49 ガルーシュ伯爵領へ② ~ガルーシュ伯爵家滅亡~

その日中には、俺たちは以前に一夜を過ごした村に到着した。もう夜更けに近かったが、俺たちと過ごした時間を覚えてくれていたようで、村長たちや村の青年たちが少人数で受け入れてくれた。俺たちも猛スピードで、ノンストップで1日間走り続けであった為、ここである程度休みガルーシュ伯爵直領地に向かう準備をしておこうと話になり、ここで休憩することとなった。


村人たちからは依然と同様に村のはずれの空き地を貸してもらえることとなり、そこでの野営をすることとした。


俺はここまでこれば、先行することも可能だと思い立ち、先触れとして伯爵直領地に潜入する旨をエマに伝えた。


「エマ、ここからこのままのペースで行けば後2日間の距離だが、俺が今から全速力で走れば、1時間ぐらいで到達できる。俺が先にガルーシュ伯爵領に入り、状況を見てくる。それで何か情報を掴んで、夜明けまでには帰ってくる。いいか?」

「わかったわ。ありがとう。気を付けてね。あなたも長旅の中で疲れているのだから」

「俺は馬車に揺られただけだから、全く疲れていない。他の兵士の人たちと比べるのが申し訳ないぐらいだ。夜中の時だけが、他の兵士たちや先輩の執事たちに気付かれないように動ける、俺の唯一の自由行動可能時間だからな。皆が起き出すまでに帰ってくる」

「分かったわ。気を付けてね、ノエル。深入りする必要はないからね。無事に帰ってきてね」

「あぁ」


夜の村を脱出する為に、執事たちや兵士たちの眼を盗み、静かに暗闇の中に消えていった。


俺は草原を一人で疾走していった。風が髪を舞わせ、俺は魔力を最大限に発揮し走った。眼下に広がる草原が緑一色で広がり、その中に散らばる草花が風に揺れていた。山々が遠くから見守るかのようにそびえ立ち、その頂上にはまだ雪が残っていた。風が俺の周りを駆け抜けた。俺は疾走し、その速さはまるで自然と一体化したようだった。俺は暗黒に覆われた広大な草原を駆け抜け、心臓が鼓動する音だけが耳に聞こえてきた。


疾走すること5分。最短ルートでガルーシュ伯爵領に向かっている為、山を迂回せずに突っ切ることとなる。目の前には切立った岩山が現れた。俺は逡巡することなく山の壁を登り始めた。千メートル級の山々が横たわっているのだが、岩から岩に跳び上がり頂上に向かって進んでいた。約数分ほど登り続けると山頂に到達した。周囲には雪が広がり、風雪が強く吹き荒み前進を阻んだが、しばらく進むと雲を抜けたようで吹雪が止んだ。眼下に広がる谷間に広がる風景が一望でき遠くには他の山々が連なり、雲が山々の頂上を覆っていた。俺は山頂で一瞬間この風景を目を奪われたが、振り切るように再び移動を始めた。


頂上から下り始めると、急な斜面に差し掛かりその先に崖が広がっていた。崖から谷底を見ると、500~600メートルぐらいの落差があるようだった。俺は躊躇なくその崖上から谷底に走りながら飛び込んでいった。下には木々が生い茂り地上に着いた時には轟音を鳴り響かせて着地し、蜘蛛の巣上に地面が割れ、体全身が地面に埋もれてしまった。穴から這い上がり道なき道を蛇行。超高速で山道を駆け下りていった。谷の底には透明で澄んでいる水が流れる川を視界に入ってきた。俺は川沿いを進み、川の流れに合わせて走った。森林を抜けると再び草原が広がっていた。月や星座が空に瞬き夜空を明るく照らし、大地を明るくしていた。俺は月と星の明かりを頼りに進んでいった。自分の呼吸と風の音、遠くに聞こえる獣の遠吠えだけが耳元に響き、風景が後ろに流れるように過ぎていった。


進んでいくと再び森が目の前に現れたので、中に突っ込んでいった。俺は木々の間を縫うように走り抜けた。夜の闇が深まり、森林の中はただ黒闇が辺りを支配していた。森の中では野生動物の視線を感じ、時折鹿やキツネが道路を横切っていった。そして森を抜け出すと再び開けた風景が広がっていた。夜の空には満天の星々が輝き、俺は異世界の宇宙の無限の広がりに吸い込まれるような感覚に襲われた。草原、山、谷、川を超高速で疾駆する旅は、異世界と元世界の違いをまざまざと俺に見せつけるのであった。


ガルーシュ伯爵邸がある伯爵直領都市が、はるか遠くに見えてきた。


明らかにおかしい雰囲気が既に見て取れていた。城門は固く閉じられているようであるが、それより城内から燃え立つ煙と都市全体で祭りが行われているかのような明かりで、城都市を闇の中に異様に浮き彫りになっていたのだ。


(何だ。おかしいぞ。何かがおかしい。こんな夜更けに、人々が明かりをつけて起きている。何が起こっているんだ?)


