51 ガルーシュ伯爵領へ④ ~ガルーシュ伯爵邸での激闘~

俺は、壁を背にして大勢の魔族に囲まれていた。先ほどの牛頭の魔族は、雄叫びを上げながら棍棒を振り上げ俺に叩きつけてきた。その棍棒をタイミングよく手を添えて方向だけを変え、いなした。いなされた棍棒は地面に激突し大爆音と共に地面に突き刺さった。


「人を一人殺すのに、それほどの力は要らないんだよ」


そう呟き、牛頭の懐に潜り込み10発の打撃を一瞬で腹部に放った。3発目ぐらいから体内に拳がめり込みグチャ!グチャ!との打撃音が聞こえてきた。最後の一撃でやっと腹部を貫通し致命傷となった。牛頭は血を吐いてその場で倒れこんだ。


右から鳥頭の魔族が突っ込んできた。こいつは棍棒ではなく大剣を持っていた。5メートルぐらいあるんじゃないかという巨大な剣を振り降ろしてきた。この鳥頭の足運び、大剣の振り方、腕の使い方、などを見ると、かなりの手練れだ。普通の奴なら剣の軌跡を見ることも叶わないんだろう。しかし俺の動体視力は今なら超音速ロケット飛行機に書かれた文字でも読めるんじゃないかな。剣が振り切れるまでの軌道を読み、半歩ずれてスレスレで避けた。腕を掴んで掴んだ部分を引き千切った。悶絶して、大剣を手放した鳥頭の足元に滑り込み、足首辺りに回し蹴りを食わらした。鋭い蹴りで足首を切断。落ちてくる上半身が俺の上に覆い被さってきた。鳥頭の首へ上段蹴りを放ち首を断ち切ったために血が全身にかかってきた。周囲の魔族たちが俺を取り囲み包囲網が徐々に縮まってきている。


包囲網の中から突如、正面から下半身が馬の馬男がハルバードを俺に突き刺さそうと突進してきた。上空へ跳躍し回避したところに、獅子頭の魔族が横から飛び込んでくる。爪撃で俺を引き裂こうとしたが、その高速で振り切る爪を一本掴み、相手を空中で回転させてその勢いのまま、地面にある馬男のハルバードにぶつけ、獅子男を真っ二つに引き裂いた。地面に降りたところに前と横から蛇頭と猿頭が槍と棍棒で襲い掛かってくる。槍が頭部、棍棒が脚部を狙っていたので中空に跳び、二撃の間に体を滑りこませた。


二撃はむなしく空を切った。


地面に着地して直ぐに猿頭に顔面に掌底を一撃。後ろの魔族の群れに吹っ飛んでいき、何体かの魔族と一緒に巻き添えにして倒れていった。上、横、後ろから全方向から魔族が殺到してくる。俺は包囲網の一番薄い箇所を狙って突進した。そこには一体の猫頭の魔族がいたので、その猫頭が左右上下に素早く動き、気付けば俺の下から噛みつこうと接近してくる。更にその下に潜り込み、がら空きの鳩尾と胸部に一瞬で6発の打撃を放った。


「グフッ!!」


肋骨を粉砕。心臓部は完璧に破壊。うなだれる猫頭の下をくぐり、一斉に一方向でこちらに向かってくる魔族に相対した。


「これでも喰らいな!!!」


火魔法で生み出した巨大な炎の壁を魔族の眼の前に展開した。怯む魔族もいたが、恐れず炎の中に飛び込む魔族たちもいた。炎の先には、更に炎の壁があり、それを抜けると更に違う壁が展開され、その先にも更に炎の壁が存在していた。


息を止めていたのだろうが、だんだんと耐えられなくなってくる個体は息をすると炎が肺を焼き尽くし内部から魔族たちを殺した。数体は絶命していった。それでも耐えきった魔族は俺の前にまでたどり着いた。数としては約3体。ある程度のダメージが入っている為、動きは先ほどよりも鈍い。熊頭の魔族の眼を潰し、怯んでいるところを後頭部に鉄槌打ちをし昏倒させた。予想よりもかなり速い一撃が、虎頭の魔族から繰り出された。何が当たったのかは知らないが俺の側頭部に直撃し、俺は横に吹っ飛んだ。


銀髪の魔族がその瞬間を見逃さずに、一線の雷が俺を貫いた。


「ガッ!!」


強烈な痛みが全身を駆け巡った。


そこへ上空に跳んでいった先ほどの虎頭の魔族が俺の背中の上に着地し、上から何度も踏みつけてきた。


ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!


何て言う威力だ・・・。内臓のどこかが傷ついたのだろう。血が喉から込み上げて口から溢れてくる。


足が上がり、もう一度踏みつけるまでの短いインターバルを利用して仰向けになり両手を重ねて、上に掲げて思い切り硬質化スキルを発動させた。まるで画鋲の様な格好となり、俺の両腕は踏みつけてきた足の裏を貫いた。


「ジャ!!ギャ―――!!!」


足を抱えながら虎頭の魔族は地面でのた打ち回った。どうやら手に持っていたのだろう、鉄球が何個も地面に落ちていった。


俺は一気に魔力で体を回復させ、一瞬で虎頭に駆け寄り虎頭の頭を全力で蹴りとばした。首の骨が折れ、虎頭は沈黙して地面に沈んだ。


俺は口に溢れた血を吐き出した。


「さすがに、この数を相手すると無傷では無理だよな」


それから何体も何体も次から次へと襲ってきたが、全て叩き潰していった。


それから数十分が経ち、俺の周りには、動物の頭をした魔族たちの死体で埋め尽くされていた。


「はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・。後はお前だけだな」


約半分の魔力を消費した。腕も折れたが治し、胸部も強打を喰らい、肺や心臓部が損傷したが、それも瞬時に治し、頭も何度も強打されたが、それも治し痛みはないが精神的にはかなりきつかった。


「まぁ、そうだね。けど、知っているかな?僕の得意技を」


「ここの魔法陣を使ったのはお前だったな」


「まぁ、そうなんだけど、僕の魔法陣は色んな種類があるんだよ。強化魔法陣、防御魔法陣、魔力強化魔法陣、そして・・・転移魔法陣もね」


「そうか。それで、何かを転移させるのか?」


「そうだね。あと100体ぐらいは魔族と魔獣を召喚できるよ。試してみる?」


「そうか。じゃあ、その転移魔法陣を起動させる前に、お前の息の根を止めるまでだ」


「実は、非常に簡易な起動方法なんだ。さぁ、ニコ!いつまでもここで踊っていてくれたまえ!」


「本当に面倒な奴だな」


それから、銀髪の魔族の男の周囲に、何十体もの魔獣が現れた。蛇もいれば、熊もいれば、狼もいれば、虎もいれば、獅子もいる。


「いけ!!奴をここで殺せ!!!」


「さぁ、かかって来い。第2ラウンドだ。全員ぶっ殺しやる」


一斉にその魔獣は俺を襲ってきた。

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