え上げられた身体と驚異的な反応速度が、一撃でも喰らえば致命傷となるニコの、この壮絶な闘いでの生存を可能にしていた。ニコの瞬時の回避と戦術が徐々に相手を疲弊させ、剣を振り回す相手の攻撃は徐々に乱れ始めた。


(くそくそくそ!!!何故当たらない!奴の動きは、それほど速い訳でもない。こちらが動く前に既に剣戟の軌道がわかっているように動きやがる。こちらの動きを読み切っているのか?!なんて奴だ!!しかし、どうしてこいつは今いる場所から動かない?なぜだ?動かない理由??)


そう思い、ノアは足元のエマに視線が行った。


(そうだ!!エマを守るためにその場から動かないのか!!さっきから私を煽っていたのは、こいつは自分にターゲットを絞らせる為か!やられた!)


もう既に数十分程の攻防が続き、時間が経つにつれて、ノアの剣振りも疲れがちになり、攻撃の精度が落ちてきた。ノアは今更ながらニコがここいる理由を思い出し、エマをターゲットにすることを思い立った。


しかし、ノアが一瞬ニコから視線を切った、その瞬間をニコは見逃さなかった。圧倒的に不利な状況の中、脅威の集中力で虎視眈々と逆転の機会をニコは狙っていた。


汗が流れる。

心臓の音が爆発するように鼓動する。

全ての筋肉が軋む音が全身に響く。


ニコの体力も限界に達しようとしていた。


(ここだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)


そして、ニコは目を大きく見開き、絶妙な瞬間を見逃さず相手の剣を持つ手首を掴んだ。


「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」


今残存している全ての力を握力に費やし、手首の骨を砕いた。


ノアはたまらず、剣を手放した。


「ぐあ!!!」


咄嗟に剣を取り上げ、切先をノアに向けた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。いくら・・・俺の攻撃力が・・・落ちたとしても・・・この剣を使えば・・・お前を殺すことは・・・可能だろう?」


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・、貴様にその剣が使い切れるかな?呪いの魔剣だ。私でさえ人を殺す悦で心が乱れる。エルフ如きが使えば、地獄の苦しみよ。剣の呪いで死ぬか、私に殺されるか、のどちらかだな」


右手首をだらけさせて、ノアはこの最悪の状況をどう回避するかを、頭を超高速で回転させながら、考えた。


「はぁ・・・はぁ・・・なるほどな・・・。確かに・・・、恐ろしい程の怨念が・・・・、俺の中に入ってくるな・・・。はぁ・・・はぁ・・・、ノア、あんたが狂っていた理由もなんとなくだが・・・・わかるぜ。しかし・・・俺の中の怒りは、元から爆発しているんだ・・・。これぐらいの怨念で・・・・、俺を制御できると思うなよ!!!」


強烈な怒気と悲しみが俺の中から込み上げてきた。この魔剣が俺に思い出させているのか。


ガルーシュ伯爵家の人々は、本当にいい人たちだけだった。


世界の良心のような人たちだった。アルベルト当主はどこか抜けていたが、愛嬌があり誰からも愛された人だった。


伯爵夫人のサラ様は怒らせると怖いが、愛情が溢れ出ており、誰をもが尊敬の念を向けざるを得ない人だった。


ティサ様は人民を愛し、エルフ族だけでなく世界の平和を願う人だった。


スフィル様は人民の為なら何でもする、勇気の方だった。心が澄んでいた。


そして筆頭執事のフィブラーさん。


今までお世話をしてくれたアルハさん。


俺を信頼したセバス。


そして、俺を亡き者にしようとした、ヒト族の王族達。


ガルーシュ伯爵家のエルフ達への悲しみ、悔しさ、そして、彼らの限りないエマへの愛情と尊敬。そして、俺のヒト族、魔族達への怒り。


「この魔剣・・・俺と相性が抜群・・・じゃないか。はぁ・・はぁ・・、俺の悲憤を何倍にし・・・それが攻撃力に変わっていくのか。人の苦しみが・・・分からないお前には・・・使いこなせない・・・代物だぞ」


「な・・・なぜ、その魔剣を使いこなせる。貴様、な・・・何者なんだ?」


「ただちょっとばかり・・・悲しい出来事を背負っている・・・エルフだ。しかし、こんな悲しみは・・・多くの人たちも同様に経験している・・・。お前如きが、エルフ族の悲哀なんぞを・・・わかってたまるか!!!」


と叫んだ俺は、剣を一閃しノアを真っ二つに切り裂いた。その衝撃で後ろの地面に大きな亀裂ができ、その力の奔流に耐え切れず魔剣の刀身は粉々になって砕け散った。


「これぐらいの怒りで・・・崩壊する魔剣なんぞ・・・本当にしょうもないな・・・」


満身創痍で疲労困憊の俺は、刀身の無くなった剣をそこら辺に放り、エマを抱きかかえて岩に背を託し、静かに佇むことにした。とにかくエマが起きるまで、俺は静かに護衛の任につくことにした。おそらく、ここ10キロ圏内では、もう俺たちを襲う敵はないだろうがな・・・。

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