草原を超高速で横切り城門前に到着した。少し息切れをしていたが息を整えて城門を見た。遠くから見ていた通り、城門は誰の入城も拒否するかのように冷たく厳と佇んでいた。


飛び越えようと膝を曲げて屈んだ瞬間に頭の中に突然、映像が割り込んできた。まるで映像の中に自分がいるかのような錯覚に襲われる。


(何なんだ!!??何かが直接、この映像を俺の脳に送っているかのか?!)


その映像の中には、ある小さな女の子が笑いながらこちらに向けて陽気に話しかけてくる。肌色は青黒く、瞳は魔族特有の真紅に染まっていた。身長も低く120センチぐらいの小柄な女の子で白のワンピースに、サンダルを履いている可愛らしい女の子だった。


「どうもー!みんな元気かな?!ミアだよ~。今日はみんなに超最新の魔法具を紹介したいんだ~。凄いよね。今ミアが映っている映像が半径だいたい1キロ以内の全ての人たちの頭に直接送れるんだ!凄いよね~。時代の進化だね。けども残念ながらこの世界を根底から変えるような、この奇跡の魔法具を製作した天才魔法道具士のメイユはもうこの世にはいないんだ。本当に彼女の損失は、この世界の発展を100年は遅らせてしまったと思うんだ。その犯人は冒険者ニコという奴なんだ!!信じられるかな、みんな!!」


と叫んでいた。怒りの表情をしているようで、どこか自分のスピーチに酔っているようでちぐはぐな印象を与える、女の子だ。


(何をしている??しかも、冒険者ニコが犯人と言っている。こいつが、メイユが映像を送った先の本部の魔族か?)


その女の子は頬を膨らませて本当に怒っているのかどうかわからない表情を浮かべながら、小さい子を叱るような仕草でスピーチを続けた。


「こんな事があっていいはずがないんだよ!けども残念ながらガルーシュ伯爵家次女が魔族に対して卑劣な叛逆行為が行われた。このガルーシュ伯爵領の冒険者ニコの手助けを借りたんだよ!ダメだよね!


今魔族はエルフ領を襲っているだろうか!?そうじゃないでしょ!


今魔族はエルフ族と争っているのか?そうじゃないでしょ!


たしかに魔族とエルフ族の間には、不幸な争いはあったよ。けどそれは昔の話。それは過去の事だ。お互い殺し合った。誰が誰を殺した、とかはあるよ。恨みは晴れないね。けども今その恨みを持ったままにしては、ずーーーと魔族とエルフ族に平穏はこないでしょう。子供でも分かるよね?だから過去は過去にして、今こそエルフ族と魔族が手を取り合って新しい国の建設に取り組まなければならない、とミラは思うんだ。なのにこんな大切な時に、ガルーシュ伯爵家の者が魔族を殺すという暴挙に出たんだ。これは明確な平和に対する重大な挑発行為だと、ミラは思うんだ。


ガルーシュ伯爵家の人たちに聞いたよ、私は。聞いたんだ。何故こんなことしたの?って。けども、回答はなんだと思う?


『私たちは知らない』って言うんだ。自分の娘だよね!?無責任だなー、とミアは思ったよ。自分の名代として多くの外交の場に派遣しているエマ令嬢の行為はそのままガルーシュ伯爵家の本意と捉えていいと思うんだけど、みんなそう思わないかな?


魔族としては再発防止のために警察に断固とした処置を頼んだんだ。とにかく、エマ令嬢とニコの身柄の引き渡しを要求したんだ。だけど、ガルーシュ伯爵は拒否!拒否!拒否!拒否だよ!?信じられないよね?!身柄は渡せないって!じゃあ、コイツらのせいで亡くなった、私の親友メイユはどうしたらいいの?同じように破壊を企む伯爵家が存在していていいの?


と言うわけで警察との協力もあり、こんな度公開での裁判を開く事になりましたー!私たち魔族側の求刑は、ガルーシュ伯爵親族の死刑と取り潰しです。


さて、この裁判はどのような展開になるでしょうかー?!さぁ、今から始まるよ!」


片目をウィンクして、ミアはその愛らしい表情と仕草で話を進めていった。内容はあまりに残虐で、到底誰も受け入れない内容だったが、その表情と仕草、声のトーンが、あまりにちぐはぐな印象を見る人たちに与えていた。


画面は移り、椅子にきつく縛り付けられている、ガルーシュ伯爵当主、伯爵夫人、長女、長男そして伯爵家を中心的に運営する執事、従者たちも同様にいた。皆脱出するのを諦めた様子で憔悴していた。


(今の状況であれば伯爵家の人々が魔族の思いのままに裁かれる。誰が、どのように、何の法的根拠を待って、人を裁こうとしているのか知らないが、絶対にいい結果にはならない。最悪の状況だ!!)


俺は城外にいたが、30~40メートルもあろうかという壁を一足飛びで越え壁の上に立った。そこから見える街は異様の一言だ。この夜更けにも関わらず、街には人で埋め尽くされていた。街のあちらこちらに松明が掲げられて、不気味に街を照らしていた。街の中央に立つ古い噴水の周りにも多くの人が集い、その水面には不気味な光が映り込んでいた。不気味な雰囲気の中彼らの顔には怯えや興奮が交錯していた。


俺は最大限に索敵の範囲を広げて、ガルーシュ伯爵家の人々がいる場所を必死で探した。


(映像の中の部屋は大きな部屋だ。そして大勢の人間がいる。どこだ。おそらく、伯爵家のあの大人数を一気に元いた場所から移動させるには難し過ぎる。なら、その捕縛した場所にいるはずだから、十中八九伯爵邸だ。とにかくそこへ!)


俺は家々の屋根の上を飛び越えながら、伯爵邸へ急いだ。


茶番のような裁判が続き、その映像がどんどん頭の中に流れていく。


「それでは国家反逆罪でこのガルーシュ伯爵を訴えまーす。ルーラさいばんちょー!重要参考人のエマ令嬢と冒険者ニコの召喚を要求します!」


そこには、もう一人の魔族の少女が気怠そうにしていた。その少女は、ミアよりも身長の高い少女で、白のTシャツに黒のロングスカート、黒のブーツ姿で、椅子に頬杖をつきながら、面倒くさそうに話を聞いていた。


「そのじゅーよーさんこーにんは、どーして、よびたいの?」


「ルーラさいばんちょー、ここに証拠がございます!ご覧ください。」


どう見ても子供達が何か遊戯で楽しんでいるかのような会話に、現実とのギャップに冷や汗が出てくる。この子供達の話の結論で、今後のガルーシュ伯爵家の行く末が決まると思うと空恐ろしい。


画面が変わり、ニコの姿の俺が魔族のエマに向かっている様子が映り出た。そして、そこに飛び出してきたメイユの胸部を俺の拳打が貫いた。まるでこちらからの角度での映像ではエマがメイユを引き寄せて、俺が貫いたように見えなくもない。そう、まるで俺と魔族のエマが共謀して、メイユを殺したように見えるのだ。また俺がユートンを殺している風景が映り、そしてその後、殺した後の全裸のリーシャが横たわる映像で終わる。改竄も甚だしい映像だ。


「たしかにー、コレはヒドイ!容疑者のエマとニコをココにー!」


その棒読みのようなルーラのセリフに、誰も応えようとしない。誰に対して聞いているのかも分からないような発言なので、捕縛されて居並ぶ伯爵家の者たちは沈黙を続けていた。気怠そうにその少女はガルーシュ伯爵当主アルベルトに声をかけた。


「呼ばないんなら、あんたらが犯人隠避の罪でエマとニコの代わりに死罪だよ。いいの?」


アルベルトは徐に口を開いた。

「このような映像を根拠として、二人の召喚をするなどあり得ない。まずこの映像は何なのか、私には皆目見当がつかない。これは何なんだ。それにまずそもそも、ニコという冒険者の事は私は知らない。居場所も当然分からない。故に召喚不可。そしてその映像と呼ばれるモノの中では、エマが何かをやったようには私には見えない。その冒険者がエマを襲おうとしているようにも見える。なら私たちはあなた達と同様に被害者になるのではないか?まずはその映像のより詳細な解析を要求する。もし君たちが裁判を公正にしようとする意志があるのなら、の話だが」


「公正にしてるよ。で、召喚するの?しないの?どっち?」


「だから、まずは、その映像の詳細な・・・」


ザン!!


伯爵当主の後ろに控えていた処刑人が一太刀の元、伯爵当主の首を落とした。


「お父さん!!!!!」

「あなたーーーーーー!!!!」

「いやーーーーーー!!!!!」

「旦那様!!!!!」

「アルベルト様ーーーーーー!!!!!!」


伯爵当主の頭が床に転がり、驚きの顔をした表情が現状の不条理さを如実に語っていた。


映像を見ていた群衆も苦悶の呻き声と悲鳴が街中を覆った。


「私の質問は『はい』か『いいえ』で答える単純なものなんだけど。はい、奥さん。召喚するの?しないの?」


「あ・・・、あ・・・、あ・・・」


伯爵夫人はあまりの事態の展開に、頭がついていっていなかった。


(ヤバい!ヤバい!ヤバい!このまま行くと、同じように殺される!早く着かないと!!)


と焦りながら、俺は伯爵邸の屋根に到着し、すぐに屋根を破壊。屋内に侵入した。地下の方に大勢の気配を確認できた。地下か!?


その思い、床という床を破壊し下の階に降りて行った。


ザン!


そして、サラ伯爵夫人の頭も床に転がることとなった。


「何度も言わせないで。私の質問は召喚の有無だけ。そうじゃないと、この裁判も進まないでしょ」


「召喚いたします!!しばらくお待ち下さい!!まずは、召喚するためには、お時間が少々かかります故、お待ちいただければと思います!」


執事の一人が叫び、『裁判長』の少女の質問に答えた。


「分かった。召喚の意志はあると。では、そのエマとニコはどこにいるの?」


「そ、それは・・・」


「あなたは何か知っているのかな?」


と『裁判長』の少女は、長女のティサに向けて言った。


俺は、その映像を見ながら必死で地下へ向けて、伯爵邸の壁や床を破壊しながら進んでいった。


(ここか!?)


俺は土壁の一枚を隔て先に大勢の気配を感じる場所の上に着いた。この下の一室に彼らがいる。すぐに壁を破壊して、中に降り立った。


「やめろーーーーーーー!!!!」


と叫びながら、降り立つとだいたい一辺約10メートルぐらいある正六面体の部屋の中に身長2〜3メートルある筋肉隆々の20人ほどの魔族たちがひしめき合っていた。


「まさか。本当に来るとはね。カミッロの言う通りだな。君、ビリクイカ伯爵領からここまで普通に来ても1週間はかかるんじゃないのかな?それを2日で来るなんて、化け物か何かかな?君がニコだね」


目の前の銀髪の魔族の少年が何か言っているが、それに注意を払うことなく、周囲を見渡すが、どこにもガルーシュ伯爵家の人々はいない。


「伯爵家の人たちはどこだ?」


「僕の話を無視しないでほしいんだけど・・・まぁ、いいか。そうだよね~。知りたい?知りたいよね〜。けども、教えてあげないかな〜」


そのやり取りをしている間にも、俺の頭には映像が流れていく。その映像では、ガルーシュ伯爵長女ティサの代わりに、長男スフィルが発言をした。


「愚かな事をした。裁判なんて言葉を聞いて、少しでも魔族の希望に縋ろうとした俺がバカだった。エマ、もしこの言葉がお前に届いているなら聞いてくれ。俺たちはもうダメだ。ここで殺される。ガルーシュ家も終わった。だから、せめて幸せに生きろ。もうガルーシュ家はもういい。エルフ族も、もういい。お前の好きなように生きろ。1人の女性として幸せな人生を歩んでくれ!」


「あー、君はもういいかな。なんか、私の話を無視して話を続けているし。もういいよ。やっちゃって」


「それと、ニコとやら。妹を助けてくれてありがとう。願わくば、これからも・・・」


ザン!


ガルーシュ伯爵長男スィフルの首が落ちた。


「どういう事だ?俺の頭の中にこの映像が流れているぞ。今、この映像はどこで行われている?彼らはどこにいる?!」


イライラしながら、俺は目の前の魔族の少年に問いただした。


ニヤニヤしながら、その白髪の少年は、地面を一瞬見た。


ん?視線の先が床?何を見た・・・?


と思うと、よく見ると床には夥しい血の跡があった。綺麗には掃除されたのか、血の色は、かなり薄まっている。しかし、たしかに、微かだが血の匂いもする・・・


「ま、まさか・・・」


「どの想定をしているかわからないけど、まぁ、その表情だと分かっているのかな?そうだよ、今映像で見ているのは過去の映像だ。実際にこの場で処刑は行われていたんだ。その録画された過去の映像を、今ガルーシュ伯爵領内に、絶賛公開中なんだ」


伯爵長女ティサは、優しい声で、エマとニコに語りかけた。


「エマ愛しているわ。もうここには戻ってこないで。ただあなたを愛しているわ。この愛は永遠に変わることはないわ。あなたらしくあなたの思うように生きて。エルフ族の命運なんて背負う必要はないのよ。だから生きて生きて生き抜いて。そして、ニコさん、エマをよろしくね。あの子はあんなんだけど、とても寂しがり屋さんの。このエルフ族国の惨状のために、人への甘え方を忘れてしまったの。どうか、エマの事をよろしくお・・・」


ザン!


ティサの後ろから処刑人が、大きな斬馬刀を振りかざしティサの首をバターのように切り裂いた。その後は残りの従者たちへの大虐殺が始まった。


「そう、この映像は昨日のやつなんだ。ここ一帯が血の海になったから大変だったんだよ。けども綺麗には掃除したけどね。血って大変なんだよ。なかなか落ちなくてさ〜。みんなでゴシゴシと一生懸命に磨いたよ。これからここで僕たちが過ごすからね」


カラカラと笑いながら、その魔族の少年は、俺に何か訳のわからない事を説明していた。


俺は小さく空気を吐き出して、その少年と周囲の頭が牛やら鳥やら、体が馬やらの魔族たちに見渡して言った。


「お前たちはここで殺す。死んでガルーシュ家に詫びるんだな」


「いやー、君の映像は見たよ。『謀殺の三悪女』を瞬殺でしょ。彼女らは20位ぐらいの子たちだよ。君、生半可な戦闘能力じゃないね。僕は実は、1年前は60位だったんだけど、今は、45位まで上がっているんだ。たしかに役不足の感は拭えないんだけど、実はこの部屋には侵入者対策の、凄い仕掛けがあるんだよ」


ワクワクしながら自分のおもちゃを友達に見せつけるような無邪気さで言うと、部屋全体が赤く光り出した。


「これは、魔族の力を数百倍にする力のある魔法陣なんだ。僕は魔法陣を作るのが得意なんだよ。この魔法陣は設置にするのが大変なんだ。超局所的なんだけど、そこに魔族以外を引き入れたらもう出来レースだね。はい、魔族の勝ち、みたいなチート部屋なんだ。死ぬのは君の方だ。ここの魔族たちは全員50位辺りだけど、この部屋の中なら、1ケタ台ぐらいまで力は上がるんじゃないかな」


(20位とか、50位とか1ケタ台とか、訳のわからない事を言っているが、どうやら魔族内のランキングでもあるのか?あの3人の魔族の女たちは20位ぐらいだったのか。あれであの強さなら他の魔族も高が知れている)


「御託はいい。映像は見たかもしれないが、その『謀殺の三悪女』の時のように最初にやられながら情報を引き出す、ということはない。最初から全力だ。俺は早くここから出ないといけないんだ。お前と遊んでいる暇はない」


「まぁ、そんなに焦らないで。ゆっくりしていってよ」


そういうと、周囲の魔族たちが一斉に襲いかかってきた。


牛頭が棍棒を振りかざし、横殴りのようにして殴りかかってきた。一度は、威力を見た方がいいかと判断し、受け止めてみたが、かなりの威力で受け止めきれず、俺は後ろに吹き飛ばされた。


ガン!!!!


「ぐっ!!」俺は、後ろの壁にぶつかり、壁に蜘蛛の巣上に罅が四方八方に広がった。


これほどの威力で壁にぶつかったんだ。なぜ貫通しない?


そう思ったのに対して、銀髪の少年が答えた。

「たぶん、その勢いのまま外に出たいとか思ったのかもしれないけど、甘いな〜。魔法陣内は僕が解かないと、外には出れない仕組みなんだよね。残念なお知らせだったね」


「いや、ありがたい。今の説明でお前を殺せば出れるというのが分かった」


そう言い終わる前に、魔族の群れが俺に殺到してきた。


これは今までの筋力のみでなんとかなる奴らじゃないな。


俺は最近、筋力のみで相手を制圧してきた。それで十分だったからだ。古武術を一切使わないでいたが、この後のあの白髪の魔族と戦うことを考えて、力と技でこの魔族の群れを制圧する必要があることを認識した。


「やってやるよ。さあ来な。全員地獄送りだ」

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